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悪夢
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領主様とは楽しく交際している。普段は私達の小さな屋敷で過ごし、時々外出するようになった。
いろいろな場所に連れて行ってくださりルカスもとても嬉しそうにしている。
ただ気になることは2ヶ月も月のモノが止まっているということだ。閉経には早すぎるが、精神的なことで止まったり乱れる女性も少なくないと聞いたので、そのうち来るだろうと思っていた。だけど さすがに4ヶ月目に入ると病気の可能性も視野に入れたサリーに医者を呼ばれた。
「おめでとうございます」
「え?」
「ご懐妊です」
オーブ商会の伝手で往診してくださったお医者様が告げた。
「あり得ません」
「ですが恋人がいらっしゃるのですよね?はっきり胎児の心音が聞こえます」
「悪阻もありません」
「悪阻は妊娠の都度 異なります。強い弱い、有る無い、前回と同じということも当然あります。四六時中か 匂いにだけ反応したり 食べ悪阻かなど様々です」
妊娠…
「……内緒にしてください」
「かしこまりました」
お医者が帰ると、サリーが私の手を握った。
「何故 嫌なのですか? 子爵様であれば安心ではありませんか」
「彼は自分に繁殖能力が無いと言い切っていたの。だから避妊をしなかった。何度も結婚と離婚を繰り返し妾も迎えたことのある彼が独身なのは そのせいなの。
そんな方ではないことは分かっているわ。だけど万が一、“私の子じゃない、本当の父親に告げろ”などと言われたら、今度は立ち直れないわ」
「ミリア様」
レイモンド様のときは愛していなかったけど、大きな傷となった。だとしたら愛している彼に拒絶されたら、私は間違いなく生きることを止めるだろう。頑張ってもルカスが大人になるまで…。
「ごめんなさいね、また迷惑をかけて」
「交際は私達も後押しをしました。謝らないでください。
それより、どうしますか?直ぐにお腹が膨れてきて誤魔化せません」
「別れて、パルフェール領を出ようと思うの」
「では、オーブに連絡して新居を探してもらいましょう」
それから私は、領主様と夜を過ごすことを回避した。悲しそうな顔をされたけど、お腹は膨らみつつある。
3週間後にオーブから連絡が来て、二つ先の領地にいい物件があると紹介された。
まずは賃貸で住んでみて決めることにした。
そして領主様を町の外れにある大きな木の下に呼び出した。
「ミリア」
キスをしようとする領主様を止めて、心の中で練習した言葉を口にした。
「領主様、関係を解消しましょう」
「…何故だ」
「私には荷が重いのです。ルカスと2人で生きていきたいのです」
「妻になることを無理強いしていないじゃないか」
「でも、領主様には妻が必要ですし、子爵家には跡継ぎも必要です。親戚から養子を迎えるつもりでしたよね?」
「ミリア!」
「既婚者の愛人にはなりたくありません」
「なら生涯このままでいい!」
「それでは私とルカスが悪く言われてしまいます。
お願いです。喧嘩別れにはしたくありません」
結局 納得してもらえぬまま解消宣言をして帰った。
数日後、オーブの用意した荷馬車に荷物を積み、私達の馬車に乗せようとルカスの手を引いた。
「嫌だ!パパと3人で居たい!!」
「馬車に乗って」
「嫌だ!!」
「お願い、ルカス…お願い…ううっ…」
「分かったから泣かないで。僕 良い子にするから」
「ごめんなさい、ルカス」
「大好きだよ、ママ」
「私も愛してるわ、ルカス」
優しい子ね。もう二度とこんなことにならないようにするから、今回は許してね。
悪阻がないということは、なんと素晴らしいことなのだろう。
こまめに休憩を入れたけど順調に目的地に到着し、荷下ろしをしてもらった。
パルフェールの小さな屋敷と変わりはないが少し古い。屋敷が売れてお金が入ったら ここを改装するか別の物件を買うか決めようと思う。
「お試し入居でもあるから、荷解きは最低限にして欲しいの」
「かしこまりました」
【 クリストフの視点 】
ミリア達が住んでいた小さな屋敷には“売出中”の札がかかっていた。
窓から中を覗くと荷物は無さそうだった。
「オーブが介入しているみたいですね」
「オーブの支店に向かってくれ」
「かしこまりました」
オーブの支店に到着し 待つこと2時間、やっと支店長に会うことができた。
「パルフェール子爵様、お待たせいたしました」
「忙しいようだな」
「はい。有難いことです。
それで、今日はどのようなご用件でしょう」
「ミリアとルカスを何処へやった」
「オーブは依頼された仕事をしたまでです。新天地をお探しの顧客の望みを叶えただけです」
「頼む、教えてくれ。ミリアを、ミリアとルカスを愛しているんだ」
「……ミリア様はお別れを告げたと仰いました」
「そうだ。納得できない別れを告げられた。
私はミリアを信じているし、妻にしたいと望んでいた。ルカスだって実の子と思って接してきた。諦めるなんてできない」
「……私にはこれしか言えません。
ミリア様は医者の診察を必要としていました」
「まさか、重病なのか!? だったら尚更 私の元にいるべきじゃないか!」
「これ以上は何もお話しすることはありません。顧客の情報を漏らすようではオーブの信頼は地に落ちますから。お引き取り願ってもよろしいでしょうか」
「……」
オーブを出て領内の医者を訪ねたが外れだった。
「隣の領地で一番近い診療所を訪ねてみましょう」
「明日向かおう」
その判断は当たりだった。
「患者の情報は漏らせません」
「消えてしまったんだ!重病だとしたら直ぐに探し出して治療しないと!」
「…どういったご関係で?」
「恋人だ」
「……」
「求婚するほど愛しているんだ!」
「……私には彼女が何処へ行ったのかは分かりませんが然程遠くは無いと思います。北へは向かわないでしょう。それと、貴方には心当たりがあるのではありませんか?恋人なのだとしたら」
「それはどういう」
「ミリア様は妊娠なさったのですね」
一緒に探してくれている側近のエリックが医者に尋ねると、動揺を感じ取った。
「妊娠? まさかそんな…出来るはずは…」
「はぁ……だから彼女は去ったのでしょう。その反応を見たくなくて」
「私は妻を変えても妾を変えても出来なかったから、ミリアに“子を作れない体だ”と話した。
…私に子が?」
医者はじっと私を見ていた。
「エリック!絶対にミリア達を探し出してくれ!隣領もしくは更に先の領地まで捜索させてくれ!
先生、ありがとうございました」
「直ぐに探させます」
私の子が胎にいる!愛するミリアの胎に!
いろいろな場所に連れて行ってくださりルカスもとても嬉しそうにしている。
ただ気になることは2ヶ月も月のモノが止まっているということだ。閉経には早すぎるが、精神的なことで止まったり乱れる女性も少なくないと聞いたので、そのうち来るだろうと思っていた。だけど さすがに4ヶ月目に入ると病気の可能性も視野に入れたサリーに医者を呼ばれた。
「おめでとうございます」
「え?」
「ご懐妊です」
オーブ商会の伝手で往診してくださったお医者様が告げた。
「あり得ません」
「ですが恋人がいらっしゃるのですよね?はっきり胎児の心音が聞こえます」
「悪阻もありません」
「悪阻は妊娠の都度 異なります。強い弱い、有る無い、前回と同じということも当然あります。四六時中か 匂いにだけ反応したり 食べ悪阻かなど様々です」
妊娠…
「……内緒にしてください」
「かしこまりました」
お医者が帰ると、サリーが私の手を握った。
「何故 嫌なのですか? 子爵様であれば安心ではありませんか」
「彼は自分に繁殖能力が無いと言い切っていたの。だから避妊をしなかった。何度も結婚と離婚を繰り返し妾も迎えたことのある彼が独身なのは そのせいなの。
そんな方ではないことは分かっているわ。だけど万が一、“私の子じゃない、本当の父親に告げろ”などと言われたら、今度は立ち直れないわ」
「ミリア様」
レイモンド様のときは愛していなかったけど、大きな傷となった。だとしたら愛している彼に拒絶されたら、私は間違いなく生きることを止めるだろう。頑張ってもルカスが大人になるまで…。
「ごめんなさいね、また迷惑をかけて」
「交際は私達も後押しをしました。謝らないでください。
それより、どうしますか?直ぐにお腹が膨れてきて誤魔化せません」
「別れて、パルフェール領を出ようと思うの」
「では、オーブに連絡して新居を探してもらいましょう」
それから私は、領主様と夜を過ごすことを回避した。悲しそうな顔をされたけど、お腹は膨らみつつある。
3週間後にオーブから連絡が来て、二つ先の領地にいい物件があると紹介された。
まずは賃貸で住んでみて決めることにした。
そして領主様を町の外れにある大きな木の下に呼び出した。
「ミリア」
キスをしようとする領主様を止めて、心の中で練習した言葉を口にした。
「領主様、関係を解消しましょう」
「…何故だ」
「私には荷が重いのです。ルカスと2人で生きていきたいのです」
「妻になることを無理強いしていないじゃないか」
「でも、領主様には妻が必要ですし、子爵家には跡継ぎも必要です。親戚から養子を迎えるつもりでしたよね?」
「ミリア!」
「既婚者の愛人にはなりたくありません」
「なら生涯このままでいい!」
「それでは私とルカスが悪く言われてしまいます。
お願いです。喧嘩別れにはしたくありません」
結局 納得してもらえぬまま解消宣言をして帰った。
数日後、オーブの用意した荷馬車に荷物を積み、私達の馬車に乗せようとルカスの手を引いた。
「嫌だ!パパと3人で居たい!!」
「馬車に乗って」
「嫌だ!!」
「お願い、ルカス…お願い…ううっ…」
「分かったから泣かないで。僕 良い子にするから」
「ごめんなさい、ルカス」
「大好きだよ、ママ」
「私も愛してるわ、ルカス」
優しい子ね。もう二度とこんなことにならないようにするから、今回は許してね。
悪阻がないということは、なんと素晴らしいことなのだろう。
こまめに休憩を入れたけど順調に目的地に到着し、荷下ろしをしてもらった。
パルフェールの小さな屋敷と変わりはないが少し古い。屋敷が売れてお金が入ったら ここを改装するか別の物件を買うか決めようと思う。
「お試し入居でもあるから、荷解きは最低限にして欲しいの」
「かしこまりました」
【 クリストフの視点 】
ミリア達が住んでいた小さな屋敷には“売出中”の札がかかっていた。
窓から中を覗くと荷物は無さそうだった。
「オーブが介入しているみたいですね」
「オーブの支店に向かってくれ」
「かしこまりました」
オーブの支店に到着し 待つこと2時間、やっと支店長に会うことができた。
「パルフェール子爵様、お待たせいたしました」
「忙しいようだな」
「はい。有難いことです。
それで、今日はどのようなご用件でしょう」
「ミリアとルカスを何処へやった」
「オーブは依頼された仕事をしたまでです。新天地をお探しの顧客の望みを叶えただけです」
「頼む、教えてくれ。ミリアを、ミリアとルカスを愛しているんだ」
「……ミリア様はお別れを告げたと仰いました」
「そうだ。納得できない別れを告げられた。
私はミリアを信じているし、妻にしたいと望んでいた。ルカスだって実の子と思って接してきた。諦めるなんてできない」
「……私にはこれしか言えません。
ミリア様は医者の診察を必要としていました」
「まさか、重病なのか!? だったら尚更 私の元にいるべきじゃないか!」
「これ以上は何もお話しすることはありません。顧客の情報を漏らすようではオーブの信頼は地に落ちますから。お引き取り願ってもよろしいでしょうか」
「……」
オーブを出て領内の医者を訪ねたが外れだった。
「隣の領地で一番近い診療所を訪ねてみましょう」
「明日向かおう」
その判断は当たりだった。
「患者の情報は漏らせません」
「消えてしまったんだ!重病だとしたら直ぐに探し出して治療しないと!」
「…どういったご関係で?」
「恋人だ」
「……」
「求婚するほど愛しているんだ!」
「……私には彼女が何処へ行ったのかは分かりませんが然程遠くは無いと思います。北へは向かわないでしょう。それと、貴方には心当たりがあるのではありませんか?恋人なのだとしたら」
「それはどういう」
「ミリア様は妊娠なさったのですね」
一緒に探してくれている側近のエリックが医者に尋ねると、動揺を感じ取った。
「妊娠? まさかそんな…出来るはずは…」
「はぁ……だから彼女は去ったのでしょう。その反応を見たくなくて」
「私は妻を変えても妾を変えても出来なかったから、ミリアに“子を作れない体だ”と話した。
…私に子が?」
医者はじっと私を見ていた。
「エリック!絶対にミリア達を探し出してくれ!隣領もしくは更に先の領地まで捜索させてくれ!
先生、ありがとうございました」
「直ぐに探させます」
私の子が胎にいる!愛するミリアの胎に!
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