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【 レイモンド・ローゼスの視点 】
気持ち良くしてやろうと いつもよりしっかり抱いてやった。
忘れていた。コレが演技だということを。
顔を歪ませ痛がるミリアに怒りが込み上げる。
だから冬の水風呂を命じた。泣いて嫌がるミリアの叫び声を聞いていた。
そこにメイド長がやって来た。
『公爵様、やり過ぎでございます』
『私とミリアの事に口を出すな』
『コレはローゼス家の問題になります。女性は身体を…特にお腹を冷やすのは良くないとされています。跡継ぎを産ませたいのであればお控えください』
『……』
メイド長が退室し、そのうちミリアの泣き叫ぶ声が聞こえなくなった。
浴室から出て来たメイドが青ざめた。
『ミリア様が気を失われました』
浴室へ行き、冷たい水に浸かって蒼白になったミリアを抱き上げた。身体を拭いている間にメイドに髪を拭かせ、その後はベッドに寝かせてメイドを退がらせた。
冷え切った裸のミリアを抱きしめるととても冷たい。ミリアはモゾモゾと動き 私に抱き付き胸に頬を擦り寄せた。
ミリアの頭にキスをして背中や肩や臀部を摩り、脚を絡めて温めた。
この瞬間、私は満たされていた。
ミリアを妻に迎えて4年後、カレンが孕んだ。母上はカレンに褒美を与えた。
だが妊娠5ヶ月くらいだろうか、カレンは流産した。流れた子は女児だった。
そして婚姻後6年。ミリアの妊娠が判明した。
子が産まれたらミリアとの関係も少しは良くなるのかなどと考えていた。ミリアが男児を産んだらカレンに手切れ金を渡して関係を整理しようと思っていた。新しい夫婦の指輪もオーダーした。
なのに、産まれた男児に証の紋様が無かった。
つまり私以外の男を受け入れたという証拠だった。
許せなかった。
今すぐ追い出したかったが、それでは死んでしまう。実家まで移動できるくらいに回復させてから追い出す事にした。離縁届は早々に提出した。
離れから子の泣き声が聞こえる度に 全てを壊したい衝動にかられた。
そして2ヶ月を前にして、ミリアが屋敷を出ると報告があった。
当日、窓からミリアと子を抱えたメイドが馬車に乗るところだった。
『公爵様、ミリア様の行き先を聞かなくてもよろしいのですか』
『メイド長は不思議なことを言うな。何故聞かねばならない』
『ミリア様を愛していらしたのですよね?』
は? 私がミリアを?
『有り得ない』
『大奥様にお知らせしなくてよろしいのでしょうか』
『カレンがまた孕ったら ついでに連絡を入れる』
馬車は動き出し、去っていった。
ミリアの部屋は片付けられ、返却品はテーブルの上に置いてあった。
その中には最初の結婚指輪があった。
それだけを手にして、後は金庫にしまえと命じた。
ミリアを追い出して数週間後、王都で社交を担当していた母上が突然領地の屋敷に姿を現した。
かなり怒っているようだ。誰かが告げ口をしたのだろうか。
「他所の夫人から聞かされて恥をかいたわ。何故出産したことを知らせなかったの!」
「私の子では無かったからです」
「よく調べたの?」
「はい、口内も頭皮も耳の中も裏も、眼球も股間も指の間も見ましたがありませんでした」
「ローゼス家には、代々どこに紋様が現れたか書き記した記録簿があるの。そこには思いもよらぬ場所にあった記録があったわ。だから必ず私が確認すると言ったの!」
「ですが、」
「口内と言ったけど、唇を捲った?」
「唇?」
「瞼の裏は見た?」
「瞼の裏?」
「中には夫にそっくりでも証の紋様が無い男児が生まれたときがあった。そっくりすぎて疑いようもなかったから異例の子かもしれないと我が子として届け出たの。そして割礼の時に証の紋様が出て来たのよ」
「!!」
「そもそも、ミリアには必ず誰かが付いていたはずよ。どうやって不貞をするの!貴方は束縛して滅多に外にも出さなかったじゃない!」
「……まさか」
「ペナ家と連絡をとって屋敷に来させなさい。私が調べるわ」
だが、ペナ伯爵からの返事は…
「勘当して受け入れなかった!?乳飲子を抱えた貴族の女を!?しかも何処へ行ったのか分からないって書いてあるじゃない!レイモンド、聞いてないの!?」
まさか本当に自分の娘を受け入れていないとは思わなかった。領地の片隅でひっそり暮らしているはずだと思っていた。
「そんなはずはありませんよ、きっと伯爵が匿っているはずです」
母上はペナ領を隅々まで捜索させたが何ヶ月経っても見つからず、本当に追放したのだという結論になった。
一緒について行ったメイドのサリーは妹を引き取り、行き先を告げなかった。サリー姉妹も男爵家から除籍していて行方が掴めない。
貴族を探すより平民を探す方が大変なのだ。
そのうち、カレンが妊娠した。
「ミリアの産んだ子がレイモンドの子なら、貴方はいくら子作りをしても もう男児は産まれないわ。カレンは無駄に女児を産み続けることになる。男児を産まない限りカレンは公爵夫人にはしないわよ」
母上は目も合わせずに私に言った。
そしてカレンはまた流産した。
女児だった。
「カレン様は出産は難しいでしょう」
「どういうことだ」
「今回の流産は妊娠7ヶ月で出血も多くありました。それにカレン様の流産は三度目です。流産体質かと思われます」
「三度?」
「実は、一度目の時に気になって、カレン様のご実家に近い場所で開業なさっている医者に当たってみたところ、17歳の時に妊娠して出産、19歳で流産なさっていました」
「出産!?」
「はい。お相手は分からないのか言いたくなかったのか分かりませんが、不明として孤児院を経由して養子に出されています。腹が出てきてしまい 学園を休学しなくてはならず病気を理由とした留年にしたようです。卒業後 今度は私兵との子を妊娠し 流産したそうです」
「分かった」
カレンを妾として迎え入れた時、母上は妾以上にすることは許さないと言った。直感だと言っていた。
それが当たったのだ。つまりもう一つの直感も…
「カレン。患者を乗せる馬車を用意した。今から入院させる。入院費は公爵家で出すが戻っては来るな」
「レイモンド様?」
「“公爵様”と呼ぶように。君の実家には連絡を入れて手切れ金を渡した。退院が決まれば病院から実家に連絡がいく」
「何故です!」
「出産歴あり、流産歴有りを隠していたからだ」
「どうしてそれを…」
「もう子を産むのは難しいらしい。子持ちの男の後妻にでもなるんだな」
「そんな!」
「さあ、この女を運んでくれ」
迎えにきた病院の者達に任せて部屋を出た。
その後、
「まだミリアを探し出せないのか!」
「それが、ヴィグールとオーブが関わっているようで教えてもらえないのです」
「面会予約を取ってくれ」
「かしこまりました」
どちらも口がかたいことで知られた商会で、彼らが引き受けた失踪は跡追いが難しいと聞いたことがある。だが、失踪に手を貸すのは彼らの審査をパスした者だけのはずだ。
約束の日に訪ねると、
「ヴィグールでは身を隠したい母子の行方を漏らすことはいたしません」
「だが、ミリアは私の妻だったんだ」
「そうですね。仰る通り 過去のことです」
「一緒にいる子はローゼス家の跡継ぎかもしれないんだ」
「ですが、公爵様が血族除外届を提出なさったのですよね?私どもでも確認しましたが、永久となっておりました。つまり公爵様はミリア様の産んだ男児の父親ではありません。探す権利も無いのです」
「コレで教えてくれないか」
テーブルの上に金貨の入った巾着を置いた。
「ヴィグール商会長の次男はダニエルという名で、ミリア様と同じ頃に学園に通っておりました。
平民だからと貴族令息に虐められているところを救ってくださったのはミリア様です。当時のダニエル様はかなり追い詰められていて ミリア様との出会いがなければ危なかったと本人から聞いております。今ではダニエル様は次期商会長、長男は隣国で仕事をしている時に出会った令嬢の元へ婿入りなさいました。ミリア様はダニエル様がヴィグールの次男だと知りません。忙しかったこともありますが、伯爵令嬢のミリア様のお立場を思って卒業後は距離を置きました。今も尚 ヴィグールにとってミリア様は恩人です。爵位を渡すと仰ったとしてもお断りいたします」
ヴィグールは口を割らなかった。
ミリアとヴィグールにそんな接点があったとは。
そしてオーブでは、
「ミリア様に関するご依頼はお引き受けできません」
「どの領地にいるかだけ言ってくれたらいいんだ」
テーブルの上に金貨の入った巾着袋を置いた。
「再出発前にミリア様の調査をしましたら、とんでもない扱いを受けていたことを知りました。
公爵様にはカレン様という女性もいらっしゃいましたし、血族除外届が出されていましたので、私どもが全力で痕跡を消しました。口を割ることはございません」
「公爵家を敵に回すのか?」
「オーブもヴィグールも王家の依頼を直々に受けることがございます」
つまり後ろ盾があると仄めかしているのだ。
「何故ミリアに?」
「実は、ミリア様には助けていただいた恩がございます。私の母が発作を起こして王都の街中で倒れたのです。偶然通りかかった下校中のミリア様が馬車に乗せて診療所へ駆け込んでくださったお陰で助かりました。しかも大丈夫だと分かるまで付き添い治療費まで支払ってくださったのです。
後日、お礼を申し上げに伺いましたら、ミリア様の手首辺りに新しい痣がありました。歩き方もおかしかったのです。
外出のため屋敷から出てきたペナ家のメイドに聞いたところ、指示されていないことをしたと伯爵様から折檻を受けたと聞きました。勝手にお金を使ったこと、下校路から外れたこと、寄り道したこと、他人を乗せたこと全てに罰を与えられたそうです。
折檻と4日間の断食の他に 4冊分の聖書の書き写しを命じられたそうです。
メイドからは、“お嬢様を思ってくださるのなら黙認してください”と言われました。
私がどれだけ悔しかったか。ミリア様はまだ15歳だったのですよ。人の命を助けた娘にそんな仕打ちをする父親がいるなんて信じられませんでした。
ですが父からは、貴族は有り得るからミリア様のことを思うなら そっとしておくようにと言われ これ以上の接触は諦めました。
私はいつかミリア様のお役に立とうと誓いました。
その誓いを実行できるように頑張ってまいりました。ですから、私は首を刎ねられたとしても口は割りません」
母上に報告すると、気落ちしてしまった。
「ご先祖様に顔向けが出来ないわ」
「探し続けます」
「妾を迎えなさい。もしも証の紋様付きの男児を産めたら正妻として昇格させなさい」
「はい」
そしてついに、
「公爵様!大変です!」
「ミリアが見つかったのか!」
「多分、そうだと思いますが…コレです」
家令の持ってきた新聞には、パルフェール子爵の再婚の記事が載っていた。
「…パルフェール子爵?」
「妻の名がミリア、一緒に男児の養子を迎えると書いてありまして、子の年齢がミリア様の産んだ子と同じなのです」
「子爵に面会の約束を取り付けてくれ!」
「かしこまりました」
だが、何度申し入れても拒否された。
気持ち良くしてやろうと いつもよりしっかり抱いてやった。
忘れていた。コレが演技だということを。
顔を歪ませ痛がるミリアに怒りが込み上げる。
だから冬の水風呂を命じた。泣いて嫌がるミリアの叫び声を聞いていた。
そこにメイド長がやって来た。
『公爵様、やり過ぎでございます』
『私とミリアの事に口を出すな』
『コレはローゼス家の問題になります。女性は身体を…特にお腹を冷やすのは良くないとされています。跡継ぎを産ませたいのであればお控えください』
『……』
メイド長が退室し、そのうちミリアの泣き叫ぶ声が聞こえなくなった。
浴室から出て来たメイドが青ざめた。
『ミリア様が気を失われました』
浴室へ行き、冷たい水に浸かって蒼白になったミリアを抱き上げた。身体を拭いている間にメイドに髪を拭かせ、その後はベッドに寝かせてメイドを退がらせた。
冷え切った裸のミリアを抱きしめるととても冷たい。ミリアはモゾモゾと動き 私に抱き付き胸に頬を擦り寄せた。
ミリアの頭にキスをして背中や肩や臀部を摩り、脚を絡めて温めた。
この瞬間、私は満たされていた。
ミリアを妻に迎えて4年後、カレンが孕んだ。母上はカレンに褒美を与えた。
だが妊娠5ヶ月くらいだろうか、カレンは流産した。流れた子は女児だった。
そして婚姻後6年。ミリアの妊娠が判明した。
子が産まれたらミリアとの関係も少しは良くなるのかなどと考えていた。ミリアが男児を産んだらカレンに手切れ金を渡して関係を整理しようと思っていた。新しい夫婦の指輪もオーダーした。
なのに、産まれた男児に証の紋様が無かった。
つまり私以外の男を受け入れたという証拠だった。
許せなかった。
今すぐ追い出したかったが、それでは死んでしまう。実家まで移動できるくらいに回復させてから追い出す事にした。離縁届は早々に提出した。
離れから子の泣き声が聞こえる度に 全てを壊したい衝動にかられた。
そして2ヶ月を前にして、ミリアが屋敷を出ると報告があった。
当日、窓からミリアと子を抱えたメイドが馬車に乗るところだった。
『公爵様、ミリア様の行き先を聞かなくてもよろしいのですか』
『メイド長は不思議なことを言うな。何故聞かねばならない』
『ミリア様を愛していらしたのですよね?』
は? 私がミリアを?
『有り得ない』
『大奥様にお知らせしなくてよろしいのでしょうか』
『カレンがまた孕ったら ついでに連絡を入れる』
馬車は動き出し、去っていった。
ミリアの部屋は片付けられ、返却品はテーブルの上に置いてあった。
その中には最初の結婚指輪があった。
それだけを手にして、後は金庫にしまえと命じた。
ミリアを追い出して数週間後、王都で社交を担当していた母上が突然領地の屋敷に姿を現した。
かなり怒っているようだ。誰かが告げ口をしたのだろうか。
「他所の夫人から聞かされて恥をかいたわ。何故出産したことを知らせなかったの!」
「私の子では無かったからです」
「よく調べたの?」
「はい、口内も頭皮も耳の中も裏も、眼球も股間も指の間も見ましたがありませんでした」
「ローゼス家には、代々どこに紋様が現れたか書き記した記録簿があるの。そこには思いもよらぬ場所にあった記録があったわ。だから必ず私が確認すると言ったの!」
「ですが、」
「口内と言ったけど、唇を捲った?」
「唇?」
「瞼の裏は見た?」
「瞼の裏?」
「中には夫にそっくりでも証の紋様が無い男児が生まれたときがあった。そっくりすぎて疑いようもなかったから異例の子かもしれないと我が子として届け出たの。そして割礼の時に証の紋様が出て来たのよ」
「!!」
「そもそも、ミリアには必ず誰かが付いていたはずよ。どうやって不貞をするの!貴方は束縛して滅多に外にも出さなかったじゃない!」
「……まさか」
「ペナ家と連絡をとって屋敷に来させなさい。私が調べるわ」
だが、ペナ伯爵からの返事は…
「勘当して受け入れなかった!?乳飲子を抱えた貴族の女を!?しかも何処へ行ったのか分からないって書いてあるじゃない!レイモンド、聞いてないの!?」
まさか本当に自分の娘を受け入れていないとは思わなかった。領地の片隅でひっそり暮らしているはずだと思っていた。
「そんなはずはありませんよ、きっと伯爵が匿っているはずです」
母上はペナ領を隅々まで捜索させたが何ヶ月経っても見つからず、本当に追放したのだという結論になった。
一緒について行ったメイドのサリーは妹を引き取り、行き先を告げなかった。サリー姉妹も男爵家から除籍していて行方が掴めない。
貴族を探すより平民を探す方が大変なのだ。
そのうち、カレンが妊娠した。
「ミリアの産んだ子がレイモンドの子なら、貴方はいくら子作りをしても もう男児は産まれないわ。カレンは無駄に女児を産み続けることになる。男児を産まない限りカレンは公爵夫人にはしないわよ」
母上は目も合わせずに私に言った。
そしてカレンはまた流産した。
女児だった。
「カレン様は出産は難しいでしょう」
「どういうことだ」
「今回の流産は妊娠7ヶ月で出血も多くありました。それにカレン様の流産は三度目です。流産体質かと思われます」
「三度?」
「実は、一度目の時に気になって、カレン様のご実家に近い場所で開業なさっている医者に当たってみたところ、17歳の時に妊娠して出産、19歳で流産なさっていました」
「出産!?」
「はい。お相手は分からないのか言いたくなかったのか分かりませんが、不明として孤児院を経由して養子に出されています。腹が出てきてしまい 学園を休学しなくてはならず病気を理由とした留年にしたようです。卒業後 今度は私兵との子を妊娠し 流産したそうです」
「分かった」
カレンを妾として迎え入れた時、母上は妾以上にすることは許さないと言った。直感だと言っていた。
それが当たったのだ。つまりもう一つの直感も…
「カレン。患者を乗せる馬車を用意した。今から入院させる。入院費は公爵家で出すが戻っては来るな」
「レイモンド様?」
「“公爵様”と呼ぶように。君の実家には連絡を入れて手切れ金を渡した。退院が決まれば病院から実家に連絡がいく」
「何故です!」
「出産歴あり、流産歴有りを隠していたからだ」
「どうしてそれを…」
「もう子を産むのは難しいらしい。子持ちの男の後妻にでもなるんだな」
「そんな!」
「さあ、この女を運んでくれ」
迎えにきた病院の者達に任せて部屋を出た。
その後、
「まだミリアを探し出せないのか!」
「それが、ヴィグールとオーブが関わっているようで教えてもらえないのです」
「面会予約を取ってくれ」
「かしこまりました」
どちらも口がかたいことで知られた商会で、彼らが引き受けた失踪は跡追いが難しいと聞いたことがある。だが、失踪に手を貸すのは彼らの審査をパスした者だけのはずだ。
約束の日に訪ねると、
「ヴィグールでは身を隠したい母子の行方を漏らすことはいたしません」
「だが、ミリアは私の妻だったんだ」
「そうですね。仰る通り 過去のことです」
「一緒にいる子はローゼス家の跡継ぎかもしれないんだ」
「ですが、公爵様が血族除外届を提出なさったのですよね?私どもでも確認しましたが、永久となっておりました。つまり公爵様はミリア様の産んだ男児の父親ではありません。探す権利も無いのです」
「コレで教えてくれないか」
テーブルの上に金貨の入った巾着を置いた。
「ヴィグール商会長の次男はダニエルという名で、ミリア様と同じ頃に学園に通っておりました。
平民だからと貴族令息に虐められているところを救ってくださったのはミリア様です。当時のダニエル様はかなり追い詰められていて ミリア様との出会いがなければ危なかったと本人から聞いております。今ではダニエル様は次期商会長、長男は隣国で仕事をしている時に出会った令嬢の元へ婿入りなさいました。ミリア様はダニエル様がヴィグールの次男だと知りません。忙しかったこともありますが、伯爵令嬢のミリア様のお立場を思って卒業後は距離を置きました。今も尚 ヴィグールにとってミリア様は恩人です。爵位を渡すと仰ったとしてもお断りいたします」
ヴィグールは口を割らなかった。
ミリアとヴィグールにそんな接点があったとは。
そしてオーブでは、
「ミリア様に関するご依頼はお引き受けできません」
「どの領地にいるかだけ言ってくれたらいいんだ」
テーブルの上に金貨の入った巾着袋を置いた。
「再出発前にミリア様の調査をしましたら、とんでもない扱いを受けていたことを知りました。
公爵様にはカレン様という女性もいらっしゃいましたし、血族除外届が出されていましたので、私どもが全力で痕跡を消しました。口を割ることはございません」
「公爵家を敵に回すのか?」
「オーブもヴィグールも王家の依頼を直々に受けることがございます」
つまり後ろ盾があると仄めかしているのだ。
「何故ミリアに?」
「実は、ミリア様には助けていただいた恩がございます。私の母が発作を起こして王都の街中で倒れたのです。偶然通りかかった下校中のミリア様が馬車に乗せて診療所へ駆け込んでくださったお陰で助かりました。しかも大丈夫だと分かるまで付き添い治療費まで支払ってくださったのです。
後日、お礼を申し上げに伺いましたら、ミリア様の手首辺りに新しい痣がありました。歩き方もおかしかったのです。
外出のため屋敷から出てきたペナ家のメイドに聞いたところ、指示されていないことをしたと伯爵様から折檻を受けたと聞きました。勝手にお金を使ったこと、下校路から外れたこと、寄り道したこと、他人を乗せたこと全てに罰を与えられたそうです。
折檻と4日間の断食の他に 4冊分の聖書の書き写しを命じられたそうです。
メイドからは、“お嬢様を思ってくださるのなら黙認してください”と言われました。
私がどれだけ悔しかったか。ミリア様はまだ15歳だったのですよ。人の命を助けた娘にそんな仕打ちをする父親がいるなんて信じられませんでした。
ですが父からは、貴族は有り得るからミリア様のことを思うなら そっとしておくようにと言われ これ以上の接触は諦めました。
私はいつかミリア様のお役に立とうと誓いました。
その誓いを実行できるように頑張ってまいりました。ですから、私は首を刎ねられたとしても口は割りません」
母上に報告すると、気落ちしてしまった。
「ご先祖様に顔向けが出来ないわ」
「探し続けます」
「妾を迎えなさい。もしも証の紋様付きの男児を産めたら正妻として昇格させなさい」
「はい」
そしてついに、
「公爵様!大変です!」
「ミリアが見つかったのか!」
「多分、そうだと思いますが…コレです」
家令の持ってきた新聞には、パルフェール子爵の再婚の記事が載っていた。
「…パルフェール子爵?」
「妻の名がミリア、一緒に男児の養子を迎えると書いてありまして、子の年齢がミリア様の産んだ子と同じなのです」
「子爵に面会の約束を取り付けてくれ!」
「かしこまりました」
だが、何度申し入れても拒否された。
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