笑顔で冷遇する婚約者に疲れてしまいました

ユユ

文字の大きさ
107 / 215

渦中

しおりを挟む
あの後、ヘインズ伯爵とシャルル様が謝罪にいらした。事情は聞いたけど、恋人とか愛人とか第二夫人とか子供とかは婚約の条件としてシャルル様から提示されていたことだから私にとやかく言う権利はない。承諾したのだもの。
ただ、ヘインズ家や相手の方のことを考えたやり方というものがあると思う。彼女が学園を卒業するまでは恋人としてお付き合いをして、卒業して私と結婚した後に彼女を愛人として迎え入れるなりすればいいのに、今のタイミングだと特待生の彼女は退学になってしまうし 生まれる子は差別を受ける。

「特待生として享受した施し全てをヘインズ家で返済してはいかがでしょう。そして引き取ればいいのではありませんか?特待生でなくなれば下宿先から追い出されるかもしれませんし。
学力はあるのですから一般学生として通わせてもらい卒業すればシャルル様のお子の母親が未卒だと蔑まされなくてすみます」

名案だと思って助言したのに、“君は分かっていない”とか“誤解だ”などと仰っていた。
とにかくヘインズ家に迎え入れる気もないし好きでもない、3ヶ月後に事実確認をすると仰った。

ビクセン嬢は欠席し始めたし、エルザ達が怒っているし。

「あの女、私達が帰ってからティナに喧嘩を売るだなんて」

「なんで出てこないのよ、悪阻にはまだ早いんじゃないの?」

「ははっ、言い返したから大丈夫よ」


さらに数日後、アルゼン子爵夫人から会いたいと連絡をもらい、屋敷で待っていた。

「お嬢様、ジオ公爵令息様が到着なさいました」

「え?約束はアルゼン夫人だったはずだけど、私勘違いしちゃった?」

「勘違いではございません。ですがジオ公爵令息様はいつも通りです」

「……そうね。居間ここに通してもらえるかしら」

「かしこまりました」

彼は約束無しに来ることが多いわよね。

ヒューゴ様が少しかしこまった服を着て現れた。

「どうしたのですか?」

「噂を聞いてな。何で俺に言わないんだ」

「別に大した問題ではありませんから」

「今は義父上も義母上も義兄上もいないんだ。俺が表立つか同席しないと」

「アルゼン子爵夫人が来ることをどうやって知ったのですか?」

「え?」

「前々から思っていたのですが、ジオ家の者を間者にしてうちに紛れ込ませています?」

「そんなわけがないだろう」

まっすぐな目で即答したけど私にはそれこそが怪しく感じた。

「…残念です。
ジオ公爵令息様がお引き取りなさいます。お見送りをしてさしあげて」

「ティナっ」

「さようなら、ジオ公爵令息様」

「いる!2人いる!」

「何を漏らしているの?」

「ティナの行動や面会や体調などを報告させている」

「仕事関係は?」

「それはない。命じていない」

「2人?」

「1人はティナを守るために潜入させた」

「……」

「悪かった!」

「分かりました」

「それは、どういう?」

「問題ありません」

「問題ない?維持してもいい?」

「どうぞ。仕事の漏洩や家族に関する漏洩は駄目ですよ」

「クリスティーナっ!」

「ちょっと!これから夫人が来るのに止めて!」

「今日は泊まる」

「帰ってください!」


ヒューゴ様に高く持ち上げられてクルクル回られたのでちょっとフラフラしている。到着した夫人は心配そうに私を見つめた。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫です。初めましてアルゼン子爵夫人。クリスティーナと申します」

「マリサ・アルゼンと申します。突然の訪問をお許しください」

「突然だなんて。先触れをくださったではありませんか。どうぞこちらへ」

応接間に入ると入り口でヒューゴ様が立って待っていた。

「アルゼン子爵夫人、お久しぶりです」

「こ、公子様!?」

「現在セルヴィー家は学生のクリスティーナだけです。セルヴィー伯爵夫妻が不在の間 ジオ家が保護者の代理を務めます。ご了承ください」

「ジオ公子にマリサ・アルゼンがご挨拶を申し上げます」

アルゼン夫人は青ざめながらヒューゴ様に挨拶をした。

「どうぞお掛けください」

お茶が運ばれて、一口飲むと夫人が頭を下げた。

「私は現在アマリア・ビクセンを預かっております。慈善活動の一つとして不遇な子供に手を差し伸べようと手を挙げた一人です。今回、学園はビクセン嬢の受け入れ先にアルゼンを選びました。アルゼンは快く引き受け彼女が学べるよう手助けをしました。ですがまさか、学園のお友達のお屋敷に泊まりに行くことが夜会で愚かなことをすることだっただなんて夢にも思いませんでした。特待生は薄氷の上を歩いているようなもの、自ら問題を起こさなくとも巻き込まれたり陥れられ待遇を失うこともあるからです。事の次第を知ったときに裏切られたという強い怒りが込み上げました。学園長にこの事を相談しに行こうと思いましたがセルヴィー嬢にも関わる事ですので、お気持ちを確認させていただきたく参りました。監督不行き届きで誠に申し訳ございません」

「アルゼン夫人のせいではありません。私は夫人の崇高な活動を尊敬しております。子供は生まれる家や親を選ぶことはできません。そんな子供達を不遇から抜け出す力の一つをつけさせたいというお気持ちはとても素晴らしいと思います。私が何処かに嫁いでも夫人のようにできるかどうか。
ビクセン嬢は残念な結果になりそうですが、これに懲りずに夫人の信念を貫いてください。
私としましてはビクセン嬢がこのまま通学を続けてもかまいませんし、シャルル様の愛人として囲われることも私は反対いたしません。本当に懐妊なさったのなら尚更母親が学園卒の方がいいでしょう。ですが特待生は契約です。違反したとみなすかどうかは学園がお決めになる事です。
ビクセン嬢に望む事は、私を巻き込まないでいただきたいということです。シャルル様とご令嬢、ヘインズ家とビクセン家の間で解決していただきたいのです」

「セルヴィー嬢のお言葉で少し気持ちが軽くなりました。学園長に報告をして、学園長に委ねたいと思います」

アルゼン夫人は涙を浮かべて帰っていった。
ビクセン嬢は何よりもアルゼン夫人を裏切ってはいけなかったと思う。


「大丈夫か?」

「過保護なヒューがいるから大丈夫です」

お父様に手紙を書かなくちゃ。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「君は地味な裏方だ」と愛人を優遇するサイコパス気質の夫。〜私が去った後、商会の技術が全て私の手によるものだと気づいても、もう手遅れです〜

水上
恋愛
「君は地味だから裏方に徹しろ」 効率主義のサイコパス気質な夫は、妻であるクララの磨いた硝子を愛人の手柄にし、クララを工房に幽閉した。 彼女は感情を捨て、機械のように振る舞う。 だが、クララの成果を奪い取り、夫が愛人を壇上に上げた夜、クララの心は完全に凍りついた。 彼に残した書き置きは一通のみ。 クララが去った後、商会の製品はただの石ころに戻り、夫の計算は音を立てて狂い始める。 これは、深い絶望と、遅すぎた後悔の物語。

一年だけの夫婦でも私は幸せでした。

クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。 フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。 フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。 更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

「最高の縁談なのでしょう?なら、かわってあげたら喜んでくれますよね!」

みっちぇる。
恋愛
侯爵令嬢のリコリスは20歳。立派な嫁きおくれである。 というのも、義母がなかなかデビューさせてくれないのだ。 なにか意図を感じつつも、周りは義母の味方ばかり。 そん中、急にデビュタントの許可と婚約を告げられる。 何か裏がある―― 相手の家がどういうものかを知り、何とかしようとするリコリス。 でも、非力なリコリスには何も手段がない。 しかし、そんな彼女にも救いの手が……?

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

処理中です...