笑顔で冷遇する婚約者に疲れてしまいました

ユユ

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婚約者の優しさ

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お父様からジオ公爵領地でもサブマ草の栽培をやれそうだと手紙が届いた。エルザの結婚から2ヶ月半が経っていた。

その間、私はセルヴィー領にいてそれぞれの工房や養殖場の様子を見て回ったり、新しい化粧ブラシの打ち合わせをしたりした。お兄様のお手伝いと言いつつ甘えてしまった。すごく忙しいのに外出に連れて行ってくれた。

私が独身の間に少しでも思い出を作ろうとしてくれたみたい。お兄様と結婚したかったと言ったら、“すごく嬉しいが心配が尽きない妻に翻弄されて寿命が縮まりそうだから妹にしておく”と言われた。だけど、相変わらず“嫌なら結婚しなくてもいいから”とも言っていた。

14歳のティアラは老猫の仲間入りをしていた。今回はたっぷりティアラと遊ぼうと思っていたのに別れは突然やってきた。

「ティアラ?」

いつもなら起きている時間に起きないティアラの様子を見ようと覗き込むと違和感を感じた。彼の前足に触れると直ぐに分かった。

「ティアラ…ううっ…」

直ぐにお兄様が来てくれた。

「…残念だったな」

「私…気付かなくて…」

「苦しんだ様子がない。眠っているうちに天に召されたのだろう。お別れをしなくてはな」

「ううっ…」

もう死後硬直が始まっていてティアラの体は硬くなっていた。
庭園の奥の木陰に穴を掘り、急いで作らせた小さな棺にティアラを入れ、たくさんのおやつと小さなぬいぐるみを入れた。

「蓋をするぞ」

「待って」

最後のキスをティアラの顔や頭や耳にして、私のお気に入りのネックレスを置いた。
蓋をして埋めた。墓標は特注したので後日になる。しばらくして屋敷の中に入りティアラの物を片付けてひとまとめにした。

ぽっかりと空いた心の穴はなかなか癒えず、このままいてもお兄様に心配をかけるだけだと判断してティアラの死から2ヶ月後、王都へ戻った。


王都に戻った数日後、シャルル様から先触れがあった。気持ちが沈んでいて会いたいとは思わなかったけど婚約者としての義務がある。モルゾン領、ゼオロエン領、セルヴィー領と巡っている間、会ったのは2回だけだった。

「久しぶりだね、クリスティーナ」

「お久しぶりです シャルル様」

美しく作られた笑みを向け、私の手を取りハンドキスをした。ただその笑みは今までよりも柔らかさを感じた。瞳の奥に宿るものが違う。冷たさを感じない。どちらかというと緊張が伝わってくる。それにこんなことをするなんてどうしたのだろう。

「もしかして、また妊娠騒ぎでもありましたか?」

「え?」

バレたことに驚いたというより、単に私の言葉に驚いているだけのように見える。

「それともお迎えする愛人でも決まりましたか?」

「そういったことはない」

「そうなのですか?…こちらへどうぞ」

部屋の中では息が詰まりそうな気がしてガゼボにお茶を用意させた。

「他家の領地はどうだったかい?」

「素敵でしたわ。国内の領地を巡るのも楽しいかもしれないと思いましたが、モルゾン公爵領とゼオロエン侯爵領だから感じたのかもしれません。全てがいい領地とは限りませんもの」

「次は僕も一緒に行きたいな」

「シャルル様がですか?」

「結婚したらヘインズ領は住むことになるしセルヴィー領にも顔を出すことになる。だけど他領は違うからね。うちの親戚や親しい友人なら行くこともあるだろうけど」

「そうですね」

「…今度タリー邸で夜会があるんだけど、行かないか?エドワードが話をしたがっていたし。フォステルト嬢も来るから楽しいと思うけど」

「いつですか?」

「来週末なんだけど、どうかな。エドワードは君が領地に行っていたから招待状を出していなかったんだ」

「エドワード様が招待してくださるなら行きますわ」

「そうか。当日は迎えに行くよ」

「その日は予定があって外出していますので、出先から直接まいります」

「迎えに行くよ」

「エルザ王子妃殿下にお会いしますので」

「…分かった。では当日はタリー邸で会おう」

「はい」

「それと、せっかく戻ってきたのだからもっと会おう。出掛けたり話をしたり食事をしたり」

「…そうですね」

「気が乗らない?」

「ずっと飼っていた猫が亡くなって何もする気になれないだけです」

「猫?ここで?飼ってた?」

「領地の屋敷で飼っていました。あの子は14歳だったんです。前兆もなく朝起きたらもう…。とてもショックで立ち直れていないんです。ですからお誘いいただいても集中できる自信がありません」

「集中しなくていい。だけど気を紛らわせることは必要だよ。気落ちしているなら尚更。僕も動物が好きで飼いたかったけど、両親が嫌がったんだ。庭でも屋内でも動物がいるとどうしても匂いが変わってしまうからね。だからクリスティーナが羨ましいよ。その子との別れにショックを受けるほどたくさんの想い出を作ったんだろう?」

「っ…」

「子猫の頃から飼ったのかい?」

コクン

シャルル様が私の手を包み、私はその質問に頷いて答えた。

「そうか。可愛かっただろうね。人懐っこい方だった?」

コクン

「羨ましいな。猫の場合はそっけないって聞くし。突然かまってもらいたがったと思って撫でていたら、猫パンチしてくるって聞いたことがあるよ。親戚の屋敷の猫は躾が出来なくて小屋を建ててそこで飼うことにしたと聞いたことがあるし。噛まれて穴があいたと嘆いていたよ。
落ち着いたらクリスティーナの猫がどんな子だったのか聞かせてくれないか」

コクン

「猫に噛まれたことは?」

フルフル

「ないのか。お利口さんだったんだね」

「ううっ…」

「大丈夫。きっとあの時はなんて言って想い出を語れるときが必ず来るから」

私はずっと涙を流しながら首を縦に振るか横に振っていた。

シャルル様は2時間ほど涙にくれる私に付き合ってからメイドに“彼女の目の辺りを冷やしてやってくれ”と言って帰った。

彼から優しさをもらったと感じたのは初めてだった。



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