母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監

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第二章 大草原の旅路

2ー7 ゼルダス山脈の盗賊団 その二

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 従って、本当に危うい場合は、隊商の中の傭兵なり冒険者なりのグループごとの指揮者がそれぞれに判断を下すことになる。
 但し、モンテクローバで雇われるような傭兵団では精々が百名足らずの集団を司るだけであり、互いにライバル視しているから傭兵団同士の連携は滅多に行われないのだ。

 そんな状況で千名もの集団、しかも傭兵団も冒険者も混在する中で誰が実質的な指揮をとれるかが問題なのだ。
 カラガンダ老の見るところそれほどの器量持ちは近隣には居ない。

 或いはマルコが最も適しているやも知れぬが、マルコを前面に押し出すわけには行かないのである。
 色々話し合ったが、盗賊団のスパイについては各隊商が留意することとされ、再度の人物調査を促すにとどめられた。

 また、護衛達の総指揮については経験の多いカラガンダ老が担ぎ上げられたが、実質的な軍事指揮については、各傭兵団や冒険者たちのリーダーシップに任せるという酷く曖昧な結果に終わった。
 隊商の集団は、結局1200余の護衛と、馬車216台、商人874名になった。

 会合から三日後、モンテクローバを出発したその大集団は端から端までの長さが約5.5里(5.5ケブーツ≒4.3キロ)に達した。
 これほど長くなると先頭と後方の連絡が取れなくなるのも大きな問題であった。

 カラガンダ老の隊商は一応全体の指揮が取れるようにと隊列の中央付近に位置しているのだが、山道に入ると流石に先頭集団も後方集団も見えなくなってしまう。
 一応伝令を通じて連絡は絶やさないようにしているが、どうしても連絡が遅れるのが心配だった。

 山道に入って二時間、マルコが周囲を探って教えてくれた。
 周辺の山腹に数人の見張りが潜んでおり、鏡による光の反射で前方に知らせているようだ。

 マルコ曰く、20里(20ケブーツ≒約14.4キロ)先に100名ほどの集団がいるらしいが、或いは様子見としての襲撃の恐れもあるらしい。
 但し、得物は弓矢や投げ槍など遠距離からの攻撃手段だけのようだ。

 マルコの索敵能力はこの旅の間に随分と成長しており、相当に離れた距離から人員構成や所持している武器などまでがわかるようだ。
 マルコ曰く、盗賊団の戦術は、持久戦で精神的に疲れさせる作戦ではないかという。

 確かに千名を超える武人を抱える隊商集団に百名での襲撃など自殺以外にある筈もない。
 但し、これからこのような襲撃が夜昼を分かたず度重なれば警護する側に精神的な疲れが生ずるとともに慢心が生ずるだろうという。

 どうやら盗賊集団の中には戦術に慣れた知恵者が居るようだ。
 今夜のキャンプではその辺を予め周知しておく必要があると感じたカラガンダ老であった。

 果たしてその日の日中は三度の散発的な襲撃が繰り返されたが、一矢当てただけで一斉に引き上げるという状況であったから、隊商にも全く被害は無い。
 そうして夜間にも三度程度の襲撃はあるだろうというマルコの見込みを、カラガンダ老の経験として周知しておいた。

 そうしてマルコの予言は確かに当たっていた。
 二日目も同様な襲撃が繰り返され、次第に護衛陣の方に隙が生じ始めていた。

 何の被害も生じずに過ごして来ていたからこそ、またも同じかという雰囲気が次第に大半を占めだしてきたのである。
 三日目、日中に三度の襲撃があり、キャンプを張った後でマルコが明らかな警告をカラガンダ老に発した。

「前方5ケブーツに三百、後方5ケブーツに二百、左方2ケブーツの山陰に二百、右方3ケブーツの斜面下に五百の勢力が配置されています。
 恐らく今夜の襲撃が本番でしょう。
 人員配置から見て、右方の五百が主力です。
 多分、襲撃の開始は夜半ごろでしょうか?
 最初に前方から、次に後方から、そうして左方からも襲撃をかけて混乱している間に右方から主力が襲撃する手筈と見ました。
 兵力の配置をそれに見合う様に動かすことが望ましいと思われます。」

 カラガンダ老は情報源を秘匿した上で、マルコの索敵情報を幹部連中に伝えた。
 実のところ、警備陣に潜り込んでいた山賊の手先は既に絞り込んであり、この情報を流した直後に前後不覚に陥ってもらう手筈である。

 その加害者というか実行行為者は、無論マルコである。
 幹部連中には万が一の際に動けないものは山賊の手下だと伝えてある。

 その夜、襲撃を受けた隊商集団であったが、適切な兵力配分であったために、終始山賊どもを圧倒し、乱戦の中でおよそ半数の盗賊を討ち取っていた。
 多少の怪我人は生じたが死亡者は無く、十分予想の範囲内に収まった。

 この後、小規模の山賊襲来はあったものの、大事なくカラガンダ老達の隊商集団は無事に山脈を超えてコランダルへ到達することはできたのである。
 当初の予定からすると二か月遅れの到着であった。

 二カ月や三カ月の遅れは大陸横断の隊商にとっては常の事であり、そもそもカラガンダ老の一行はニオルカン出発当時の予定からすれば既に半年遅れほどになっている。
 コランダルからニオルカンまでは平坦な道のりであり、魔物や盗賊の危険も少ない。

 しかしながら、カラガンダ老はいつもの通り馴染みの傭兵と冒険者たちを雇って帰路に就くのであった。
 カラガンダ老の隊商がニオルカンの城門を潜ることのできたのはコランダルを発してから四カ月を過ぎていた。

 大陸東端にあるアルビラ商港を発ってから実に1年2カ月余りが経っていたのである。

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