母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監

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第二章 大草原の旅路

2ー6 ゼルダス山脈の盗賊団 その一

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 アケロンを発って半年余り、カラガンダ老の隊商は、バンナ平原の西端にある中継拠点、モンテテクローバに辿り着いていた。
 ゼルダス山脈越えの前の最後の重要な中継地点とあって、此処は旅の隊商で賑わっている。

 アケロンで雇った傭兵や冒険者たちは、此処で新たに雇い替えする。
 バンナ平原での護衛とゼルダス山中での護衛では、襲撃側の様相がかなり異なるからである。

 バンナ平原では群れをつくる魔物が出没するが、個々の魔物はさほど強力ではない。
 一方でゼルダス山脈では群れをつくる魔物は殆ど出没しないにも関わらず、単独の個体が非常に強いのである。

 従って、バンナ平原では多数対多数の戦闘が多くなり、護衛側が数の上では少数の場合が多い。
 ラクサを出てから襲撃を受けた青灰狼の群れは200匹余りの集団であった。

 護衛陣はかなり苦戦し怪我人も出たが、幸いにして死者を出すことなく撃退していた。
 因みに襲撃してきた青灰狼の半数以上が平原に屍をさらしていた。

 実のところ、青灰狼の襲撃に際してはマルコが陰ながら護衛者たちを守っていたのであるが、そのことを誰にも知られずにいたのである。
 但し、護衛者の間では盛んに旅の女神エイシャの加護が噂されていた。

 周囲を狼に囲まれて戦闘中に不意に転倒するなど明らかな死の危険に晒されながら、周囲の狼が一瞬攻撃を躊躇し、引いたのである。
 そのすきに体勢を立て直すことのできた護衛は一人や二人ではなく、護衛全体の半数にも及ぶ。

 また数人の者は、そんなことが二度以上あったのである。
 それらが、休憩の際に話し合われ、噂となって隊商の中に広がっていた。

 カラガンダ老は、マルコを呼んで尋ねると果たしてマルコの仕業であった。
 隊商を率いる者としては、例え護衛のものであろうと誰一人怪我も無く旅を終えるのが望ましいことには違いない。

 仮に護衛が一人死んだ場合でも、必要に応じて新たな要員を補充しなければならないし、弔意を示す何某かの金銭を遺族等に送らねばならないのがしきたりであったから、相応の損失となるのである。
 マルコが居るお陰でまたも隊商は危機を救われているのだから、マルコに心からの礼を言った。

 幼いマルコは、はにかみながら言った。

「皆さんの為に少しでもお役に立てたなら、僕の本望です。
 それに義父さまには間違いなくお世話になっていますから、恩返しのほんの一部です。」

 確かにマルコにしてみれば苦境にあった自分を養子にしてくれたカラガンダは命の恩人かもしれない。
 しかしながら、その数倍もの恩返しを受けているのだとカラガンダ老は知っていた。

 立ち去って行くマルコの背中に向かってカラガンダ老は古来からの商人の習わしに従って、恩人に対する礼の作法を人知れず為していたのだった。
 斯様にバンナ平原では、魔獣の群れの襲撃を如何に防ぐかが問題であったわけだが、ゼルダス山脈では単独で強力なモンスターに対して分散している兵力を如何にまとめて戦うかと云うことに尽きた。

 そうして今一つの問題がある。
 バランティア山脈は、いくつかの主要街道が山脈を横断しているのだが、ゼルダス山脈は中央より北側及び南側に強力なモンスターの生息域がある。

 特に南端と北端近傍にはドラゴンが居るらしい。
 亜竜のワイバーンならまだしも、ドラゴンともなると、とても人間の手には負えない。

 一国の軍隊ですらドラゴン一匹に壊滅の憂き目にあうことがあるほどだ。
 古の時代、マイジロン大陸バンナ平原最北の地を治めるヘーバル王国が、ドラゴンを相手に戦ったが、生還者は僅かに三割だったという。

 勿論ドラゴンの討伐はならなかった。
 それ以降、どの国もドラゴンには手を出していないのだ。

 ゼルダス山脈の北部に棲むドラゴンは黒竜であり飛竜でもあったという。
 一方山脈南部に棲むドラゴンは赤竜であり、やはり飛竜であるというが、実のところ噂だけで実際に見たものが居るかどうかは不明である。

 いずれにしろ、竜の生息域に達するまでの地域も想像を絶する強力なモンスターが跋扈する危険地域であるから冒険者ですらできるだけ避ける地域なのである。
 何れにしろ、強力なモンスターが棲むゼルダス山脈ではあるが、その中央部は比較的に魔物の気配が薄い地域なのである。

 ためにバンナ平原からプラバ平野に至る主要街道は中央部に収束しているのである。
 交易路として安全な場所を選ぶとどうしてもゼルダス山脈の中央にしかならないのだ。

 バンナ平原のモンテクローバからプラバ平野のコランダルに至るイスラ往還が隊商の辿る道である。
 隊商路が収束すると決まって盗賊も出没する。

 マイジロン大陸の南のカジン岬、北のホーラッド岬は共に荒れる海で有名であり、海路としての利用価値は少ない。
 為にマイジロン大陸の流通は殆どが陸路であり、東西の流通にはイスラ往還が欠かせない交易路なのである。

 毎日多くの隊商が山間の道を通過するため、ただ待っていれば鴨が葱を背負って来るので盗賊たちはここを一番の稼ぎ場所としているのだ。
 尤もモンテクローバやコランダルから多数の騎士が盗賊討伐のために入り込み、それに輪をかけて懸賞金狙いの冒険者がイスラ往還に入り込んでいる。

 但し、イスラ往還はかなり長い往還である。
 モンテクローバからコランダルまで通常の隊商で1か月の道程なのである。

 この広い範囲に騎士や冒険者が入り込んでも中々に盗賊は減らないのである。
 彼らは山中に根城を持ち、そこから出没しているから中々に足取りがつかめないのである。

 騎士団が見回りしている場合は、流石に盗賊の襲撃は控えている。
 警護の手薄な隊商や商人が狙われて餌食になっているのだ。

 シュラックで止む無く足止めしたので、半月ほど遅くモンテクローバに到着したが、それでも馴染みの傭兵と冒険者たちを雇うことのできたカラガンダ老であるが、不穏な情報を傭兵団から聞いた。
 イスラ往還の山賊が大同団結して、千人規模の集団となって暴れ巻くっているらしい。
 
 モンテクローバから出発した騎士団100名が這う這うの体で逃げ帰ったというから、かなりの武力を持った勢力と見ていいだろう。 
 モンテクローバを治めるルービット伯爵は、近々、500名規模の騎士団をイスラ往還に派遣して山賊討伐に乗り出すらしいとの評判が立っている。

 為に現状ではモンテクローバに様子見で滞在する隊商・商人が多く、宿が不足し、尚且つ物価が上がっているらしい。
 モンテクローバに収容しきれないほどの一時的な旅人が増えれば確かに食料を含めて諸物価が値上がりするだろう。

 かく言うカラガンダ老の隊商も常宿が満杯であるためにモンテクローバ郊外にキャンプをしている状況である。
 その滞在が10日にまで及んでくると流石に隊商も困り始めた。

 特に宿に宿泊している商人や隊商は維持費が高くつき、宿を出て郊外にキャンプを始めた者も居る。
 しかしながら近々と言われた騎士団の派遣が遅れていた。

 伯爵の手持ちの騎士団だけでは足りずに、王家にお願いして中央の騎士団や隣接領主の応援派遣をお願いしている様子だが、それがうまくいっていない様子なのだ。
 このためモンテクローバに滞在する大手隊商で話し合いが持たれた。

 カラガンダ老の隊商は未だ十日余りの足止めに過ぎないが、一月余りも滞在を続けている隊商もあるのだ。
 このままでは経費がかさみ続けて損益になる。

 つまるところ、隊商が寄り集まって警護の人数を合計すれば山賊どもに対抗できるのではないかという賭けに走ったのである。
 集まった隊商は全部で16。

 カラガンダ老ともう一つが大きいが、残り10程は中規模の大程度、残り四つは中規模の小程度だった。
 各隊商の警備人員の総計は千二百超になる。

 一応対抗できる勢力とは言えるが、問題はそうした護衛の中にも山賊の手足になっている者が紛れ込んでいる可能性が高いことであった。
 飲料や食事に毒でも混ぜられたなら始末に負えないことになる。

 またそうした大兵力ではあっても指揮者が居なければ烏合の衆になる可能性もある。
 軍団の指揮というのは左程に難しいものなのだ。

 隊商の中でさえ指揮が滞ることは度々ある。
 責任者が隊商の長であっても、隊商の長は戦闘には本来無縁の人間なのだ。


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