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第三章 ニオルカンのマルコ
3ー13 旅立ち
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マルコが設置した王都の監視体制により、パッサード侯爵の企みを察知したマルコは、若干迷ったもののカラガンダ老にその旨を話し、ニオルカンを去らねばならい事を告げた。
カラガンダ老は、特段の躊躇もせずに言った。
「ならば、脱出じゃな。
ステラも同道してこの国を出るまでのことじゃ。
その財務卿の使いとやらは、いつ頃ニオルカンに着くのじゃな?」
「おそらくは第一学院が秋休みに入った五日後にはニオルカンに入ると思われます。
途中天候などが悪ければもう少し遅れるかもしれませんが・・・。」
「ふむ、早まることも無いと思うが念のためじゃ。
第一学院の秋休みに入ると同時に旅立とうではないか。
それまでは密かに準備じゃな。
ほぼ必要なものは揃っておるはずじゃな?」
「はい、旅に必要とするものは全て亜空間の倉庫に入れてありますので、取り敢えずは旅の口実を準備して義兄様たちに説明すればよいかと。
但し、秋休みは20日程ですので、それが過ぎれば戻らぬことに商会の方々が気づきましょう。
戻らぬことを別途伝える手紙が必要かと思います。
学校にも中退の届け出をせねばならないでしょう。」
「フム、それは準備しておくが、・・・。
出すかどうかは再度検討しようかのぉ。
場合によっては行方不明の方が都合がよいかもしれぬ。
もし出すにしても、その手紙が届くのは秋休みの最終日でよかろう。
人を介しても良いが、後を手繰られても面倒じゃ。
出すならばマルコがこそっと届ければよいじゃろう。
後は、そうさのうぉ、秋口から冬にかかる折じゃ、冬物の服装を周囲の者に知られぬよう準備しておこう。
ステラもそのための準備でそれなりの時間が必要となろう。」
「義父様、後今一つ、置き土産を義兄様に渡しておこうかと思っております。
これまでの二つは義父様が商業ギルドに登録しておりましたが、此度は義兄様が登録することでようございましょうか。」
「なに、ポンプ、鏡に次いでまたもか・・・。
左程に要らぬというに・・・。
まぁ、一族の繁栄のためになるなら遠慮なく受け取っておこう。
儂もここを離れるし、長男坊のボルトスが受け継ぐのが良いだろう。
あ奴なればうまいこと商会で利用して行くじゃろう。
それも儂らが旅立った後の話じゃな?」
「はい、置手紙と一緒に品物と説明書もつけて置いて行こうと思います。」
「うん、それが良い。
ここを離れる口実は、・・・。
北のフラノード峡谷への観光旅行じゃな。
あそこには温泉も沸いておるし、ステラと二人の湯治の旅と言えばだれも疑わぬじゃろう。
マルコは、学院が休みの故の旅の供じゃな。
峡谷の南の端でさえ、馬車で4日程もかかるところじゃから、わざわざわしらの行方を追って確認には来ぬと思う。
まぁ、財務卿の使いが急ぎと言われておればあるいは後を追いかけて来るやもしれぬが、フラノード峡谷の温泉宿はかなり広い地域に分散しておる。
一つ一つ探すだけでも十日ほどもかかるだろうから間違いなく目くらましにはなる。
尤も、使いがニオルカンに着いた頃には儂らは、はるか東方じゃな。
で?
どこに跳んでゆくつもりじゃ?」
「この時節ならば、ワダーツ峠もまだ雪で覆われてはいないはずですので、東の無人宿坊のその先の野営地でもよろしきかと。
もう少し遅い時期ならば、ワダーツ峠手前のアケロンあたりで冬の間を過ごして、春になってから峠を越える方が良いかなと思っていました。」
「ふむ、マルコは聡いのぉ。
冬の到来も頭に入れておったか。
確かにワダーツ峠の冬は隊商が通るには難しい。
降雪があると時折雪崩も起きるでのぉ。
冬は鬼門として皆から敬遠されておるわ。」
「但し、春になると一斉に待っていた隊商が動き始めるので峠の宿場は溢れかえるという噂話を聞きました。」
「おう、そのとおりよ。
それゆえ、その時期は避けて通る方が安全じゃな。
どうしても流通が活発になるため、盗賊どももそこを狙いに出てくるでな。
マルコのことじゃから大丈夫とは思うが、一台の馬車というのはある意味で狙われやすい。
豪奢かそうでないかを問わず、盗賊どもは獲物が少ない時は儲けが少ないとわかっていても襲撃してくるぞ。
盗賊対策は如何にするな?」
「盗賊が襲い来れば蹴散らすのは簡単ですが・・・。
命を奪ってもよろしいのでしょうか?」
「儂ら隊商にとっては、盗賊どもは仇のような者じゃ、遭遇すれば可能ならば抹殺する。
さもなくば、後々、儂らの仲間が襲われて命を失うやもしれぬ。
幼いマルコにはきついことになるかも知れぬが、可能ならばその場で盗賊どもの命を絶った方が後腐れが無かろう。
下手に捕らえると、町まで連れて行かねばならぬが、手間も金もかかるでな。」
「わかりました。
できれば義母様の目に入らぬよう処置をいたしましょう。」
「ふむ、ステラを心配するか。
じゃが、ステラも若かりし頃は儂と一緒に隊商で旅をした女ぞ。
二度の旅の間に数回人死ににも遭うておるし、ステラ自身が止むに止まれず盗賊を手にかけたこともある。
あの折は頭から血しぶきを浴びて凄惨な姿をしておったな。
じゃから、ステラは強い女子じゃぞ。
「さようですか。
ただ今のおっとりした義母様では考えられないお話ですね。」
マルコとカラガンダ楼は、話を煮詰め、第一学院の夏休みに入った翌日にはニオルカンの町を発って一旦は北の門から町を出て、人目につかぬところで長距離転移を行い、ワダーツ峠の東側の宿坊サガンのさらに東にある通称ロワイと呼ばれる野営地に転移することにした。
いきなり人がいるところに馬車ごと転移しては誰もがびっくりするであろうが、その辺はマルコが誰にも悟られないように転移をするというので任せることになった。
秋季半ばの8ビセット9日、第一学院は終業式を迎えている。
マルコ達の同級生は、8ビセットの29日で秋休みが終われば三年生に進級することになる。
この二年間で同級生たちの半数はやや停滞するも、残り半数は順調な成長を見せている。
停滞気味の同級生とは、入学前から無理な魔法発動を行っていた子供たちであった。
周囲の大人達がいかにして子供の魔力を育てるかを知らないまま、無理強いした結果である。
特に、マルコ達の上級生たちは修復が効かないほどに凝り固まってしまい、学院長が呼び寄せた老練な魔法師達でもどうにもならない状態にあった。
それに比べると多少の矯正が効いたマルコの同級生はまだましな方であろう。
マルコは、ハリーやアリシア、それにシルヴィアとも笑顔で別れた。
もう二度と会えないかもしれないが、旅経つことは秘密であり、残念ながら別れを告げることはできなかった。
ハリーとアリシアには、能力に見合った魔法を教えてあげたし、シルヴィアについても有り余る魔力の使い方、制御の仕方を教えたが、三人ともがとても好ましい成長を見せたから、マルコには思い残すことは無い。
後は三人が相応に努力をすれば、なりたい者になれるだろう。
シルヴィアがマルコにほのかな恋情を寄せていたのは気づいていたが、相手は妾の子とは言え、父親は大公である。
結ばれぬ恋路は早めに解消した方が良いだろう。
その意味でもマルコに未練はない。
第一学院から帰って翌朝、カラガンダ老、ステラそうしてマルコの三人は、モンテネグロ商会の人たちに見送られながら北の門に向かった。
見送った商会の者は誰しもが8ビセットの末日までに帰宅するものと思い込んでの見送りである。
行く先は、北の景勝地フラノード峡谷と店の者達は聞いている。
ここには広い範囲に十数か所もの温泉地があり、その各地に温泉宿がある。
ニオルカンで財を成して暇ができた者が好んで訪れる観光地なのだ。
誰しもがカラガンダ夫妻のマルコを伴っての湯治旅行に疑いを持つものは居なかった。
馬車は門を出るまでは、カラガンダ老が手綱を握った。
但し、手綱を持っているだけで何もせずとも馬車は予定通りのコースを進む。
途中に障害物があればきちんと避けるし、子供が飛び出てきても馬車が止まる。
二頭曳の馬車の馬は、マルコが作った本物そっくりのゴーレムである。
誰が見ても偽物の馬だとは気づかぬほど精巧にできていた。
近くに寄って手で触れてみても馬の手触りが返って来るだけのことである。
従って、カラガンダ老が何もせずとも街の中を闊歩し、安全に北門を通過したのである。
カラガンダ老も昔は率先して馬車の手綱を取ったものだが、これほど楽な馬車には乗ったことが無い。
ニルオカンの町の道路は良く整備された石畳で出来ているが、それでも多数の馬車の往来は石畳を削り、わだちを造るのだ。
従って。馬車で通るとその凸凹がかなり尻に響くことになるのだが、この馬車はその振動がほとんどない。
多少の揺れはあるが、尾てい骨にガツンと来るような縦揺れの衝撃が無いのである。
御者台の背後にある居室同様、とんでもない造りの馬車である。
そう思いつつ、御者台の傍に二人並んで座っているステラとマルコの顔を見ながら、なんとなくにやけ顔が収まらないカラガンダ老であった。
馬車が北の門を通り過ぎて、しばらくすると森の中へと街道が続く。
その中へ入って間もなく、カラガンダ老達の乗った馬車は忽然と消えた。
然しながら、その消えたところを見たものは誰一人いないのである。
8ビセット10日、カラガンダ夫妻とマルコはこの日から行方不明となったが、それを知る者はまだいない。
そうして、その日から6日経って、パッサード侯爵の招請状を持った使いがニオルカンに到着したが、訪ねたモンテネグロ商会で生憎とマルコとカラガンダ夫妻は湯治旅行に出かけておりますと言われ、招請状を如何にするか使いの者が困った。
訊けば、マルコについては学院の新学期も始まるので、8ビセットの末までには帰還するだろうとの話しだったので、使いの者はそのままニオルカンで逗留してマルコ達の帰還を待つことになった。
使いの者は、マルコを王都まで連れて来るよう命じられていたのだった。
だが、本人が居ないではその役目が果たせない。
従って、マルコの帰りを待つしかなかったのだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
注)暦:
この世界は正確な円軌道を描く公転軌道を持っており、地軸は5度ほど公転軌道面に対して傾いているので一応の春夏秋冬はあるが、大きな季節の差は無く、むしろ乾季と雨季の差、あるいは山岳地帯の等高線の差が気温などに影響を与える気候である。
この世界に衛星は無く、いわゆる月の概念が無い。
1年は348日を基準としているが、夏至が徐々にずれることから5年に一度アンビセットを設けて調整している。
本来の公転周期は352.4日であり、従って暦の上では年に4.4日ほどずれることから通常は29日を1ビセット(月?)とした1年が12ビセットからなるが、5年に一度13ビセットを設けてアンビセットと称し、夏至のずれを調整している。
1ビセットから3ビセットまでを春季、4ビセットから6ビセットまでを夏季、7ビセットから9ビセットまでを秋季、10ビセットから12ビセット若しくはアンビセットがある年はアンビセットまでを冬季と称している。
第一学院の秋休みは、8ビセットの10日から29日までである。
追伸;
「仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか」
と
「浮世離れの探偵さん ~ しがない男の人助けストーリー」
を始めました。
宜しければ是非覗いてみてください。
2023年8月17日 By サクラ近衛将監
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10月16日、一部の字句修正を行いました。
By サクラ近衛将監
カラガンダ老は、特段の躊躇もせずに言った。
「ならば、脱出じゃな。
ステラも同道してこの国を出るまでのことじゃ。
その財務卿の使いとやらは、いつ頃ニオルカンに着くのじゃな?」
「おそらくは第一学院が秋休みに入った五日後にはニオルカンに入ると思われます。
途中天候などが悪ければもう少し遅れるかもしれませんが・・・。」
「ふむ、早まることも無いと思うが念のためじゃ。
第一学院の秋休みに入ると同時に旅立とうではないか。
それまでは密かに準備じゃな。
ほぼ必要なものは揃っておるはずじゃな?」
「はい、旅に必要とするものは全て亜空間の倉庫に入れてありますので、取り敢えずは旅の口実を準備して義兄様たちに説明すればよいかと。
但し、秋休みは20日程ですので、それが過ぎれば戻らぬことに商会の方々が気づきましょう。
戻らぬことを別途伝える手紙が必要かと思います。
学校にも中退の届け出をせねばならないでしょう。」
「フム、それは準備しておくが、・・・。
出すかどうかは再度検討しようかのぉ。
場合によっては行方不明の方が都合がよいかもしれぬ。
もし出すにしても、その手紙が届くのは秋休みの最終日でよかろう。
人を介しても良いが、後を手繰られても面倒じゃ。
出すならばマルコがこそっと届ければよいじゃろう。
後は、そうさのうぉ、秋口から冬にかかる折じゃ、冬物の服装を周囲の者に知られぬよう準備しておこう。
ステラもそのための準備でそれなりの時間が必要となろう。」
「義父様、後今一つ、置き土産を義兄様に渡しておこうかと思っております。
これまでの二つは義父様が商業ギルドに登録しておりましたが、此度は義兄様が登録することでようございましょうか。」
「なに、ポンプ、鏡に次いでまたもか・・・。
左程に要らぬというに・・・。
まぁ、一族の繁栄のためになるなら遠慮なく受け取っておこう。
儂もここを離れるし、長男坊のボルトスが受け継ぐのが良いだろう。
あ奴なればうまいこと商会で利用して行くじゃろう。
それも儂らが旅立った後の話じゃな?」
「はい、置手紙と一緒に品物と説明書もつけて置いて行こうと思います。」
「うん、それが良い。
ここを離れる口実は、・・・。
北のフラノード峡谷への観光旅行じゃな。
あそこには温泉も沸いておるし、ステラと二人の湯治の旅と言えばだれも疑わぬじゃろう。
マルコは、学院が休みの故の旅の供じゃな。
峡谷の南の端でさえ、馬車で4日程もかかるところじゃから、わざわざわしらの行方を追って確認には来ぬと思う。
まぁ、財務卿の使いが急ぎと言われておればあるいは後を追いかけて来るやもしれぬが、フラノード峡谷の温泉宿はかなり広い地域に分散しておる。
一つ一つ探すだけでも十日ほどもかかるだろうから間違いなく目くらましにはなる。
尤も、使いがニオルカンに着いた頃には儂らは、はるか東方じゃな。
で?
どこに跳んでゆくつもりじゃ?」
「この時節ならば、ワダーツ峠もまだ雪で覆われてはいないはずですので、東の無人宿坊のその先の野営地でもよろしきかと。
もう少し遅い時期ならば、ワダーツ峠手前のアケロンあたりで冬の間を過ごして、春になってから峠を越える方が良いかなと思っていました。」
「ふむ、マルコは聡いのぉ。
冬の到来も頭に入れておったか。
確かにワダーツ峠の冬は隊商が通るには難しい。
降雪があると時折雪崩も起きるでのぉ。
冬は鬼門として皆から敬遠されておるわ。」
「但し、春になると一斉に待っていた隊商が動き始めるので峠の宿場は溢れかえるという噂話を聞きました。」
「おう、そのとおりよ。
それゆえ、その時期は避けて通る方が安全じゃな。
どうしても流通が活発になるため、盗賊どももそこを狙いに出てくるでな。
マルコのことじゃから大丈夫とは思うが、一台の馬車というのはある意味で狙われやすい。
豪奢かそうでないかを問わず、盗賊どもは獲物が少ない時は儲けが少ないとわかっていても襲撃してくるぞ。
盗賊対策は如何にするな?」
「盗賊が襲い来れば蹴散らすのは簡単ですが・・・。
命を奪ってもよろしいのでしょうか?」
「儂ら隊商にとっては、盗賊どもは仇のような者じゃ、遭遇すれば可能ならば抹殺する。
さもなくば、後々、儂らの仲間が襲われて命を失うやもしれぬ。
幼いマルコにはきついことになるかも知れぬが、可能ならばその場で盗賊どもの命を絶った方が後腐れが無かろう。
下手に捕らえると、町まで連れて行かねばならぬが、手間も金もかかるでな。」
「わかりました。
できれば義母様の目に入らぬよう処置をいたしましょう。」
「ふむ、ステラを心配するか。
じゃが、ステラも若かりし頃は儂と一緒に隊商で旅をした女ぞ。
二度の旅の間に数回人死ににも遭うておるし、ステラ自身が止むに止まれず盗賊を手にかけたこともある。
あの折は頭から血しぶきを浴びて凄惨な姿をしておったな。
じゃから、ステラは強い女子じゃぞ。
「さようですか。
ただ今のおっとりした義母様では考えられないお話ですね。」
マルコとカラガンダ楼は、話を煮詰め、第一学院の夏休みに入った翌日にはニオルカンの町を発って一旦は北の門から町を出て、人目につかぬところで長距離転移を行い、ワダーツ峠の東側の宿坊サガンのさらに東にある通称ロワイと呼ばれる野営地に転移することにした。
いきなり人がいるところに馬車ごと転移しては誰もがびっくりするであろうが、その辺はマルコが誰にも悟られないように転移をするというので任せることになった。
秋季半ばの8ビセット9日、第一学院は終業式を迎えている。
マルコ達の同級生は、8ビセットの29日で秋休みが終われば三年生に進級することになる。
この二年間で同級生たちの半数はやや停滞するも、残り半数は順調な成長を見せている。
停滞気味の同級生とは、入学前から無理な魔法発動を行っていた子供たちであった。
周囲の大人達がいかにして子供の魔力を育てるかを知らないまま、無理強いした結果である。
特に、マルコ達の上級生たちは修復が効かないほどに凝り固まってしまい、学院長が呼び寄せた老練な魔法師達でもどうにもならない状態にあった。
それに比べると多少の矯正が効いたマルコの同級生はまだましな方であろう。
マルコは、ハリーやアリシア、それにシルヴィアとも笑顔で別れた。
もう二度と会えないかもしれないが、旅経つことは秘密であり、残念ながら別れを告げることはできなかった。
ハリーとアリシアには、能力に見合った魔法を教えてあげたし、シルヴィアについても有り余る魔力の使い方、制御の仕方を教えたが、三人ともがとても好ましい成長を見せたから、マルコには思い残すことは無い。
後は三人が相応に努力をすれば、なりたい者になれるだろう。
シルヴィアがマルコにほのかな恋情を寄せていたのは気づいていたが、相手は妾の子とは言え、父親は大公である。
結ばれぬ恋路は早めに解消した方が良いだろう。
その意味でもマルコに未練はない。
第一学院から帰って翌朝、カラガンダ老、ステラそうしてマルコの三人は、モンテネグロ商会の人たちに見送られながら北の門に向かった。
見送った商会の者は誰しもが8ビセットの末日までに帰宅するものと思い込んでの見送りである。
行く先は、北の景勝地フラノード峡谷と店の者達は聞いている。
ここには広い範囲に十数か所もの温泉地があり、その各地に温泉宿がある。
ニオルカンで財を成して暇ができた者が好んで訪れる観光地なのだ。
誰しもがカラガンダ夫妻のマルコを伴っての湯治旅行に疑いを持つものは居なかった。
馬車は門を出るまでは、カラガンダ老が手綱を握った。
但し、手綱を持っているだけで何もせずとも馬車は予定通りのコースを進む。
途中に障害物があればきちんと避けるし、子供が飛び出てきても馬車が止まる。
二頭曳の馬車の馬は、マルコが作った本物そっくりのゴーレムである。
誰が見ても偽物の馬だとは気づかぬほど精巧にできていた。
近くに寄って手で触れてみても馬の手触りが返って来るだけのことである。
従って、カラガンダ老が何もせずとも街の中を闊歩し、安全に北門を通過したのである。
カラガンダ老も昔は率先して馬車の手綱を取ったものだが、これほど楽な馬車には乗ったことが無い。
ニルオカンの町の道路は良く整備された石畳で出来ているが、それでも多数の馬車の往来は石畳を削り、わだちを造るのだ。
従って。馬車で通るとその凸凹がかなり尻に響くことになるのだが、この馬車はその振動がほとんどない。
多少の揺れはあるが、尾てい骨にガツンと来るような縦揺れの衝撃が無いのである。
御者台の背後にある居室同様、とんでもない造りの馬車である。
そう思いつつ、御者台の傍に二人並んで座っているステラとマルコの顔を見ながら、なんとなくにやけ顔が収まらないカラガンダ老であった。
馬車が北の門を通り過ぎて、しばらくすると森の中へと街道が続く。
その中へ入って間もなく、カラガンダ老達の乗った馬車は忽然と消えた。
然しながら、その消えたところを見たものは誰一人いないのである。
8ビセット10日、カラガンダ夫妻とマルコはこの日から行方不明となったが、それを知る者はまだいない。
そうして、その日から6日経って、パッサード侯爵の招請状を持った使いがニオルカンに到着したが、訪ねたモンテネグロ商会で生憎とマルコとカラガンダ夫妻は湯治旅行に出かけておりますと言われ、招請状を如何にするか使いの者が困った。
訊けば、マルコについては学院の新学期も始まるので、8ビセットの末までには帰還するだろうとの話しだったので、使いの者はそのままニオルカンで逗留してマルコ達の帰還を待つことになった。
使いの者は、マルコを王都まで連れて来るよう命じられていたのだった。
だが、本人が居ないではその役目が果たせない。
従って、マルコの帰りを待つしかなかったのだ。
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注)暦:
この世界は正確な円軌道を描く公転軌道を持っており、地軸は5度ほど公転軌道面に対して傾いているので一応の春夏秋冬はあるが、大きな季節の差は無く、むしろ乾季と雨季の差、あるいは山岳地帯の等高線の差が気温などに影響を与える気候である。
この世界に衛星は無く、いわゆる月の概念が無い。
1年は348日を基準としているが、夏至が徐々にずれることから5年に一度アンビセットを設けて調整している。
本来の公転周期は352.4日であり、従って暦の上では年に4.4日ほどずれることから通常は29日を1ビセット(月?)とした1年が12ビセットからなるが、5年に一度13ビセットを設けてアンビセットと称し、夏至のずれを調整している。
1ビセットから3ビセットまでを春季、4ビセットから6ビセットまでを夏季、7ビセットから9ビセットまでを秋季、10ビセットから12ビセット若しくはアンビセットがある年はアンビセットまでを冬季と称している。
第一学院の秋休みは、8ビセットの10日から29日までである。
追伸;
「仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか」
と
「浮世離れの探偵さん ~ しがない男の人助けストーリー」
を始めました。
宜しければ是非覗いてみてください。
2023年8月17日 By サクラ近衛将監
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10月16日、一部の字句修正を行いました。
By サクラ近衛将監
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