母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監

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第五章 サザンポール亜大陸にて

5ー7 同行者の災難 その四

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 マルコです。
 バウマン子爵のご厚意により子爵邸に宿泊中なのですが、用心のためにドローンを子爵邸の周囲に四機、そうして襲ってきた盗賊もどきの騎士や傭兵が拘束されている子爵領軍騎士団の駐屯地の周囲にも四機のドローンを配備して警戒中なのです。
 
 マイジロン大陸でもそうでしたけれど、ここサザンポール亜大陸でも日没後の外出は非常に少なくなります。
 一応、魔導具の灯火はありますけれど、未だに高価なうえに比較的維持費が高くつくのです。

 各国の王都などには街灯も設置されていますけれど、あっても目抜き通りなど主要な大通りや貴族街などに限られます。
 従って、陽が落ちてからの外出は、足元が暗いので、急用が無い限りしないのです。

 そんな中で灯火もつけずに団体さんで動く者達があれば絶対に良からぬことを企む奴に違いありません。
 マルコが警戒しているのは、夕暮れ後に集団でうごめやからです。

 一人や二人の刺客ならば、子爵邸の衛兵や、駐屯地の騎士で対応できるはずですが、集団で襲撃されると危いかもしれません。
 関わっているであろうマッセリング伯爵側としては、自らの手先、特に直臣が捕まっていることは大変困ることに違いないのです。

 審問官にかかれば、尋問の仕方にもよりますけれど、嘘をつけないことから背後のマッセリング伯爵の名がどうしても表に出ることになります。
 生憎と、審問官が聴取した内容が正式文書となれば、法的な拘束力を持つのです。

 王家にその文書が届けば、伯爵であっても処罰は免れません。
 ですからマッセリング伯爵としては、当該審問官の文書と共に供述した直臣を消しておきたい筈なのです。

 貴族同士の内紛については王家からのお咎めもあり得ますが、伯爵家が断絶するよりはマシなはず。
 従って、動くならば今夜か明日だとマルコは思っていますが、日中は流石に目立つために避けるのじゃないかと予想しています。

 因みに子爵サイドもそうしたことを予想して警戒を強めており、同時に審問官の聴取も今夜中に済ませてしまう腹積もりなのです。
 従って、子爵邸も騎士団駐屯地も非常に物々しい警戒ぶりなのですが、これがレンチャンで続くと大変ですよね。

 いずれにせよ、早晩伯爵側が何らかの手を打ってくるのは間違いないでしょう。
 マルコは、日没時から騎士団の駐屯地近くに、ファー、リマ、オーノの3体の護衛ゴーレムを配置しています。

 一方で子爵邸への襲撃に備えて、カタヒ、ルア、トールの三体は子爵邸で待機中です。
 他のゴーレム達も必要に応じて出動させる予定ですが、いずれも待機中です。

 彼らには睡眠とか休息が全く不要ですので、その点においては非常に助かっています。
 生身の人間なら24時間不眠不休の不寝番はできないでしょう。

 そうしてマルコの勘は当たっていました。
 夜明けまで一刻ほどという時間帯で、騎士団駐屯地めがけて進む百名を超える集団が確認できました。

 マッセリング伯爵領につながるメインの街道ではなく、その支道に当たる整備されていない道を武装集団が進んでいます。
 マルコは駐屯地の護衛ゴーレム三体をやや前進させて待ち受けさせ、同時に子爵邸で待機していた三体のゴーレムの内二体を駐屯地周辺警戒に出張らせました。

 子爵邸の警備の方は、護衛ゴーレム一体と執事、メイド、御者にコックのゴーレム四体が居れば鬼に金棒です。
 問題は、魔法師等による焼き討ちなどの奇襲ですけれど、これはマルコが子爵邸の警戒と合わせてドローンの監視で対応します。

 実のところ、二人ほど不審人物が子爵邸の周囲に潜んでいるのは既に確認しています。
 そのために、この二人の背中には超小型の虫型ゴーレムを張り付けています。

 万が一魔法発動のための詠唱でも始めようものなら、このゴーレムが自爆して当該賊を殲滅することにしているのです。
 この虫型小型ゴーレムは、背中についていますが、全長五ミリほどであり、日中でもなかなか見つけにくい代物ですけれど、飛ぶことができる上に、自爆する際は頸部けいぶ若しくは頭部に張り付きます。

 爆発火力は指向性を持たせていますので頸部付近で爆発すれば、首が切り離されるほどの威力がありますから必殺武器とも言える代物ものですね。
 伯爵の手勢集団は、襲撃時刻をあらかじめ決めていたのでしょうね。

 夜明けまであと半刻近くという時間帯で最初に潜り込んでいた二人の魔法師が動こうとしました。
 邸の傍にまで近寄って、暗がりの中で詠唱を始めたのです。

 途端に超小型の虫型ゴーレムが背中から飛翔し、首筋にとりついてすぐに爆発しました。
 ドン、ドンという不気味に響く低い二つの爆発音は、子爵邸で若干の騒ぎを引き起こしましたが、騎士団の出動を招くほどではありませんでした。

 詠唱の内容から子爵邸に火炎魔法で火をつける計画だったと思います。
 仮に子爵邸で火の手が上がれば、騎士団の一部なりとも子爵邸に駆け付けますから、その間に騎士団駐屯地を襲い、囚人を消す予定だったのだと思います。

 あるいはその後に騎士団そのものも各個撃破して、子爵領を占拠する予定だったかもしれません。
 どのように時刻を整合したかはわかりませんが、二人の魔法師を殲滅してからおよそ四半時(約30分)ほど経ったころ、百名を超える軍団が一斉に騎士団駐屯地めがけて突撃を始めました。

 本来であれば駐屯地に動きがあってから突入する手はずであったのでしょうが、それが無くとも明け方までには作戦を終わらせる必要があったのでしょうね。
 無理を承知で彼らも突入を開始したのです。

 子爵の騎士団駐屯地にはそもそも常駐で百名までいませんし、この夜は子爵邸の警備で30名ほど取られているので、駐屯地には60名ほどの勢力しか残っていなかったのです。
 おそらくは密偵を放ってそれらのことは十分承知した上での作戦決行なのです。

 突入を開始した軍団の前に立ちはだかったのは、マルコの造った護衛ゴーレム五体でした。
 彼らは言わば不死身のバーサーカーです。

 どんな剣や槍でも彼らを傷つけることはできませんし、彼らは通常の騎士達の四倍ほどの速度で動き回れます。
 彼らの武器は、クレイモアと呼ばれる長剣なのですが、少し大きめなのです。

 全長で180センチ、刃渡りで140センチもあるんです。
 この剣は、アダマンタイトの合金でできているために重量は7キロほどもあるので、並の武人では振り回すことも難しいでしょうが、ゴーレムはこの重量物を棒切れのように軽々と扱いますし、彼らが全力で振り回せば鎧で覆われた重騎士でも一振りで分断されることになるでしょう。

 そんな化け物五体が武装集団の中に飛び込み、竜巻のように当たるを幸いと切り捨てて行くものだから、忽ち、阿鼻叫喚あびきょうかんの地獄絵図が出現し、五分も経たずに軍団は総崩れとなったのです。
 しかしながら、身の危険を感じて戦線から逃げようとする者を、護衛ゴーレムは遠慮会釈なく切り捨てて行くものですから、迎撃を受けた将兵にとってゴーレム達は正しく地獄の鬼に見えたに違いありません。

 彼らから逃げおおせたのは後方に居た騎馬の騎士四名だけであったようです。
 その様子はドローンで確認していましたので、片付けようと思えばできましたけれど、マルコは敢えて見逃しました。

 現場の悲惨な状況を伝える者が必要だろうと思ったからです。
 まともな思考の持ち主ならば二度と攻撃隊を繰り出そうとは考えないはずです。

 彼らが引き上げてから、ようやく東の空が白み始め、駐屯地の目と鼻の先にある草地は、百名以上の死体が散らばっていて、かなり凄惨な光景が浮かび上がっていました。

 駐屯地の騎士も剣戟の音や叫び声で侵入者の軍団に気づいて急遽出動したものの、彼らの出番はなく、少し離れた場所でゴーレム達による殺戮を見ているしかできなかったのです。
 日出を少し過ぎて、駐屯地からの第一報が子爵邸に届けられましたが、この頃ゴーレム五体は近くの小川で血のりを洗った後、子爵邸に戻り周辺警備についたのでした。

 その後、五体のゴーレム達は、当然のように子爵家の者から事情を聴かれましたが、盗賊の仲間と思われる不審者を殲滅しただけと主張し、それ以上の詮議は為されませんでした。
 何となれば、そもそもが他領である伯爵の紋章をつけた手勢多数が、武装したまま断りもなく子爵領の奥深くに入り込むこと自体が違法であって、断罪されても文句の言えないところなのです。

 今回の動きが、当然に事前の届け出や許可を得た行動であるはずもなく、夜間に駐屯地めがけて武装した集団が突撃している時点で、敵対者と見做されても仕方がないのです。
 子爵側も自軍に何の損害も出ていないことから喜ぶことではあっても、不満があるわけではありません。

 但し、圧倒的に不利な状況での戦いになるはずのところを何処の馬の骨ともわからぬ輩に助けてもらったという恥辱感が拭えないだけなのです。
 そのような気風を敏感に感じとっていたマルコ達一行は、その日の午前中には子爵邸を辞して、一路北上しました。

 子爵側は色々助けられたことから盛んに引き留めようとしましたけれど、長居はどちらの為にもなりませんから、出立を優先したのです。
 本来は子爵領を東へ向かう予定だったのですけれど、そのまま東へ向かうと問題のマッセリング伯爵領を通過することになるので、トラブルしか見えませんよね。

 マルコ達は、それを避けたのです。
 因みに子爵領の北には少し山がちなコロネル男爵領があるのです。

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