母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監

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第五章 サザンポール亜大陸にて

5ー24 ダーレンヴィルにて

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 マルコです。
 マントンの宿場町を拠点にして、コルデニアル帝国の古代遺跡を見て回っている最中に、マルコの夢に龍が出現し、水神様の加護をいただいてしまったのですけれど、そのマントンも出立してゆっくりとではありますが、シナジル往還をひたすら東進するマルコ達一行です。

 例によって隊商の後について行く旅路であり、途中の要所要所で観光のために立ち止まり、隊商を見つけてはついてゆくということを繰り返しています。
 当然のことながら、旅の間には魔物の襲撃や野盗の襲撃もありますけれど、警護のゴーレムが居る限りマルコ達の馬車に危害を加えられることはありませんし、必要に応じてマルコが危険を排除していますけれど、それを他の者には知られないよう巧妙に隠しているのです。

 サザンポール亜大陸に到達し、秋季9ビセットに西端のケサンドラスを出立してから一年余が経ちました。
 マルコ達一行は、サザンポール亜大陸を東西に分断するバドル山脈の麓にやって来ています。

 これから上り勾配になって馬車の歩みも遅くなる上に、既に冬季11ビセットに入っていて、幾つかある峠道ではトンネルや覆いで幾分寒さをしのげるものの、この時期は大きな隊商はバドル山脈を抜けることを嫌うのです。
 マルコ達の馬車は防寒設備も十分にしてありますし、馬車も警護の者もゴーレムですので寒さには何の心配もありません。

 但し、この時期に馬車一台で山越えをするのは非常に珍しく、目立ってしまうのです。
 その上、数は少ないのですけれど急ぎ旅で無理をして山越えをする馬車が偶にあって、それを狙う盗賊団がこのバドル山脈には居るのです。

 彼らは冬場を専門にして活動しているようなのです。
 急ぎ旅で無理をする旅人ほど金に余裕があるモノと見做みなしているのかもしれません。

 マルコ達は、そんな盗賊が現れても問題なく対応できますけれど、あまり目立つことはこれからも旅が続くので避けなければなりません。
 そんなわけで10ビセット半ばから宿場町ダーレンヴィルで隊商が来るのを待っているのですけれど、生憎と今年は隊商も旅を手控えているのかもしれません。

 ここ五日ほどの間ですが東西いずれの方向へも隊商が来ないのです。
 いろいろ情報を探ってみると、どうも峠道付近での寒さが厳しく、道が凍結しているために馬車の通行が厳しいのだそうです。

 半月ほど前に、三つの隊商で続けて馬車が谷底に落ちるような事故が起きたことから、隊商の通行が止まってしまったのです。
 マルコが居れば、アイスバーンでさえも何の支障にもなりませんが、そんな凍結道をどうやって超えて来たのかと問われることになりますし、もしかすると真似をする者も出てくる恐れがありますから、マルコも無茶はできません。

 カラガンダ翁とも相談し、結局は隊商が動き出すまではダーレンヴィルで長逗留をすることにしました。
 仮に無理をする隊商が居ても、ついては行かないことにしました。

 ついて行けば、難儀した場合に助けざるを得なくなるからです。
 元々、このバドル山脈は冬季には通行が難しい場所でしたから、その昔は皆が冬場の通行を控えていたものなのです。

 やむを得ないこととは言え、予定にない逗留になってしまいましたけれど、このダーレンヴィル周辺には観光になるような場所もありません。
 カラガンダ翁、ステラ媼、マルコ達三人はそれぞれの趣味を続けるしかありませんでした。

 カラガンダ翁は陶芸と絵画を、ステラ媼は刺繍や編み物をしています。
 マルコは、魔道具の制作に余念がありません。

 おそらくは来年の冬場か、再来年の春には、マルコ達一行はサザンポール亜大陸の東端に達します。
 そこで一旦、転移魔法でカラガンダ夫妻をニルオカンへ送り届けてから、マルコは一人旅になる予定なのです。

 その時にはマルコも12歳になっていますから、サザンポール亜大陸東端の港町バウエンで、マルコは冒険者ギルドで等級を上げ、更には商業ギルド等にも登録をするつもりでいるのです。
 この世界では12歳で一応の一人前と見做されることから、大人並みに扱われることになります。

 本来であれば、そこから徒弟になったりして大人に見守られながら、商人なり、冒険者なり、薬師なりに精進するのですけれど、マルコの場合は能力的には規格外ですから、その超一流の能力を使ってどのギルドに入っても最上級の地位に就くことは可能なのです。
 但し、マルコは必ずしも周囲に能力をひけらかそうとは考えていません。

 ギルドに登録して必要な活動ができればそれで良いのであって、法外な金儲けをするつもりもありません。
 なにしろ、マルコのインベントリには、様々な財宝や武器などが多数遺されていますから、それを売るだけでも十分に生活ができるのです。

 マルコは、バウエンで登録をしたなら、辻褄つじつまが合うようにそこそこの時間をおいて、オズモール大陸に渡り、更にそこからエルドリッジ大陸へ飛ぶつもりでいます。
 そのために、今取り組んでいるのは飛行艇の開発なのです。

 既に出来上がっているグリモルデ号も素晴らしい乗り物ですけれど、長距離をこなすには速力不足なのです。
 飛行艇が有れば、グリモルデ号の数倍の速さで移動もできます。

 マルコは、静粛性の高いVTOL機の制作を考えています。
 プロペラやジェットなどを利用すると騒音が出ますけれど、重力制御の魔道具ならば騒音の発生は避けられますよね。

 環境にも優しいはずです。
 今のところ設計段階ですけれど、ワンボックスカーの形状をより平たくし、流線型を増した形?

 金谷が見知っているワゴン車等に比べるとかなり大きな機体になりそうです。
 高さは3m、幅が5m、長さが14m程になりますから、コンボイと呼ばれるトラックの二倍近い平面積があります。

 内部はグリモルデ号と同様に亜空間とも連結するつもりですけれど、原則として人には見せないタイプで考えています。
 これだけ大きくなったのは室内空間を広くとった所為ですね。

 航空機ですので、基本的にはそんなに長い時間をこの中で過ごすつもりはないのですけれど、何か必要があって留まらざるを得ない場合を考えて余裕をもって大きく作ってしまいました。
 この世界には無いはずの飛行艇が人目に触れるとまずいので最初から姿を隠蔽しますし、必要が無ければ着陸もしない仕様にしています。

 飛行艇への乗降は転移魔法で行えば良いので、わざわざ着陸はしないつもりなんです。
 但し、どうしても必要な場合は着陸して、タラップから乗降できるように設計しています。

 こうして、春季2月の終わりまで至極穏やかな日々をダーレンヴィルで過ごすことになりました。
 その間、宿場町の市場で知り合った人や、ギルドでの依頼もこなしたりしましたので、マルコ達は結構な数の住人と触れ合いました。

 そんな中にマルコ達が泊まった宿屋の隣に住む、ボスフェルト一家が居ました。
 出逢いは単なる朝のお散歩のときです。

 カラガンダ夫妻とマルコは朝食前に宿の周囲を散歩するのが慣例なのです。
 そんな時に、少し遅めに出た際に、ボスフェルト一家のお散歩と一緒になったのです。

 マルコよりも二つ年下のお嬢さんが居て、マルコに懐いてしまったことから、朝のお付き合いが始まりました。
 ボスフェルト夫妻は、ちょうどカラガンダ翁の長男夫妻ぐらいの年頃になります。

 ボスフェルトさんは陶器や食器を売る店を開いていましたので、カラガンダ翁とも話が合いました。
 奥様同士も嫁と姑の年頃ではありますが、親族のような柵がある立場ではありませんので気軽に話をしているようです。

 旅の合間にこうした触れ合いの機会があるのはとても心地よいものです。
 急ぎ旅や予定に追われる旅ではそうしたことは中々ままなりませんよね。

 12ビセットも押し迫ったこと、ボスフェルトさんの娘ルイサが熱を出してしまいました。
 マルコが密かに鑑定すると、魔力と瘴気が結びついて稀に発症するミャズマ・タヴィ・パタ症候群で有ることが分かりました。

 この症候群は、適度な魔力を有する者であって未だ魔法を発現していない者が、自然にある魔素溜まりに不用意に入った際に稀にかかる病気なのです。
 幼少の頃にかかりやすい病気ではあるのですが、百人の子供が居て一人がかかるかかからないかぐらいの発症率の低い病気なのです。

 従って、この世界ではその治療法も見つかってはいませんから、この世界の療養師や薬師では病名すらもわかってはいないので手の打ちようがないのです。
 体内魔力と瘴気が反発しながら混じりあってからおよそ三日ほどで高熱を発し、徐々に臓器不全を引き起こして死に至る恐ろしい病気なのです。

 マルコの保有する経験知識で、療養師アズマンの経験知識では不治の病だったのですが、錬金術師ユーリアの薬師能力でこの症候群に対抗する薬を見出すことができました。
 錬金術師ユーリアがその生涯の晩年に造り上げた劣化版アムリタです。

 幸いなことにマルコが持つ膨大な資材庫に必要な素材が有ったので、丸々一日をかけて劣化版アムリタを生成、これをモンテネグロ家に伝わる秘薬として服用させることができました。
 ルイサが回復したことにより、街で療養を請け負う教会関係者が当該薬品の提供を求めてきたが、ルイサに飲ませたものが残っていた最後のもので我が家にはもう残っていないと言って断りました。

 粘る教会関係者を追い返すのが結構大変でしたが、家に伝わる製法も定かではない秘薬という設定が効いて、半月も経たずに彼らも諦めたようです。
 ダーレンヴィルにいた数ビセットにおいて、目立った騒ぎはこれぐらいでしたから、比較的平穏な時間であったはずですね。

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