母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監

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第六章 故郷の村へ

6-8 エピローグ

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 マルコがヤロスラフと会って追い返した日から三日後、ヤロスラフは再びブエンの家にやって来た。
 前回と異なるのは、他の長老たちも引き連れ徒党でやって来たことと、学校に行っているはずのアニカとミアを連れていることだった。

 彼らのうちの二人が、それぞれアニカとミアの肩を抑えており、様子から見て、二人の自由を奪っているようだ。
 おそらくは、人質のつもりなのだろう。

 それを見てマルコは心が冷め切っていた。
 この老害どもは一体何を考えているのだろうと思った。

 ブエン、イラリスそれにマルコを前にして、傲然ごうぜんとヤロスラフが言い放った。
 
「お前たちに告げる。
 アニカとミアの安全を守りたくば、マルコが身代わりとなって我らの虜囚となれぃ。」

 周囲には近所の者達も様子を伺っている状況にもかかわらず、この老害たちは脅迫という蛮行に及んだのだ。
 幼子を人質にして、マルコに言うことを聞かせようという魂胆のようだ。

 ヤロスラフの関心事はただ一つ、他所よその大陸の貴族に目を付けられたというマルコの錬金術の能力なのである。
 マルコを配下においておけば、多くの金が集まると計算してのことだろう。

 マルコはあきれ果て、ため息を付きながら言った。

「あなた方は一体何をしたいのでしょうかネェ?
 幼い妹たちを人質にして無理やり要求するのが、エルフの長老達のやりかたなのですか?
 それでは野盗や海賊と変わりが無いですよね。」

「ハーフエルフの分際で、エルフの何が分かる。
 お前たちは儂らの言うとおりに動いていればいいのだ、
 逆らうことは許さん。」

「ほう、・・・。
 逆らったなら、どうします?」

「お前の目は節穴か?
 無理を通せば、妹たちが怪我をするぞ。」

「お言葉ながら、幼子を人質にしているあなた方がその子を傷つけるのでしょう?
 少なくとも私が傷つけるのではない。
 それとも、見せしめにこの場で妹たちを殺害して、同族殺しの汚名を着てみますか?」

 母イラリスが叫んだ。

「マルコ、逆らっては駄目よ。
 アニカとミアの身が危ない!」

「母様、大丈夫ですよ。
 彼らにそんなことはさせません。」

「この糞ハーフが、我らができないと思っておるのか?」

「エルフの長老が、どれほどの能力ちからを持っているのかは知りませんね。
 でも、私及び私の家族に対する明らかな敵対行動であると見做みなして、正当防衛のための行動を開始します。」

 そう言って、マルコはその場に居並ぶ長老達に、無詠唱で瞬時に複数の魔法をかけた。
 拘束の魔法、キャンセリング(魔法無効化)の魔法、デバフの魔法、そうして暗示の魔法である。

 一瞬にして、長老たちは身動き一つできなくなった。
 ヤロスラフを含め、長老達は驚愕していた。

 たかがハーフエルフの小僧と侮っていたのが、一瞬にして身体の自由を奪われ、しかも彼らも無詠唱で反撃の魔法を発動しようとしたが、一切の魔法発動ができなかったのだ。
 この状態はいかにも殺してくれとでも言わんばかりの究極の危機状態である。

 こちらは手も足も出ないのに、向こうは何でもできる。
 それこそ、包丁で寸刻みにだってできるだろう。

 長老たちは背筋が寒くなって、冷や汗を流していた。
 そんな中、マルコはゆっくりと歩いて行き、アニカとミアを捕まえている男たちの腕を解き放した。

「さぁ、おいで。
 怖いおじさんたちは、このまま放っておけばよい。」

 アニカとミアの手を取って、母イラリスの手に二人を託した。

「さて、長老達に申し上げておきましょう。
 あなた方は徒党を組んでここまで押し掛けて来て、力づくで言うことを聞かせようと図ったようですが、・・・。
 今は何もできないはずです。
 このまま、ここで立ったまま、朽ち果てる覚悟はございますか?
 私は、このままあなた方が息を止めるまで放置できるのだが・・・・。」

 マルコは、彼らの口を開かせずに、首から上だけを動かせるように拘束を緩めた。

「さて、このままがよろしいのかどうか、皆さんに伺いましょう。
 あなた方ができるのは頷くかイヤイヤをするかの二択だけです。
 このままがよろしければ、どうぞ頷いてください。
 もしそれが嫌で有れば、首を横に振ってください。
 その動作であなた方の意向が分かります。」

 ほとんどの者が首を横に振ったが、ヤロスラフだけは、額から汗を噴き出させながらも逡巡しゅんじゅんしていた。
 彼はただのハーフエルフに強制されるのが嫌だったのだ。

 自分はハーフエルフを含む一族全てのエルフの頂点に立つ者、そんな自分がこのような若造に不覚を取って膝を屈するなど到底許せないことだった。
 とは言いながら、このまま拘束されたまま水も食料も与えられなければ、進退窮まることになる。

 従って、何とかしようとあれこれやってみるのだが、どんなことをしても魔法は発動しなかった。
 そもそもが15名もの力ある氏族の長老を一斉に金縛りにするなど、余程の魔力が無ければできないはずだ。

 ヤロスラフにしても、マルコが魔法を放った瞬間の膨大な魔力の発動を垣間見ただけで。その全貌は全く分からなかった。
 まさか年端も行かぬこのようなハーフの小僧がこれほどの魔法の使い手とは思っても居なかったのだ。

「ふむ、ヤロスラフ殿だけは、自らの意思の表明をしたくないようですね。
 ならばこの態勢を受忍するという意味合いだと勝手に判断させていただいて、放置しておきましょう。
 ヤロスラフ殿を除く他の方々に、もう一度お伺いします。
 今後、私及び私の家族に危害を加えず、また、何の差別もしないことをお約束して頂ければ、この拘束を解除しますが、如何でしょうか?
 先ほどと同じく首を横に振るか縦に振るかで意思表明を行ってください。」

 すぐに、ヤロスラフを除く全員が首を縦に振った。

「皆さんの意向は確認できました。
 あなた方の拘束をこれから解きますが、一つご注意を申し上げておきます。
 今後、私の家族に対して、あなた方が危害を加え、また、差別を行ったと認められた場合は、私が報復することになる。
 あなた方の一人の行動は、この場にいるあなた方全ての総意の上での行動と見做します。
 一人が愚行を犯せば、全員が処罰の対象になるという事です。
 くれぐれもご注意申し上げるが、あなた方が束になってかかって来ても、私を制圧することはできないでしょう。
 警告のために、その実例をお目にかけておきましょう。
 私の後ろの海を見ていてください。」

 マルコの右後方の背後には、穏やかな海が広がっていた。
 然しながら、突如その様相が一変したのである。

 沖合の空がにわかにかき曇り、黒雲が発生して太陽を覆い隠し、周囲が暗くなるほどの変化を見せたのだった。
 そうして、間もなくその黒雲から轟音とともに落雷が海面を叩いた。

 それも、一本や二本ではない。
 無数とも思えるほどの落雷が海面を叩いたのである。

 余りのことに、長老たちは、顎が外れたようにぽかんと口を開けているだけだった。
 天候を左右する大魔法は、大昔のハイエルフが操ったとされる口伝くでんがあるが、単なる御伽噺おとぎばなしとして誰も信じてはいなかった。

 だがしかし、此処にそれを操る者が存在する。
 その一事だけで、彼らの背筋は凍えたのだった。

 マルコが手を挙げると、嘘のように黒雲が消えて、午後の日差しが戻って来た。
 マルコが静かに口を開いた。

「今見たことは現実です。
 そのことをよくお考えの上で慎重に行動なさってください。
 では、拘束を解きます。」

 拘束を解いた途端に、長老たちのほとんどがその場に座り込んでしまった。
 左程長い時間拘束をしていたわけでは無いのだが、デバフをかけられた為に、体力が幼児並みに落ちていたのだった。

 それゆえに立っていることが難しくその場に座り込んでしまったのだ。
 少なくともマルコの闇魔法によって、反感は全て取り除かれた状態なので、解放された彼らが、いきなりここで魔法を放つ心配はない。

 問題はヤロスラフである。
 彼が、意思の表明をしない限りは、マルコも対応の仕様がない。

 そこで、マルコはその場に椅子と小さな丸テーブルを出し、日差しを避けるためのパラソルを出して、そこに控えることにした。
 ヤロスラフが音を上げるか、もう一人の難物がマルコに何事かを頼みに来るかを待つことにしたのである。

 夕刻、西の空が夕焼けに染まる頃、待ち人がやって来た。
 イラリスの母であり、マルコの祖母でもあるオブレリアである。

 彼女は、ヒト族を嫌い、ハーフエルフを忌み嫌っている。
 従って、彼女がブエンの家を訪ねることはこれまでに一度も無かった筈だ。

 オブレリアは傲慢ごうまん尊大な姿勢を崩そうともせずに、近寄って来た。

「マルコとやら。
 ヤロスラフを解き放ちなさい。
 これはエルフの命令です。」

「普通、初見の相手には名乗ることから始めるのが常識なのだが、貴女は礼儀というものを知らないらしい。」

「年長の者を敬い、相応の礼を尽くすのが賢明なる者の礼儀であろう。
 ハーフの者はそんなことも知らぬのか?」

「はて、年長の者とは言え、野盗や海賊と同類の者を敬う必要など無いでしょう。
 貴女方は、私が礼を言わねばならないほど私や私の家族に何かをしてくれましたかな?」

「そなたが9年前に誘拐された折に、一族を上げて捜索してやったはずじゃ。
 その恩も忘れて、祖父であるヤロスラフを不当にも拘束するなど言語道断(ごんごどうだん)じゃ。」

「面白いことを申されますね。
 9年前に私を探したと言うのが恩だと言うならば、その前に人攫いの海賊どもを引き入れてブエンの子を攫うように依頼した方はどなたでしょうか?
 既にその人攫い共は別の地で捕らえられ、処刑されておりますが、彼らのアジトに残されていた書簡に依頼者としして貴方の名が記されてございました。
 生憎と貴女ご自身の署名ではないのですけれど、彼らにとっては帳簿と同じく大事なもののはずですから、彼らが嘘偽りを残す必要も無いでしょう。
 まして9年も前の事です。
 貴女はどうお考えになりますか?
 貴女の今後の態度如何で、この大陸全土の法務執行を束ねる執行官に直訴しても良いと考えていますが、それでもかまいませぬか?」

 このハレニシアのあるエルドリッジ大陸では、各国の合意事項に基づき。国をまたぐ米国のFBIのような独特の法執行機関があるのです。
 但し、組織ではなくって、6人の個人からなる独任官庁のような存在なのです。

 彼らは必要に応じて、いずれの地であっても法執行権限を有し、正義を補完する役目を負っている。
 執行官はわずかに6人だけれど、補佐をする者が数名居り、時を経るとその補佐の中から前任の執行官が後継者を指名することになっているようだ。

 その権力は絶大で、国王すらも凌駕することに建前上はなっている。
 そのために執行官から要請が有った場合には、各国が軍隊を派遣せねばならないほどの権勢が有る。

 如何にエルフの17氏族であっても、彼らの権勢には逆らえないのが実情である、
 そうしてこの執行官はいずれも真贋審問を行えることで有名であり、彼らに質問をされたならば、嘘をつくだけで重い刑罰をかけられることになる。

 流石に忘れかけていた旧悪の告発をほのめかされて、オブレリアは焦りまくった。
 そもそも、人攫いへの依頼は、ヤロスラフにすら秘密にしていた事柄ことがらなのだ。

 そこでオブレリアは問題をすり替えることにした。

「今は、その様な戯言ざれごとではなく、ヤロスラフに対する酷い扱いの問題です。
 この日差しの中で既に一刻以上もあの除隊となっているのでは、ヤロスラフの健康が心配です。
 せめて水なりとも飲ませてあげて欲しい。」

 猫なで声で言うオブレリアの魂胆が見え透いていて、鳥肌が立ってしまうが、マルコも押し返す。

「ヤロスラフ殿は、未だにご自分の意思を明確にはしていません。
 『はい』か『いいえ』のいずれかの選択なのですが、それすらしようとはしないのですが、貴女はどう思われますか?」

「人を拘束して諾否だくひを迫るなどおかしいではありませんか。
 だからヤロスラフも返事ができないのでしょう。」

「へぇ、そうなのですか?
 幼子を人質に取って諾否を迫るやり方の方がよほどあくどいと思うのですが、そういえば貴女はエルフ以外の者の処遇など考えもしない御方でしたね。
 では、同じく私も貴女を見習って、エルフの長老達の処遇を劣悪にさせましょうかねぇ?
 お断りしておきますが、私にとって、貴女やヤロスラフ殿は害悪そのものであり、何時排除しても差し支えない存在のですよ。」

 オブレリアは、先ほどの天変地異がマルコの発動した大魔法であることを既に噂で知っていた。
 少し血の気の引いた顔で、オブレリアが言った。

「まさか、まさか、其方は同族を殺すと言うのかえ?」

 その声は若干震えていたようだ

「はて?
 この場からヤロスラフ殿が、誰の目にも触れずに消え去ればどうなのでしょうね。
 私がそれをなしたという証拠はありますか?
 仮に法執行官の真贋審問を受けても、私は否定しますよ。」

 これを聞いて、オブレリアは心底怯えまくった。
 法執行官の真贋審問はエルフとて嘘をつき通せない審問なのである。

 然しながら、マルコはその審問すら避け得ることを言葉で匂わせた。
 あぁ、この小僧には逆らえない。

 オブレリアはそう観念した。
 それからはオブレリアがヤロスラフに話しかけて説得し、やがてヤロスラフも同じ結論に達したのか、ようやくマルコやその家族に一切の手出しはしないし、不利益を与えないと約束したのだった。

 マルコがヤロスラフを解放したのは、ちょうど日没の時だった。

 ◇◇◇◇

 この日以降、マルコ及びその家族に対する周囲の態度が一変した。

 ハーフエルフに対する偏見はまだまだ残りそうではあるが、少なくとも一家が過ごして行く上での障害はほぼ取り除かれたのである。
 そんな中でマルコは、家を建て直すことにした。

 古い家は床板が軋んでいたし、壁には隙間風が入るようなひび割れがあり、また、屋根も大雨が降ると所々に雨漏りが発生していたのである。
 間取りは余り変えずに、広さと部屋数をやや増やして、旧家屋のすぐ脇に少し大きめの家を建てたのである。

 念のため、敷地は1尋ほど高くして高波や津波等に備えるようにした。
 人に知られるのはあまりよくないだろうから、空間魔法を使って部屋を広げるのは断念したが、資材はマルコの亜空間倉庫やインベントリにほぼ揃っていた。

 無いモノはマルコが作ったので、家の新造に取り掛かってから一月で新居が完成したのである。
 古家は当座は倉庫代わりに使うけれど、いずれ撤去して、モノを保管しやすい土蔵にする予定である。

 また、マルコは、錬金術師のギルドに加入し、ハレニシアを拠点として活動を始めたのだった。
 この間も周囲の国々の動静把握には余念がないマルコであった。

 マルコはようやく安住の地を得たが、次は嫁探しかなと思っていところである。

  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 まだまだ、アルクシャナ帝国の侵攻などもありそうですけれど、はここで終わらせていただきます。
 また別の機会に、第二編としてマルコの活躍をお伝えできたらと思います。

 長らく読んでいただきありがとうございました。

  By サクラ近衛将監


【追伸】
 来週(2024年8月29日(木))から、同じ時間帯でジャンルは変わりますが、仮題「仇討ちの娘」を投稿する予定です。
 是非ご一読いただけたらと存じます。

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感想 1

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みんなの感想(1件)

TB
2025.02.14 TB

一気に読みました!

巻き込まれ召喚が面白かったので、続けて読みましたが、こちらも楽しかったです。

ありがとうございました!

解除

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