母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監

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第六章 故郷の村へ

6-7 祖父との折り合い

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 マルコが、ハレニシアの故郷に辿り着き、家族と暮らし始めて二日後、マルコはホレイシアに行き、冒険者ギルドと商業ギルドに赴き、拠点をホレイシアにすることを届けてきました。
 冒険者としての資格の猶予期限は、まだ3カ月ほどありますから急ぎません。

 もう一つ、ホレイシアには小さいですけれど錬金術師のギルドと薬師のギルドがありますので、そちらの登録についても申し込みをしました。
 この両方のギルドは、いずれも申し込み当日に簡単な実技の試験があります。

 どちらのギルドも支部長の目の前で実技を行い課題をこなします。
 錬金術の場合は、与えられた素材から生活に役立つ魔道具を造れば良いのです。

 マルコは、光の照明装置を造りました。
 小さな魔石を使用してその魔力を光に変える魔道具なのです。

 素材とそこに描く魔方陣を間違わなければ、前世の錬金術師では初級者でも作成可能な品です。
 でも、ここでは違った様で、支部長からこれをたくさん作ってはくれまいかと定期納入の依頼を受けてしまいました。
 
 一応、定期的となればホレイシアにたびたびこなけれならないことから、一旦家に戻って相談すると言って十日ほど保留してもらいました。
 この後、薬師の実技試験でも似たようなことが起きてしまいました。

 初級のMPポーションを造ったのですけれど、ここでは初級でも一等から三等までの等級があり、マルコの造ったポーションは一等級なのだそうです。
 うん、まぁ、マルコの場合、これ以下のポーションを造るのはかえって大変なのですけれどね。

 いずれにしろ、薬師ギルドの支部長からも定期的な納品依頼をされてしまいました。
 こちらも取り敢えず十日後まで返事を保留しました。

 ホレイシアはさほど遠くは無いのですけれど、馬車でも丸々1日はかかる場所なので、余裕を見て十日としたわけです。
 いずれにしろ、即日二つのギルドの会員証を貰いました。

 多分、この錬金術と薬師の定期依頼だけでも十分に金が稼げることがわかりました。
 当座生活に必要なお金は母に渡していますけれど、マルコも何か仕事をしなければなりませんから、当座は錬金術師と薬師で大丈夫なようです。

 因みに兄のグエンは、木工の工芸士見習いで、とある店に勤めています。
 ここの親方は、グエンがハーフエルフであろうと差別をしない人なのはマルコも上空から監視中に確認しています。

 但し、エルフ至上主義に凝り固まった人が多いのもエルフ17氏族の特徴なのです。
 ですから、マルコとしては妹二人の行く末が心配です。

 ホレイシアからマルコが戻った翌日、随分昔に見知った人物がマルコを訪ねてきました。
 マルコは正直なところ、この人物が嫌いです。

 その人物は、母方の祖父であるヤロスラフです。
 幼い頃の記憶でもこの人物はマルコの家族を蔑視して、つらく当たっていました。

 マルコが最後に見てから9年以上も経つのに、ヤロスラフの見た目は変わっていません。
 母と同じように精々二十代にしか見えないのですが、おそらくは百歳ははるかに超えているはずです。

 エルフは、不老ではないのですけれど老化がとても遅いのです。
 多分、魔力の多寡と体質が老化に影響しているのではないかとマルコは考えています。

 マルコの前世でも、魔法師プラトーンを始め魔力の多い者は、寿命がかなり長かったのです。
 それはさておき、マルコが訪問者に対面して黙っていると、相手が言いました。

「年長者に対して礼を為すのが年少者の務めで有ろう。
 お前はそんなことも知らぬのか?」

「ほとんど見知らぬ人物であるあなたから教えを乞う謂れはありません。
 そもそも私はあなたが嫌いですから、あなたに礼を払う必要はありません。」

「ほう、何故、儂が嫌いじゃ。」

「エルフ至上主義に凝り固まった老害は、ハーフエルフである私が嫌いではないのですか?」

「エルフ至上主義の何が悪い。
 優れた種族を上位と見做すのは世界のことわりじゃぞ。」

「では、あなたは何をもって優れた種族と言うのか。
 能力のことを言うならば、エルフにも多数の能力ある者もいるけれど、同様に他の種族にもたくさんの有能な人がいる。
 にもかかわらずエルフと言う種族にこだわるのは老害のなせる業であって、世界の理ではありません。」

「うぬぬ、小童こわっぱがほざきおって。・・・。
 まぁ、良い。
 お前は、錬金術の能力を貴族に知られてヒト族の国から逃げて来たそうだな。
 儂にその能力を見せてみよ。」

 どうやら祖父のヤロスラフは、先日の衛士の報告を聞き付け、他国の貴族が目をつけるほどの錬金術の技量に興味を覚え、可能ならばそれを利用しようと考えているのだった。
 彼ら長老の下に張り付いている虫型ゴーレムで、ヤロスラフが『ワシの孫のようだから、そ奴に言って魔道具なるものを造らせれば我らの利益になるであろう。』とほざいていた様子を知っているマルコだった。

「お断りします。
 錬金術師でもないあなたに私の能力を披露する必要などない。」

「このガキが。
 云わせておけば、調子に乗りおって。」

 怒鳴るようにそう云うと、いきなりヤロスラフは威圧をかけて来た。
 エルフの大きな魔力を目的とする対象に押し付けるように放つのがエルフの威圧だ。

 マルコの背後にいた妹たちはすくみ上っているし、母も若干おろおろしている。
 幸いにして、父と兄は不在だった。

 だが、生憎とそんなものには一向に動じないマルコだった。
 マルコは、ヤロスラフに上には上がいることを教えることにした。

 ヤロスラフの倍の威圧を返してやったのだった。
 当然に加減はしているのだが、ヤロスラフは威圧をまともに受けて、その場で腰を抜かした。

 もしかすると若干強すぎたかもしれない。
 どうやらヤロスラフは失禁までしたようだ。

「あなたにも力の差というものが分かったでしょう。
 もうお帰りいただけますか。
 これ以上、我が家の者に負担を強いるならば、血を分けた祖父と言えども容赦をしません。
 それを覚悟の上で以後の言動を慎まれよ。
 その際には、是非とも、上には上がいるということをお忘れなく。」

 震える声でヤロスラフが言った。

「お前は、お前は、いったい何者だ?」

「ブエンとイラリスの次男、マルコですよ。
 9年前に海賊にさらわれていくつもの大陸を渡り歩きました。
 そうして往復二十万里に及ぶ旅を終えて、この生まれ故郷に戻って来た12歳です。
 まことに遺憾ながら、あなたの孫でもある。」

「馬鹿な、ハーフエルフが斯様かように大きな魔力を持っているはずがない。」

「ご不審とあれば、もう一度お試ししましょうか?」

 それを聞いてヤロスラフはあわてて這いずるように逃げて行った。
 背後に居た母が言った。

「マルコ、父はあれでもハレニシアの長老の一人なのよ。
 長老に逆らっても良いことはない。
 力で潰されるわよ。」
 
「母様は、魔物が現れて家族の命が危うい場合に、何もせずに見過ごしますか?
 僕の知っていた母様ならば、命を懸けてでも家族を守るために抗うはずです。
 このハレニシアのエルフ至上主義は度を越しています。
 エルフである母様にでさえヒト族と結婚したことで冷たい仕打ちをしている。
 ましてヒト族である父様やハーフエルフである子供たちへの仕打ちは尋常ではありません。
 その元凶の一つが遺憾ながら祖父のヤロスラフです。
 母様は知っていますよね。
 父様が採って来た魚を市場では安値でしか買わないことを・・・。
 あれはヤロスラフが市場の幹部たちに裏から指示しているからです。
 アニカとミアも学校では陰で虐められていました。
 今は私が半強制的にいじめをなくしましたけれど・・・。
 兄グエンが幼い頃にどうだったのかわかりませんけれど、少なくとも兄が見習いに入っているカシュバル工房へも裏で色々小細工をしているのがヤロスラフを含めた長老たちです。
 カシュバル親方もそんな圧力に抗して頑張っていますけれど、いつまで頑張っていられるかは分かりません。
 どうも彼らはヒト族とハーフエルフを村から追い出したいようです。
 母様はこれに対してどうしたいですか?」

「マルコ、お前はよほど苦労をしてきたみたいだね。
 12歳は確かに成人ではあるけれど、とても12歳の子が言う言葉じゃない。
 そうね、・・・。
 この村では色々と生きにくいのは確かよね。
 でも、此処から離れてどこで暮らせばよいの?
 私も昔は冒険者としてこの近辺を歩いたわ。
 で、同じ冒険者仲間のブエンと知り合って、ここに居を構えた。
 子供を育てるには家が必要だからね。
 冒険者をやめて、私は主婦になった。
 グエンは、冒険者稼業が危険だからと漁師になった。
 ある意味、生まれてくる子供たちのために選んだ土地であり職業だったのだけれど・・・。
 それが間違いだったのかしら?」

「いいえ、多分その時点では間違いではなかったのだと思いますよ。
 但し、周囲が悪かった。
 僕は四つの大陸を渡り歩いてきましたけれど、世界には色々なところがあります。
 それこそ人族至上主義を唱えて他の種族を隷属化している地域もありますし、宗教国家が政治を牛耳っている国もあります。
 でもその中で人々は工夫をしながら生きています。
 ヤロスラフが唱えるように能力のある者が上をべるべきだと言うなら、いつでも僕が力づくで王様になれますよ。
 それだけの力があります。
 でも人の営みというものは、力がある者のやりたい放題で強制してはダメなんです。
 この問題は、家族全体の問題ですから、僕の一存で決めることはできません。
 必要とあれば、僕がハレニシアを牛耳ることができますからそれが一つの方法。
 但し、正直なところ力づくというのが嫌なので、この方法はあまりお勧めはしません。
 次は、何もせず、長老たちの言うがままを受け入れる。
 それが二つ目の方法ですが、その場合、僕はこのハレニシアから出て、ホレイシアに行きます。
 あそこはヒト族も交流できる比較的自由な土地柄のようですから。
 まぁそこもダメなら別天地に行きますけれどね。
 そうして家族全員でこのハレニシアを出て別のところで生活をすることが三つ目の方法。
 最後の方法が、色々やってハレニシアを変えてみること、これが四つ目でしょうか。
 他にも何か方策があるかも知れませんが、正直なところ現状維持は一番よくないと思っています。
 僕が心配するのは妹二人の将来です。
 父様や母様は辛抱もできるでしょうが、妹たちは下手をすると心が壊れます。
 今晩、その件で皆を交えて話をしませんか。
 妹たちの意見も大事です。
 友達と離れたりしたくないかもしれませんからね。」
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