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第四章 学院生活(中等部編)
4―24 領都セルデンにて その二
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ブルボン侯爵家の領都セルデンでの二日目、朝食後には、ヒルベルタ様にリジェネ・ヒールを掛けます。
昨日よりもさらに少しだけ症状は改善されたはずです。
その際に、ヒルベルタ様付きの治癒師クラジーナさんに、リジェネ・ヒールの魔法手法と人体構造のあらましを教えます。
無論のこと、リジェネ・ヒールを簡単に習得はできませんし、おそらく彼女の魔力量では再現が難しいでしょうから、長い時間をかけての修練が必要ですね。
でも、クラジーナさんには技術を得ようとする向上心と意欲が見えますから、私の滞在中は無理でも、いずれ遠からぬ時期にできるようになるでしょう。
セルデン二日目の今日は、宴会の予定はございません。
その代わりに、レイノルズ様に領主館の御案内をしていただき、庭や領主館の別棟である工房なども見学させていただきました。
一般的に貴族の館の敷地内には、いろいろな工房があるんです。
鍛冶工房、薬師工房など、主として騎士団を維持するために必要な工房が独自に運営されています。
勿論、セルデン市内にも市井の鍛冶師や薬師が店を持っていたりしますが、館内にある工房は侯爵家専従のもので、武器や傷病ポーションを専門に造っているようですね。
専従させているがゆえに一般の職人との交流が少なく余り進歩が認められないのが欠点で改良の余地もあるところですが、口を挟むとすれば嫁入りしてからにいたしましょう。
ところで、ブルボン家の領内では木材工芸が大変盛んであり、家具、調度品などが至るところで造られているようです。
マーガレット夫人も、寄木細工の品を趣味で作っておられるようで、夫人の許可を得て、そのアトリエを見学させていただきました。
色合いの異なる樹木の細片を組み合わせて、種々のデザインの品を造り上げる工芸なのですが、マーガレット夫人が目下挑戦しているのは飾り箱のようでとても素晴らしい仕上がりでした。
敢えて難を言うとすれば、木地をそのまま使っていることでしょうか。
綺麗な色合いの木地をつかって丁寧に仕上げていますので、そのままでも十分に価値はあるものと思いますが、仕上げにニスなどがあればもっと素晴らしい出来上がりになるし、耐久性も増すことでしょう。
可能であれば、セルデン滞在中に、ニス若しくはその代わりになるものを探すか、生み出して行きましょうか。
特に穀倉地帯としての地位が連作障害の所為で揺らぎかけている現状ですので、ブルボン家が今後ともある程度栄えていただかないと、私も将来の嫁入りが不安になります。
もう一つ、予定された見学コースには入っていなかったのですけれど、館の一部に瘴気が籠っているのを見つけてしまいましたので、敢えてレイノルズ様を誘導して、そこへ案内していただきました。
場所は、本館と続きになっているメイドや侍従などが住む宿舎棟の地下でございます。
さほど大きなものではないのですけれど、地脈に沿うように山地からの瘴気の流れが地下にあり、この棟の地下倉庫にその一部が漏れ出るように溜まるのです。
このために魔物に近い病害虫が発生しやすくなっておりました。
メイドや執事たちが懸命に害虫退治を試みているようですけれど、ある意味で非常に弱い魔物の一種ですけれど、瘴気があれば湧いて出て来るものですから、館の従者の力では追いつかないでいるのです。
そうしてこのことは、館の主人である侯爵ご夫妻等の耳には入っていないようでした。
少々扉を開けるのを躊躇っていた執事さんですが、嫡男の命には逆らえません。
その執事の手で倉庫の扉をあけると、ゴキちゃんやカマドウマに似たような小型の虫が床、壁、天井を問わず、かさかさと大量に這いずり回っていました。
こんなものが扉の外に出てはいけませんから、扉を開ける前に私(ヴィオラ)が入り口に結界を張っています。
室内を見て、レイノルズ様もさすがにあっと驚いていましたが、私(ヴィオラ)が即座に聖属性の浄化魔法を発動します。
大量の虫たちはあっという間に細かい霧状になって消滅しました。
病害虫は一応退治しましたけれど、地脈の流れがこのままだと、いずれまた瘴気が溜まりますよね。
ですから、地脈の流れを少し変えて、お屋敷の地下を通らないコースに変えました。
或いは魔力に敏感な者ならば、私が発動した地脈の流れを変える範囲魔法に気づいたかもしれませんが、放置しておくと館に住む従者たちの健康が損なわれますからね。
このまま放置はできません。
案の定、レイノルズ様が私に問いかけてきました。
「ヴィオラ嬢、貴女が何かをしてこの虫たちを消滅させたのですね?
それにその後も結構な範囲魔法が発動されたように思えましたけれど、あれは何でしょうか?」
レイノルズ様に感づかれては誤魔化すわけにも行きませんね。
「この地下倉庫は、地脈の通り道に少しかかっていたがために瘴気の溜まり場になっていました。
そのために、先ほど見たような害虫が湧き出る場所になってしまったようです。
おそらくは地脈の流れがいつの時点かで変化し、この地下倉庫をかすめるように流れ始めたのだと思います。
害虫を退治したのは浄化魔法にございます。
また、地脈をこのまま放置すると再び瘴気が貯まりますので、地脈の流れを少し変えて、館の施設から遠ざけるようにいたしました。」
「待ってくださいよ。
浄化魔法は聖職者が良く使うからヴィオラ殿が使えてもおかしくはないけれど、地脈を察知できるという能力は聞いたことが有りません。
しかもその流れをかえることができるなど・・・・・。」
「私は少しばかり毛色の変わった能力を持っているのですけれど、できるだけ対外的には秘密にしていただけますか?
外部に漏れると私自身の身が危うくなりかねません。」
「ん、あぁ・・・、そうだね。
このことはこの場に居合わせた者だけの秘密にしよう。
マイクル、くれぐれもこのことを言いふらしたりしないように。」
マイクルと呼ばれた執事がそれに答えます。
「かしこまりました。
ですが、この倉庫の害虫が消えたことをどう説明したものでしょうか?」
「そもそも虫が発生したことについても、これまで理由が分かっていなかったはずだな?
なれば急に虫が居なくなったのも理由が不明のままとしておきなさい。
神の御戯れとでもしておけば信じてくれるだろう。」
レイノルズ様はそう言いましたが、生憎とレイノルズ様と私(ヴィオラ)が地下倉庫を見に行った途端に虫が一掃されたわけですから、口さがないメイド嬢たちですぐにも推測からの噂が広がりました。
害虫が居なくなったのは、きっとレイノルズ様の許嫁であるヴィオラ様が何かをしてくれたのだと。
その話がすぐに屋敷の従者たちの間で広まっても、公然と私(ヴィオラ)や侯爵様ご一家の方々に言上する者は居りませんでした。
私(ヴィオラ)は、あちらこちらにスパイを配置していますから、それらの噂話を知っていますけれど、敢えて是正するまでのことは無いので放置しています。
ある意味で害虫が大量発生していたのはブルボン家の恥になりますし、それに対処できなかったメイドや執事の力量が疑われる事態です。
ですから、彼若しくは彼女達が、部外者にそのことを漏らす恐れは無かったのです。
その様な軽薄者は、そもそも侯爵家の従者になれません。
邸内を案内してもらうことでお屋敷での喫緊の問題も一応片付きましたが、このお屋敷では井戸は昔ながらのつるべ井戸なんです。
ロープと滑車と桶で地下水面から水を汲み上げるのですけれど、そもそもお屋敷が高台にあるので井戸が結構深いんですよね。
その深井戸から水を汲み上げるのは中々の重労働なのです。
ロデアルの我が家では、手押しポンプを使って汲み上げていますけれど、此処の深井戸では手押しポンプの利用が難しいかもしれません。
ロデアルで使っているのは、手動ピストン式の手押しポンプですが、この手押しポンプで汲み上げられるのは精々地下4尋から5尋ぐらいまでなんです。
それ以上の深さの井戸になると、手押しポンプでは無理ですね。
そうして、ブルボン家のお屋敷の井戸は深さが8尋(約13m)近くあるんです。
つるべ井戸なら汲み上げられますけれど、手押しポンプでは地表まで汲み上げられません。
井戸の周りを掘り下げて低い位置に手押しポンプを設置すれば汲み上げも可能ですけれど、こんどはそこから上に運び上げるのに、階段にしろ、坂道にしろ労力がかかり過ぎます。
どのみち今すぐにやらなければならないわけでは無いですけれど、これも嫁入りしたら改善することに致しましょう。
想定されるのは、多段式魔導ポンプの開発でしょうか。
設置場所は、地下の水面近くになりますけれど、多段式で吐出圧力を高めてやれば地表まで水を届けられます。
科学の代わりに魔法が発達したこの世界では、回転駆動モーターを使ったようなポンプはまだ開発されてはいません。
魔法で水を生成したり、魔法で水を持ち上げたりはできなくはないのですけれど、私のような化け物じみた魔力を保有していない限り、大量の水を生み出したり、大量の水を運んだりはできないんです。
水属性の魔法師を二十人も雇い、交代制で仕事をさせれば可能かもしれませんがかなりのブラック労働環境になるでしょうね。
何しろ魔力が枯渇するほど使役することになりますから。
どこの貴族でもそんな無茶はしていません。
ですからお風呂も温泉が無い限り、毎日沸かすことは無理なんです。
薪を大量に入手できれば風呂も毎日は入れますが一般的ではないという事です。
前世で安奈先生から中世のフランスの王様が生まれて初めて入ったお風呂で風邪を引き亡くなったという話を聞きました。
比較的文明の進んでいたはずの欧州でそんな感じですから、大量の湯を使うお風呂が当時としてはすごく大変なことだったという事が分かります。
そうそう、お屋敷を散歩中にお屋敷の一画で地下深くに温水の流れを見つけました。
およそ120尋ほども掘らなければなりませんけれど、これも私が嫁入りしてから考えましょうね。
今のところは浄化魔法のクリーンだけで衛生面は大丈夫ですけれど、お風呂でゆったりとする時間は精神的にも身体的な健康の維持の上でも大切ですよね。
丁度屋敷の敷地内に空き地がありますから湯殿を作りましょうか?
それとも源泉からお湯を館まで供給する方式なのかな?
いずれにせよ、検討する時間は十分にありますね。
夕食後、ヒルベルタ御婆様にリジェネ・ヒールを施して本日の仕事はお終いです。
翌三日目は領内見学の予定なのですよ。
昨日よりもさらに少しだけ症状は改善されたはずです。
その際に、ヒルベルタ様付きの治癒師クラジーナさんに、リジェネ・ヒールの魔法手法と人体構造のあらましを教えます。
無論のこと、リジェネ・ヒールを簡単に習得はできませんし、おそらく彼女の魔力量では再現が難しいでしょうから、長い時間をかけての修練が必要ですね。
でも、クラジーナさんには技術を得ようとする向上心と意欲が見えますから、私の滞在中は無理でも、いずれ遠からぬ時期にできるようになるでしょう。
セルデン二日目の今日は、宴会の予定はございません。
その代わりに、レイノルズ様に領主館の御案内をしていただき、庭や領主館の別棟である工房なども見学させていただきました。
一般的に貴族の館の敷地内には、いろいろな工房があるんです。
鍛冶工房、薬師工房など、主として騎士団を維持するために必要な工房が独自に運営されています。
勿論、セルデン市内にも市井の鍛冶師や薬師が店を持っていたりしますが、館内にある工房は侯爵家専従のもので、武器や傷病ポーションを専門に造っているようですね。
専従させているがゆえに一般の職人との交流が少なく余り進歩が認められないのが欠点で改良の余地もあるところですが、口を挟むとすれば嫁入りしてからにいたしましょう。
ところで、ブルボン家の領内では木材工芸が大変盛んであり、家具、調度品などが至るところで造られているようです。
マーガレット夫人も、寄木細工の品を趣味で作っておられるようで、夫人の許可を得て、そのアトリエを見学させていただきました。
色合いの異なる樹木の細片を組み合わせて、種々のデザインの品を造り上げる工芸なのですが、マーガレット夫人が目下挑戦しているのは飾り箱のようでとても素晴らしい仕上がりでした。
敢えて難を言うとすれば、木地をそのまま使っていることでしょうか。
綺麗な色合いの木地をつかって丁寧に仕上げていますので、そのままでも十分に価値はあるものと思いますが、仕上げにニスなどがあればもっと素晴らしい出来上がりになるし、耐久性も増すことでしょう。
可能であれば、セルデン滞在中に、ニス若しくはその代わりになるものを探すか、生み出して行きましょうか。
特に穀倉地帯としての地位が連作障害の所為で揺らぎかけている現状ですので、ブルボン家が今後ともある程度栄えていただかないと、私も将来の嫁入りが不安になります。
もう一つ、予定された見学コースには入っていなかったのですけれど、館の一部に瘴気が籠っているのを見つけてしまいましたので、敢えてレイノルズ様を誘導して、そこへ案内していただきました。
場所は、本館と続きになっているメイドや侍従などが住む宿舎棟の地下でございます。
さほど大きなものではないのですけれど、地脈に沿うように山地からの瘴気の流れが地下にあり、この棟の地下倉庫にその一部が漏れ出るように溜まるのです。
このために魔物に近い病害虫が発生しやすくなっておりました。
メイドや執事たちが懸命に害虫退治を試みているようですけれど、ある意味で非常に弱い魔物の一種ですけれど、瘴気があれば湧いて出て来るものですから、館の従者の力では追いつかないでいるのです。
そうしてこのことは、館の主人である侯爵ご夫妻等の耳には入っていないようでした。
少々扉を開けるのを躊躇っていた執事さんですが、嫡男の命には逆らえません。
その執事の手で倉庫の扉をあけると、ゴキちゃんやカマドウマに似たような小型の虫が床、壁、天井を問わず、かさかさと大量に這いずり回っていました。
こんなものが扉の外に出てはいけませんから、扉を開ける前に私(ヴィオラ)が入り口に結界を張っています。
室内を見て、レイノルズ様もさすがにあっと驚いていましたが、私(ヴィオラ)が即座に聖属性の浄化魔法を発動します。
大量の虫たちはあっという間に細かい霧状になって消滅しました。
病害虫は一応退治しましたけれど、地脈の流れがこのままだと、いずれまた瘴気が溜まりますよね。
ですから、地脈の流れを少し変えて、お屋敷の地下を通らないコースに変えました。
或いは魔力に敏感な者ならば、私が発動した地脈の流れを変える範囲魔法に気づいたかもしれませんが、放置しておくと館に住む従者たちの健康が損なわれますからね。
このまま放置はできません。
案の定、レイノルズ様が私に問いかけてきました。
「ヴィオラ嬢、貴女が何かをしてこの虫たちを消滅させたのですね?
それにその後も結構な範囲魔法が発動されたように思えましたけれど、あれは何でしょうか?」
レイノルズ様に感づかれては誤魔化すわけにも行きませんね。
「この地下倉庫は、地脈の通り道に少しかかっていたがために瘴気の溜まり場になっていました。
そのために、先ほど見たような害虫が湧き出る場所になってしまったようです。
おそらくは地脈の流れがいつの時点かで変化し、この地下倉庫をかすめるように流れ始めたのだと思います。
害虫を退治したのは浄化魔法にございます。
また、地脈をこのまま放置すると再び瘴気が貯まりますので、地脈の流れを少し変えて、館の施設から遠ざけるようにいたしました。」
「待ってくださいよ。
浄化魔法は聖職者が良く使うからヴィオラ殿が使えてもおかしくはないけれど、地脈を察知できるという能力は聞いたことが有りません。
しかもその流れをかえることができるなど・・・・・。」
「私は少しばかり毛色の変わった能力を持っているのですけれど、できるだけ対外的には秘密にしていただけますか?
外部に漏れると私自身の身が危うくなりかねません。」
「ん、あぁ・・・、そうだね。
このことはこの場に居合わせた者だけの秘密にしよう。
マイクル、くれぐれもこのことを言いふらしたりしないように。」
マイクルと呼ばれた執事がそれに答えます。
「かしこまりました。
ですが、この倉庫の害虫が消えたことをどう説明したものでしょうか?」
「そもそも虫が発生したことについても、これまで理由が分かっていなかったはずだな?
なれば急に虫が居なくなったのも理由が不明のままとしておきなさい。
神の御戯れとでもしておけば信じてくれるだろう。」
レイノルズ様はそう言いましたが、生憎とレイノルズ様と私(ヴィオラ)が地下倉庫を見に行った途端に虫が一掃されたわけですから、口さがないメイド嬢たちですぐにも推測からの噂が広がりました。
害虫が居なくなったのは、きっとレイノルズ様の許嫁であるヴィオラ様が何かをしてくれたのだと。
その話がすぐに屋敷の従者たちの間で広まっても、公然と私(ヴィオラ)や侯爵様ご一家の方々に言上する者は居りませんでした。
私(ヴィオラ)は、あちらこちらにスパイを配置していますから、それらの噂話を知っていますけれど、敢えて是正するまでのことは無いので放置しています。
ある意味で害虫が大量発生していたのはブルボン家の恥になりますし、それに対処できなかったメイドや執事の力量が疑われる事態です。
ですから、彼若しくは彼女達が、部外者にそのことを漏らす恐れは無かったのです。
その様な軽薄者は、そもそも侯爵家の従者になれません。
邸内を案内してもらうことでお屋敷での喫緊の問題も一応片付きましたが、このお屋敷では井戸は昔ながらのつるべ井戸なんです。
ロープと滑車と桶で地下水面から水を汲み上げるのですけれど、そもそもお屋敷が高台にあるので井戸が結構深いんですよね。
その深井戸から水を汲み上げるのは中々の重労働なのです。
ロデアルの我が家では、手押しポンプを使って汲み上げていますけれど、此処の深井戸では手押しポンプの利用が難しいかもしれません。
ロデアルで使っているのは、手動ピストン式の手押しポンプですが、この手押しポンプで汲み上げられるのは精々地下4尋から5尋ぐらいまでなんです。
それ以上の深さの井戸になると、手押しポンプでは無理ですね。
そうして、ブルボン家のお屋敷の井戸は深さが8尋(約13m)近くあるんです。
つるべ井戸なら汲み上げられますけれど、手押しポンプでは地表まで汲み上げられません。
井戸の周りを掘り下げて低い位置に手押しポンプを設置すれば汲み上げも可能ですけれど、こんどはそこから上に運び上げるのに、階段にしろ、坂道にしろ労力がかかり過ぎます。
どのみち今すぐにやらなければならないわけでは無いですけれど、これも嫁入りしたら改善することに致しましょう。
想定されるのは、多段式魔導ポンプの開発でしょうか。
設置場所は、地下の水面近くになりますけれど、多段式で吐出圧力を高めてやれば地表まで水を届けられます。
科学の代わりに魔法が発達したこの世界では、回転駆動モーターを使ったようなポンプはまだ開発されてはいません。
魔法で水を生成したり、魔法で水を持ち上げたりはできなくはないのですけれど、私のような化け物じみた魔力を保有していない限り、大量の水を生み出したり、大量の水を運んだりはできないんです。
水属性の魔法師を二十人も雇い、交代制で仕事をさせれば可能かもしれませんがかなりのブラック労働環境になるでしょうね。
何しろ魔力が枯渇するほど使役することになりますから。
どこの貴族でもそんな無茶はしていません。
ですからお風呂も温泉が無い限り、毎日沸かすことは無理なんです。
薪を大量に入手できれば風呂も毎日は入れますが一般的ではないという事です。
前世で安奈先生から中世のフランスの王様が生まれて初めて入ったお風呂で風邪を引き亡くなったという話を聞きました。
比較的文明の進んでいたはずの欧州でそんな感じですから、大量の湯を使うお風呂が当時としてはすごく大変なことだったという事が分かります。
そうそう、お屋敷を散歩中にお屋敷の一画で地下深くに温水の流れを見つけました。
およそ120尋ほども掘らなければなりませんけれど、これも私が嫁入りしてから考えましょうね。
今のところは浄化魔法のクリーンだけで衛生面は大丈夫ですけれど、お風呂でゆったりとする時間は精神的にも身体的な健康の維持の上でも大切ですよね。
丁度屋敷の敷地内に空き地がありますから湯殿を作りましょうか?
それとも源泉からお湯を館まで供給する方式なのかな?
いずれにせよ、検討する時間は十分にありますね。
夕食後、ヒルベルタ御婆様にリジェネ・ヒールを施して本日の仕事はお終いです。
翌三日目は領内見学の予定なのですよ。
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