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サクラ近衛将監

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第四章 学院生活(中等部編)

4―25 領都セルデンにて その三

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 ヴィオラでございます。
 婚約者であるレイノルズ様の生誕地ブルボン侯爵領の領都セルデンを訪問して、今日は三日目でございます。

 今日も最初の予定は、朝食後に御婆様であるヒルベルタ様にリジェネ・ヒールをかけ、その席でヒルベルタ様から色々と昔話をお聞きしました。
 レイノルズ様の幼き頃のお話やセルデンでの出来事などを教えていただきました。

 ヒルベルタ様も随分と血行が良くなり、肌艶が目に見えて良くなっています。
 ウーン、リジェネ・ヒールには少し若返りの効果があるのかも知れませんね。

 その後、治癒師クラジーナさんの訓練指導ですね。
 全部合わせて半時程度の時間を要しました。

 それから外出着に着替えて、お約束の領内視察ですが、本日は領都セルデン市街の巡回になります。
 ブルボン公爵家の馬車にレイノルズ様とご一緒に乗って、市内を巡回しつつ、領民の皆様に私(ヴィオラ)の顔見世をするのが一番の目的のようです。

 巡回し、実際に見学する場所も何カ所かございます。
 聖アンドレア教会に付属する救護院、ここは身寄りのない方々を収容し、庇護する目的で造られたもので、聖アンドレア教会が百年も前に独自に始めたそうですけれど、現在では公爵家からも金銭的な援助を受けている事業なのだそうです。

 そうして歴代の侯爵夫人及び次期侯爵夫人がその運営にも携わっているのだそうです。
 ですから、いずれブルボン家に嫁いだ際には、私(ヴィオラ)もこの救護院に大いに関わってきそうですね。

 もう一つは、セルデン市内に四カ所ある領内学校の見学です。
 ここはブルボン家の領民であれば誰もが入学できる学校です。

 王立学院の初等部の就学年齢である7歳から9歳にかけての児童に初歩的な教育を施す場所なんです。
 問題は、この教育に少々お金がかかることでしょうか。

 ブルボン侯爵家で支援金を拠出していますけれど、前世の日本のような義務教育化による無料とはなっていないんです。
 例えば給食費用や学用品費用など意外と領民への負担が多いために、一定以上の収入がある家庭じゃないと子供を就学できないんです。

 このため、実際に学校に来ている児童は、富裕層か中流家庭の子女が多い様です。
 セルデンでも王都と同じくスラム街があるのを私(ヴィオラ)は知っていますが、今回の巡回順路には組み込まれていません。

 ヤッパリ、恥部は見せたくないのでしょうかねぇ。
 もう一つの問題点は、上下水道の設備が余り整っていないことでしょうか。

 セルデンは、周囲を緑豊かな山地に囲まれていますから、水脈が豊富なんです。
 そのため、市内の数多くの場所に湧水を導いた泉の共同井戸があって、住民はそこで水を自由に汲むことができます。

 私(ヴィオラ)が乗った馬車がその近辺を通過する時にも見かけましたけれど、その泉のすぐそばで洗濯をしている女たちが沢山いました。
 一見すると上水の供給は問題が無いように見えますけれど、実はそこまでの水道にやや問題があります。

 鉄管等を使っていれば問題が発生しなかったのかも知れませんが、この泉には石若しくは木製のといが地中に埋められて使われています。
 おそらく、新設当時は何も問題が無かったかもしれませんが、現在では設備が古くなって、地中での漏水箇所があちらこちらで認められるんです。

 そうして泉の周辺で行われる洗濯後の汚水が地中に染み入って、漏水と混じりあっていることが問題なのです。
 一応、泉の圧力が優っていますから泉の湧水には汚水が入りにくいのですけれど、大量の雨が降った際には、地中の汚水や漏水の圧力が増して樋の中に紛れ込む恐れがあるのです。

 また、漏水により周辺の土砂が流れたりすると、地面の陥没も起きる可能性が御座います。
 今のところ大きな事故は無いようですけれど、舗装が為されると大きな穴ができるまで地表では気づかれにくいという面がありますから、要注意なんです。

 もう一つ、下水設備の不備ですね。
 セルデンの街は、ロデアルに比べると少し匂うんです。

 これは、排せつ物の対策が上手くいっていない証拠でしょうか?
 ロデアルでは、私の提唱により、数年をかけて上下水道設備を施し、下水処理場で排泄物等の処理をしていますけれど、ここではどうやら汲み取り式トイレがメインのようです。

 そう言えばマーガレット夫人がロデアルの屋敷内の清潔な水洗トイレに驚いていらっしゃっていましたけれど、このブルボン家のお屋敷にも水洗トイレはございますが、水を流しっぱなしのかわやであって、川の上に造ったトイレとさほど変わらない代物なのです。
 この後の処理がどうなっているかがちょっと問題なのですけれど・・・・。

 ブルボン家のメイドさんに教えてもらいましたが、町家では余程裕福な家でないとこの水洗トイレは普及していないとのことでした。
 これら下水の処理がどうなっているかによっては、住民の健康被害の問題もありそうですね。

 で、一般の庶民の家庭でのし尿処理はというと、所謂、ポットン式のトイレ若しくはおまるであって、定期的に汲み取りをしなければならないようです。
 業者の手により汲み取られたし尿は、郊外の畑で肥料として使われているようです。

 うーん、この様子では食事前の浄化がやっぱり欠かせませんね。
 私(ヴィオラ)は、少なくとも自分で食べる食事については、事前の浄化魔法を欠かしたことが有りません。

 主として感染症の予防対策なんですけれど、セルデンの場合、し尿を元にした肥料が原因の寄生虫対策も考えねばならないようです。
 ブルボン侯爵家で出される料理については、調理の段階で浄化魔法をかけているのかも知れませんけれど、領民への対策はどうなんでしょうね?

 現段階で私(ヴィオラ)が口を挟むことは、やはり難しいのですけれど、それとなくレイノルズ様に示唆だけはしておこうと思います。
 これとは別に、セルデン市街では大きな建物は少なく、領主館、教会、ギルドなどが三階建ての建造物で、後は軒並み二階建て以下の建物です。

 また、セルデン市街の目抜き通りは広く、石畳で整備されていますけれど、大きな通りを外れるとむき出しの地面が見えており、雨の時期には市街地の大部分で泥濘ぬかるみになるでしょうね。
 これも側溝等の下水設備を整備するとましになりますし、余裕があれば舗装をすべきでしょう。

 但し、大雨の際の下水が溢れることを防止するために、余裕を持って大きな下水溝が必要になりますね。
 因みにルテナの調査によれば、セルデン市街では、この50年間に二度ほど床上浸水程度の洪水が起きているようです。

 当該浸水個所は、所謂下町に当たる貧民街で、スラムもその一角にあるようです。
 巡回の途中で立ち寄ったレストランはセルデンでも有名なレストランで有り、ここで昼食を兼ねた休憩をさせて頂きました。

 因みに巡回中の私(ヴィオラ)は、ずっと笑顔を張り付けたままなんです。
 馬車の中に居ても、施設を巡回し或いは街中を歩いていても、ずっと注視されているんです。

 これほど周囲の者から注視されるのは本当に珍しいことなのですよ。
 見ている方は、次期侯爵のお嫁さんがどんな女性なのかと興味津々で眺めているわけですけれど、逆に言えば、これらの行為はアラ捜し的な側面もあり、それが嵩ずると私(ヴィオラ)の悪い噂が立ってしまいます。

 流石にそれは困りますので、人知れず周囲に弱いヒュプノをかけて、反感や忌避感を起こさせないよう対策をしちゃいました。
 ずるいって?

 いえ、これも嫁入り前の暗黙の闘いなんです。
 ブルボン家及びその領民に受け入れられなければ、嫁として負けですからね。

 婚約が決まった以上は、いかなる場合でも勝利を掴まねば、私(ヴィオラ)の将来が脅かされてしまいます。
 私(ヴィオラ)は、決して女帝になるつもりはありませんが、安穏あんのんとした生活を送るためには種々の努力をするつもりでいるのですよ。

 レストランでは、ゆっくりとレイノルズ様とお話をし、最初はぎこちなかったレイノルズ様も私(ヴィオラ)に対して次第に心を開いてくれているようでしたね。
 次いで、セルデンの工房が揃っている場所や各種ギルドを表敬訪問しました。

 それら予定の巡回が終わるとすぐに領主館に戻り、夜会の準備をしなければなりません。
 今日の巡回の際の衣装とは別な衣装に着替えなければならないんです。

 ある意味、無駄のような気もしますけれど、貴族としての見栄を張るには致し方ない慣行のようですね。
 その日の夕食会はセルデンの名士を招いての立食パーティなんです。

 この夜会が、ブルボン家嫡男の許嫁のお披露目会にもなるんです。
 これを済ませないと、今回のセルデン訪問の意義が半分ほども失われてしまいます。

 まぁ、これから嫁ぐまでは、一年に一度程度はセルデンにお邪魔することになるんですけれどね。
 数多くの、セルデンの名士にお会いし、その顔と名前を頑張って覚えました。

 これからどんなところで役立つかわかりませんから、しっかりと覚える一方で、ルテナにはお会いした人物の関連情報をまとめるようにお願いしています。
 中には注意すべき人物も居ますのでね。

 因みにヒルベルタ御婆様も数年ぶりに夜会に出席され、車椅子での登場でしたけれど、お元気な姿を名士たちにお見せしました。
 この夜会の後、再びヒルベルタ様にリジェネ・ヒールの処置を済ませましたよ。

 さてさて、今日の日程も無事に済ませましたね。
 明日は、セルデン市外の領地を見学することになります。

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