コンバット

サクラ近衛将監

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第四章 学院生活(中等部編)

4ー27 領都セルデンにて その五

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 ヴィオラでございます。
 ブルボン侯爵領における四日目の続きでございます。

 小麦の連作障害については、一応所期の目的を果たせました。
 遅くとも二月後には、ロデアルから指導員二人が派遣されることになると思われます。

 冬小麦の種付け前に、指導員が到着して、農地改良が始められのであれば良いのですけれどね。
 いずれにせよこの件はほとんど私の手を離れたも同然です。

 今夜にでもお父様にお手紙を書いておきましょう。
 次は、軽いピクニック風の昼食をはさんで、製材所を訪問し、次いで山林を拝見させていただく予定なんです。

 但し、山林の拝見ではちょっとコースを変えさせていただくつもりでございます。
 勿論、レイノルズ様にもお付きの方々にも事前に申し上げては居りません。

 何故なら、領主様には気づかれないように、内緒で山林を伐採している輩が暗躍しているのでございます。
 私(ヴィオラ)からおねだりをすれば、訪問コースの変更など、レイノルズ様は決していなとは言わないはずでございます。

 特に、小麦の連作障害の対処法について、私(ヴィオラ)から約束を取り付けた以上は、私(ヴィオラ)を大事にしなければならないと考えているはずですから、そこに付け込みます。
 あら、もしかして、私(ヴィオラ)って、悪い女なのでしょうか?

 殿方の好意を逆手にとって、陰で操る女?
 いえいえ、悪いことをするわけではありません。

 むしろブルボン家の為になることをするだけの話でございましょう?
 さて、予定された製材所に到着しました。

 久方ぶりのブルボン家嫡男の訪問とあって、製材所の皆さんは随分と緊張されているようですね。
 勿論、許嫁いいなずけである私(ヴィオラ)を伴っての見学であり、ある意味で領民へのお披露目であることは事前の通知で十分に承知しているはずでございます。

 ここでは製材所の責任者から、所内を見学しながら製材の流れについてお聞きするほか、付属の木工所を見学させていただく予定なのでございます。
 この製材所付属の木工所は、ブルボン家領内にある数多くの木工所の中でも一際ひときわ質が高い製品を生み出す木工所として有名なのだそうでございます。

 最初に木工所で造られている製品を拝見させていただき、次いで職人さんが実際に作業を行っている現場でその工程を見させていただきました。
 時折、私(ヴィオラ)が興味本位の質問をいたしますけれど、職工の皆さんは笑顔で答えてくれました。

 その中で大事な話は、塗料の話でございます。
 この木工所では、うるしを使っているようですけれど、ニスのような透明な塗料は無いようでございます。

 また、日本の伝統工芸にあるような螺鈿らでんの漆工芸はなされていないようです。
 漆を重ね塗りする前に、金銀等で飾り絵を描いたり、宝石や貝殻などを利用して模様を描けば、もちろん職人の技量に追うところが大きいのですけれど、高額で売れる商品が生まれる可能性が御座います。

 漆は重ね塗りをして厚く塗ることで木地を保護し、耐久性を持たせる効果が御座いますが、反面、木目の良さを消してしまいます。
 その点、ニスを使えば、木目の良さを引き出せるのでございます。

 長く使うものには漆を使い、見栄えを良くするためにはニスを使う等の仕分けをすることができると思います。
 特に漆工芸品は、手間がかかるのでどうしても高価になりがちですが、ニスなどの塗料はその手間を省いて安価な製品を提供できるはずでございます。

 要は住みわけの問題になるでしょうけれど、他の領地との差をつけた製品を生み出すためにはこれまで以上の工夫が必要でございます。
 お義母様のマーガレット様が趣味で造られている寄木細工も、ニスがあれば表面の保護と綺麗な仕上がりで木目の良さを引き立てるはずなのです。

 ロデアルでは、私が開発したニスを使って、家具などを作っている工房もあるんですよ。
 これは屋敷に戻って、ニスの件をお義母様にお話をいたしましょう。

 そうしてこの工房では、金銀を使った意匠や、小さな宝石や貝殻を用いた漆工芸品についてのアイデアを披露しておきました。
 実は、ロデアルでは漆が無いのです。

 植生が違う所為か、漆又はそれに類する樹木が無かったので、代用品としてニスを私が生み出したのです。
 漆を他の領地から移入することもできますけれど、やはり産地が別だと運送の費用が掛かるために、より高価になってしまうため、ロデアルでは漆職人そのものが居なかったのでございます。

 漆ってますものね。
 職人さんは、私(ヴィオラ)のアイデアを真剣に聞いてくれましたので、或いは近いうちに螺鈿工芸や蒔絵工芸がこの地で生まれるかも知れません。

 尤も、きれいに仕上げるための技法が色々必要ですから、少々時間はかかるかもしれません。
 私も職人さんにお願いして漆の原液を少し分けて頂きました。

 勿論対価は支払っておりますよ。
 予め持参した密閉容器に入れてもらいましたので、持ち運ぶことで私がかぶれる心配はありません。

 王都に戻ったなら地下工房で、螺鈿工芸や蒔絵工芸を試作してみるつもりなんです。
 もしうまく出来上がったなら、レイノルズ様を通じてこの木工所に参考までに披露させていただきましょう。

 そうすれば、見本を見ながらどのようにすれば良いのか、それぞれの職人でアイデアが生まれてくるのではないかと思います。
 さて、製材所と付属の木工所の見学を終えて、次は山林の伐採地の見学です。

 その山林の麓に行く途上で、私(ヴィオラ)が突然わがままを申し上げました。

「あら、そこに右へ入る道が御座いますね。
 レイノルズ様、私、何か霊感というか予感が湧きました。
 右の道を行かねばならぬと・・・。
 私の予感はよく当たるのです。
 差し支えなくば、山を見るにはどこでも差し支えないかと存じますので、できれば右の道を行って、その先を拝見させてはいただけませんでしょうか?」

「ン、それは・・・、私は構わぬが、予定されたコースを外れると周囲が迷惑をせぬだろうか?
 今回の市外地訪問は、随分と前から計画されて準備をしていたからのぅ。」

 でも、私(ヴィオラ)は粘ります。

「左様でございますか・・・。
 では、予定の時間を少し遅らせるのは如何でございましょう
 おそらく、半時もあれば道を引き返して元のコースに乗れましょう。
 私、どうしてもこの右の道の先を見たいのです。
 きっと今見なければ悔いが残ると思うのです。」

「ウム、左程にヴィオラ嬢が言うなれば、少し遅れる旨を先触れさせて、右の道を参ることにいたそうか。」

 はい、しっかりと殿方の意向を操ってしまいました。
 この先の山影を回ると、実は乱伐の跡が見えるんです。

 そうして四半時後、山の荒れ果てた斜面が目の前に現れました。
 そうして背後から馬を疾駆させて追いついてきた者が数名居りました。

 この乱伐の首謀者達のようですね。
 何とか進行を止めようと駆け付けて来たのでしょうけれど、遅かったですね。

 そこで、レイノルズ様が問いただしました。

「セブレス支配人、この山の状況はどうしたことかな?
 私の記憶では、この辺一帯の伐採届は出ていなかったと思うが・・・・。」

 ああ、なるほど責任者はセブレスと言うのですね。
 小太りの脂ぎったオジ様でございます。

「ハッ、いえ・・・・、あのう、そのう・・・・。
 或いは、事務方が届け出を出し忘れていたのやもしれません。
 事務所に戻りまして、精査をしてからご報告申し上げます。」

 まぁ、しらばくれていますね。
 でもここは私が口を挟むところではございません。

「今一つ、伐採はおそらく数年前のものであろう。
 にも拘らず、何故植林が行われて居らぬのじゃ。
 これでは土砂崩れが起きる恐れもあるぞ。
 既に伐採した後の木の根が枯れ果てておる。
 これでは山の斜面が持たぬであろう。」

 流石にレイノルズ様、一見して乱伐の危険性を察知しましたね。
 そうなんです。

 この地は斜面が急ですから、大雨が降れば、土砂崩れ若しくは山塊崩壊すら起きる可能性があります。
 おまけにこの斜面に接する谷合には小川が流れており、下流域の水源地でもあるようなのです。

 もし、この山が土砂崩れ等で川を堰き止めたなら、下流域では水不足に陥る可能性もありますし、堰き止められた水は適切な処置をしないといずれ洪水となって下流に押し寄せることもありますから、大きな災害が起きる可能性もありますよね。
 ですから、私(ヴィオラ)としては、どうしても事前にその危険を取り除いておきたかったのです。

 この後、目の前のセブレスなる支配人がどのように隠蔽いんぺいするか、或いはその罪を官憲が暴き立てるかについては、レイノルズ様にお任せです。
 実は、ここ以外にも領内6カ所の山が不法に伐採されていて、暴利をむさぼっている者が居るんです。

 レイノルズ様なら、きっとこの手の不法な伐採を洗い出してくれると信じていますよ。
 予定された見学コースは、これで中止になりました。

 その上で警護の騎士を引き連れたまま、森林管理の事務所に直行し、関係書類を一切合切調べ始めたのです。
 因みに、私(ヴィオラ)については、館に戻っているようにとレイノルズ様にお願いされ、メイドたちと共に数名の騎士を供にして、セルデンの侯爵邸へ戻ったのでございます。

 レイノルズ様が館に戻られたのは陽が落ちてからのことでございました。
 夕食後、侯爵様と何事か話し合っておられましたね。

 最終的には、お父様であるジャクソン侯爵様の判断になるのでしょう。
 その夕食後にはいつも通り、ヒルベルタ様の治癒行為を行い、また、今日の出来事をお話いたしました。

 山の乱伐の話をいたしますと、ヒルベルタ様は悲しそうな顔をされていましたね。
 領民に裏切られたという思いなのでしょう。

 私(ヴィオラ)からは、レイノルズ様がこの件の調査を率先して行われていますとのみ、お話いたしました。

「そうね、ジャクソンとレイノルズにお任せしましょうね。
 でも早めに手を打てることになったことは、とてもよいことです。
 これも貴女のお陰ですね。
 ありがとう。」

 ヒルベルタ様にお礼を言われてしまいました。
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