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サクラ近衛将監

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第四章 学院生活(中等部編)

4ー28 領都セルデンにて その六

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 ヴィオラなのです。
 ブルボン侯爵領における五日目でございます。

 残すところこちらに滞在するのは、正味今日と明日だけ、三日後にはセルデンを発って王都に戻ります。
 ブルボン家の問題については、未だ小麦の輪作対応についてロデアルの派遣農民の選定とか、荒らされた山林の復旧とかの問題は残っていますけれど、概ね方向付けはできたのじゃないかと思います。

 あと一つ気がかりなのは瘴気の問題でしょうか。
 ブルボン家領内に瘴気の溜まりやすい場所が有るのです。

 地元の猟師などからは、グルモア渓谷と呼ばれている山間やまあいの峡谷なのですが、過去に起きた山崩れか何かで峡谷の一部が閉塞され、大きな窪地状の地形が生じたことから、周辺の瘴気がこの峡谷に溜まりやすいのかも知れません。
 余りたくさんの瘴気が溜まると、普通の獣が魔物に変わりやすくなり、場合によりスタンピードを発生しやすくなるのです。

 ルテナによると、ここ百年の間にブルボン領では7回のスタンピードが発生しており、その内5回はこの峡谷近傍で発生しています。
 但し、峡谷そのものではなくって峡谷近傍というのがミソで、何か特殊な条件とか秘密があるのかも知れません。

 嫁入りする前にブルボン家が無くなってしまっては問題ですから、今夜にでも密かに調査に行こうと思っているのです。
 可能であれば災厄の未然防止ために瘴気の浄化も試みてみたいと思っているのです。

 それはともかく、この領地に来る前に気づいたものはこれだけだっはずですよね?
 新たな問題が出て来ないことを祈っています。

 ◇◇◇◇

 今日もいつものように朝食後にヒルベルタ様の御部屋にお邪魔し、治癒魔法で癒します。
 お付きの治癒師クラジーナさんも日頃の訓練で大分魔力量が増え、治癒能力が上がったみたいです。

 普通の場合、15歳以上の方では魔力の上昇は非常に難しいのですけれど、そこは私が補助することによって二割から三割程度はブーストアップできちゃうのです。
 クラジーナさんの場合、三日後の朝までブーストアップして、26%前後の魔力増加になるんじゃないかと思っています。

 これだけ上がっても万能ではないですけれど、努力次第で治癒師としては中級以上上級未満の能力を発揮できるのではないかと思います。
 後はご本人の努力次第でしょうか?

 さて、この後の予定ですが、本日は騎士団の見学が入っています。
 侯爵領の騎士団ですが、ロデアルの騎士団に比べると倍ほどの騎士を抱えています。

 領都セルデンにも騎士団の駐屯地はございますが、セルデンから馬車で半刻ほどのところに騎士団の城塞が有るのです。
 領都内の騎士団は、基本的に侯爵家の護衛と領都の治安維持がメインの仕事ですけれど、領都外に駐屯する騎士団の仕事は、領内全域の治安維持と隣接する他領との境界警備、若しくは山地を挟んで接する隣国との国境警備がメインの任務になります。

 今日の見学先は、その領都外に在る城塞の騎士団になります。
 一応次期領主の許嫁の顔見世と、閲兵による士気醸成が目的なのでしょうか?

 この世界で女性が先頭に立って兵士を指揮することは滅多にありませんが、それでも戦になれば、ロデアル領の『ヴェイツ・エルグラードの悲劇』のように女性も戦うのです。
 尤も、国境警備の職場である出先は、出城とも呼ばれるもので、本当に山中の奥深いところに設置されているために、とても遠来の客が足を運ぶような場所ではありません。

 概ね十日に一度部隊が派遣されて交代しているようですが、屈強の兵士が片道だけで三日ほどかかる場所にあるようです。
 その途上に三か所から四カ所の休息地(村ではありません)があるので、そこにキャンプして出城迄行くようですね。

 この出城勤務は四交代制とルテナに教えてもらいました。
 隣国が軍隊で侵攻して来たりすれば、戦になるかもしれませんが、セルデンからも隣国の領都からも国境は山地の遠隔地にあり、ロクに道路も整備されていませんから、この国境をめがけて進軍するのは至難の業ですね。

 しかもブルボン領で国境を接しているのはゼラート王国であり、ライヒベルゼン王国との関係は良好で有って、今のところ戦になるような懸案事項は無いのです。
 尤も、知られていない希少鉱物の鉱脈が国境付近に眠っていますので、将来的には紛争の火種になる可能性はございますね。

 今日もレイノルズ様と一緒に馬車に乗ってセルデン市外にお出かけです。
 馬車に揺られて半刻余り、領都セルデンと同様の高い城壁に守られた城塞に到着しました。

 城塞とは言いながら一つの街ですね。
 商人たちが居ますし、工房もあります。

 但し、主たる住人は騎士達将兵なんです。
 このヘンドリック城塞には、四千余りの騎士団が常駐していると馬車の中でレイノルズ様にお聞きしました。

 因みに、領都セルデンの騎士団本部にはブレリオン騎士団長以下約二千名が駐在しており、此処ヘンドリック城塞ではドミニクス副騎士団長が指揮を執っているようです。
 領軍魔法師も多数いるようですが、魔法師の主力部隊は領都に居るようです。

 魔法って戦争にも使えますけれど、実は左程の威力は無いようなのです。
 射程から言うと弓とどっこいどっこいで、威力は弓よりも上かも知れません。

 但し、連発が効かないみたい。
 弓矢の射程距離と同等の位置から攻撃魔法を放つと、精々二発止まりで魔力が枯渇するようで、それ以上は数時間待たねば撃てないんです。

 ですから砲弾の少ない大砲のようなもので、使いどころを考えないと役に立ちません。
 そのため何処の騎士団でも領軍魔法師との連携を重視して、頻繁ひんぱんに訓練を行っているようです。

 最初に訪れたのは騎士団の駐屯事務所です。
 そこで幹部の騎士達とご挨拶、それから城塞に隣接する練兵場で訓練を拝見させて頂きました。

 実際に戦闘と言う訳には行かないので騎士団の隊列運用の訓練と、魔法師の攻撃魔法の披露が主体です。
 本来であれば、中々見ごたえのある訓練なのでしょうけれど、正直に申しますと果たして大規模な戦闘に役立つのかどうかと私(ヴィオラ)は疑問を抱いています。

 だって、攻撃魔法がショボイんですもの。
 30尋ほど先の敵将兵と見立てた標的に対して攻撃をするのですけれど、仮に直撃を受けたとしても、動けなくなるものが精々4~5人程度のようなので、威力が少なすぎます。

 それも連発では二発迄。
 仮に20人の魔法師が居て効率よく魔法を放ったとしても、それで倒せるのは十倍の200人まででしょうか?

 おまけに相手が魔法障壁を張っている場合は、被害は軽微なものになってしまいます。
 ヤッパリ、戦で使う魔法は大規模魔法で、少なくとも一個師団程度に大損害を与えるぐらいの威力が無いといけないと思うのですけれど、私(ヴィオラ)の高望みなのでしょうか>

 騎士団自体の武力については高い練度を持っていると思いますけれど、逆に敵方に大魔法が使える者が居たりすると危ういですね。
 ルテナ曰く、私(ヴィオラ)みたいな化け物魔法師はそうそう居ないそうですけれど・・・・・。

 いずれにせよ、騎士団の隊舎の食堂で昼食を皆さんと一緒にいただき、若手の騎士と云うか兵士と云うか、色々お話を伺いました。
 流石に領主嫡男とその許嫁に対する口調は丁寧ですけれど、婉曲的にせよ訓練の厳しさを訴える人が居たり、縁の下の力持ち的な仕事に若干不満を抱いている人も居たりするようで、何だかうっぷんが溜まっているようです。

 今すぐ対応が必要と言う訳ではないのでしょうけれど、溜まったストレスを発散する場所や機会が必要なのかもしれません。
 特に、このヘンドリック城塞には若い女性が少ないですからね。

 そうしたことも原因の一つかもしれません。
 一応遊郭なんかもこの城塞にはあるようなんですけれど、あちらは殿方が遊ぶところであって、嫁取を最終目標ととする男女交際が期待できるような場所ではありません。

 ある意味で僻地に追いやられた兵士の吹き溜まり的な捉え方をしているのかも知れませんね。
 人によっては、40日に一度ある国境警備の任務などは、何の面白みも無いようです。

 ある意味で、平和過ぎるのでしょうかねぇ。
 これが戦になったり、魔物対応で忙しくなったりすると、そんなことを考えている暇も余裕もなくなるはずなんですけれど・・・・。

 騎士団の兵士が暇なときにすること、つまり余暇の過ごし方で提言できるものを今度考えておきましょう。
 少し曖昧な一つの宿題を得て、今日の見学は終わりました。

 ブルボン家のお屋敷に戻り、いつものように夕食後にヒルベルタ様の治癒をして、就寝ですが、皆が寝静まってからベッドに分身を置いて私はお出かけです。
 問題のグルモア渓谷は、セルデンの東部にある山間部にあるのです。

 元々危険な野獣や魔物の多いところなので、慣れた猟師とか冒険者以外は立ち入りません。
 近辺には集落もありませんしね。

 私のセンサーとルテナの案内があれば、暗闇の中でもグルモア渓谷に行くのは簡単なことです。
 一旦邸の上空に転移し、認識疎外をかけたまま飛翔魔法でそのまま東方に向けて飛び、わずかの間に、グルモア渓谷上空に達しました。

 センサーで確認する限り、結構な数の魔物が下で蠢いていますね。
 今のところ超大型の魔物の出現は認められませんが、そこそこ高位の冒険者を悩ませるような個体も数十体は存在するようです。

 さて、魔物を放置するかどうかですけれど、私がここで殲滅すると冒険者たち御稼ぎを奪ってしまうことになりますから、それは避けた方が良さそうです。
 但し、溜まった瘴気の浄化だけはしておきましょうか。

 その前に、何故にこの渓谷ではなくその近辺にスタンピードが発生するのか、その原因を調べなくてはいけません。
 で、この渓谷を中心に、半径一里(5リーグ)の距離内にある地域を詳細に調べて行きました。

 すると、渓谷自体にいくつかの亀裂があって、それが四方八方に広がっているようなのです。

 その先に比較的なだらかな窪地があり、そこが瘴気のたまり場になることもあるようなのです。
 あるいは、この渓谷で発生する魔物と当該窪地に派生する魔物が双方で引きあってスタンピードが発生するのかも知れません。

 これまでのスタンピード発生を確認できた概略の位置をルテナに調べてもらったところ、概ねグルモア渓谷と周辺の瘴気が溜まりやすい窪地の延長線上にあるようです。
 従って、スタンピードを防止するには定期的に瘴気の除去若しくは浄化を図る必要がありそうです。

 峡谷を塞いでいる土砂を取り除いても多分根本的な解決にはなりません。
 峡谷の下流域になる地域に瘴気が流れ込み、集落や農地に大きな影響を与えることになりかねませんからね。

 この世界はいずれにしろ微妙なバランスの上に成り立っているようで、火山など自然災害の代わりに魔物があふれるような災厄が起きるみたいな気がします。
 それにしても、セルデンのお屋敷の地下に溜まった瘴気と言い、ブルボン侯爵領の地脈の流れと云うか瘴気の溜まり場は、山地ゆえの特性なのかセルデン東側の山地に特に多い様な気がします。

 いずれにしろ、当座の調査は終わりましたので、グルモア峡谷及びその周辺にある窪地の瘴気を個別に範囲指定で浄化させて、今夜の秘密行動は終了です。
 後はお屋敷に転移で戻って就寝ですね。

 おやすみなさい。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 
 新作の投稿を始めました。
 「転生したら幽閉王子でした~これどうすんの」
   https://www.alphapolis.co.jp/novel/792488792/24979442
 よろしければご一読ください。

  By サクラ近衛将監
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