親王様は元大魔法師~明治の宮様に転生した男の物語~戦は避けられるのか?

サクラ近衛将監

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第三章 新たなる展開

3-1 米国留学の前哨戦

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 私は、ウッドロウ・ウィルソン第28代アメリカ合衆国大統領の特別補佐官(国際問題担当)を務めるメイスミス・ブラッドレイである。
 先日、在米日本大使館から正式文書を以て、Royal Familyの一員であるImperial Highness Prince Hiroyoshiをハーバード大学に留学させたい旨の要望が出された。
 期間は、1915年9月から1917年9月までの二年間である。

 Prince Hiroyoshiは、1897年12月生まれであり、日本では独特な数え方で19歳とするらしいが、米国流ならば1915年4月現在で彼は17歳と4か月余りに過ぎない。
 まぁ、この年齢以下でも大学に入る者はいるので左程珍しいことではないのだが、彼は日本のRoyal FamilyやNobleの子弟が入る特別なHighschoolを卒業したばかりのようだ。

 留学生として受け入れることに左程の支障はないのだが、果たしてアジアの途上国である日本の子弟がハーバードでの高度な授業について行けるのかどうか大いに疑問ではある。
 さりとて放置はできず、ウィリアム・ブライアン国務長官からの指示を受けて、私がハーバードのソロン学長に相談をしてみた。

 学長も返答にしばし詰まったようであるが、返ってきた答えは意外なモノだった。

「彼がRoyal Familyであろうとなかろうと、大学に入学を志す者ならば試験を受けていただかねばなりません。
 これまで日本からの留学生を受け入れたことはありませんが、その結果を見て判断します。
 結果が芳しくない場合は留学生ではなく聴講生として処遇します。
 なお、留学生・聴講生いずれの場合でも日本語通訳の手配等の便宜は図りませんし、Royal Familyとしての特別扱いも致しませんので、その点を確実に向こうにお知らせください。
 その上で彼が留学を希望する学科を当方にお知らせください。
 こちらで担当教授を決め、こちらに到着次第、筆記試験と口述試験を実施できるよう計画します。」

 ある意味で高圧的ともとれる回答であるが、若干ニュアンスを抑えて日本大使館に伝えると二日後には返答が返ってきた。
 異例の早さとも言えるので或いはこちらからの回答を予想していたのかも知れない。

『入学前の試験実施について了解し、成績が悪ければ留学生若しくは聴講生の資格なしと判断して米国滞在を拒否して差し支えない。
 当人は英語に堪能で米国での生活、授業について支障はないと考えられる。
 Royal Familyとしての特別待遇は不要であり、米国の学生と同様に扱っていただいて一向に差し支えない。
 しかしながら、一方で、Royal Familyとしての対面もあるので、可能ならば侍従2名とメイド2名及び警護官2名の同行滞在を許可願いたい。
 このために同行者の同居がどうしても必要となるので、滞在中の居住先は、ハーバード大学の周辺に適当な中古家屋があれば賃貸若しくは買い取りが可能か否か検討をお願いする。
 多少老朽化していても差し支えないが、必要な改装を行うことが許される家屋を特に希望する。』

 この結果をソロン学長に電話で伝えると、彼は苦笑いしながら言った。

「まぁ、本音で言うと、如何に成績が悪くても、さすがにこちらから拒否はできませんね。
 学業について行けなければ向こうが諦めるでしょう。
 問題児を受け入れる覚悟をしておきます。
 それと、住居について、滞在先がどんな家でも構わないと言うならば、大学で斡旋している民間ドミトリーの一つ『マーサおばさんの家(House of Aunt Martha)』が、家主でもあるMrs. Marthaの健康が優れず、この6月で登録を取り消し、現在の寮生も別の寮に転居することになっています。
 Mrs. Marthaは、娘のいるプリマスに転居するので家を売却することを考えているようです。
 『マーサおばさんの家』は、ケンブリッジのDana St.に面した立地ですので医学部を除いて通学には便利なところです。
 家屋自体はMrs. Marthaの年齢のほぼ倍で建造から130年ほど経っていますが、老朽は目立っていても相応の手入れをすれば2年やそこらは十分使える代物と思います。
 寝室数は12室、広い庭もありますので7人程度で住むなら十分かと思います。
 必要に応じてゲストも迎え入れられるはずです。
 本来ならば、新入生は学生生活に慣れてもらうために学内寮での生活が義務付けられているのですが、まぁ、今回だけは特別扱いしてもよろしいでしょう。
 学内生活をサポートする者だけは決める必要はあるのですけれど・・・。
 その辺は、こちらにお任せください。」

 ソロン学長には一応別の家屋の調査も依頼しつつ、在米日本大使館に連絡すると、日本大使館からは三日後に返事がやってきた。

<Mrs. Marthaのドミトリーを可能であれば適正価格で購入したい。
 仮に米国法制上日本人の不動産購入が許されない場合は、国務省が代理人として購入して頂きたい。経費はPrince Hiroyoshiが負担する。
 可能ならば7月初旬に大工等4名が現地に赴き、必要な改装工事を鋭意進めたい。
 試験成績が芳しくなく入学を拒否された場合は、当該家屋は米国政府に委ね、買収等の必要経費の返還は求めない。
 なお、9月半ばからの留学又は聴講に備え、Prince Hiroyoshiは、当年8月半ばに貨客船ASUKA MARUにて日本を出立、ハワイ諸島オアフ島のホノルルに寄港、パナマ運河経由で大西洋に入って米国東岸ボストン港に9月4日頃に入港予定であるので、試験日程については9月7日以降に計画されたし。
 また、試験日、会場等決まればスケジュールをお知らせ願いたい。」

 この知らせによれば、風土病が流行して工事が遅れていたもののこの4月にようやく開通したばかりのパナマ運河を経由して、ボストンに来るつもりらしい。
 測ってみると日本の首都東京からはハワイ経由だと凡そ1万海里を超えることになる。

 仮に8月の18日に日本を出港して日付変更線を超えるにしても、9月4日に到着するためには18日間程で踏破しなければならない。
 ハワイに一泊すればさらに猶予は短くなるし、パナマ運河を高速で突っ走ることなどできない。
パナマ運河の混雑状況にもよるが太平洋側のバルボアから大西洋側のコロンまで通常24時間を要するので、単なる距離だけでハワイでの停泊、パナマ運河での遅延を考えれば実質16日程度で1万海里を踏破しなければならないだろう。
 この場合、単純計算で、1日に625海里程度、平均速力は毎時26ノットを超えることになる。

 当代、大西洋航路の高速客船では確か英国籍のルシタニア号とモーリタニア号で航海速力26ノットを誇る快速(最大速力26.7ノット)が有名だが、正直なところ、日本にルシタニア号やモーリタニア号に匹敵するような船を建造する能力が果たしてあるのだろうかと疑問にもなる。

 早速に部下に種々の手配の指示をするとともに、在日米国大使館にPrince Hiroyoshiの個人情報及び明日香丸の情報入手を指示したところである。
 その結果、付随した様々な情報が新たに見つかり、正直なところ大統領府を慌てさせた。

 詳細は不明なのだが、Prince Hiroyoshiは米国でも情報収集が懸案になっている日本製電気自動車「IDATEN」の製造会社ASUAK DENKI SEISAKUSHO、それに新型高性能旋盤のメーカーASUKA SEIKIの実質的支配者であるらしいとの情報が上がってきたのである。

 更に前年6月には日本が樺太で新たな油田の開発に着手したとの情報があった。
 樺太北部に石油の露頭があることは既に知られていたが、今回開発を始めたのはどうも違う場所の様である。

 樺太北部東岸付近海上に巨大な海上構築物を設置し、海底の油田を採掘しているようだとの情報が流れたのである。
 これに関して今のところ日本政府からの公式発表はないが、関連して1914年7月には日本が領海12海里を宣言し、日本の開港以外の領海海域に入域するのは緊急事態以外認められないと発表したことが国際的な話題になっている。

 無論国務省にも在日米国大使を通じて正式な通告が届いている。
 これまでは陸上から砲弾の到達する距離であった3海里を概ね領海又は制限海域としている例が多く、稀に4海里、6海里、12海里を慣習的に主張していた国もある。

 そうした中で領海の範囲を国内法で明確に規定し、12海里まで拡大した国は無かったのである。
 在日大使からの報告によれば、対馬海峡及び津軽海峡など一部の枢要国際海峡では外国艦船の無害通航について通峡水域を決めて認めるとの斬新な考え方も導入されていた。

 日本領海内での法令適用は日本の国内法が適用されるため、漁業などの操業は認められないが全ての領海内での外国船の活動を認めないという訳ではなく、きちんと法理論を展開して無害通航を認めるとした法制度は見事なものである。
 領海に関する法律としながら、特に公海上に設置した海洋構築物の周囲に3海里以上の安全水域を設け、同水域内では一定の範囲で国内法を適用するほか諸外国の軍事行動を制限するとした条項があり、国務省筋では、樺太の海上構築物の保護を狙ったものであろうとの見方が大勢である。

 領海の話は別として、樺太の原油掘削に関与しているのは「ASUKA SEKIYU」(ASUKA PETROLEUMか?)であるらしく、例によってImperial Highness Prince Hiroyasu Fujinoが発起人となり、Prince Hiroyoshiの名も垣間見える会社である。
 先の二つの会社の実質的リーダーがPrince Hiroyoshiならば、この樺太油田開発もまた彼が主導している蓋然性が高くなるのである。

 他にも造船所など8つほどの企業がImperial Highness Prince Hiroyasu Fujinoに絡む会社と見られていることから、そのすべてがPrince Hiroyoshiの実質的支配にある可能性も捨て切れない。
 同じく同時期に在日大使館から入った情報では、日本船ASUKA MARUは沼津にあるASUKA造船所で1911年に建造された貨客船であり、オーナーはASUKA KAIUNなる企業であるが、当該企業の実質的な所有者はPrince Hiroyoshiであることが判明したのである。

 残念ながら船の要目については全長182m、幅23.4m、深さ13.5m、総トン数21,274トンのセンターブリッジ型の貨客船で、最大旅客定員数130名、最大乗組員数88名、最大貨物搭載量12,000トン、航海速力15ノット以上と言うことがわかっているだけで詳細は不明であった。
 船舶の詳細について公表していないのはどうも日本政府の意向であるようだ。
 在日大使館筋の情報としてRoyal Familyが関する情報については関係者の口は一様に重いということらしく情報収集には困難を極めているようだ。

 なお、沼津にあるASUKA造船所では7千トンクラスの大型海防艦(Ocean Patrol Vessel)を建造し、年に二隻ほど海軍に収めているようだが、5インチクラス単装砲一門、特殊な形状の機銃二基以外に兵装は見られず、納入価格も現状で100万ドル(円ドル相場で1ドルは2円程度)以下と非常に安く、乗員も50名程度と戦闘艦としては主要戦力外の艦船と見られている。
 米国の戦艦では、ニューヨーク級戦艦の二番艦テキサスが、非装甲、非武装の建造入札価格でさえ683万ドルだったことからみると、その6分の一の価格はいかにも安すぎるし、そもそも船体の大きさに比べて排水トン数が如何にも少なすぎるのである。

 これまでのところ入出港の際に認められる船速は12ノット内外と鈍足であり、米海軍でもこの大型海防艦が戦闘において脅威になるものとは考えていないようだ。
 日本の場合周囲を海に囲まれており、新たに定めた領海線をパトロールするためには、陸上から見えない沖合を頻繁に巡回するする必要があり、大型船が必要なのだろうという一応の推測がなされている。

 現在までに同海防艦は8隻が建造され、OTARU、TATEYAMA、KUSIMOTO、KAGOSIMAの四港に二隻ずつ配備され、概ね10日の交代制で外洋哨戒の任務に就いているようだ。
 配備港はいずれも専用軍港ではなく、特にKUSIMOTOなどは、7000トンクラスの船が岸壁に係留することもできない極めて小さな港であるようだ。
 また、これらの港で開港されているのは、OTARUとKAGOSIMAの二港だけであり、我が国の軍港などから見るといずれも規模の小さな港である。

 当該海防艦の艦長は大尉から昇任したばかりの若手少佐であり、他の戦闘艦と比べ明らかに階級が低く、戦列外戦力と判断されている。
 因みに、日本海軍の主力艦は横須賀、呉、舞鶴、長崎の工廠において建造中の模様であるが、経費不足なのか工事の進捗はかなり遅いとの情報が入っている。

 欧州方面では、昨年8月にドイツがロシアを皮切りに周辺国に対して次々と宣戦布告を行い、この一年で徐々に戦線が拡大しながらも、ここにきて欧州戦線は膠着状態にあって戦況は予断を許さない。
 米国西岸に上陸して大陸横断鉄道によりボストンに至る道もあるのにもかかわらず、こうした政情不安な折に北米東海岸まで本当に渡航するのかどうかについて在日米国大使館を通じて意向確認を行うも、当面予定に変更なしとの返答を貰っただけである。

 何れにしろ、細かい日程も決まり、Mrs. Martha所有の家屋は取り敢えず国務省が代理人となって五千ドルで買い取ることになり、ニューヨークに支社のある日本商社を間に挟んで現金の授受がなされることになった。
 Mrs. Marthaは6月一杯で転居し、7月中旬には日本人大工等4人が現地に辿り着いて、敷地内にテントを張って改装工事を始めているようだ。

 日本のPrinceを受け入れる準備はほぼ整ったが、大規模な油田を掘り当てたASUKA SEKIYUなどの情報を含め、当初考えていた以上にこの人物は大物と考えねばならないようだ。

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