親王様は元大魔法師~明治の宮様に転生した男の物語~戦は避けられるのか?

サクラ近衛将監

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第四章 戦に負けないために

4-5 訓示

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 5分後、基地長他数名の職員が入ってきた。
 濱口一尉も一緒でした。

 高木あずさの号令一過、全員がビシッと動いた。
 少将相当の階級をつけた基地長が挨拶を行いました。

「私が当基地の責任者原田幸三である。
 皆、短い時間にも関わらずよく基本動作が出来ている。
 多分、濱口一尉の薫陶くんとう賜物たまものだろうが、それでも諸君の今後に期待が持てる成果の一つである。
 言うまでもないだろうが、君達は紅兵団の隊員候補生として採用され、当基地で少なくとも1年間以上の訓練・研修を経て、正規の隊員となるわけだが、必ずしも全員が隊員になれるとは限らない。
 隊員として不適格な者は、採用を取り消される事になる。
 その場合でも、あなた方の将来は総帥のご配慮により、ある意味安定した生活が約束される事になっているから心配はするな。
 だが、諸君はそれに甘えることなく正規隊員を目指して励んで欲しい。
 国際情勢は極めて流動的であり、予断を許さないものであるが、それでもこのまま推移すれば我が帝国の存亡に関わる事態になる恐れは多分にある。
 この場で政治に関わる発言をすることは好ましくは無いかもしれないが、このくれない兵団総帥である宏禎王ひろよしおう殿下のご尽力により、帝国は世界恐慌から守られ、食糧自給率も実質的には百%を超えており、国民を飢えさせることのない状況ができている。
 また、懸念のあった軍部独走による領土拡大政策は既に破棄され、東ロシア共和国、満州帝国及びタイ王国との密接なつながりにより周辺地域との連携による一応の集団安全保障体制が整った。
 中華民国との通商・外交も支障がなく、これにより大陸からの脅威は減少したが、欧米列強の植民地化政策は依然として根強い。
 本来、南北米大陸以外に干渉しないと言うモンロー主義にもかかわらず、米国政府はフィリピンの信託統治を植民地化へ持って行こうとする兆候が見られる。
 また、英国、フランスなどは依然として東南アジアの広範囲に植民地を経営しており、更にその範囲を拡大しようとする動きさえある。
 いずれ中華民国の領域や関連問題を火縄として、帝国の領域である台湾、朝鮮等の領域にまで浸蝕してくることは間違いないだろう。
 一方帝国陸海軍は、宏禎王殿下の御配慮により欧米列強には秘密のままで強大な戦力を備えさせている。
 恐らくは現時点で欧米列強の個々の国が帝国に挑んで来ても、当面それを跳ね返せるだけの軍事力を有している。
 だが、残念ながら国力としては帝国の現状は未だ十分ではない。
 基礎的な工業基盤の整備がようやく終わり、これから順次生産力を上げてゆく段階にあり、こと総合的な工業生産力で見る限り現状で英国と同等かやや上、米国の三分の一程度と試算されている。
 但し、この辺の情報は、政府部内でも機密事項として扱われており、一切外部には公表されていないからそのつもりでいるように。
 万が一にでも外部に漏らすようなことが有れば軍人勅令に基づき銃殺刑に処されることになる。
 仮に宏禎王殿下の長年のご尽力なかりせば、帝国の工業生産力は米国の五十分の一程度にしかならなかったはず。
 しこうして、このような帝国の基礎力は表面的には見えない形で秘匿されている。
 仮に違う歴史を進んでいたならば、政治家や軍部の無策の結果として、いずれ国民に対して大変な窮乏生活を強いる事となったであろう。
 只でさえ、生産能力の低い我が帝国は、資源のほとんど全てを外国に頼り、なおかつ明治以来の人口の急増に伴い食料すら満足に自給できない状況にあったはずだ。
 また、懸念されていた中国大陸への軍部進出と中国軍との紛争拡大も幸いにして未然に防がれている。
 これは政府部内でも限られた者しか知らないが、満州帝国の設立は総帥の陰ながらの支援によるところが大きいし、東ロシア共和国の支援についても総帥の影響力が強く及んでいるのであり、従来懸念されていたロシア、いや、今はソ連であるが、その南進も直接的には心配する必要が無くなっている。
 仮に東ロシア共和国や満州帝国の存在なかりせば、帝国は百万を超える陸軍将兵を大陸に派遣してソ連の南下政策に対峙する必要が生じたであろう。
 その場合、働き盛りの男手を取られて国内の各種産業の生産力が高められるはずも無く、悪循環を繰り返して農業生産も減少し、国内経済は破綻していたであろうことは火を見るよりも明らかだ。
 これらは、既に然るべき研究所で分析された結果であるが、今のところ世間に公表はされていない。
 些細な話ではあるが、諸君は先ほど食べた昼食の弁当に疑問を持ったかもしれない。
 このような贅沢をしてよいのかどうか?
 あるいは、食べきれず残してしまった大事な食料をこのまま捨てていいのかどうか?
 幾ばくかの罪悪感すらあったかもしれない。
 しかしながらそれが通常の人としての反応であるから、安心して宜しい。
 だが、当兵団は、国民全員に先ほどの弁当を無料でしかも永続的に支給できるほどの財政も能力も持ち合わせていない。
 誠に遺憾ながら、北海道と東北にある地下農場は十分な成果を上げているものの、諸外国に帝国の国力を知られないために故意に生産量を抑えている状況にあり、国民の見せかけの窮乏生活は今しばらく続く事になるだろう。
 諸君の当部隊での目的は、我が帝国国民の盾となるべく努力する事である。
 総帥が政財界と産業界において最大限の尽力をされているが、残念ながら来たるべき欧米列強との戦は避けられない可能性もある。
 主としてアジアの台頭を望まない白人優先主義思想にかぶれた欧米指導者の思惑が原因であるが、彼らはアジア地域経済の独占支配を狙っている。
 そこに立ち塞がる我が帝国の繁栄は、まさしく目の上のたん瘤なのである。
 自国利益のためには何の躊躇もなく外国に無理難題を押し付けるのが欧米流の政治家の思想である。
 アヘン戦争然り、香港の割譲然り、三国干渉然り、パナマ運河の国有化然り、他国への迷惑など歯牙にもかけないのがある意味彼らの信条なのだ。
 いずれ、欧米列強との紛争が起きた際、仮にこの紅兵団なかりせば、いずれ我が国は欧米列強に蹂躙され、国民は塗炭の苦しみを味わう事になる恐れも多分にある。
 紅兵団の創設は、そうした予想結果を覆すために計画された。
 紅兵団は、陸海軍の予備軍であり、後方支援部隊というのが表向きの役割だが、事実は、先進の武器を与えられたにしても継戦能力や指揮能力の低い陸海軍に成り代わって、最前線で敵を撃つ役割を負ってもらうかもしれない秘密戦隊である。
 総帥の先見の明により、陸軍及び海軍には既に相応の先進武器が与えられているし、実際にかなりの戦力を有しているのは事実なのだが、米国及びソ連のような超大国に対抗する事は一時的には可能でも、永続的には難しい局面に陥る恐れがある。
 陸軍の機甲部隊、海軍の空母部隊、及び陸海軍の空軍戦力は現状で世界一の性能を有しているが、実際問題として数の上で不足しているのである。
 これは軍部が良からぬ動きをしないように、敢えて能力を制限するという意味合いと、強大な戦力を保有していると列強諸国にみられないようにしている対外的な擬態ではあるが、局地戦や短期戦ならばともかく、実際に戦争になれば物量で押し込まれ、高性能の兵器も数を揃えねば勝利をつかむことは難しいであろうと予測されている。
 このままの兵力で米国と対峙した場合、最短では2年で米国の物量作戦に負けて、海軍は力を失う可能性もある。
 ソ連と対峙した場合は、動員数の差で同じく2年以内に大陸の足場を完全に失う恐れもあるだろう。
 それでも愚かな軍人や一部の政治家は、結果を考えずにメンツのみで戦いを挑む事になるやもしれない。
 そうならぬよう、総帥が種々の方策を講じてはおられるが、残念なことにどこにでも馬鹿が居る。
 一部でも統制できない軍の部隊があれば、そこは弱点となり得るし、特に勝ちを焦る将兵は危うい。
 そのような中で、紅兵団は、陸海軍にも提供されない最新の装備を有する最強精鋭の部隊となるだろう。
 今の軍部にそうした力を与える事は極めて危険である。
 奢りに奢った軍人の行動は、我が帝国にとっても世界の人々にとっても害悪以外の何物でもないからである。
 かく言う私も退役軍人である。
 前職を悪く言うのは私の趣味ではないが、実際に経験した者として確かに軍部の慣行や因習はよくないとしか言いようがない。
 我が帝国や近隣諸国あるいは世界中の人々の幸せのためにも、今の帝国陸海軍は、一旦は解体しなければならないだろうと思っている一人でもある。
 しかしながら、徒手空拳では肉食動物にも似た強欲な西欧列強諸国に対抗できないのは真実であり、何らかの抑止力を持たねばならないのは確かである。
 紅兵団を中核とした武装勢力により、我が帝国のみならず、世界平和をも担うようにしたいというのが総帥の最終目標である。
 諸君には極めて短期間にそうした任務に耐えるだけの力量を備えていただかねばならない。
 第1次の適性試験に合格した諸君らには潜在的にその能力がある。
 この点については各自が自信を持って宜しい。
 戦は目前に迫っており、帝国の戦争抑止努力の如何に関わらず、おそらくは数年以内に主要国を巻き込んだ大戦が起きるであろうし、帝国も巻き込まれる可能性が極めて高い。
 候補生全員が揃った時点で改めて総帥がご自身でお話されるであろうが、諸君に総帥からのお言葉を伝えておく。
 心して聞くように。
  ---
 諸君のうちただの一人でも戦死させないようにすることが、紅兵団総帥としての私の役割である。
 そのために諸君には辛い訓練にも耐えていただかねばならない。
 一方で、この仕事は若い婦女子である諸君らの、最も輝いている花の時代を犠牲にしてでもやり遂げるべき、真に意味のある任務であることを断言する。
 心して励んでいただきたい。
 諸君らの奮励努力に期待する。
  ---
 以上が総帥から伝達されたお言葉であるが、私を含めて当基地職員全てが総帥のお心に共感し、諸君らに多大の期待を寄せて教育に当たり、かつ見守るつもりである。
 私の挨拶は以上である。」

 基地長は、高木あずさの号令による敬礼の答礼を行った後で、そのまま退室していった。
 濱口一尉が着席の指示をした。
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