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第四章 戦に負けないために
4-4 軍人としての洗礼
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集会所へは、サキが一番乗りでした。
体育館よりも広い場所に誰もいないのは結構寂しいし不安なものです。
それでも程なく人が集まりだしました。
殆ど入ってくる人が途切れた午前10時少し前には、老年と思える男4人が、台車にダンボールを積んでやってきました。
その中の一人の男性が大きな声で言いました。
「全員、揃いましたかねぇ。
取り敢えず昼食を配っておきます。
昼食は折り詰めの弁当です。
一人に一つずつ。
食事が終わったら、大方は皆さんの頭の中にあることなんですが、此処で説明会が行われます。
そのまま待機していてください。
説明会の開始は、1030の予定です。」
サキは聞いていて何となく嬉しくなりました。
「ヒトマルサンマル」は、軍隊用語なのです。
(あ、やっぱり軍隊なんだなぁ。)
と俄かにそんな気分にさせられたのです。
多分に周囲の雰囲気がそうさせるかもしれません。
潜水輸送船「ひまわり二号」の中でのスポーツウェアの集団は、とても軍隊には見えなかったのですけれどね。
どちらかというと華やか過ぎる二種制服なのですけれど、統一された服装の集団はそれだけで部隊に見えるから不思議です。
にこやかな顔のお爺さん達が、ダンボールの中から弁当の折り詰めをボトル入りのお茶とともに渡してくれました。
配り終わった段階で後方から先ほどの男性が声をかけました。
「はい、全員揃っているようですね。
181食分、行き渡ったようですので、それでは食事を始めてください。
食事が終わったら、後ろに置いてあるダンボール箱の中に各自折り詰めと空き瓶を入れるようにして下さい。
念のため、室外に出ないようにすること。
お手洗いは、この集会室の後ろにあります。」
言い終えると、4人の男性は室外に出て行った。
後は若い娘(おばさんも少しは混じっていたかもしれない?)ばかりで、時ならぬ宴会が始まりました。
折り詰め弁当は二段積みであり、上段に赤飯、下段に色取り取りの見事な山海珍味が沢山詰まっていました。
少なくともサキは、こんな豪華な弁当がこの世にあることすら知りませんでした。
厚岸の我が家の正月料理よりは余程立派なものです。
娘たちの話題は、食べている料理の話から身の上話まで尽きることなく、少し五月蝿いと思えるほどの騒々しさでした。
30分ほどで満腹になった娘達は、残った料理を名残惜しそうに折り詰めに残してダンボールに入れました。
中には全部を空にした豪傑もいたようですけれど、サキは半分ほどしかお腹に入らず、殆どの娘がそうであったように思えます。
食事を満足に食べられない家もあることを知っているサキ達は、少し後ろめたい気分にさせられました。
普段、家では米の一粒を残しても「作ったお百姓さんに申し訳ないだろう」と言われて育った性もあります。
その性か、食事後は少し声を潜めて小声で話をする娘達でした。
10時半になって、やはり年配の男性が入って来ました。
男性は50代後半に見えます。
娘達のような紫紺ではなく、濃紺の制服を着ています。
肩章からは大尉相当の一尉とわかりました。
その男性が入ってくると、ぴたっと話しが止み、室内はシーンとなりました。
男性はつかつかと正面の演壇に歩み寄り、驚くほどの大声を出したのです。
「キリーツ!」
ガタガタと音を立てながら全員が起立し、気をつけの姿勢を取った。
「ケイレイーッ!」
男の大声で、慌ててそれぞれ思い思いの敬礼の姿勢をとる。
ある者は右手による挙手の敬礼、ある者はお辞儀をする敬礼などバラバラです。
「ナオレーッ!」
バタバタッと敬礼が解かれる。
「チャクセーキッ!」
再度ガタガタと音を立てながら全員が座りました。
男が横に首を振りながら、キッと全員を見回しながら言う。
「自己紹介をしておく。
俺は、生活全般を指導する濱口和夫一尉だ。
覚えて置くように。
一言断っておくが、お前達は、今日から軍人となったのだ。
お前達にまだ階級はない。
ただの訓練生であり候補生だからだ。
娑婆での常識は此処では通用せん。
そのことを肝に銘じておけ。
女だからといって容赦はされんぞ。
厳しく鍛えるからそのつもりでいるように。
戦場では、ほんの少しの過ちが死に繋がる。
一人の過ちが場合によっては部隊全員を危うくすることもあるのだ。
まず、・・・今の態度は何だぁ。
お前達よりも階級の低い者は一人としてこの基地に存在せん。
上官に対しては、言われなくても気をつけの姿勢をとり、敬礼をしなければならん。
お前達の頭の中には既に最低限の知識が詰め込まれているはずだ。
それを何だ。
俺様が号令をかけるまで、何もしないとは言語道断。
この中で最年長の者は、高木あずさ。
何処にいる。」
「ハイッ。」
中段付近で手を上げた比較的背の高い娘がいた。
「よし。
お前が21歳でこの中では最年長者だ。
取り敢えず、臨時の班長を命ずるから、この中での指揮をとれ。
最初に先ず、帽子をテーブルの上に置いている者。
壁に帽子掛けがあるのがわからんかぁ。
直ちに帽子掛けに掛けろぉ。」
数人の娘が慌てて帽子掛けに走った。
「室内では、特別に許可された場合を除き、原則として帽子を被ってはならない。
少なくともそれは覚えていたようだな。
ここでの生活は団体生活だ。
お前達の行動全ては、礼に始まり礼に終わる。
今から、その最低限度の訓練を行う。
臨時班長、全員を起立させろ。」
高木あずさが「起立」と号令をかける。
とたんに叱責の大声が飛んだ。
「声が小さーい。
全員チャクセーキッ!
やり直ーしっ。」
ガタガタと全員が座った。
再度、今度は少し大きめの号令がかかるが、また、怒鳴られた。
やり直しである。
次には高木あずさから悲鳴に近い怒声が響いた。
だが、またまたやり直しの声が掛かった。
号令はいいのだが、今度は娘達の動きが悪いという。
それから二度同じ号令が繰り返された。
ようやく、濱口一尉が渋々ながらも頷いた。
「時間が無いから取り敢えずはこれぐらいでいいだろう。
全員が気を引き締めて一つ一つの動作に注意しろ。
次は敬礼だ。
帽子を被っていない場合の敬礼は、上半身を前傾させ、15度の敬礼を行う。
お前達は百貨店の売り子ではないのだから深々としたお辞儀はいらん。
前列右端のお前、名前は?」
サキが指名された。
「はい、河合サキと申します。」
途端に叱られた。
「此処では、女言葉は忘れろ。
『河合サキであります。』だ。
それに声が小さい。
やり直し。」
サキは大声で叫んだ。
「河合サキであります。」
「よーしっ。
河合サキ、前に出て来い。
ここで敬礼の見本を見せろ。」
ハイと返事をして、サキは、急いで演壇に駆け上がった。
急がないとまた叱られると思ったのだ。
濱口一尉の隣に位置して、気をつけの姿勢をとった。
「敬礼ーっ!」
濱口から大声がかかる。
バッと前に上半身を前傾させた。
どのぐらいかは自分では判らないが、概ね15度と思われる姿勢にした。
てっきり叱られると思っていたら逆に誉められた。
「よしっ。
角度も早さも丁度いい。
皆わかったか?
このようにするんだ。
靴のかかとをつけ、つま先は60度にそろえて開く。
手先はズボンの筋に合わせて、指を伸ばし、しっかり揃える。
そのままの姿勢で上半身のみを素早く前傾させる。
この要領だ。
河合サキ候補生。
元へ戻れ。」
サキは、一旦、濱口に向き合って敬礼をした。
「河合サキ、元へ戻ります。」
再度、敬礼して、回れ右をして駆け足で自分の席に戻る。
自然と出てきたわけではない。
詰め込まれている知識が後押しをし、そうしたほうがいいと思ったのだ。
「今の河合サキ候補生の態度が理想に近い。
難点を言うと、上官から命令を受けたときは、復唱しなければならない。
俺が前に出て来いと言った時には、『河合サキ候補生、前に出て敬礼の見本を見せます。』というのが、本来正式なのだが、今日のところは取り敢えず其処までは要求しない。
高木あずさ候補生、最前列まで出てきて、最前列のみ敬礼の号令を掛けろ。
うまくできるまでは何遍でもやらせる。
始めろ。」
高木あずさが駆け足で最前列脇にやってきて、濱口に向かって敬礼を行い、そうして叫んだ。
「高木あずさ候補生、これより敬礼の号令を掛けます。」
再度、敬礼を行ってから最前列に向きを変えた。
「最前列のみ、敬礼っ!」
サキを含めて、最前列の者が敬礼をする。
「遅いっ!
やり直し。」
高梨一尉ではなく、高木あずさがそう言った。
「直れ。
右から4番目、8番目、14番目が遅い。
もっと早くするように。
やり直す。
敬礼っ!」
今度は良かったようだ。
「次、二列目にかかれ。」
「高木あずさ候補生、二列目の号令掛かります。」
高木あずさは二列目に移って、号令を掛けた。
二列目は4回やり直しをさせられた。
このようにして10列目まで繰り返しの練習が続いた。
最後の列ではさすがに高木あずさの声がかすれ気味となっていた。
「よーしっ。
何とか見れるようになったな。
今度は全員で行う。
高木あずさ。
元の席へ戻って其処から号令を掛けろ。」
高木あずさが元の席に戻り、号令を掛けた。
全員の敬礼も何とか濱口の合格点を貰ったようであった。
「よーしっ。
総員、なおれ!
高木あずさ、全員の敬礼のとき『なおれ』は、2秒待ってから掛けろ。
相手の答礼の余裕が必要だからな。
今から、およそ5分後に当基地の基地長ほか職員が諸君に挨拶に来る。
高木あずさは、そのまま臨時班長を務めろ。
職員が入ってきたら、「候補生総員起立」の号令、
演壇中央の演台に基地長がついて正面を向いたら、「敬礼」2秒後に「直れ」の号令、
基地長から指示が無ければ、気をつけの姿勢のまま拝聴するように。
着席の指示があれば、「候補生総員着席」の号令を掛けろ。
その場合、基地長挨拶が終了次第、「候補生総員起立」の号令。
タイミングは、通常挨拶の最後に「以上」又は「以上である。」の言葉が入る。
いずれにしろ、挨拶が終わったら再度「敬礼」「直れ」をかける。
今度が本番だ。
全員間違えるな。
気を張れ。
高木あずさ候補生わかったか。」
「高木あずさ候補生、濱口一尉のお教えよくわかりました。」
「よし、では準備が出来た旨を知らせに行く。
それまで静粛に待て、私語を禁ずる。」
体育館よりも広い場所に誰もいないのは結構寂しいし不安なものです。
それでも程なく人が集まりだしました。
殆ど入ってくる人が途切れた午前10時少し前には、老年と思える男4人が、台車にダンボールを積んでやってきました。
その中の一人の男性が大きな声で言いました。
「全員、揃いましたかねぇ。
取り敢えず昼食を配っておきます。
昼食は折り詰めの弁当です。
一人に一つずつ。
食事が終わったら、大方は皆さんの頭の中にあることなんですが、此処で説明会が行われます。
そのまま待機していてください。
説明会の開始は、1030の予定です。」
サキは聞いていて何となく嬉しくなりました。
「ヒトマルサンマル」は、軍隊用語なのです。
(あ、やっぱり軍隊なんだなぁ。)
と俄かにそんな気分にさせられたのです。
多分に周囲の雰囲気がそうさせるかもしれません。
潜水輸送船「ひまわり二号」の中でのスポーツウェアの集団は、とても軍隊には見えなかったのですけれどね。
どちらかというと華やか過ぎる二種制服なのですけれど、統一された服装の集団はそれだけで部隊に見えるから不思議です。
にこやかな顔のお爺さん達が、ダンボールの中から弁当の折り詰めをボトル入りのお茶とともに渡してくれました。
配り終わった段階で後方から先ほどの男性が声をかけました。
「はい、全員揃っているようですね。
181食分、行き渡ったようですので、それでは食事を始めてください。
食事が終わったら、後ろに置いてあるダンボール箱の中に各自折り詰めと空き瓶を入れるようにして下さい。
念のため、室外に出ないようにすること。
お手洗いは、この集会室の後ろにあります。」
言い終えると、4人の男性は室外に出て行った。
後は若い娘(おばさんも少しは混じっていたかもしれない?)ばかりで、時ならぬ宴会が始まりました。
折り詰め弁当は二段積みであり、上段に赤飯、下段に色取り取りの見事な山海珍味が沢山詰まっていました。
少なくともサキは、こんな豪華な弁当がこの世にあることすら知りませんでした。
厚岸の我が家の正月料理よりは余程立派なものです。
娘たちの話題は、食べている料理の話から身の上話まで尽きることなく、少し五月蝿いと思えるほどの騒々しさでした。
30分ほどで満腹になった娘達は、残った料理を名残惜しそうに折り詰めに残してダンボールに入れました。
中には全部を空にした豪傑もいたようですけれど、サキは半分ほどしかお腹に入らず、殆どの娘がそうであったように思えます。
食事を満足に食べられない家もあることを知っているサキ達は、少し後ろめたい気分にさせられました。
普段、家では米の一粒を残しても「作ったお百姓さんに申し訳ないだろう」と言われて育った性もあります。
その性か、食事後は少し声を潜めて小声で話をする娘達でした。
10時半になって、やはり年配の男性が入って来ました。
男性は50代後半に見えます。
娘達のような紫紺ではなく、濃紺の制服を着ています。
肩章からは大尉相当の一尉とわかりました。
その男性が入ってくると、ぴたっと話しが止み、室内はシーンとなりました。
男性はつかつかと正面の演壇に歩み寄り、驚くほどの大声を出したのです。
「キリーツ!」
ガタガタと音を立てながら全員が起立し、気をつけの姿勢を取った。
「ケイレイーッ!」
男の大声で、慌ててそれぞれ思い思いの敬礼の姿勢をとる。
ある者は右手による挙手の敬礼、ある者はお辞儀をする敬礼などバラバラです。
「ナオレーッ!」
バタバタッと敬礼が解かれる。
「チャクセーキッ!」
再度ガタガタと音を立てながら全員が座りました。
男が横に首を振りながら、キッと全員を見回しながら言う。
「自己紹介をしておく。
俺は、生活全般を指導する濱口和夫一尉だ。
覚えて置くように。
一言断っておくが、お前達は、今日から軍人となったのだ。
お前達にまだ階級はない。
ただの訓練生であり候補生だからだ。
娑婆での常識は此処では通用せん。
そのことを肝に銘じておけ。
女だからといって容赦はされんぞ。
厳しく鍛えるからそのつもりでいるように。
戦場では、ほんの少しの過ちが死に繋がる。
一人の過ちが場合によっては部隊全員を危うくすることもあるのだ。
まず、・・・今の態度は何だぁ。
お前達よりも階級の低い者は一人としてこの基地に存在せん。
上官に対しては、言われなくても気をつけの姿勢をとり、敬礼をしなければならん。
お前達の頭の中には既に最低限の知識が詰め込まれているはずだ。
それを何だ。
俺様が号令をかけるまで、何もしないとは言語道断。
この中で最年長の者は、高木あずさ。
何処にいる。」
「ハイッ。」
中段付近で手を上げた比較的背の高い娘がいた。
「よし。
お前が21歳でこの中では最年長者だ。
取り敢えず、臨時の班長を命ずるから、この中での指揮をとれ。
最初に先ず、帽子をテーブルの上に置いている者。
壁に帽子掛けがあるのがわからんかぁ。
直ちに帽子掛けに掛けろぉ。」
数人の娘が慌てて帽子掛けに走った。
「室内では、特別に許可された場合を除き、原則として帽子を被ってはならない。
少なくともそれは覚えていたようだな。
ここでの生活は団体生活だ。
お前達の行動全ては、礼に始まり礼に終わる。
今から、その最低限度の訓練を行う。
臨時班長、全員を起立させろ。」
高木あずさが「起立」と号令をかける。
とたんに叱責の大声が飛んだ。
「声が小さーい。
全員チャクセーキッ!
やり直ーしっ。」
ガタガタと全員が座った。
再度、今度は少し大きめの号令がかかるが、また、怒鳴られた。
やり直しである。
次には高木あずさから悲鳴に近い怒声が響いた。
だが、またまたやり直しの声が掛かった。
号令はいいのだが、今度は娘達の動きが悪いという。
それから二度同じ号令が繰り返された。
ようやく、濱口一尉が渋々ながらも頷いた。
「時間が無いから取り敢えずはこれぐらいでいいだろう。
全員が気を引き締めて一つ一つの動作に注意しろ。
次は敬礼だ。
帽子を被っていない場合の敬礼は、上半身を前傾させ、15度の敬礼を行う。
お前達は百貨店の売り子ではないのだから深々としたお辞儀はいらん。
前列右端のお前、名前は?」
サキが指名された。
「はい、河合サキと申します。」
途端に叱られた。
「此処では、女言葉は忘れろ。
『河合サキであります。』だ。
それに声が小さい。
やり直し。」
サキは大声で叫んだ。
「河合サキであります。」
「よーしっ。
河合サキ、前に出て来い。
ここで敬礼の見本を見せろ。」
ハイと返事をして、サキは、急いで演壇に駆け上がった。
急がないとまた叱られると思ったのだ。
濱口一尉の隣に位置して、気をつけの姿勢をとった。
「敬礼ーっ!」
濱口から大声がかかる。
バッと前に上半身を前傾させた。
どのぐらいかは自分では判らないが、概ね15度と思われる姿勢にした。
てっきり叱られると思っていたら逆に誉められた。
「よしっ。
角度も早さも丁度いい。
皆わかったか?
このようにするんだ。
靴のかかとをつけ、つま先は60度にそろえて開く。
手先はズボンの筋に合わせて、指を伸ばし、しっかり揃える。
そのままの姿勢で上半身のみを素早く前傾させる。
この要領だ。
河合サキ候補生。
元へ戻れ。」
サキは、一旦、濱口に向き合って敬礼をした。
「河合サキ、元へ戻ります。」
再度、敬礼して、回れ右をして駆け足で自分の席に戻る。
自然と出てきたわけではない。
詰め込まれている知識が後押しをし、そうしたほうがいいと思ったのだ。
「今の河合サキ候補生の態度が理想に近い。
難点を言うと、上官から命令を受けたときは、復唱しなければならない。
俺が前に出て来いと言った時には、『河合サキ候補生、前に出て敬礼の見本を見せます。』というのが、本来正式なのだが、今日のところは取り敢えず其処までは要求しない。
高木あずさ候補生、最前列まで出てきて、最前列のみ敬礼の号令を掛けろ。
うまくできるまでは何遍でもやらせる。
始めろ。」
高木あずさが駆け足で最前列脇にやってきて、濱口に向かって敬礼を行い、そうして叫んだ。
「高木あずさ候補生、これより敬礼の号令を掛けます。」
再度、敬礼を行ってから最前列に向きを変えた。
「最前列のみ、敬礼っ!」
サキを含めて、最前列の者が敬礼をする。
「遅いっ!
やり直し。」
高梨一尉ではなく、高木あずさがそう言った。
「直れ。
右から4番目、8番目、14番目が遅い。
もっと早くするように。
やり直す。
敬礼っ!」
今度は良かったようだ。
「次、二列目にかかれ。」
「高木あずさ候補生、二列目の号令掛かります。」
高木あずさは二列目に移って、号令を掛けた。
二列目は4回やり直しをさせられた。
このようにして10列目まで繰り返しの練習が続いた。
最後の列ではさすがに高木あずさの声がかすれ気味となっていた。
「よーしっ。
何とか見れるようになったな。
今度は全員で行う。
高木あずさ。
元の席へ戻って其処から号令を掛けろ。」
高木あずさが元の席に戻り、号令を掛けた。
全員の敬礼も何とか濱口の合格点を貰ったようであった。
「よーしっ。
総員、なおれ!
高木あずさ、全員の敬礼のとき『なおれ』は、2秒待ってから掛けろ。
相手の答礼の余裕が必要だからな。
今から、およそ5分後に当基地の基地長ほか職員が諸君に挨拶に来る。
高木あずさは、そのまま臨時班長を務めろ。
職員が入ってきたら、「候補生総員起立」の号令、
演壇中央の演台に基地長がついて正面を向いたら、「敬礼」2秒後に「直れ」の号令、
基地長から指示が無ければ、気をつけの姿勢のまま拝聴するように。
着席の指示があれば、「候補生総員着席」の号令を掛けろ。
その場合、基地長挨拶が終了次第、「候補生総員起立」の号令。
タイミングは、通常挨拶の最後に「以上」又は「以上である。」の言葉が入る。
いずれにしろ、挨拶が終わったら再度「敬礼」「直れ」をかける。
今度が本番だ。
全員間違えるな。
気を張れ。
高木あずさ候補生わかったか。」
「高木あずさ候補生、濱口一尉のお教えよくわかりました。」
「よし、では準備が出来た旨を知らせに行く。
それまで静粛に待て、私語を禁ずる。」
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