親王様は元大魔法師~明治の宮様に転生した男の物語~戦は避けられるのか?

サクラ近衛将監

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第七章 英国との交渉

7-11 日英同盟の交渉

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 1942年(昭和17年)2月20日英国滞在中に知り合った大勢の人々に見送られてヘストン別邸を発ち、サキ達は「ひなげし」が待つリバプールに向かった。
 その前日、バッキンガム宮殿へ暇乞いの挨拶に行き、女王陛下に目通りしてきた。

 女王陛下は、同盟に対する結論の出ない状況にあっても天皇陛下あての親書をサキに託した。
 その足でウエストミンスターにも赴き、チャーチル首相にも挨拶をした。

 最終的な英国の判断は、チャーチルに委ねられていること、チャーチルは正式な協議を始める事を内定している事を打ち明けてくれた。
 だが、それはドイツに内緒で行うべきではなく、4月以降に始まるだろうとの見込みをサキに伝えたのである。

 サキ達の当面の任務は、達成されたのである。
 協議の場に英国を引きずり出す事が総帥と天皇陛下から託されたもう一つの任務であったからである。

 おそらく4月から始まる協議には、洋子と美保が行く。
 その頃サキと絵里子は大西洋に派遣されているはずである。

 ◇◇◇◇

 サキが日本に戻ったのは17年3月20日の夕刻である。
 陛下に帰朝報告をし、英国女王の親書を渡したのは翌日である。

 その足で宏禎王殿下に報告し、すぐに下田の海底基地から沖で待機する青龍に戻った。
 青龍は鳳凰とともに大西洋を目指す。

 二隻の潜水空母は最大速度で太平洋を南下、ホーン岬を回って大西洋に入る。
 大西洋に派遣されていた玄武と白虎の2隻と交代するのである。

 青龍と鳳凰が大西洋に入った時点で、アイスランド沖で待機に入る。
 それまで展開していた玄武と白虎は南下を始めているはずである。

 青龍があらかじめ定められた待機ポジションに到着したのは3月27日であり、玄武と白虎が日本に戻るのは4月3日になるだろう。
 その後、白虎はマリアナ諸島の海底基地で休息に入る。

 玄武も下田沖で洋子と美保を降ろしてマリアナで休息に入ることになっている。
 4月1日、英国から正式協議開催の打診があった。

 協議は英国の希望で、フォークランド諸島で開催されることになった。
 この時点では、報道もなされていたことから英国との協議開催の話は当然にドイツに知られている。

 駐日独大使から当然のように抗議と協議中止の申し入れが日本政府になされ、同時に同盟が締結されれば両国の関係に深刻な影響を与えるであろうとの警告が発せられた。
 英国国内での協議開催はドイツ空軍の手による爆撃等の危険があり、派遣大使等の生命も危ぶまれた。

 そのために英国はフォークランドを選んだのである。
 開催期日は両国の事前協議の結果4月20日と決定した。

 1942年(昭和17年)4月20日、フォークランド諸島には、英国艦隊旗艦のプリンス・オブ・ウェールズが多数の艦船と共に停泊していた。
 英国全権大使一行を本土から輸送して来たのであり、同時にドイツ海軍の襲撃に備え、厳重な警護に入ることになっている。

 フォークランドの現地時間午前10時の時点で、日本の一行は未だ到着していない。
 事前協議において、予め、日本側からは航空機で代表団が向かうとの連絡が入っていた。

 協議に当たった英国外交官は航空機により米国経由で来るのだろうと特段不思議にも思わなかった。
 この4月からは、米国のハワイ、サンフランシスコ、ワシントンなどに日本の航空会社が運行を始めていたからである。

 無論、英国までの路線はないし、フォークランド諸島にまで到達できる航空路線などない。
 フォークランドには英軍が管理する800mの滑走路を持つ飛行場があるだけであり、時折、アルゼンチンとの不定期の小型旅客機が飛来する程度である。

 大使館等との事前協議で日本政府の要請を受け、飛行場は急遽1200mまでに延長されていた。
 交渉協議は午後2時からの予定である。

 空には警戒のために複数の哨戒機が配置についている。
 だがその哨戒機も気付かないほど高空を飛来する航空機があった。

 4発のターボジェット大型輸送機「天鶴」である。
 高度1万五千メートルを時速約千キロで飛行し、日本から直接フォークランドへ向かっているのである。

 フォークランドへ装備されたばかりのレーダーが機影を捉えたときは、既にフォークランドまで僅か50キロにまで迫っていた。
 その滑走路に着陸態勢に入った航空機を見て、誰しもがその威圧的なまでに巨大なシルエットに驚いた。

 イギリスにも試験的に製造した4発機が無いわけではないが、優にその倍近くの大きさに見える。
 滑走路の端ギリギリにランディングした機体は、そのまま、鋭い金属音を発しながら一気に滑走路を走って中央を過ぎて行く。

 誰しもが、これでは明らかに滑走路が短かすぎるのではないかと焦り、悲惨な航空機事故を予期したが、急速にブレーキがかかり、滑走路の殆ど端で速度を落とし、機体はゆっくりとUターンした。
 巨大な航空機は、歓迎の一行が待つ中央エプロンに停止した。

 見上げるばかりの高さにコックピットがあり、機体を支える車輪も見たことがないほど巨大である。
 機体の長さは優に100mを超えているが、翼長はさらに長い。

 従来の形に比べて翼が異様に後退しているのが特徴的である。
 胴体部に覗く窓の多さから見て、おそらくは200人以上が乗れる旅客機であろう。

 これほど巨大な航空機は英国では製造できないし、ましてや地球を半周する航空機が登場するなど考えもしなかった。
 この航空機ならば、日本から北極圏経由で英国に直接乗り入れることが楽に出来るはずである。

 駐日英国大使館のMI6要員もこのような航空機が日本に存在することさえ掴んではいなかった。
 日本からフォークランドまで凡そ2万キロ、航空機は20時間をかけてやって来たのである。

 燃料は片道に足るだけはあるが、帰りの分は、別途油槽船と貨物船がフォークランドにタンクローリーやその他の支援機材を5日以内に運び込むことになっていた。
 代表団は日本の実力に改めて驚き、同時にひしひしと無言の威圧を感じてもいた。

 機体の前部にあるドアが開いて簡易な折りたたみ式階段が機内から地上に降ろされる。
 油圧式であろうか、階段が実にスムーズな動きで静かに地面に接地すると、漸く、機内出口に人影が見えた。

 地上で待機していた新聞社のフラッシュが多数焚かれる中を、小柄な男を先頭に代表団とスタッフが降りてきた。
 今回は6名の代表団以外に支援スタッフが12名、報道関係者が6名である。

 地上で出迎えの全権大使らと挨拶を交わし、一同は、会議場であるホテルへと向かった。
 現地時間4月20日午前11時のことである。

 一行の中には、洋子と美保がいた。
 全権大使は、吉田茂である。

 今回は外務省欧亜局長岡島茂之が次席代表である。
 洋子と美保は、前回と同じく内務省事務官兼外務事務官の肩書きである。

 協議が始まったが、最初に同盟ありきでスタートすることには協議開催を呼びかけた英国側も同意した。
 難航したのは日本側が条件としている英国海外領土の放棄であった。

 既に、日本は4月1日の時点で、朝鮮半島と台湾に関し、その独立と帰属を問う住民投票について、今後のスケジュールを内外に発表していた。
 同時に満州帝国領域からは日本軍の撤退を開始したが、遼寧、熱河、山東の三省には依然として40万の陸軍を置いている。

 満州鉄道の警備という名目で置かれていた関東軍は廃止され、代わりに三省を鎮撫する軍監が、三省の行政を司る総督府の指揮下に置かれた。
 総督は文官であり、軍人出身者は総督に配置できない事となっていた。

 未だ国民党政府と中国共産党による覇権争いは続いていたが、徐々に中国共産党が駆逐されつつあった。
 主たる原因は共産党の指導者であった者が昨年暮れに相次いで病死したことにある。

 後継者はそれまでの指導者に比べるとカリスマ性も無く、党自体が二つないし三つに分派して内部抗争を始めた事から、中国共産党が一枚岩でなくなったのである。
 国民党政府は蒋介石が徐々に頭角を現し、地方軍閥を取りまとめる一方、日本からの武器供与、経済協力などを梃子に、民心を掴み始めていた。

 中国にとって、日本の経済発展は嫉妬さえ感ずるほどの急成長ぶりであり、アジア希望の星でもあったのである。
 一時期の反日感情は鳴りを潜め、日本との友好に積極的な考えが主流を占めていた。

 日本は中国撤退に際し厳格なまでに約束を守り、戦時補償は行わないが、可能な経済協力を惜しまなかったのである。
 特に経済援助は地方の農村に対して積極的に行われたことから、共産党と地方農村との結びつきに隙間風が差し込むようになったのも事実であり、また、彼らは満州や朝鮮半島でも日本の実験農場が成功している事例を噂で耳にしていた。

 国民党政府にも共産党にもそのような力は無いが、少なくとも国民党政府についている限りは日本からの協力が得られ、或いは、中国にもそのような農場が出来るかもしれないと思っていた。
 可能ならば日本や満州で楽な生活を送りたいと思っている農民も多数に登り、日米戦争が始まった17年4月頃から、満州帝国が中国からの労働者受け入れも容認し始め、農村部から大量の労働者が満州へ流れ込んでいた。

 満州に石油を含む地下資源が多く発見された事も労働者の流入に拍車をかけていた。
 また、石炭液化技術を有する日本が、満州帝国内で掘り出した石炭を全て引き取り、液化石油を供給していた。

 このため満州域にある石炭層の調査が進み、危険な坑道掘りではなく、大量の大型機械を用いた露天掘りがなされていたため、多くの労働者が必要となっていたのである。
 日本と同様に満州帝国は大きな経済力をつけ始めていた。

 サキが見通したとおり、日本側は既に植民地の全廃に向けて動き出している。
 その上で、英国側に正式な植民地撤廃を要求したのである。

 英国側も同条件の受け入れを拒否しているわけではない。
 条件履行の期間をできるだけ長くするように要求してきたのである。

 日本側は協定締結後3年以内の放棄を求めていたが、英国側は戦争終結後10年の猶予期間を求めたのである。
 理由は投下資本の回収その他英国企業の内部事情によるものだったが、英国側主張の論拠は大雑把に過ぎると痛烈に批判を浴びた挙句、その翌日から日本側が内偵調査した資料を基に、多くの反証が挙げられ、英国側は大幅譲歩を迫られた。
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