104 / 112
第七章 英国との交渉
7-12 チャーチルの決断
しおりを挟む
三日後、完膚無きなまでに英国主張を叩かれたロブソン全権大使は、チャーチルに遠距離電話をかけた。
「首相閣下、申し訳ないが私は全権大使の任を解かれるべきであると思います。
理由は、これ以上日本側の追求に耐えられないからであります。
我々の論拠は全て論破されました。
特に若い女性達の追及は驚くほどに要点をついており、彼らの情報量も目を見張るものがあります。
精一杯の努力はいたしましたが、これ以上日本側の譲歩を引き出す事は、私では到底無理と考えております。
日本側は、予想以上に英国現政権の維持に配慮してくれており、最終的に欧州での戦争終結後5年以内に全ての海外領と植民地を解放することまで譲歩してくれましたが、これ以上は無理です。
協定を不調として蹴るか、日本側提案を受け入れるか二つに一つの方策となりました。
日本側は、結論を出すのに、5日間の有余をくれましたが、それ以上長引く場合は、協議を打ち切ると最終的に通告してきました。
これまでの交渉状況は首相閣下が新聞をみてご承知のとおりであり、彼らは1日の交渉概要を見事なまでにまとめて広報しています。
広報は例の二人の娘が担当しておりますが、掛け値なしに日本側の立場に立った広報ではなく、公平な立場に立った者の見方から発表をしており、我々に不利な発言をしている様子は一切ありません。
逆に我々に不利な状況については故意に発表しないなど、私の目から見ても極めて適切と思われる裁量を多岐に渡って行っております。
女性があれほどの能力を発揮するとは誠に信じがたいことです。」
チャーチルは、全権大使の労をねぎらい、二日の有余を貰って結論の即答を避けた。
丸1日の間、チャーチルは書斎に篭り、翌日バッキンガム宮殿に姿を現した。
女王陛下に目通りを願い、異例の相談をしたのである。
小柄なチャーチルの姿が普段より小さく見えた。
「女王陛下に申し上げます。
陛下の宰相として政治を預かる身で、遺憾なことながら、この国の行く末を非常に案じております。
既に陛下もご承知のことと存じますが、フォークランドでの協議が最終的に煮詰まり、我が国の大幅譲歩を求められている状況にあります。
この譲歩を認めますと我が大英帝国にとって極めて不利な状況が生じます。
政権の維持はおろか、経済的にも大打撃を受ける可能性がございます。
交渉を拒否する事は可能ですが、先般、来英したサキ・カワイが申したとおり、その場合日本は単独で動き、植民地解放と隷属住民の解放を宣言して、我が大英帝国に宣戦布告する計画をも用意しているようであります。
この件に関しては一切広報されてはいませんが、その旨を全権大使ヨシダの口から確認しております。
植民地を放棄せずに未知の兵器を有する日本と戦うか、あるいは植民地を放棄して没落の可能性のある道を辿るか二者択一を迫られており、正直申し上げて、・・・甚だ苦悩しております。
陛下にこのようなことを申し上げるのは不本意ながら、陛下に何らかのご教示をいただければと参上いたしました。」
話を聞いた女王陛下は玉座から立ち上がり、暫く、ゆっくりと室内を歩き始めた。
それから、頭を垂れているチャーチルの正面に来た。
「わらわは政治に口を出すつもりは無い。
君臨すれど統治せず。
これが英国王室のあり方じゃ。
今後も変わることは無いだろう。
だから、そなたが如何に苦労をし、困ろうと、わらわからそなたに指示をするようなことは何も無い。
だが、一つだけわらわの覚悟を言うておこう。
わらわは、どのような事態に陥っても、国民と共に喜びと悲しみを分かち合い、耐え忍ぶつもりでいる。
そなたが英国と国民にとって一番適切と思う決定をなすが良い。」
チャーチルは、その言葉で救われた。
決断の評価は後世の者に委ね、茨の道であろうと自分の信ずる道を進むしかないと確信した瞬間である。
チャーチルは、宮殿に来たときとは一転して晴れ晴れとした気持ちで退室したのである。
1942年(昭和17年)4月29日、日英同盟条約が調印された。
この条約は、ナチスドイツへの参戦目的だけに適用される時限的な性格を持っているが、一方で両国の植民地政策に重要な変化をもたらす内容の議定書が付属しており、その意味で革新的な内容を持つものであった。
条約の効果は両国議会での批准を待って発効することになっており、日本での批准は直ちになされたが、英国議会での批准はことのほか難航した。
5月中旬を過ぎても議会での勢力は二分され拮抗していた。
そこへ、英国女王が特別声明を出したのである。
「如何様な結論が出ようと、王室は国民と共にあって、その決定に従い、如何なる労苦も厭わないであろう。
ただ、いたずらに時を消費すれば、協定の意味合いは薄れる事になる。
同盟の対象である日本は、ナチスドイツの非道な行いを早期に正そうとし、また、そのための救いを我が国に求めてきたのである。
我が国がドイツと戦っているのはまさにそのためであって欧州の覇権を狙うドイツとは全く異なるはずである。
私は、日本を実質的に率いる者と会ったことは無いが、五年前の日本ならばこの話は間違いなく俎上にも載らなかっただろう。
だが、この2月に宮殿を訪れた若い二人の日本人女性は信ずるに値する友であり、この二人の話を聞いた限りでは、今の日本は信用できるものと判断している。」
非常に短い声明であったが、絶大な効果があった。
議会での大勢が一挙に批准へと変化したのである。
英国議会は、5月16日、日英同盟条約とその議定書を批准した。
「首相閣下、申し訳ないが私は全権大使の任を解かれるべきであると思います。
理由は、これ以上日本側の追求に耐えられないからであります。
我々の論拠は全て論破されました。
特に若い女性達の追及は驚くほどに要点をついており、彼らの情報量も目を見張るものがあります。
精一杯の努力はいたしましたが、これ以上日本側の譲歩を引き出す事は、私では到底無理と考えております。
日本側は、予想以上に英国現政権の維持に配慮してくれており、最終的に欧州での戦争終結後5年以内に全ての海外領と植民地を解放することまで譲歩してくれましたが、これ以上は無理です。
協定を不調として蹴るか、日本側提案を受け入れるか二つに一つの方策となりました。
日本側は、結論を出すのに、5日間の有余をくれましたが、それ以上長引く場合は、協議を打ち切ると最終的に通告してきました。
これまでの交渉状況は首相閣下が新聞をみてご承知のとおりであり、彼らは1日の交渉概要を見事なまでにまとめて広報しています。
広報は例の二人の娘が担当しておりますが、掛け値なしに日本側の立場に立った広報ではなく、公平な立場に立った者の見方から発表をしており、我々に不利な発言をしている様子は一切ありません。
逆に我々に不利な状況については故意に発表しないなど、私の目から見ても極めて適切と思われる裁量を多岐に渡って行っております。
女性があれほどの能力を発揮するとは誠に信じがたいことです。」
チャーチルは、全権大使の労をねぎらい、二日の有余を貰って結論の即答を避けた。
丸1日の間、チャーチルは書斎に篭り、翌日バッキンガム宮殿に姿を現した。
女王陛下に目通りを願い、異例の相談をしたのである。
小柄なチャーチルの姿が普段より小さく見えた。
「女王陛下に申し上げます。
陛下の宰相として政治を預かる身で、遺憾なことながら、この国の行く末を非常に案じております。
既に陛下もご承知のことと存じますが、フォークランドでの協議が最終的に煮詰まり、我が国の大幅譲歩を求められている状況にあります。
この譲歩を認めますと我が大英帝国にとって極めて不利な状況が生じます。
政権の維持はおろか、経済的にも大打撃を受ける可能性がございます。
交渉を拒否する事は可能ですが、先般、来英したサキ・カワイが申したとおり、その場合日本は単独で動き、植民地解放と隷属住民の解放を宣言して、我が大英帝国に宣戦布告する計画をも用意しているようであります。
この件に関しては一切広報されてはいませんが、その旨を全権大使ヨシダの口から確認しております。
植民地を放棄せずに未知の兵器を有する日本と戦うか、あるいは植民地を放棄して没落の可能性のある道を辿るか二者択一を迫られており、正直申し上げて、・・・甚だ苦悩しております。
陛下にこのようなことを申し上げるのは不本意ながら、陛下に何らかのご教示をいただければと参上いたしました。」
話を聞いた女王陛下は玉座から立ち上がり、暫く、ゆっくりと室内を歩き始めた。
それから、頭を垂れているチャーチルの正面に来た。
「わらわは政治に口を出すつもりは無い。
君臨すれど統治せず。
これが英国王室のあり方じゃ。
今後も変わることは無いだろう。
だから、そなたが如何に苦労をし、困ろうと、わらわからそなたに指示をするようなことは何も無い。
だが、一つだけわらわの覚悟を言うておこう。
わらわは、どのような事態に陥っても、国民と共に喜びと悲しみを分かち合い、耐え忍ぶつもりでいる。
そなたが英国と国民にとって一番適切と思う決定をなすが良い。」
チャーチルは、その言葉で救われた。
決断の評価は後世の者に委ね、茨の道であろうと自分の信ずる道を進むしかないと確信した瞬間である。
チャーチルは、宮殿に来たときとは一転して晴れ晴れとした気持ちで退室したのである。
1942年(昭和17年)4月29日、日英同盟条約が調印された。
この条約は、ナチスドイツへの参戦目的だけに適用される時限的な性格を持っているが、一方で両国の植民地政策に重要な変化をもたらす内容の議定書が付属しており、その意味で革新的な内容を持つものであった。
条約の効果は両国議会での批准を待って発効することになっており、日本での批准は直ちになされたが、英国議会での批准はことのほか難航した。
5月中旬を過ぎても議会での勢力は二分され拮抗していた。
そこへ、英国女王が特別声明を出したのである。
「如何様な結論が出ようと、王室は国民と共にあって、その決定に従い、如何なる労苦も厭わないであろう。
ただ、いたずらに時を消費すれば、協定の意味合いは薄れる事になる。
同盟の対象である日本は、ナチスドイツの非道な行いを早期に正そうとし、また、そのための救いを我が国に求めてきたのである。
我が国がドイツと戦っているのはまさにそのためであって欧州の覇権を狙うドイツとは全く異なるはずである。
私は、日本を実質的に率いる者と会ったことは無いが、五年前の日本ならばこの話は間違いなく俎上にも載らなかっただろう。
だが、この2月に宮殿を訪れた若い二人の日本人女性は信ずるに値する友であり、この二人の話を聞いた限りでは、今の日本は信用できるものと判断している。」
非常に短い声明であったが、絶大な効果があった。
議会での大勢が一挙に批准へと変化したのである。
英国議会は、5月16日、日英同盟条約とその議定書を批准した。
13
あなたにおすすめの小説
異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる