仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか

サクラ近衛将監

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第一章 十二試艦上戦闘機

1ー4 吉崎航空機製作所の視察 その一

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 1903年にライト兄弟が初めて飛行機が空を飛んで以降、日本の航空史では、1910年(明治43年)12月19日に陸軍の動力機による初飛行が成功を収めたものの、使用した機体もエンジンも全て外国産のものだった。
 その一方で、1911年(明治44年)5月5日には、国産民間機(とは言いつつもエンジンやその主要部品はやはり海外から輸入しており、純国産とは言い難い)の初飛行が成功し、1912年には千葉県の稲毛海岸に民間飛行場が開設されるなど、飛行家を育成する環境も徐々に整備されつつあった。

 因みに、1913年(大正2年)には、帝国飛行協会も創設されている。
 それから24年後の1937年(昭和12年)のこの時期、帝国陸軍・海軍とも航空機の採用にかなりの意欲を持っていたが、国内で軍用に耐える航空機の製造技術を有しているメーカーは限られていた。

 仲嶋航空機、四菱重工、河西かわにし航空機、辰川たつかわ飛行機の四社がメインで、そのほかに石鹿島いしかじま飛行機製作所、漫州まんしゅう飛行機、久州くしゅう飛行機、藍知あいち航空機、それに陸軍航空技術研究所、海軍航空技術廠(空技廠)などがあげられる。
 そうして、今、そこに吉崎航空機製作所が新たに加わったことになる。

 無論、航空機を造るメーカーが一つ増えただけのことであって、その力量は不明なので、その創設も経済誌の情報欄に紹介されたのみであった
 従って、誰しも千葉の片田舎にできたその会社が大会社に成長しようなどとは予想もしていなかったのである。

 吉崎航空機製作所という法人名ながら、会社の定款を見ると、航空機に関わる品物ならば何でも製作若しくは製造できることになっている。
 例えば、航空機の機体の組み立てに必要な特殊金属材料の製造、航空機の飛行に必要な燃料の製造、航空機に必要な機関の製造、更には軍用機の搭載武器の類まで製造できるようになっているのである。

 但し、武器・弾薬の製造ともなると内務省、商工省、陸軍省及び海軍省の様々な認可や許可も得なければならず、本来、新興企業ではかなり難しいことなのだ。
 しかしながら、そうした認可や許可を要する事項については、どうやったものかこの用地取得から1年ほどの間にちゃっかりと関係各省からの許認可は取り付けていた。

 ところで、吉崎航空機製作所の新鋭機ルー101披露の機会を作ったのは海軍航空本部の戦闘機部門の担当者であった小和田おわだ幸一こういち大尉だった。
 彼には、横須賀海軍基地における吉崎航空機製作所が製造した新型機披露に際してそれなりの思惑と勝算があった。

 その思惑のために、従来通りに仲嶋、四菱の二社を指定しての試作機の製造に拘る上司の反対を押し切ってまで、何とか海軍内部でのデモンストレーションに辿りついたのである。
 これで小和田大尉の思惑通りに運ばねば、その責任をとって辞表提出さえも覚悟していた。

 ◇◇◇◇

 小和田大尉は、前年(昭和12年)10月に吉崎航空機製作所を訪ねていた。
 小和田大尉の母方の叔父であり、千葉県議会の議長である桑原くわばら清三せいぞうの紹介で、その年四月に発足したばかりの吉崎航空機製作所の金谷工場を見学したのであった。

 国鉄房総線の浜金谷はまかなや駅は何の変哲もない木造平屋の地方駅であったが、改札口の外に設けられた連絡橋を渡り、北側出口を出たところで待っていたのは黒光りのする自動車であった。
 小和田大尉の勤務先は横須賀鎮守府の海軍航空技術廠(空技廠)がメインなのだが、仕事がら海軍本省にも赴くので、公用車やタクシーにも結構乗り付けている。

 しかしながら、目の前にある物凄く格好の良い曲線を描いている車体の自動車はこれまで見たことが無い車種であった。
 それまでの車のデザインでは多少の曲線はあるものの、総じて角張っているものと相場が決まっていたはずなのに、目の前の車は明らかに異なるデザインなのである。

 あるいは外車なのか?と思ったりもするが、叔父の秘書である佐々木洋二さんが先導してくれ、車に近づくと運転手が後部座席のドアを開けてくれたので、そのまま後部座席に収まった。
 車高は低く見えたが、内部に入ると随分と広いし、座席の座り心地が官用車とは全く別物の感触だ。

 御料車(陛下のお召自動車)は、確か英国産のロールスロイスだったはずだが、この車とではシルエットが全く違う。
 小和田大尉では内部を見ることすらできない御料車なのだが、内装は非常にきれいだと宮内省勤務の海軍武官から聞いたことはある。

 そしてこの迎車の内装は、非常に綺麗で洗練されており、あるいは御料車に匹敵するのではないかとさえ感じられた。
 小和田大尉と佐々木秘書が後部座席に乗り込むと、運転手によってドアが閉められ、間もなくに車は発車した。

 車が動き始めてすぐにエンジン音が物凄く小さいことに気づいた。
 そうしてまた、舗装もされていない道路にもかかわらず、車の上下動が少ないのだ。

 揺れていないわけではないのだが、揺れが少なくゆっくりとした動きなのだ。
 余程上等な発条、・・・いや、サスペンションを使っているのだろうと思う。

 浜金谷の駅からは、線路沿いを北西方向に百mほど進んで右折した。
 左程広い道ではないが尋常小学校の西側を更に百mほど北上するといきなり丘陵部の一部を穿うがった地形に舗装道路が出現、そこに遮断機のある検問所が見える。

 その舗装道路に至るまでの道路は、精々道幅が1けん半ほどの未舗装道路だったが、検問所の手前からは一挙に片側二車線が取れる概ね4けんを超える幅の舗装道路となっていた。
 両側に歩道部分があるので、歩道を含めた道幅は概ね5けんから6けんほどもあるのではないかと思われた。

 しかもその十けんほど先は天井の高い隧道ずいどうになっている。
 目的地は、この隧道を道なりの距離で2キロ程度と運転手が教えてくれた。

 2キロ程度ならば、歩いて行けない距離ではないが、車なら早いだろうな。
 この隧道の道路は、東京の舗装道路並みに整備された歩道と車道が整然と続いており、しかもオレンジ色の照明が続いていて、隧道内は非常に明るかった。

 小和田大尉は色々な街灯もこれまで見た経験はあるが、少なくともオレンジ色の光を出す街灯や照明は見たことが無かった。
 運転手に尋ねると、こともなげに返事が返ってきた。

「ああ、こいつは霧が出たときに透過性が高いので採用していると聞いています。
 土地のモノによれば、滅多には出ないらしいのですが、濃い海霧が内陸までかかることも偶にはあるようです。」

 結果として、駅から五、六分程で金谷工場の社屋に着いた。
 隧道は、入り口から緩やかな右カーブを描いている上に、一旦は下向きに下がって地下深くへ潜っているために入り口から終点を見通すことはできないようになっていた。

 隧道を出る前には当然のように道路が上向きに変わって来るのだが、立体的に曲がった隧道の中にいる限りいったいどこを通過しているのかはトンとわからない。
 途中、隧道の出口付近で二度目の検問があった。

 因みに二つの検問所の守衛は軍人ではなく、民間人が制服を着て守衛を務めている様だ。
 守衛の許可を得ないと遮断機は上がらず、一般人は取り付け道路に侵入できないし、出ることもできないらしい。

 歩道部分にも鋼製格子状のドアがついており、通行者は全て検問されるようだ。
 航空機のような先進技術は、外国の企業や外国政府のスパイからも狙われることがあるので、その対策なのかも知れないが、この二つの検問所を見る限り、機密漏洩の防止策はかなり徹底していそうだ。

 運転手も守衛とは顔なじみではあるようなのだが、出入りの都度、管理区域内への入域申請の書類を提出して許可を得ている様だ。
 因みに小和田大尉と佐々木秘書は守衛から口頭で身分確認をされた。

 本日、小和田大尉が訪問することは事前に知らせては居るのだが、所属と名前、それに金谷工場の管理区域に入る理由を自分で答える必要があるようだ。
 無事に隧道を通過して青空が見える場所に出たので、小和田大尉は何とはなしにほっとした。

 小和田大尉は、車でこれほど長いトンネルを通過したのは初めての経験だったからだ。
 そうして間もなく二階建ての建造物の前面に至る取り付け道路に入った。

 この二階建ての建物は、東京でも見かけたことのない外面が総ガラス張りの建物のようだ。
 しかも鏡面仕上げなのか、外の景色は映っているのだが、入り口のガラス戸以外の場所では内部が見えない。

 建物の入り口付近では、五十がらみの男性と若い女性が待ち受けていた。
 大尉や佐々木秘書が何もしないうちに自動車のドアが勝手に開いたので、流石に驚いたが、どうやら運転席で後部座席のドアを開けることができるらしい。

 小和田大尉が車を降りるとすぐに、待っていた男が挨拶を為した。

「私、この金谷工場の工場長を務めております橋野孝也と申します。
 本日は我が社の視察にお時間を賜り、誠にありがとう存じます。
 生憎と社長は所用で東京に行っておりまして、不在でございますが、工場内のご案内を精一杯務めさせていただきます。」

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 8月14日より、

 「浮世離れの探偵さん ~ しがない男の人助けストーリー」

 https://www.alphapolis.co.jp/novel/792488792/836789252

を投稿しております。
 よろしければ是非ご一読ください。

   By サクラ近衛将監
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