6 / 59
第一章 十二試艦上戦闘機
1ー6 お披露目
しおりを挟む
俺(小和田大尉)が根回しした結果、昭和13年7月18日には、横須賀海軍飛行場で吉崎航空製作所の試作機「ルー101」のお披露目があった。
普通はこのような海軍飛行場でのお披露目の場合は、前日あたりに飛行場まで空輸して来るものなんだが、吉崎航空機製作所は可能な限りフライトを見せないよう配慮したようだ。
試作機「ルー101」を千葉の出洲埠頭から起重機付きの艀に乗せて海上輸送をしてきたのである。
房総半島の中ほどにある金谷の工場から陸路どのようにして千葉港まで運んだのかは不明であるが、あるいは部品を運び、千葉にて組み立てたのかもしれない。
本来であれば浜金谷、富津、木更津あたりから搬出できれば良かったのだろうが、生憎と渡船程度は何とか出入りできても、海岸部は遠浅で艀でも大きなものは近づけない場所が多かったのだ。
そんな中で千葉の出洲埠頭は比較的大きな艀も着桟できる唯一の場所だったようだ。
因みに本体のまま浜金谷駅から鉄道の貨物車両に載せるには、仮に翼をたたんでも幅が大き過ぎた。
いずれにしろ、海軍飛行場のある横須賀夏島町の物揚げ場で陸揚げされ、滑走路のエプロンまでは特殊なトラックに載せられて、陸送されてきた。
この間、荷台の周囲には幕が張られており、機体は一切人目に触れさせてはいないようだ。
そうして午前10時から試験飛行が始まった。
因みにパイロットは、横須賀海軍飛行隊所属のベテランが乗機することになっており、このお披露目の試験飛行のために二週間前から吉崎航空機製作所で完熟飛行訓練を行っていたはずだ。
滑走路脇の観測所には、ひな壇が設けられ、海軍の将官多数が見物に来ている。
一番の大物は、昭和13年4月から海軍次官兼務で海軍航空本部長となっている山元磯六中将である。
また、周知は海軍部内と四菱、仲嶋などの一部企業に限っていた筈なのに、なぜか三宅坂の陸軍航空本部からも第二部次長が副官の大尉を引き連れて見学に来ていた。
そうして、いよいよ吉崎航空機製作所の試作機「ルー101」が姿を見せた。
滑走路脇のエプロンでその姿が初お目見えした際は、ひな壇の見学者が目を見張っていた。
96式艦戦と比べるとかなり大きい外形であるのだが、「ルー101」は全体に流麗なフォルムで非常に見た目が恰好良いのだ。
次いで目に付くのはプロペラが六翅であることだろう。
これまでの海軍機で六翅のものはない。
96艦戦は三枚、陸軍の97式戦闘機は二枚ペラである。
外国製のものでも四枚ペラがあったかどうかである。
そうして、試作機であるにもかかわらず、この機は武装を施していた。
普通試作機というものは、軍用であっても、速力向上や燃料消費量の極小化、航続距離の伸長を狙って、余分なものをできるだけそぎ落として試験飛行を行うものだ。
燃料だってテストフライトに十分な量だけ載せて、後はタンクが空いていても搭載しないぐらいなのだから、武器や爆弾などは絶対に載せないのが普通である。
試験飛行前に配布された仕様書によれば、武器は、12.7ミリ機銃が二基と、7.7ミリ機銃が二基とされている。
爆弾も搭載可能なようで、見たところ25番(250キロ爆弾)程度の大きさの模擬弾二個が翼面下部に取り付けられているのが確認できた。
後に確認したところでは、海軍が使う25番の爆弾と同じ重量のダミーが両翼に一個ずつぶら下げられていたらしい。
余程に自信があったのかも知れないが、ある意味で無茶をするものだ。
この機体は、戦闘機というよりは戦闘攻撃機になるのかもしれないな。
因みに機銃の実弾は搭載されておらず、同じ重量の偽装弾が搭載されているとのことであった。
その場で配布された資料では、
名称: ルー101
全幅: 11.99m(折り畳み仕様にすることも可能、折り畳み時5.2m)
全長: 9.37m
全高: 3.96m
翼面積: 23.5㎡
翼面荷重: 161.70 kg/㎡
自重: 1,852kg
正規全備重量:3,799kg
発動機: 房二型(2400馬力)
プロペラ: Y/K可変速3翅反転
最高速度: 781km/h(高度6,000m)
実用上昇限度:13,650m
最大航続距離;1,700海里(3,148km)
2,200海里(4,074km);増槽タンク使用時)
2,500海里(4,630km)(軽貨フェリー時)
武装: 翼内12.7mm機銃4挺(携行弾数各300発)、
又は、7.7mm機銃4挺(携行弾数各700発)
爆装: 100kg爆弾6発 又は 250kg爆弾2発
これまでの96艦戦に比べると機体は大きく、重量も重いのだが、武装を除いたにしてもこの高スペックが本物ならば、四菱で試作中の機体も全く勝負にもならないだろう。
仲嶋など有力な会社の航空技師達(因みに三菱を含めて各航空機製造会社の在京技師は偵察に来ていた)もひな壇に居るのだが、その資料を見て皆青い顔をしている。
特に、高出力のエンジンとその速度、並びに航続距離が目立つことこの上もない。
軽貨フェリーと言えども2,500海里の航続距離は凄まじ過ぎるだろう。
計算上は、東京から海南島まで(3500キロ未満)を余裕で行けるし、大阪からタイのバンコクまで(約4200キロ)も理論上は一飛びで行けることになる。
時速500キロで飛んでも8時間以上かかる距離なんだが・・・。
パイロットがそんなに長時間のフライトに耐えられるのかねェ。
そうしてルー101のエンジンが起動するとまたまた驚かされることになる。
六翅と思っていたのが、プロペラボス前後で反転する二重反転プロペラなのだ。
これまでも理論としてはあったし、河西あたりで研究もしていると聞いているが、私以外では、実物を見るのはこれが初めてのはずである。
96艦戦などに比べるとややエンジン音が大きいのがやはり目立つな。
離陸が始まるとその地上走行速度にも驚かされる。
九六式艦上戦闘機などの離陸速度に比べると、倍近いほどの速度が離陸段階で出ているように見えたのである。
そうして比較的に短い距離で離陸して間もなく着陸脚を機体に収納した途端、天空を切り裂くような急上昇をして見せた。
四菱の試作機も、着陸脚を収納できるタイプだが、俺にはその収納速度が異様に速かったように見えた。
このことは、つまりは離陸してすぐにも戦闘態勢に入れるということを意味している。
その後は、ほとんどルー101の独壇場だった。
かつての航空機の試験飛行に比べるとルー101のデモンストレーションは格が違った。
急降下、きりもみ飛行、背面飛行等々高等飛行術のオンパレードが高速飛行のまま地上近くで繰り広げられ、見ている者に畏怖感を与えるほどの迫力があったのだ。
500m程度の長さの滑走路を地上高10m内外で飛行する様は圧巻であった。
一瞬で目の前を通り過ぎて行くような速力は間違いなく700キロ近辺の速度なのである。
しかも試験仕様の軽荷状態ではなく、フル装備の満載状態でこの結果を生み出しているのである。
居並ぶ関係者はことごとく圧倒されていた。
◇◇◇◇
お披露目の三日後に海軍省で開催された次期主力戦闘機の採用審議では、全会一致で、吉崎航空機製作所のルー101を基地用戦闘機として採用することに内定した。
内定というのは、仮にすぐに納品されてもパイロットが完熟訓練を行わなければ運用できないし、そもそもが配分された航空機を整備できなければ基地での運用もできないのだ。
従って、最初に各陸上基地の整備士の派遣研修が決定された。
同時に、今回横須賀から派遣されたようにベテランパイロット数名を訓練飛行のために吉崎航空機に送り込む必要もあるんだが、そっちの方は棚上げになった。
受け入れ人数は、整備士、パイロットを合わせて12人まで。
それ以上は当座の吉崎製作所側の宿舎手配が間に合わないという理由だったので取り敢えず整備兵の養成を優先したのだった。
まぁ、完熟飛行についてはモノが配備されてからでもできるから、それでもかまわないが、ルー101だけでなく、複座型のカー1についても練習機として導入することになった。
配備先は当面霞ケ浦になる予定だが、そこの教員連中がまずはこの高速機体に慣れなければ話にならない。
とにかく九六艦戦とは桁が違うほど性能差があるからな。
それをまず理解してもらわんと後進の育成もできんだろう。
次期艦上戦闘機の採用については翌年まで持ち越して、結構揉めたな。
高速機の導入には概ね賛成できても、空母への離着艦が難しいのでは簡単に空母へ搭載ができないんだ。
結局のところ、半ばプライドをへし折られた四菱に試作機の継続を促すとともに、吉崎航空については多少性能を落としても構わないから、離陸最短距離の短縮と、着陸速度の縮小を目指してもらうことになった。
それぞれの完成を待って改めて試験飛行を行い、当面は両方を採用して現場での運用を図りながら最終選択をすることになったのだ。
恐らくは、離陸距離と着陸速度の改善がなされれば、四菱は落ちることになるだろうと思う。
幾ら手軽とはいっても、速力に劣り、軽量化のために無理をしているA6M1が吉崎の新鋭機に勝てる道理が無い。
仮にあるとすれば、大企業故の生産性の高さなんだが、実はここでも吉崎航空の方が上回っているからな。
まぁ、おそらく、四菱は当て馬にしかならないだろう。
但し、鳳翔、龍驤などの小型空母で使う分には便利かもしれん。
それと、ルー101の改造機がすぐに入手できたにしても、現存する5隻(間もなく6隻になる)の空母に艦上戦闘機として配備することは、整備面の問題もあってすぐには難しいだろうと判断されている。
実のところ、ルー101に搭乗し、お披露目のテストフライトで操縦桿を握った古谷一飛曹が、距離が140m程度の飛行甲板に着陸するのは現状で非常に難しいと申し立てているのだ。
恐らくは既に制動ワイヤーが導入されているから問題がないとは思われるのだが、重量的に重いルー101の改造機が速度を落としきれない場合、ワイヤーが切断されてしまうことも考えられ、空技廠でその辺の計算のやり直し若しくは制動ワイヤー装置の改良をしなければならないかもしれない。
因みに吉崎航空機製作所が雇用している40代後半のベテラン・テストパイロットならば、地上に描いた140mの範囲に制動装置なしでしっかりと降りられるそうだから、恐らくは飛行甲板の短い鳳翔や龍驤でも十分に着艦可能であり、艦上戦闘機としての利用に問題が無いとは思われるのだが、古谷一飛曹の言い分が正しければ、これもパイロットの技量次第の部分がかなりあるようだ。
四菱の試作機「A6M1」の着陸速度は100キロ以下なのに、一方のルー101の着陸速度は140キロ前後になるために一瞬の判断ミスで140mと仮定された飛行甲板の範囲を飛び出してしまう危険があるそうだ。
古谷一飛曹は自分の腕が悪いと嘆いていたが、生憎と海軍に居る他のパイロットも現状では同様の技量の筈なのである。
高速機に慣れてしまえば或いは空母への着艦も容易にできるのかもしれないが、当面は様子見になるだろう。
普通はこのような海軍飛行場でのお披露目の場合は、前日あたりに飛行場まで空輸して来るものなんだが、吉崎航空機製作所は可能な限りフライトを見せないよう配慮したようだ。
試作機「ルー101」を千葉の出洲埠頭から起重機付きの艀に乗せて海上輸送をしてきたのである。
房総半島の中ほどにある金谷の工場から陸路どのようにして千葉港まで運んだのかは不明であるが、あるいは部品を運び、千葉にて組み立てたのかもしれない。
本来であれば浜金谷、富津、木更津あたりから搬出できれば良かったのだろうが、生憎と渡船程度は何とか出入りできても、海岸部は遠浅で艀でも大きなものは近づけない場所が多かったのだ。
そんな中で千葉の出洲埠頭は比較的大きな艀も着桟できる唯一の場所だったようだ。
因みに本体のまま浜金谷駅から鉄道の貨物車両に載せるには、仮に翼をたたんでも幅が大き過ぎた。
いずれにしろ、海軍飛行場のある横須賀夏島町の物揚げ場で陸揚げされ、滑走路のエプロンまでは特殊なトラックに載せられて、陸送されてきた。
この間、荷台の周囲には幕が張られており、機体は一切人目に触れさせてはいないようだ。
そうして午前10時から試験飛行が始まった。
因みにパイロットは、横須賀海軍飛行隊所属のベテランが乗機することになっており、このお披露目の試験飛行のために二週間前から吉崎航空機製作所で完熟飛行訓練を行っていたはずだ。
滑走路脇の観測所には、ひな壇が設けられ、海軍の将官多数が見物に来ている。
一番の大物は、昭和13年4月から海軍次官兼務で海軍航空本部長となっている山元磯六中将である。
また、周知は海軍部内と四菱、仲嶋などの一部企業に限っていた筈なのに、なぜか三宅坂の陸軍航空本部からも第二部次長が副官の大尉を引き連れて見学に来ていた。
そうして、いよいよ吉崎航空機製作所の試作機「ルー101」が姿を見せた。
滑走路脇のエプロンでその姿が初お目見えした際は、ひな壇の見学者が目を見張っていた。
96式艦戦と比べるとかなり大きい外形であるのだが、「ルー101」は全体に流麗なフォルムで非常に見た目が恰好良いのだ。
次いで目に付くのはプロペラが六翅であることだろう。
これまでの海軍機で六翅のものはない。
96艦戦は三枚、陸軍の97式戦闘機は二枚ペラである。
外国製のものでも四枚ペラがあったかどうかである。
そうして、試作機であるにもかかわらず、この機は武装を施していた。
普通試作機というものは、軍用であっても、速力向上や燃料消費量の極小化、航続距離の伸長を狙って、余分なものをできるだけそぎ落として試験飛行を行うものだ。
燃料だってテストフライトに十分な量だけ載せて、後はタンクが空いていても搭載しないぐらいなのだから、武器や爆弾などは絶対に載せないのが普通である。
試験飛行前に配布された仕様書によれば、武器は、12.7ミリ機銃が二基と、7.7ミリ機銃が二基とされている。
爆弾も搭載可能なようで、見たところ25番(250キロ爆弾)程度の大きさの模擬弾二個が翼面下部に取り付けられているのが確認できた。
後に確認したところでは、海軍が使う25番の爆弾と同じ重量のダミーが両翼に一個ずつぶら下げられていたらしい。
余程に自信があったのかも知れないが、ある意味で無茶をするものだ。
この機体は、戦闘機というよりは戦闘攻撃機になるのかもしれないな。
因みに機銃の実弾は搭載されておらず、同じ重量の偽装弾が搭載されているとのことであった。
その場で配布された資料では、
名称: ルー101
全幅: 11.99m(折り畳み仕様にすることも可能、折り畳み時5.2m)
全長: 9.37m
全高: 3.96m
翼面積: 23.5㎡
翼面荷重: 161.70 kg/㎡
自重: 1,852kg
正規全備重量:3,799kg
発動機: 房二型(2400馬力)
プロペラ: Y/K可変速3翅反転
最高速度: 781km/h(高度6,000m)
実用上昇限度:13,650m
最大航続距離;1,700海里(3,148km)
2,200海里(4,074km);増槽タンク使用時)
2,500海里(4,630km)(軽貨フェリー時)
武装: 翼内12.7mm機銃4挺(携行弾数各300発)、
又は、7.7mm機銃4挺(携行弾数各700発)
爆装: 100kg爆弾6発 又は 250kg爆弾2発
これまでの96艦戦に比べると機体は大きく、重量も重いのだが、武装を除いたにしてもこの高スペックが本物ならば、四菱で試作中の機体も全く勝負にもならないだろう。
仲嶋など有力な会社の航空技師達(因みに三菱を含めて各航空機製造会社の在京技師は偵察に来ていた)もひな壇に居るのだが、その資料を見て皆青い顔をしている。
特に、高出力のエンジンとその速度、並びに航続距離が目立つことこの上もない。
軽貨フェリーと言えども2,500海里の航続距離は凄まじ過ぎるだろう。
計算上は、東京から海南島まで(3500キロ未満)を余裕で行けるし、大阪からタイのバンコクまで(約4200キロ)も理論上は一飛びで行けることになる。
時速500キロで飛んでも8時間以上かかる距離なんだが・・・。
パイロットがそんなに長時間のフライトに耐えられるのかねェ。
そうしてルー101のエンジンが起動するとまたまた驚かされることになる。
六翅と思っていたのが、プロペラボス前後で反転する二重反転プロペラなのだ。
これまでも理論としてはあったし、河西あたりで研究もしていると聞いているが、私以外では、実物を見るのはこれが初めてのはずである。
96艦戦などに比べるとややエンジン音が大きいのがやはり目立つな。
離陸が始まるとその地上走行速度にも驚かされる。
九六式艦上戦闘機などの離陸速度に比べると、倍近いほどの速度が離陸段階で出ているように見えたのである。
そうして比較的に短い距離で離陸して間もなく着陸脚を機体に収納した途端、天空を切り裂くような急上昇をして見せた。
四菱の試作機も、着陸脚を収納できるタイプだが、俺にはその収納速度が異様に速かったように見えた。
このことは、つまりは離陸してすぐにも戦闘態勢に入れるということを意味している。
その後は、ほとんどルー101の独壇場だった。
かつての航空機の試験飛行に比べるとルー101のデモンストレーションは格が違った。
急降下、きりもみ飛行、背面飛行等々高等飛行術のオンパレードが高速飛行のまま地上近くで繰り広げられ、見ている者に畏怖感を与えるほどの迫力があったのだ。
500m程度の長さの滑走路を地上高10m内外で飛行する様は圧巻であった。
一瞬で目の前を通り過ぎて行くような速力は間違いなく700キロ近辺の速度なのである。
しかも試験仕様の軽荷状態ではなく、フル装備の満載状態でこの結果を生み出しているのである。
居並ぶ関係者はことごとく圧倒されていた。
◇◇◇◇
お披露目の三日後に海軍省で開催された次期主力戦闘機の採用審議では、全会一致で、吉崎航空機製作所のルー101を基地用戦闘機として採用することに内定した。
内定というのは、仮にすぐに納品されてもパイロットが完熟訓練を行わなければ運用できないし、そもそもが配分された航空機を整備できなければ基地での運用もできないのだ。
従って、最初に各陸上基地の整備士の派遣研修が決定された。
同時に、今回横須賀から派遣されたようにベテランパイロット数名を訓練飛行のために吉崎航空機に送り込む必要もあるんだが、そっちの方は棚上げになった。
受け入れ人数は、整備士、パイロットを合わせて12人まで。
それ以上は当座の吉崎製作所側の宿舎手配が間に合わないという理由だったので取り敢えず整備兵の養成を優先したのだった。
まぁ、完熟飛行についてはモノが配備されてからでもできるから、それでもかまわないが、ルー101だけでなく、複座型のカー1についても練習機として導入することになった。
配備先は当面霞ケ浦になる予定だが、そこの教員連中がまずはこの高速機体に慣れなければ話にならない。
とにかく九六艦戦とは桁が違うほど性能差があるからな。
それをまず理解してもらわんと後進の育成もできんだろう。
次期艦上戦闘機の採用については翌年まで持ち越して、結構揉めたな。
高速機の導入には概ね賛成できても、空母への離着艦が難しいのでは簡単に空母へ搭載ができないんだ。
結局のところ、半ばプライドをへし折られた四菱に試作機の継続を促すとともに、吉崎航空については多少性能を落としても構わないから、離陸最短距離の短縮と、着陸速度の縮小を目指してもらうことになった。
それぞれの完成を待って改めて試験飛行を行い、当面は両方を採用して現場での運用を図りながら最終選択をすることになったのだ。
恐らくは、離陸距離と着陸速度の改善がなされれば、四菱は落ちることになるだろうと思う。
幾ら手軽とはいっても、速力に劣り、軽量化のために無理をしているA6M1が吉崎の新鋭機に勝てる道理が無い。
仮にあるとすれば、大企業故の生産性の高さなんだが、実はここでも吉崎航空の方が上回っているからな。
まぁ、おそらく、四菱は当て馬にしかならないだろう。
但し、鳳翔、龍驤などの小型空母で使う分には便利かもしれん。
それと、ルー101の改造機がすぐに入手できたにしても、現存する5隻(間もなく6隻になる)の空母に艦上戦闘機として配備することは、整備面の問題もあってすぐには難しいだろうと判断されている。
実のところ、ルー101に搭乗し、お披露目のテストフライトで操縦桿を握った古谷一飛曹が、距離が140m程度の飛行甲板に着陸するのは現状で非常に難しいと申し立てているのだ。
恐らくは既に制動ワイヤーが導入されているから問題がないとは思われるのだが、重量的に重いルー101の改造機が速度を落としきれない場合、ワイヤーが切断されてしまうことも考えられ、空技廠でその辺の計算のやり直し若しくは制動ワイヤー装置の改良をしなければならないかもしれない。
因みに吉崎航空機製作所が雇用している40代後半のベテラン・テストパイロットならば、地上に描いた140mの範囲に制動装置なしでしっかりと降りられるそうだから、恐らくは飛行甲板の短い鳳翔や龍驤でも十分に着艦可能であり、艦上戦闘機としての利用に問題が無いとは思われるのだが、古谷一飛曹の言い分が正しければ、これもパイロットの技量次第の部分がかなりあるようだ。
四菱の試作機「A6M1」の着陸速度は100キロ以下なのに、一方のルー101の着陸速度は140キロ前後になるために一瞬の判断ミスで140mと仮定された飛行甲板の範囲を飛び出してしまう危険があるそうだ。
古谷一飛曹は自分の腕が悪いと嘆いていたが、生憎と海軍に居る他のパイロットも現状では同様の技量の筈なのである。
高速機に慣れてしまえば或いは空母への着艦も容易にできるのかもしれないが、当面は様子見になるだろう。
20
あなたにおすすめの小説
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
神様、ありがとう! 2度目の人生は破滅経験者として
たぬきち25番
ファンタジー
流されるままに生きたノルン伯爵家の領主レオナルドは貢いだ女性に捨てられ、領政に失敗、全てを失い26年の生涯を自らの手で終えたはずだった。
だが――気が付くと時間が巻き戻っていた。
一度目では騙されて振られた。
さらに自分の力不足で全てを失った。
だが過去を知っている今、もうみじめな思いはしたくない。
※他サイト様にも公開しております。
※※皆様、ありがとう! HOTランキング1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※
※※皆様、ありがとう! 完結ランキング(ファンタジー・SF部門)1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました
御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。
でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ!
これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる