メルレールの英雄-クオン編-前編

朱璃 翼

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4部 女神の末裔編

喋る魔物3

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 長く家を空けるのもと思い、イリティスが帰宅したのは夕方だった。

 リーシュに心配をかけるかと思ったのと、村が心配というのもある。ここが襲われない保証はないのだ。

『変わった魔物だね。魔物と言っていいのかわからないけど』

「そうねぇ。あれは魔物と呼ぶのも違う気がするわ。シオンとグレンが気に入った意味もわかった気がするけど」

 最初に相手をすることになったあの二人は、さぞ驚いたことだろうと笑う。

 丸投げするように報告したと聞いていただけに、気持ちはわかるとイリティスは納得した。丸投げしたくなるだろう、あの性格では。

「呼び方が困るから、ずっと変わり者の魔物と呼んでるけど」

 なにか呼び方を考えるべきかも、と思ってしまった。

「まぁ、それは追々ね。今の問題ではないし、ブライもしばらくは警戒してくれるそうよ」

 太陽の輝きは必ず帰ってくると、ブライは信じている。同時に、月神が戻ってくることも確信しているようではあったが、そこには触れない。

 シオンが望まない結果だからだ。

 それとなく東にはグレンがいることを伝えたので、今頃は別の場所に行っている可能性が高いだろうブライ。どこを守ってくれるかはわからないが、間違って討伐されないことを願いたいものだ。

「それ、セルティに伝えておきましょうか? そうすれば、誤って討伐される可能性は低くなるのではないでしょうか」

 話を聞いていたリーシュが言えば、イリティスとシャンルーンは顔を見合わせる。

 どうしようか、と視線だけで会話をしているのだ。

「話せばわかる魔物だし、シュトラウス家ならある程度は把握しているのではないかしら」

『ルーンもそう思うけど、万が一もあるよ』

「そうね」

 正直なところ、今は誤って討伐されるということは避けたいところ。

 外のことを察知することもできるようだし、目が届かないところで外からの魔物を倒してくれている。

 それなりに強い魔物ではあるが、なにがあるかわからない。傭兵組合に所属している者達は強いし、各地に散らばるハーフエルフやエルフ達もいる。

 魔物と見て討伐しようとする者は出てくるだろう。

 念のために伝えておこうと決めれば、リーシュは精霊に伝言を頼む。

「精霊で通じるの?」

 レアラの家系は精霊の声を聞くことができるが、シディの家系も聞けるのか。

 イリティスが不思議そうに問いかければ、その辺りは秘密だと誤魔化す。現状として言えることではないのだ。

「おそらく、イリティスお姉様になら言っても構わないと思うのですが、これは本人が話すまでは私からは言えません」

「わかったわ。とりあえず、精霊の伝言を受け止める手段があるということね」

 それなら問題はないと頷く。しっかりと伝言が伝わると彼女が言うなら、それを信じるだけだ。

「ありがとうございます」

「いいのよ。言えないことぐらい、誰にでもあるわ」

 特に、自分ではなく人の秘密となれば、言えなくて当然のことだ。勝手にばらしていいものではない。

 必要なことなら聞き出したかもしれないが、現状として必要なことでもないし、とイリティスは笑った。

(でも、精霊の伝言を聞ける手段って気になるわね)

 いつか会ったら聞いてみようと、心内に決める。

 ここまでくると、北へ渡った血族は優秀なのだと思うことができる。息子とはタイプが違うようだと。

「あら、返事が早いわね」

 伝言を頼んだばかりだというのに、すぐさま了承の返事が来たことに驚くイリティス。

 受け取ることができれば、当然ながら向こうから伝言をすることは簡単だ。見えない精霊へ巫女に頼むと言うだけで伝えてくれるのだから。

「本当ですね。今日はお休みだから、なにもしていないのかもしれません」

「休みの日に連絡を取り合っているのかしら」

「というか、休みを取っているようです。連絡を取る日は固定がいいとのことで」

 決めた日にセルティが休みを取っている。そうでもしないと、休みを取り忘れるという理由と、連絡を取る日ぐらい解放されたいという理由だと聞けば、イリティスは笑った。

「セルティが言うに、じゃじゃ馬女王なのだそうです」

「苦労していそうね……」

 けれど仕方ないのではないかと思う。バルスデ王国の王族は、グレン以降からだいぶ様変わりしてしまったのだから。

 ただ守られる女王ではいないだろうことは、容易に想像できる。

 困った国ね、と笑いながら紅茶を飲むイリティスに、リーシュは傭兵王も似た感じだったのだろうかと思うことにした。

「きっと、じっとしていてはくれない女王なのでしょう」

「そうだと思います。前にも遠征についてきて大変だったとぼやいていましたから」

 遠征という言葉に、イリティスの表情が少しばかり引きつる。さすがにそこまでやるとは思わなかったのだ。

 グレンでも遠征には出ようとしなかった。国を空けるわけにはいかないと、行きたい気持ちを堪えていたのだ。

「女王は双子ということで、留守にしても妹が代わりを務めてくれるそうです」

「……それ、グレンが知ったら羨ましがるわね」

 こんな手があったとは、思いもしなかったとイリティスが笑う。

 遠征に行きたがっていたグレンを知っているだけに、間違いなく羨ましいと思うことはわかる。抜けることはできたが、そうするとカロルにすべて任せることになるとやめたのだ。

 双子なら任せやすいだろう。同じ王族なのだから、周囲からもなにも言われない。

「久しぶりに、北へも行ってみようかしら」

 懐かしいな、と呟くイリティス。故郷ではないが、それでも大切な場だと思うのは仲間と出会った地だから。

 北へ行かなければ、グレンやアクアと出会うことはなかった。シオンとの関係もどうなっていたかわからないと思う。

 今とは違った関係になっていたかもしれない。

 いや、と思う。間違いなく、今この場にはいなかっただろう。シオンを一人にしていたと言い切れた。

「行かなくても、最終的には行くことになりそうだけど」

 この先は読めないが、この世界を守るためには北へ行くことになる。なぜかそんな気がしていた。

「そうですね。この事態が続くなら、北へ行くことも必要でしょう」

 戦力が必要となってくれば、北へ行くしか道はない。南に、この村には戦力がないのだから。

「それまでにシオンが戻ってくることを祈りましょう。あれがいれば、外なんて怖くないわ」

 太陽の輝きさえあれば、誰が相手であっても負けないと言い切れた。その力がではなく、その存在が傍にいるだけで、いくらでも頑張ることができるのだ。

 自分も、自分の仲間もとイリティスは笑った。






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