メルレールの英雄-クオン編-前編

朱璃 翼

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5部 よみがえる月神編

虹の記憶2

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「シオン?」

 反応が返ってこない兄の方を覗き込めば、視線はエルフの女性へ向けられたまま。一瞬、誰を見ているのかわからなかった。

「シオン! なにボケーッとしてるんだよ!」

「クスクス。どこへ行きたいの? 森の出口まで案内しましょうか?」

 二人を見ながら笑う女性の声に、リオン・アルヴァースはなにが起きたのか理解する。兄は見惚れたまま固まっているのだ。

 どうやら、あの美しいエルフへ一目惚れしたらしいと知り、酷く驚かされた。

 女神様にしか興味のなかった兄を惹きつけた存在。女神様と違う存在であるエルフに、兄は惚れてしまったのだ。

 自分とは違うのだと、思い知らされた瞬間でもある。

「ふーん…俺、リオン・アルヴァース。あんたは?」

 少し面白くなかった。兄を奪う存在が。

「イリティスよ。イリティス・シルヴァン」

 これが、七英雄の一人と出会った瞬間なのだとクオンは知る。ここから、歴史に名を残すこととなる仲間達と出会っていく。

 そして、その先には最初の悲劇が待っているのだ。七英雄達をどん底へ陥れる悲劇が。

 さっさと森を出てしまおうと思っていたリオン・アルヴァースは、新たな登場人物によって行動を変える。

 七英雄の一人である、リュークス・ユシル・ラーダの登場だ。

 イリティス・シルヴァンと親しげな姿を見たとき、面白くなってきたと思ってしまった。これなら兄を取られないとまで。

「急ぎではないなら、うちに寄っていかないかしら?」

「行く行く! ほら、シオン!」

「えっ、えー!? いいのかよ、リオン」

 自分達はやることがあるのだ。寄り道をしている場合ではない。

 視線が問いかけているが、どう見ても本心がそちらではなかった。

「大丈夫だろ。こいつらも休息がほしいだろうしな」

『みゅー!』

『みゅみゅ!』

 ピンク色の獣と水色の獣が嬉しそうに跳び上がれば、確かにそうだよな、とシオンも頷く。燃やされることも気にせずに休めるのなら、これほどいいことはない。

「楽しくなってきたな」

「全然楽しくない」

「しょうがないから、聞いてやるよ。イリティスー!」

「ちょっ、やめろよ!」

 走って行くリオン・アルヴァースに、慌てるシオン・アルヴァース。

 色々なことがあったが、それでもまだ、二人で笑い合えていた頃の懐かしい記憶。

 案内されたエルフの里で過ごしたのは、ほんのわずかなこと。兄は自分達がするべきことを忘れてはいない。一時の安らぎを得たら、すぐにでも出ると決めていた。

 だからだろうか。兄がどれだけイリティス・シルヴァンを気にかけていても、なんとも思わなくなったのだ。

 むしろ、ここから出るのだから、いる間ぐらいはと思ったぐらいだったが、邪魔が入るのも面白がっていた。

 そして、もう二度と会うことはないだろうと思いながら別れの日を迎えたのだ。それなのに、なぜか再び二人と会うことに。

「どうして…」

 突然目の前に現れた女性に、二人ともが思った。なぜここにいるのかと。

「よくわかったな、ここが」

 驚きで言葉の出ない兄の代わりに、リオン・アルヴァースが探るように見る。自分達の旅へ、彼女を連れて行くわけにはいかないのだ。

『リオン、虹の輝きだ』

 惚れている兄では無理だろうから、追い返そうと鋭く見たときのことだった。相棒となる聖獣が、探している力だと告げる。

 彼女から、女神の力である虹の輝きを感じると。

 突然のことに、二人とも思考が止まってしまう。リオン・アルヴァースが次に考えたのは、なぜ、ということだった。

 出会ったときには、相棒はまったく反応を示さなかったのに、なぜ今になって彼女が女神の力を持つと言うのか。自分達と出会ったことで、彼女が女神の力を得たのか、それとも目覚めたのかと考える。

「だから、追いかけて来たんだ。誰が来たくて来るか」

 不機嫌そうに言うリュークス・ユシル・ラーダは、一人では危険だとついてきた。

 外は魔物が出る。戦う術を持たない彼女が、一人で双子の元へ行けるわけがないと。

「リュークス……」

 事情を知っている原因は、イリティス・シルヴァンが話したからだ。彼にならいいと思って、話したのかもしれない。

 そして、彼女にそのことを告げたのは、金色に輝く聖鳥だった。

「この子はシャンルーンと言うそうよ」

『ルーン、イリティスのもの。イリティス、ルーンのもの』

 胸を張って言う小鳥に、その場が凍りつく。なぜか凍りついたのだ。

 原因はわかっている。シオン・アルヴァースとリュークス・ユシル・ラーダが睨みつけているのだ。

『ふえーん! この二人怖いよー!』

 わざとらしくイリティス・シルヴァンへ甘える姿に、二人が苛立ったように見る。

 この瞬間だけなぜか二人が協力体制になったな、とクオンは思いだす。困った二人だったと、思えたのだ。

「焼き鳥にしてやる!」

「捕まえるのは俺がやってやるから、焼くのはシオンだ」

 逃げ出した小鳥を追いかけ回す姿を見ながら、クスクスと笑うだけのイリティス・シルヴァン。

「俺だけか? この先、すっげぇ不安なの」

『お前だけじゃねぇ。俺もだ』

 このメンバーで旅をしていくことが不安だと言えば、同意するように聖獣が頷く。

 これで女神を助けられるのか。本当の目的を果たしてくれるのかと、水色の聖獣が呆れた。

「お前ら、ふざけんなら先行くぞ!」

 とりあえず、今日の野宿場所を探さなくてはいけないのだ。いつまでも鬼ごっこなどしていられない。

 次の瞬間、野宿と聞かされたリュークス・ユシル・ラーダが別の騒ぎを起こすのだったが、それもリオン・アルヴァースの一喝で止められることとなる。

 以降、彼はただただ苦労することとなった。

 想定外のことが起きたとしたら、兄とイリティス・シルヴァンが両想いだったことだろうか。

 次なる女神の力を探し出すのに、四人での旅は数年もかかった。なぜ見つからないのだろうかと思ったのは最初だけで、途中から疲れ切っていたリオン・アルヴァース。

「きれいな音だなぁ。なぁ、イリティス」

「えぇ、そうね」

 仲良く話しながら歩く二人に、不機嫌そうな表情で見ているのはリュークス・ユシル・ラーダだ。

 告白などしたわけではない。恋人同士ではないが、もう時間の問題だろうと思っている。わかっているからこそ、尚更に不機嫌なのだ。

「リュークスも、新しい出会い探せよ」

「うるさい」

 不貞腐れたようにそっぽを向く姿を見ながら、どうしたものかと思う。

 ここまできたら、さすがに兄を奪われるから嫌とも言えなくなっていたリオン・アルヴァース。むしろ、彼を見ているとその気持ちが消えていくほどだ。

「子供の頃から一緒だったんだぞ」

 簡単に諦められるか、と不貞腐れる姿は子供のようだと思う。どうにも、イリティス・シルヴァンへ依存しているようだ。





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