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アダムside
7話 嫌われたくない(13話後)
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今日はいつも行っている丘の上に行くことにした、シェリーは仕事のリズムに慣れるまでしばらく会えそうにないと言っていたが、最近の彼女の仕事ぶりからして、そろそろその感覚を掴めていそうだと感じていた。
だからこそ、最近は丘に行くときに今日はシェリーに会えるかもしれないなんて淡い期待を抱いていた。しかし、なかなか会うことはできなかった。だが、今日はここ最近見かけなかった人影がベンチに見える。
急いで丘へと駆け寄ると、それはシェリーの後ろ姿だった。シェリーがいるという嬉しさのあまり、後ろから彼女に声をかけた。
「シェリー! 久しぶり!」
そう声をかけたが、彼女は決して振り向かない。その瞬間、仕事場でのシェリーを思い出した。
彼女は仕事場では基本僕と話しをしないようにしているのが伝わってくる。気まぐれに挨拶をしたと思ったら、突然姿を消し、こちらから挨拶をしても返事をしないことが多い。
――今、仮面を外したこの状態でも彼女に無視されたらどうしよう。
立ち直れないかもしれない……。
そう考えただけで、恐怖心が募ってくる。
ここで引き返すべきが、思い切ってもう一声かけるべきか悩む。だが、シェリーは仮面をのけた僕しか知らないはずだ。仮面を付けた僕がアダムって知ってるだろうけど、アダムなんて名前は別に珍しくない。
――きっと大丈夫だ!
もう思い切って正面から声をかけよう!
バクバクとなる心臓の音に耐えながら、彼女の正面まで足を進め彼女を見た。すると、彼女は目を閉じられていた。その顔を見た瞬間、どっと安心の波が押し寄せてきた。
「はぁ~~~~~……あっ!」
安堵のあまりつい声が出てしまった。寝ている彼女を起こしてしまう! そう思い、急いで自身の口を手で塞いだ。
そして彼女を確認すると、彼女は目を閉じたままだった。
――良かったっ。
彼女を起こさずに済んだ。
それにしても、綺麗な顔だな……。
そう思いながら、彼女の顔に視線をやった。長いまつげに、自然と口角が上がった桃色の唇。夜のように綺麗なツヤのある瑠璃紺の髪色。今は閉じているが、その瞼が開くとオオカミのように美しいアンバーの目が見えるはずだ。
そんな気持ちよさそうに眠っている彼女を起こさないように、そっと彼女の横に腰を掛けた。そのつもりであったが、彼女はすぐに目を開けた。すると、目を開けるなり嬉しそうな笑顔で口を開いた。
「アダムっ! 会いたかった……!」
突然そう発言する彼女に嬉しさと驚きが込み上げたが、起こしてしまったという罪悪感も生じ、急いで彼女に告げた。
「シェリー! 後ろから声かけたんだけど気付いてなかったし、目も閉じてたから気持ちよさそうに眠ってるのかと……ごめん、起こしちゃった?」
そう声をかけると、彼女は焦った様子を見せすぐさま言葉を並び立てた。
「いや、アダムが起こしたわけじゃないの。眠ってたら急に目が覚めて……。でも、そしたらアダムがいたから、すっごく嬉しい!」
その言葉を聞いて、胸が躍った。久しぶりシェリーが僕に笑顔を向けてくれた。正直、シェリーよりも僕の方が嬉しい気持ちが勝っている気がする。
「僕もシェリーと久しぶりに話せて嬉しいよ」
そう告げたが、ふとこの笑顔は仕事場で見ることができないのかと思うと、急に虚しさが込み上げてきた。気分も少し落ち込む。すると、そんな僕を見かねて、彼女が問うてきた。
「アダム、久しぶりに会ったから色々話したいことはあるんだけど……それよりも、だいぶ元気が無さそうね? どうしたの? 心配よ……」
――いけない!
久しぶりの再会なのに、気を遣わせてしまった!
今すぐに話題を変えないと、と思い口を開いた。
「へ? 何で? どうして心配なんか……」
「だって、アダムなんか辛そうな顔してるから……何かあったの?」
作戦は失敗だった。しかも、何かあったのと悩みの原因であるシェリーから言われ、何と言葉を返せばよいか分からず、言葉に詰まってしまった。無理やり作った笑顔も、きっとひきつっているに違いない。
すると、僕の様子を見かねたのか、シェリーは提案をしてくれた。
「無理に話さなくて良いけど、友達としてアダムを助けたいわ。話してみない? そしたら、気分が晴れるかも!」
僕の素顔しか知らない彼女に嫌われたくない。だから、仮面を付けていることは言わずに、何とか落ち込んでいる理由を説明しよう。もしかしたら、シェリーの反応から考えを探れるかもしれない。
そう思い、シェリーに仮面のことは隠したまま悩みについて話してみることにした。
「実はさ、今職場の人に怖がられて避けられてて……」
そう言うと、彼女は予想外の言葉をかけてきた。
「あなたみたいな、優しさの塊みたいな人が怖いですって!? どうして!? 信じられないし有り得ないわ……!」
張本人の彼女が言ったこの発言に、僕はどんな反応をしたら良いのかが分からず困惑してしまった。それと同時に、この説明だけでは彼女だけが悪者のようになると思い、補足を咥えた。
「いや、決してその人が悪いわけじゃないんだ。僕がその人にとって怖いと思うことをしちゃってるから……」
「怖いこと? いったい何をしたら、あなたが避けられるようなことになるの?」
――しまった。
仮面のことは言う勇気が無い。
だけど、怖いことが何なのかの説明をするなら仮面の話をしなければならない。
墓穴を掘ってしまったため、どうしようかと心の中で葛藤していると、シェリーが話しかけてきた。
「あなたはきっと悪いことをしてないと思うわ。ちょっとその人が変わってるのよ」
そう言われ、なおさら反応に困った。何で僕を問答無用で信じるんだろう。変わってるって言ってるその人物は、シェリー自身のことだけど。そんな考えが頭を巡る。
僕は締りのない、戸惑った顔をしているに違いない。そんな僕になおもシェリーは続けた。
「全然あなたが落ち込む必要なんてないわ。もう、あなたみたいな素敵な人を落ち込ませるなんて、どこの誰かしら?」
――君だよ!
そう心の中で思ったが、言えない。言えるわけがない。それに、僕が素敵な人だなんて言ってくれるのはシェリーくらいだ。嬉しさと恥ずかしさと困惑で、どんな顔をしたら良いのか分からず、自然と眉間に力が入る。
「本当に……僕が悪くないと思ってるの? 僕が何したかも、知らないのに……?」
あまりにも不思議に思い、シェリーにそう問いかけた。すると、シェリーは突飛な返しをしてきた。
「知らないわ。まさか……犯罪とか言う?」
「そんなわけないよ!」
つい反射的に答えると、シェリーは分かってたわよ、とでも言うように微笑んだ。そして、シェリーは独り言のように言葉を紡ぎ出した。
「でしょう? じゃあ、絶対にあなたが悪いことをしているなんて思えない。私はあなたのことを信じているもの。あなたは本っ当に素敵な人なのに、その人も罪な人ね。こんなにあなたを困らせるなんて」
そう言うと、彼女はフンッと怒った様子で、僕のことを見ながら腕を組んで話を続ける。
「そもそも、そんな悪人があんなに綺麗な花を育てられるとでも? あなたは優しいし面白いから、きっとその人もあなたのその魅力に―――」
――もう限界だ……!
そう思い、僕は何とか彼女を止めようとシーと子どもを宥めるように、口の前に人差し指を立てて言った。
「それ以上、言わないでっ」
そう言うと、彼女は虚を突かれたように驚いた顔をして、話しを止めてくれた。自分でも顔に熱が集中していることが分かる。きっと真っ赤だろう。そんな状態のまま、彼女に告げた。
「……照れるから」
そう言うと、彼女も瞬時に顔を赤く染めあげた。そんな彼女を見ると、胸がドキドキする。そして、照れている彼女が今まで見た彼女の中で、最大級にかわいく見えた。
――ドキドキが止まらない。
どうしよう!?
シェリーに聞こえてないかな?
聞こえてたら絶対に引かれる……。
まずいことになったと思っていると、彼女は弾丸のごとく怒涛の勢いで話し出した。
「ご、ごめんなさい! アダム! 私ったら気が利かなくて、本音とはいえベラベラ喋り過ぎちゃった! きょ、今日はそろそろ帰るね!」
シェリーといるのは楽しいが、正直今回ばかりは帰ると知り安心した。そのため、何とか言葉を捻り出して告げた。
「う、嬉しかった……。ありがとう!」
「そ、それなら良かった! じゃあ、か、帰るねっ!」
帰るという彼女に手を振りながら、心臓の鼓動を何とか押し殺しながら話しかけた。
「シェリーのおかげで仕事頑張れそうだよ。気を付けて帰ってね。シェリーの仕事も応援してるよ」
「うん、ありがとう! バイバイ!」
そう言う彼女は、ずっと僕の方を見ながら手を振ってくれた。そして、互いの声が聞こえないくらいの距離になると、彼女はようやく前を向いて歩きだした。
彼女が完全に見えなくなり、1人ベンチに座り直した。そして、彼女が座っていた方の背もたれを撫でた。
――って、僕気持ち悪すぎだろ!?
何で背もたれなんて撫でてるんだ!?
自分の無意識の内の行動に、ある考えが浮かんでくる。一度そのことを忘れようと思い、別のことに意識を集中させようとするが、今度は先程の彼女の言葉が頭から離れない。
ここにいるから思い出してしまうんだと思い家に帰り花を見て、また彼女を思い出してしまう。家の中に入れば安全かと思いきや、ベッドに入って寝ようとしても、ドキドキして全然眠れない。
やっと眠れたかと思いきや、目が覚めて今日は仕事かと思うと彼女がまた頭を支配する。ここまで来たら、もう僕は自分の気持ちを認めざるを得なかった。
――シェリーのことがこんなに好きになってたなんて……。
次会ったらどうしよう!
もう完全に恋に落ちてしまった。
だからこそ、仮面の男の正体を明かせないと思った。その理由はただ1つ、彼女に嫌われたくないからだ。
取り敢えず、どんな気持ちであれ、仕事はしなければならない。そこは割り切ろう。そう気持ちを持ち直して、出勤した。
シェリーへの恋心を自覚して以来、初めて職場で彼女に会う。バクバクとなる心臓を鳴らし、少し浮足立ちながら出勤したが、現実はそう甘くはなかった。
次の日も、その次の日も、またまた次の日も彼女の態度が今以上に変わることは無かった。
だからこそ、最近は丘に行くときに今日はシェリーに会えるかもしれないなんて淡い期待を抱いていた。しかし、なかなか会うことはできなかった。だが、今日はここ最近見かけなかった人影がベンチに見える。
急いで丘へと駆け寄ると、それはシェリーの後ろ姿だった。シェリーがいるという嬉しさのあまり、後ろから彼女に声をかけた。
「シェリー! 久しぶり!」
そう声をかけたが、彼女は決して振り向かない。その瞬間、仕事場でのシェリーを思い出した。
彼女は仕事場では基本僕と話しをしないようにしているのが伝わってくる。気まぐれに挨拶をしたと思ったら、突然姿を消し、こちらから挨拶をしても返事をしないことが多い。
――今、仮面を外したこの状態でも彼女に無視されたらどうしよう。
立ち直れないかもしれない……。
そう考えただけで、恐怖心が募ってくる。
ここで引き返すべきが、思い切ってもう一声かけるべきか悩む。だが、シェリーは仮面をのけた僕しか知らないはずだ。仮面を付けた僕がアダムって知ってるだろうけど、アダムなんて名前は別に珍しくない。
――きっと大丈夫だ!
もう思い切って正面から声をかけよう!
バクバクとなる心臓の音に耐えながら、彼女の正面まで足を進め彼女を見た。すると、彼女は目を閉じられていた。その顔を見た瞬間、どっと安心の波が押し寄せてきた。
「はぁ~~~~~……あっ!」
安堵のあまりつい声が出てしまった。寝ている彼女を起こしてしまう! そう思い、急いで自身の口を手で塞いだ。
そして彼女を確認すると、彼女は目を閉じたままだった。
――良かったっ。
彼女を起こさずに済んだ。
それにしても、綺麗な顔だな……。
そう思いながら、彼女の顔に視線をやった。長いまつげに、自然と口角が上がった桃色の唇。夜のように綺麗なツヤのある瑠璃紺の髪色。今は閉じているが、その瞼が開くとオオカミのように美しいアンバーの目が見えるはずだ。
そんな気持ちよさそうに眠っている彼女を起こさないように、そっと彼女の横に腰を掛けた。そのつもりであったが、彼女はすぐに目を開けた。すると、目を開けるなり嬉しそうな笑顔で口を開いた。
「アダムっ! 会いたかった……!」
突然そう発言する彼女に嬉しさと驚きが込み上げたが、起こしてしまったという罪悪感も生じ、急いで彼女に告げた。
「シェリー! 後ろから声かけたんだけど気付いてなかったし、目も閉じてたから気持ちよさそうに眠ってるのかと……ごめん、起こしちゃった?」
そう声をかけると、彼女は焦った様子を見せすぐさま言葉を並び立てた。
「いや、アダムが起こしたわけじゃないの。眠ってたら急に目が覚めて……。でも、そしたらアダムがいたから、すっごく嬉しい!」
その言葉を聞いて、胸が躍った。久しぶりシェリーが僕に笑顔を向けてくれた。正直、シェリーよりも僕の方が嬉しい気持ちが勝っている気がする。
「僕もシェリーと久しぶりに話せて嬉しいよ」
そう告げたが、ふとこの笑顔は仕事場で見ることができないのかと思うと、急に虚しさが込み上げてきた。気分も少し落ち込む。すると、そんな僕を見かねて、彼女が問うてきた。
「アダム、久しぶりに会ったから色々話したいことはあるんだけど……それよりも、だいぶ元気が無さそうね? どうしたの? 心配よ……」
――いけない!
久しぶりの再会なのに、気を遣わせてしまった!
今すぐに話題を変えないと、と思い口を開いた。
「へ? 何で? どうして心配なんか……」
「だって、アダムなんか辛そうな顔してるから……何かあったの?」
作戦は失敗だった。しかも、何かあったのと悩みの原因であるシェリーから言われ、何と言葉を返せばよいか分からず、言葉に詰まってしまった。無理やり作った笑顔も、きっとひきつっているに違いない。
すると、僕の様子を見かねたのか、シェリーは提案をしてくれた。
「無理に話さなくて良いけど、友達としてアダムを助けたいわ。話してみない? そしたら、気分が晴れるかも!」
僕の素顔しか知らない彼女に嫌われたくない。だから、仮面を付けていることは言わずに、何とか落ち込んでいる理由を説明しよう。もしかしたら、シェリーの反応から考えを探れるかもしれない。
そう思い、シェリーに仮面のことは隠したまま悩みについて話してみることにした。
「実はさ、今職場の人に怖がられて避けられてて……」
そう言うと、彼女は予想外の言葉をかけてきた。
「あなたみたいな、優しさの塊みたいな人が怖いですって!? どうして!? 信じられないし有り得ないわ……!」
張本人の彼女が言ったこの発言に、僕はどんな反応をしたら良いのかが分からず困惑してしまった。それと同時に、この説明だけでは彼女だけが悪者のようになると思い、補足を咥えた。
「いや、決してその人が悪いわけじゃないんだ。僕がその人にとって怖いと思うことをしちゃってるから……」
「怖いこと? いったい何をしたら、あなたが避けられるようなことになるの?」
――しまった。
仮面のことは言う勇気が無い。
だけど、怖いことが何なのかの説明をするなら仮面の話をしなければならない。
墓穴を掘ってしまったため、どうしようかと心の中で葛藤していると、シェリーが話しかけてきた。
「あなたはきっと悪いことをしてないと思うわ。ちょっとその人が変わってるのよ」
そう言われ、なおさら反応に困った。何で僕を問答無用で信じるんだろう。変わってるって言ってるその人物は、シェリー自身のことだけど。そんな考えが頭を巡る。
僕は締りのない、戸惑った顔をしているに違いない。そんな僕になおもシェリーは続けた。
「全然あなたが落ち込む必要なんてないわ。もう、あなたみたいな素敵な人を落ち込ませるなんて、どこの誰かしら?」
――君だよ!
そう心の中で思ったが、言えない。言えるわけがない。それに、僕が素敵な人だなんて言ってくれるのはシェリーくらいだ。嬉しさと恥ずかしさと困惑で、どんな顔をしたら良いのか分からず、自然と眉間に力が入る。
「本当に……僕が悪くないと思ってるの? 僕が何したかも、知らないのに……?」
あまりにも不思議に思い、シェリーにそう問いかけた。すると、シェリーは突飛な返しをしてきた。
「知らないわ。まさか……犯罪とか言う?」
「そんなわけないよ!」
つい反射的に答えると、シェリーは分かってたわよ、とでも言うように微笑んだ。そして、シェリーは独り言のように言葉を紡ぎ出した。
「でしょう? じゃあ、絶対にあなたが悪いことをしているなんて思えない。私はあなたのことを信じているもの。あなたは本っ当に素敵な人なのに、その人も罪な人ね。こんなにあなたを困らせるなんて」
そう言うと、彼女はフンッと怒った様子で、僕のことを見ながら腕を組んで話を続ける。
「そもそも、そんな悪人があんなに綺麗な花を育てられるとでも? あなたは優しいし面白いから、きっとその人もあなたのその魅力に―――」
――もう限界だ……!
そう思い、僕は何とか彼女を止めようとシーと子どもを宥めるように、口の前に人差し指を立てて言った。
「それ以上、言わないでっ」
そう言うと、彼女は虚を突かれたように驚いた顔をして、話しを止めてくれた。自分でも顔に熱が集中していることが分かる。きっと真っ赤だろう。そんな状態のまま、彼女に告げた。
「……照れるから」
そう言うと、彼女も瞬時に顔を赤く染めあげた。そんな彼女を見ると、胸がドキドキする。そして、照れている彼女が今まで見た彼女の中で、最大級にかわいく見えた。
――ドキドキが止まらない。
どうしよう!?
シェリーに聞こえてないかな?
聞こえてたら絶対に引かれる……。
まずいことになったと思っていると、彼女は弾丸のごとく怒涛の勢いで話し出した。
「ご、ごめんなさい! アダム! 私ったら気が利かなくて、本音とはいえベラベラ喋り過ぎちゃった! きょ、今日はそろそろ帰るね!」
シェリーといるのは楽しいが、正直今回ばかりは帰ると知り安心した。そのため、何とか言葉を捻り出して告げた。
「う、嬉しかった……。ありがとう!」
「そ、それなら良かった! じゃあ、か、帰るねっ!」
帰るという彼女に手を振りながら、心臓の鼓動を何とか押し殺しながら話しかけた。
「シェリーのおかげで仕事頑張れそうだよ。気を付けて帰ってね。シェリーの仕事も応援してるよ」
「うん、ありがとう! バイバイ!」
そう言う彼女は、ずっと僕の方を見ながら手を振ってくれた。そして、互いの声が聞こえないくらいの距離になると、彼女はようやく前を向いて歩きだした。
彼女が完全に見えなくなり、1人ベンチに座り直した。そして、彼女が座っていた方の背もたれを撫でた。
――って、僕気持ち悪すぎだろ!?
何で背もたれなんて撫でてるんだ!?
自分の無意識の内の行動に、ある考えが浮かんでくる。一度そのことを忘れようと思い、別のことに意識を集中させようとするが、今度は先程の彼女の言葉が頭から離れない。
ここにいるから思い出してしまうんだと思い家に帰り花を見て、また彼女を思い出してしまう。家の中に入れば安全かと思いきや、ベッドに入って寝ようとしても、ドキドキして全然眠れない。
やっと眠れたかと思いきや、目が覚めて今日は仕事かと思うと彼女がまた頭を支配する。ここまで来たら、もう僕は自分の気持ちを認めざるを得なかった。
――シェリーのことがこんなに好きになってたなんて……。
次会ったらどうしよう!
もう完全に恋に落ちてしまった。
だからこそ、仮面の男の正体を明かせないと思った。その理由はただ1つ、彼女に嫌われたくないからだ。
取り敢えず、どんな気持ちであれ、仕事はしなければならない。そこは割り切ろう。そう気持ちを持ち直して、出勤した。
シェリーへの恋心を自覚して以来、初めて職場で彼女に会う。バクバクとなる心臓を鳴らし、少し浮足立ちながら出勤したが、現実はそう甘くはなかった。
次の日も、その次の日も、またまた次の日も彼女の態度が今以上に変わることは無かった。
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