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七 平行世界から、ラブラブな俺たちがやって来たので、人外は「……」ともの言いたげにこちらを凝視している事件
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この間は、パラレル・ワールドから、ストレートな物言いのダリオとテオドールがやってきたが、それなりに恩恵を受けたこちらの世界のダリオである。
あれ以来、テオドールが撫でて欲しそうにしている気がしたら、「撫でるか?」と一応聞いている。
できるだけ館内でしかしないようにしているのだが、本日は違った。
イーストシティ大学に来たテオドールが、勝手に自分についてきて迷子になった子どもを親元に届けてきたというので、おお、と感心し、その場で撫で撫でとしてしまったのだ。
カフェテラスの近くの席に、友人と一緒に座ってお茶をしていたらしいエヴァが、ぐりんと上半身をひねって振り返り、「は?」と言った。しばし顎を落とすように絶句した後、尋ねて来る。
「なんなの? なんであたしの前でイチャイチャするの? 何の罰? あたし前世で何したの?」
目つきが胡乱になってきたエヴァに、テオドールが言う。
「エヴァさん、振り返らなければ目に入らなかったはずです。目の前とおっしゃるのは正確性を欠いています。冷静さも失われているようですので、落ち着いてください」
「はああああああ? お黙りなさい!!!! このっ、こ、この、血も涙もない冷血漢が!!!」
「自己申告した覚えはありませんが、よくご存じですね。さすがエヴァさんです。しかしながら、血も涙も疑似的に再現可能なので、ご希望であればお見せできますが」
「あんた、あんたねえっ」
わなわなとするエヴァに、むしろめちゃくちゃ仲いいだろお前ら……とダリオは思った。
「エヴァ、テオが自分について来た迷子の子ども、ちゃんと親元に届けたみたいだし、やっぱりこういうのはその場で褒めないとよくないと思うんだよ。その場で褒めて、テオに考えてもらう方がいいと思ってな」
「子どものしつけか」
無の表情で、エヴァが突っ込んだ。
「うーん、当たらずとも遠からずのような」
「エヴァさん、ダリオさんは僕がかわいいので撫でるのです」
「もう本当に黙ってくんない?」
エヴァはダリオの方を向いて、失礼にもテオドールを指さした。
「テオドールくん、自分のこと愛らしい生き物自認になってない?」
ダリオは少し黙って記憶を振り返った。撫でてほしそうな時に、確認してから撫でただけだ。特に何もしていない……こともない? クソヤバ人外が、もしかして僕はかわいいのでは? という自己認識を持つにいたるまで、育てた自分の言動メモリーが走馬灯のようにダリオの脳裏を駆け抜ける。
「あー……うん。そういや、かわいい、かわいいって褒めたわ」
好きと言えない分、ついつい、かわいいなーと過剰に言いながら撫でてたわ。ダリオは認めた。テオドールも真顔で頷く。
「はい、僕は愛らしい生き物です」
「ほんと黙ってくんない?」
ぎゃあぎゃあと騒いでいる二人を後目に、ダリオはコーヒーを口にした。ふと、講堂から、一人のハイブランドなスーツを身につけた男性がこちらに向かってやってくるのが見えた。何やら見覚えがあると思えば、テオドールがよく着用している高級ブランド『VANP』のスーツではないだろうか。
そういえば、今日は国際部が、外部からその『VANP』のメインデザイナー兼役員の講師を招いて特別講義を行っていたはずだ。受講希望者が多くて、講堂での講義となったと聞いている。
というか、その講師本人ではなかろうか?
「ああっ、私のミューズ!」
こちらのテーブルまでやってきた『VANP』のド派手なスーツの男性は、感激するようにテオドールの前で跪いた。
「こんなところでお会いできるとは! 私の差し上げたオートクチュールスーツからオックスフォードシューズまでなにもかもあまりにも似合い過ぎている!! 素晴らしい! 日常空間で、これほど着こなしてもらえるとは、デザイナー冥利に尽きる! 太陽神に感謝を!!!」
もう死んでもいい!! と叫んで、彼はその場で号泣を始めた。髭の生えた伊達男スタイルの中年男性が、おいおいと泣いている。
「テオ……」
お前の知り合いっぽいけど、とダリオが視線を投げやると、テオドールはしばらく沈黙し、「?」と首を傾げた。
あ、これ個体認識していないやつ……とダリオは思った。
「お前さ、ものもらっときながらそれはどうなんだ……てか毎回どうやってもらってたんだよ……」
「歩いていると、服を持って出現するので……」
エンカウントするモンスター認識レベルで、泣けてきた。ゲームのモンスターも倒すと、アイテムを落とすが、本当にそれはどうなんだ。
「うっ、うっ、も、もしやあなたは、ミューズの知人? 彼の名前はテオ? な、なんという美しい響き……私はもう死にます」
「名前も教えてねーとか……」
ダリオは心からドン引きした。そもそもどうやってオートクチュールを作ったんだ。ダリオの疑問を何故か読み取れたらしいテオドールから補足が入った。
「大量に服を作ってくれるというので、最初にサイズを教えました」
「ああそう……」
「彼の作る服は着心地がいいので気に入っています」
「死にます」
泣いていた男性が、しまいには真顔になって死亡宣言したので、ダリオは死ぬ気で止めた。落ち着いたらしい男性は、やはり『VANP』の役員で、筆頭デザイナーであるエリック・ヴァンプであることがわかった。彼はダリオの差し出したハンカチで顔をぬぐいながら、不意にダリオを凝視して停止した。
「どうかされましたか?」
「おお……ミューズ……ミューズの半身……」
「は、はあ」
「欠けたる月神と対になる魂の輝き……オーラを感じます」
「ああ、はい。そういうのは間に合ってますんで」
「お待ちください! 私はあやしいものではない! デザイナーです!」
「はあ、そうっすね。みんなそう言うんですよ」
「インっスピレーションが! わいてきました! まるで泉のように! おお、どうか私にあなたの服を作らせてください! ミューズたる月神と対のそれがイメージで浮かぶのです。どうか、どうか、着て……モデルに……おおおおおお」
悪霊でも憑依したように、突如ぶるぶると震えだし、縋りつこうとしてくる。テオドールが何かしてくる前に、「ストップ」と制止だけはしておいた。
クソヤバ人外とクソヤバ憑依状態のデザイナーの間で、ダリオはどうやってこの人落ち着かせようかと冷静に試算していたが、考えるまでもなかった。講堂から慌てた様子でエリック・ヴァンプのマネージャーらしき人がやって来たので、全部丸投げすることに決めたのだった。
あれ以来、テオドールが撫でて欲しそうにしている気がしたら、「撫でるか?」と一応聞いている。
できるだけ館内でしかしないようにしているのだが、本日は違った。
イーストシティ大学に来たテオドールが、勝手に自分についてきて迷子になった子どもを親元に届けてきたというので、おお、と感心し、その場で撫で撫でとしてしまったのだ。
カフェテラスの近くの席に、友人と一緒に座ってお茶をしていたらしいエヴァが、ぐりんと上半身をひねって振り返り、「は?」と言った。しばし顎を落とすように絶句した後、尋ねて来る。
「なんなの? なんであたしの前でイチャイチャするの? 何の罰? あたし前世で何したの?」
目つきが胡乱になってきたエヴァに、テオドールが言う。
「エヴァさん、振り返らなければ目に入らなかったはずです。目の前とおっしゃるのは正確性を欠いています。冷静さも失われているようですので、落ち着いてください」
「はああああああ? お黙りなさい!!!! このっ、こ、この、血も涙もない冷血漢が!!!」
「自己申告した覚えはありませんが、よくご存じですね。さすがエヴァさんです。しかしながら、血も涙も疑似的に再現可能なので、ご希望であればお見せできますが」
「あんた、あんたねえっ」
わなわなとするエヴァに、むしろめちゃくちゃ仲いいだろお前ら……とダリオは思った。
「エヴァ、テオが自分について来た迷子の子ども、ちゃんと親元に届けたみたいだし、やっぱりこういうのはその場で褒めないとよくないと思うんだよ。その場で褒めて、テオに考えてもらう方がいいと思ってな」
「子どものしつけか」
無の表情で、エヴァが突っ込んだ。
「うーん、当たらずとも遠からずのような」
「エヴァさん、ダリオさんは僕がかわいいので撫でるのです」
「もう本当に黙ってくんない?」
エヴァはダリオの方を向いて、失礼にもテオドールを指さした。
「テオドールくん、自分のこと愛らしい生き物自認になってない?」
ダリオは少し黙って記憶を振り返った。撫でてほしそうな時に、確認してから撫でただけだ。特に何もしていない……こともない? クソヤバ人外が、もしかして僕はかわいいのでは? という自己認識を持つにいたるまで、育てた自分の言動メモリーが走馬灯のようにダリオの脳裏を駆け抜ける。
「あー……うん。そういや、かわいい、かわいいって褒めたわ」
好きと言えない分、ついつい、かわいいなーと過剰に言いながら撫でてたわ。ダリオは認めた。テオドールも真顔で頷く。
「はい、僕は愛らしい生き物です」
「ほんと黙ってくんない?」
ぎゃあぎゃあと騒いでいる二人を後目に、ダリオはコーヒーを口にした。ふと、講堂から、一人のハイブランドなスーツを身につけた男性がこちらに向かってやってくるのが見えた。何やら見覚えがあると思えば、テオドールがよく着用している高級ブランド『VANP』のスーツではないだろうか。
そういえば、今日は国際部が、外部からその『VANP』のメインデザイナー兼役員の講師を招いて特別講義を行っていたはずだ。受講希望者が多くて、講堂での講義となったと聞いている。
というか、その講師本人ではなかろうか?
「ああっ、私のミューズ!」
こちらのテーブルまでやってきた『VANP』のド派手なスーツの男性は、感激するようにテオドールの前で跪いた。
「こんなところでお会いできるとは! 私の差し上げたオートクチュールスーツからオックスフォードシューズまでなにもかもあまりにも似合い過ぎている!! 素晴らしい! 日常空間で、これほど着こなしてもらえるとは、デザイナー冥利に尽きる! 太陽神に感謝を!!!」
もう死んでもいい!! と叫んで、彼はその場で号泣を始めた。髭の生えた伊達男スタイルの中年男性が、おいおいと泣いている。
「テオ……」
お前の知り合いっぽいけど、とダリオが視線を投げやると、テオドールはしばらく沈黙し、「?」と首を傾げた。
あ、これ個体認識していないやつ……とダリオは思った。
「お前さ、ものもらっときながらそれはどうなんだ……てか毎回どうやってもらってたんだよ……」
「歩いていると、服を持って出現するので……」
エンカウントするモンスター認識レベルで、泣けてきた。ゲームのモンスターも倒すと、アイテムを落とすが、本当にそれはどうなんだ。
「うっ、うっ、も、もしやあなたは、ミューズの知人? 彼の名前はテオ? な、なんという美しい響き……私はもう死にます」
「名前も教えてねーとか……」
ダリオは心からドン引きした。そもそもどうやってオートクチュールを作ったんだ。ダリオの疑問を何故か読み取れたらしいテオドールから補足が入った。
「大量に服を作ってくれるというので、最初にサイズを教えました」
「ああそう……」
「彼の作る服は着心地がいいので気に入っています」
「死にます」
泣いていた男性が、しまいには真顔になって死亡宣言したので、ダリオは死ぬ気で止めた。落ち着いたらしい男性は、やはり『VANP』の役員で、筆頭デザイナーであるエリック・ヴァンプであることがわかった。彼はダリオの差し出したハンカチで顔をぬぐいながら、不意にダリオを凝視して停止した。
「どうかされましたか?」
「おお……ミューズ……ミューズの半身……」
「は、はあ」
「欠けたる月神と対になる魂の輝き……オーラを感じます」
「ああ、はい。そういうのは間に合ってますんで」
「お待ちください! 私はあやしいものではない! デザイナーです!」
「はあ、そうっすね。みんなそう言うんですよ」
「インっスピレーションが! わいてきました! まるで泉のように! おお、どうか私にあなたの服を作らせてください! ミューズたる月神と対のそれがイメージで浮かぶのです。どうか、どうか、着て……モデルに……おおおおおお」
悪霊でも憑依したように、突如ぶるぶると震えだし、縋りつこうとしてくる。テオドールが何かしてくる前に、「ストップ」と制止だけはしておいた。
クソヤバ人外とクソヤバ憑依状態のデザイナーの間で、ダリオはどうやってこの人落ち着かせようかと冷静に試算していたが、考えるまでもなかった。講堂から慌てた様子でエリック・ヴァンプのマネージャーらしき人がやって来たので、全部丸投げすることに決めたのだった。
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