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番外 七 マルチバース 不仲世界編
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不仲世界編は、全七話、原稿完結済みのものを掲載予定です。本編のスピンアウトになるマルチバースの話です。後にラブコメっぽくなるかもですが、不仲もゆえあってから始まるので、割と真面目? に関係修復にあたって背景から入ってく感じになるので、大丈夫な方はどうぞです。なおハピエンでくっつきます。脇役ですが、性被害事件の話も出て来るのでご注意ください。
□□□
これは、ダリオ・ロータスと、彼にテオドールと名づけられることになる青年が、邂逅当初に小さな『相違』によって、不仲となってしまった世界線の物語である。
ダリオ・ロータスは、不幸、不憫、というより、とにかくちょっとばかり『間の悪い』青年だった。
学業で必須となる教本の予約をしっかり行っていたにも関わらず、手違いで予約していなかった学生に『在庫分』として譲られ、受け取りに行ったら彼の予約分がなかったとか。インフルエンザワクチンを受けに行ったら、やっぱり手違いで彼の予約分が使われてしまい、半月後に再予約してその間にインフルエンザにかかったりとか。
本人はしっかり手配しているのだが、なんだかんだ人為的ミスや間の悪さで、本来こうむらなくてよかっただろう損をひっかぶる羽目になる。
その上、やっぱり大学の学生寮に申し込んでいたはずなのに、どういうわけか彼の申し込みはなかったことになっていて、そもそも抽選自体に滑り込めなかったとか。
そういうわけで、施設育ちの貧困学生のダリオは、たてつけの悪い格安アパートの三〇二号室に住まい、現在はインフルエンザで、寝返りを打つたびギシギシいう寝台の住人だった。口に水銀の体温計を咥え、ぐんぐんと伸びる銀色の液体に、うわー終わった……と目がどんより死んでいく。
今月のバイトは全部壊滅だ。連絡はいれているが、下手をしたら首を切られる。奨学金ももらっているし、贅沢な暮らしはしていないのだが、間の悪いことが度重なって、金銭的にかなりきつい状態になっている。俺の生活ぎりぎり過ぎるだろ……とさすがのダリオも病から気が落ち込んだ。
「寝よう」
体力はそこそこあるはずなのだが、栄養状態が悪くてインフルエンザが長引くかもしれない。できることは水分補給をして、寝るしかないとダリオは目をつぶった。
更なる『間の悪さ』がダリオを襲った。
ダリオが後にテオドールと名づけることになる、人外の魔性の青年が、この時うんうんと熱にうなされるダリオの元を一瞬訪れ、見事に体調を『激悪化』させたのである。
ただの悪化ではない。激烈に悪化させた。
この時点まだ名無しの人外魔性の青年は、彼の唯一の『花』であるダリオの元に現れるや、現実に様々な影響を及ぼす自身の力をまだコントロールできず、見事にダリオの体調を底抜けに悪化させ、彼なりに慌てて退避したのだった。
この間の悪さは、後に飛躍的に二人の関係をも悪化させた。
つまり、異次元の存在である青年は、ダリオと接触することで学び得た『不合理な人理』とやらを思いっきり学習しそこねたのだ。
その状態で、イーストシティの暗部の人間たちと次に接触し、やたら拝まれたり恐れられたり奴隷志願のマフィアやなんやに下にも置かぬ扱いを受けた。男は青年を恐怖し崇拝し、女は彼の人の領分を越えた美しさに狂乱して家に連れ帰ろうとした。時に、これは男女で真逆ともなったが、青年は冷ややかな目で彼らを見るだけであり、人間というものを学習し続けるにとどめた。
また、同時に、この人間たちが、同じ人間相手にふるまう外道の行いもつぶさに観察することとなった。青年は冷淡かつ無関心にただ観察し、偏りまくった誤学習をした上で、二回目ダリオに会いに行ったのである。
もう一つ『間の悪い』気の毒な点は、ダリオがインフルエンザにかかって、苦しんでいたのを、この美しい青年は大いに重く受け止めていた点だろう。
最初の印象というものはかなり大きい。その上、未接触ながら、青年はダリオの間の悪さから及ぶ被害なども遠くから観察し、最終的にこう結論した。
――自分の『花』を、現世においておけない。安全な自分の領域で保護しよう。
つまり、ダリオのトラウマを狙って連弾爆撃しまくったわけではないが、結果としてそうなった。
ダリオ・ロータスの『間の悪い』気の毒な点二つ目は、幼少時より怪異にやたら好かれる性質だったことだ。相手の好意か何かしらないが、合意を得ずに問答無用で連れ去り監禁されまくってきたのである。命からがら何度も自力や運やで脱出してきたが、毎度もう次は脱出できないかもしれんという覚悟だけはやたら腹を括らされ、現実に戻れた後もしばらくはぐったりして生活がままならなくなる。
そういう意味で、人外の青年は、初手でダリオの体調を悪化させるわ(ダリオは熱で認識していないが)、二度目は保護という名目で、人外領域に監禁するわで、最悪の手を打ってしまったのだった。
当然ながら――ダリオは、青年を警戒し、当初においては恐怖し、誤解から青年が領域保護は最適解ではなかったと結論して解放した後も、存在を嫌った。
人はこれを自業自得という。
青年――テオドールは、最初よくわからなかった。安全な自己の領域に『ダリオさんをお連れして』保護したのに、関係が直球に最底辺を突き抜けて悪化したのだ。
これは種族的記憶――すなわち、かの『支配者』と呼ばれる異次元存在である彼ら種族――においては、珍しいことではなかった。
『支配者』は生まれながらにして、あるいは生まれる前から、魂の対となる『花』を持つ。『花』はおよそ、『支配者』に比して、非力な存在として発生することが多い。『支配者』であれば、己が発生する以前から、『花』の存在を嗅ぎ取ることができるが、『花』はそうではない。『花』は己が『花』であることも、『支配者』が運命であることも分からないのが通常確率的には高い。あらゆる感覚器官が、『支配者』に比べて非力なのである。
それゆえ、『支配者』にとって、『花』は試練ともなりうる運命であった。種族的な記憶では、邂逅時に恐怖され、敵対する確率はほぼ百パーセントで、関係悪化後に『支配者』が『花』を破壊することがほとんどだ。
そうなると、『支配者』は正気ではいられない。自らの手で『花』を蹂躙し、破壊しつくしておきながら、『発狂』するのである。
しかる後に、エネルギーがプラスへ膨張し、次には一点に時間と空間をマイナスに遡行していき、時空間をねじるようにして多次元ブラックホール化してしまうことさえ珍しくなかった。
こうなることは『支配者』にとっても望ましい事態ではなく、かといって『花』と良好な関係を築くのも成功者がいない。かろうじて、破壊する前に『距離』を取るといったあたりが、彼らの種族経験的『花』を自分から保護するための退避手段であった。
一方、テオドールは発生時より、自己の種族的深層学習を行っており、先達であるエルダーたちが『失敗』した理由もやむなしと心得ている。そのため、『花』の種族の人理を学ぶことで、彼らの価値観に沿う形での良好な関係を築こうとしたのだが、何故か先達同様、無様に大失敗した。
そもそも、『花』のダリオがインフルエンザでダウンしていたこと。そのため、彼と交流する機会を得ることなく、よりによってイーストシティの暗黒街面子から人間を観察学習進めてしまったこと。この世界のダリオが『間が悪くて』色々と理不尽にも見える被害を被ることが多く、またインフルエンザのダリオをテオドール自身が一瞬接触して体調を激烈悪化させてしまったこと。
数々の『間の悪さ』、『学習機会の喪失』、『誤学習』が相乗効果を発揮して、よりによってダリオを自己の領域に合意なく拉致監禁してしまったこと。
後にテオドールが、これらをすべて、よくなかった――と判断する頃には、もう関係は悪化するところまで悪化しきっていた。
つまり、ダリオはテオドールが少なくとも自分に危害を加える気はなく、ある程度話が通じると理解するようになっても、この人外の青年が現れると、嫌な顔をするか、露骨に存在を無視するようにまで不仲となっていたのである。
これは――『支配者』の青年にとっても、存外こたえる事態だった。
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これは、ダリオ・ロータスと、彼にテオドールと名づけられることになる青年が、邂逅当初に小さな『相違』によって、不仲となってしまった世界線の物語である。
ダリオ・ロータスは、不幸、不憫、というより、とにかくちょっとばかり『間の悪い』青年だった。
学業で必須となる教本の予約をしっかり行っていたにも関わらず、手違いで予約していなかった学生に『在庫分』として譲られ、受け取りに行ったら彼の予約分がなかったとか。インフルエンザワクチンを受けに行ったら、やっぱり手違いで彼の予約分が使われてしまい、半月後に再予約してその間にインフルエンザにかかったりとか。
本人はしっかり手配しているのだが、なんだかんだ人為的ミスや間の悪さで、本来こうむらなくてよかっただろう損をひっかぶる羽目になる。
その上、やっぱり大学の学生寮に申し込んでいたはずなのに、どういうわけか彼の申し込みはなかったことになっていて、そもそも抽選自体に滑り込めなかったとか。
そういうわけで、施設育ちの貧困学生のダリオは、たてつけの悪い格安アパートの三〇二号室に住まい、現在はインフルエンザで、寝返りを打つたびギシギシいう寝台の住人だった。口に水銀の体温計を咥え、ぐんぐんと伸びる銀色の液体に、うわー終わった……と目がどんより死んでいく。
今月のバイトは全部壊滅だ。連絡はいれているが、下手をしたら首を切られる。奨学金ももらっているし、贅沢な暮らしはしていないのだが、間の悪いことが度重なって、金銭的にかなりきつい状態になっている。俺の生活ぎりぎり過ぎるだろ……とさすがのダリオも病から気が落ち込んだ。
「寝よう」
体力はそこそこあるはずなのだが、栄養状態が悪くてインフルエンザが長引くかもしれない。できることは水分補給をして、寝るしかないとダリオは目をつぶった。
更なる『間の悪さ』がダリオを襲った。
ダリオが後にテオドールと名づけることになる、人外の魔性の青年が、この時うんうんと熱にうなされるダリオの元を一瞬訪れ、見事に体調を『激悪化』させたのである。
ただの悪化ではない。激烈に悪化させた。
この時点まだ名無しの人外魔性の青年は、彼の唯一の『花』であるダリオの元に現れるや、現実に様々な影響を及ぼす自身の力をまだコントロールできず、見事にダリオの体調を底抜けに悪化させ、彼なりに慌てて退避したのだった。
この間の悪さは、後に飛躍的に二人の関係をも悪化させた。
つまり、異次元の存在である青年は、ダリオと接触することで学び得た『不合理な人理』とやらを思いっきり学習しそこねたのだ。
その状態で、イーストシティの暗部の人間たちと次に接触し、やたら拝まれたり恐れられたり奴隷志願のマフィアやなんやに下にも置かぬ扱いを受けた。男は青年を恐怖し崇拝し、女は彼の人の領分を越えた美しさに狂乱して家に連れ帰ろうとした。時に、これは男女で真逆ともなったが、青年は冷ややかな目で彼らを見るだけであり、人間というものを学習し続けるにとどめた。
また、同時に、この人間たちが、同じ人間相手にふるまう外道の行いもつぶさに観察することとなった。青年は冷淡かつ無関心にただ観察し、偏りまくった誤学習をした上で、二回目ダリオに会いに行ったのである。
もう一つ『間の悪い』気の毒な点は、ダリオがインフルエンザにかかって、苦しんでいたのを、この美しい青年は大いに重く受け止めていた点だろう。
最初の印象というものはかなり大きい。その上、未接触ながら、青年はダリオの間の悪さから及ぶ被害なども遠くから観察し、最終的にこう結論した。
――自分の『花』を、現世においておけない。安全な自分の領域で保護しよう。
つまり、ダリオのトラウマを狙って連弾爆撃しまくったわけではないが、結果としてそうなった。
ダリオ・ロータスの『間の悪い』気の毒な点二つ目は、幼少時より怪異にやたら好かれる性質だったことだ。相手の好意か何かしらないが、合意を得ずに問答無用で連れ去り監禁されまくってきたのである。命からがら何度も自力や運やで脱出してきたが、毎度もう次は脱出できないかもしれんという覚悟だけはやたら腹を括らされ、現実に戻れた後もしばらくはぐったりして生活がままならなくなる。
そういう意味で、人外の青年は、初手でダリオの体調を悪化させるわ(ダリオは熱で認識していないが)、二度目は保護という名目で、人外領域に監禁するわで、最悪の手を打ってしまったのだった。
当然ながら――ダリオは、青年を警戒し、当初においては恐怖し、誤解から青年が領域保護は最適解ではなかったと結論して解放した後も、存在を嫌った。
人はこれを自業自得という。
青年――テオドールは、最初よくわからなかった。安全な自己の領域に『ダリオさんをお連れして』保護したのに、関係が直球に最底辺を突き抜けて悪化したのだ。
これは種族的記憶――すなわち、かの『支配者』と呼ばれる異次元存在である彼ら種族――においては、珍しいことではなかった。
『支配者』は生まれながらにして、あるいは生まれる前から、魂の対となる『花』を持つ。『花』はおよそ、『支配者』に比して、非力な存在として発生することが多い。『支配者』であれば、己が発生する以前から、『花』の存在を嗅ぎ取ることができるが、『花』はそうではない。『花』は己が『花』であることも、『支配者』が運命であることも分からないのが通常確率的には高い。あらゆる感覚器官が、『支配者』に比べて非力なのである。
それゆえ、『支配者』にとって、『花』は試練ともなりうる運命であった。種族的な記憶では、邂逅時に恐怖され、敵対する確率はほぼ百パーセントで、関係悪化後に『支配者』が『花』を破壊することがほとんどだ。
そうなると、『支配者』は正気ではいられない。自らの手で『花』を蹂躙し、破壊しつくしておきながら、『発狂』するのである。
しかる後に、エネルギーがプラスへ膨張し、次には一点に時間と空間をマイナスに遡行していき、時空間をねじるようにして多次元ブラックホール化してしまうことさえ珍しくなかった。
こうなることは『支配者』にとっても望ましい事態ではなく、かといって『花』と良好な関係を築くのも成功者がいない。かろうじて、破壊する前に『距離』を取るといったあたりが、彼らの種族経験的『花』を自分から保護するための退避手段であった。
一方、テオドールは発生時より、自己の種族的深層学習を行っており、先達であるエルダーたちが『失敗』した理由もやむなしと心得ている。そのため、『花』の種族の人理を学ぶことで、彼らの価値観に沿う形での良好な関係を築こうとしたのだが、何故か先達同様、無様に大失敗した。
そもそも、『花』のダリオがインフルエンザでダウンしていたこと。そのため、彼と交流する機会を得ることなく、よりによってイーストシティの暗黒街面子から人間を観察学習進めてしまったこと。この世界のダリオが『間が悪くて』色々と理不尽にも見える被害を被ることが多く、またインフルエンザのダリオをテオドール自身が一瞬接触して体調を激烈悪化させてしまったこと。
数々の『間の悪さ』、『学習機会の喪失』、『誤学習』が相乗効果を発揮して、よりによってダリオを自己の領域に合意なく拉致監禁してしまったこと。
後にテオドールが、これらをすべて、よくなかった――と判断する頃には、もう関係は悪化するところまで悪化しきっていた。
つまり、ダリオはテオドールが少なくとも自分に危害を加える気はなく、ある程度話が通じると理解するようになっても、この人外の青年が現れると、嫌な顔をするか、露骨に存在を無視するようにまで不仲となっていたのである。
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