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番外 二十一 友達と彼氏の話してたら彼氏が迎えに来て周りがシーンてなる話
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金曜日である。
工学部の友人、ダグラス・ポーカーが、涙目で「お願いします、俺の愚痴聞いてください……バーで奢るから、付き合ってください!」と、両手を合わせて頼んで来た。
ダリオはその日アルバイトも入っていなかったし、見た目は軟派な金髪長毛ダグラスが、メンタルはけっこう繊細なのは分かっていたので、「いいぞ」と二つ返事したのだった。
ダンスフロアも備えたバーは、金曜日から日曜日にかけて、大学生たちのパーティーの出入りが多い。
ひとまずダリオはテーブルについて、大学生たちのいつものやり方、ショットグラスをもらうと、話を聞くことにした。
ダグラスは、半泣きで訴える。
「俺のアルバイト先で激ヤバ男がいて、そいつとシフトが重なった時に最悪なんだよ、俺のメンタルボロボロのズタボロなんだよ、俺はイチャラブアニメが好きなのであって、現実で女の子妊娠させたとか、中絶の時に、お前は赤ちゃんを殺すのか⁉ 人殺しだなっ、て責めてやったとか、ガチ武勇伝みたいに言ってくるの。止めてよ! 俺ドン引きだよ!? 女の子かわいそうすぎるし、きついよぉおお!」
ダリオは黙って眉をひそめた。ダグラスもショットを飲み干しては、その激ヤバ男がどれだけ激ヤバなのか説明し、くだを巻く。
「俺、アニメとかでも、かわいそうなのはNGなの! 猟奇やだ! 死にネタ絶対NO! NO! NO! イチャイチャラブラブのライトノベルとアニメが大好き! あいつ嫌いッ、でも時給いいバイト止めたら、来月のラップトップの支払いできねえっ」
「そうか……ダグラスもラビット・ホールで働くか?」
「う、最後の手段にする……あそこ、お客様に女の人多くて、会話も多いんだろ」
「まあな。それか、おじさんにチップ渡されることもある」
「え、それどういう状況? ダリオ大丈夫なの?」
「……大丈夫だ」
「怖いんだけど⁉」
「まあ、会話苦手なら、無理には勧めない」
「うん……」
ダグラスは、現実の初対面女性の前だと「あっ、あっ、あっ」と挙動不審になる男だ。動けるデブを自称している同じく工学部生のチェン・ワンの方が、よほど女生徒とのコミュニケーションスキルがある。
ダリオは友達の愚痴を聞くのは苦でない性分なので、ダグラスの気が済むまでつき合った。
ダグラスは目を擦りながら、「うう、ダリオ、ありがとう……」と礼を言ってくる。
愚痴を聞いて下さいお願いしますと、聞いてくれてありがとうを言える友人なので、美点だなあと思いながら、頷いておいた。
「ヘーイ、グッドガイズ、話は終わったかあ?」
「我々も混ぜて欲しいのだ」
見計らっていたらしい、先ほど顔を思い浮かべていた自称動けるデブのチェン・ワンと、文学部のアリス・メイフィールドが寄って来た。
チェン・ワンは、白い肉まんに黒い毛が生えたような体型で、いつも野球プロチーム・ホーナーズのレッドキャップを被っている。本人の自称通りフットワークが軽い。アリス・メイフィールドは、子どもかと思うほど小柄で、焦げ茶のショートカットに、目に光のない独特な感じの女性だ。昨年手掛けた古語翻訳アプリケーションの翻訳部分においてだいぶ世話になった。
ちなみに、このメンバーが全員、マジック・アイテム・ショップ・トリックスターで闇のゲームに巻き込まれ、特にダグラスが酷い目にあった経緯がある。
四人で話していると、最後に、クラブ・ラビット・ホールの同僚、クリスがやって来て、「おや、みんなバーにいるなんて、珍しいね」と言って、自然に加わる。
五人も個性豊かな面子が集まると、話題はカオスだ。ヘルムートの悪口に始まり(あの人アドレス教えてないのに連絡が来る)、授業や手掛けている研究の話、ヘルムートの悪口(闇のゲームの招待状って何)、気になるアニメ、パソコンのスペック、携帯フォンの最新機種、ヘルムートの悪口(ダグラスは目をつけられてるからもう逃げられないかも→嫌だ!)、多岐に渡る(ヘルムートの悪口が一番多い)。そして、話題は恋愛へと変わった。
しばらくダリオはうんうん、と聞いていたのだが、何故かその矛先が回って来て、「ん?」となる。
「き、聞いちゃっていいのかな⁉」
ダグラスの声が上擦って、アリスが「落ち着け」と言う。
「別に構わないが、特になんもないぞ」
何も面白い話はないぞ、というニュアンスのつもりでダリオは口にしたのだが、ダグラスが両手を左右に開いて、ぶんぶん首を振る。
「いやいやいやいや、俺ずっと聞きたかったし! 特に何もねーことなさ過ぎだし⁉」
「まことに遺憾ながら、ダグラスに同意なのだ」
「まことに遺憾ながら⁉ なんで⁉」
アリス相手には騒がしいダグラスと、無表情にショットを口に運ぶアリスを他所に、チェンが口を開いた。
「俺も気になってたあ」
彼は顎を丸っこい白くもちもちした指で触りながら、ニッと目を細めて笑う。
「俺んち、移民系で、元は大陸の占い師の家系でよぉ。すんげーとんでもねーのダリオが連れて歩いてるじゃん。連れてっつーか、一方的にやべえのに憑かれて? って感じだったしな」
「あー、まあ……」
かなり初期の話かなと思うが、案外最近までかもしれない。人からどう見えているのかまでダリオは関知しなかった。
「大丈夫かよって思ってたら、なんかうまく行った? みたいで、安心してたけどな、ま、よかったら本人の口から聞きてえじゃん」
ほらよ、とチェンはダリオの空いたグラスにどぼどぼ酒を注ぐ。
「ま、友達が幸せですって報告聞きてえなってことよ」
「うむ、同じくなのだ」
アリスがこくりと頷いた。アリスにはアリスで何か見えていた風らしく、ダリオにストレートで質問してくる。
「我々から見ると、テオドール氏は大変恐ろしいのだ。ダリオ氏は、あの人のどういうところが好きなのだ?」
アリスが質問すると、周囲のテーブルからも聞き耳を立てるように会話が中断され、視線が集中したのだが、ダリオはその時あまり気づいていなかった。思うに、もうすでに酔っていたのかもしれない。
「どういうところが好きって……」
ダリオはショットグラスを手に考え、あまり深く考えずに口にした。
「ぜんぶ……」
「うむ……全部なのだ……」
「おお……全部かあ」
「うんうん」
生ぬるい視線がダリオに注がれたが、「まあ、全部と言っても特に好きになったり、心を許したきっかけとかあるのだ? 命乞いの参考に知りたいのだ」と何か変な質問をしてきている。
ダリオは、人にテオドールのどういうところが好きで、どういうきっかけで好きになったのかなど、今まで誰にも話したことがない。
ちょっとふわふわしながら、自分の中を探って、ああで、こうで、と説明する。テオがいないところで本人の話するのもなと思って、自分がどう思ったか中心の話だ。
ますます視線が生ぬるくなるが、ダリオはあまり分からなくなっていた。
工学部の友人、ダグラス・ポーカーが、涙目で「お願いします、俺の愚痴聞いてください……バーで奢るから、付き合ってください!」と、両手を合わせて頼んで来た。
ダリオはその日アルバイトも入っていなかったし、見た目は軟派な金髪長毛ダグラスが、メンタルはけっこう繊細なのは分かっていたので、「いいぞ」と二つ返事したのだった。
ダンスフロアも備えたバーは、金曜日から日曜日にかけて、大学生たちのパーティーの出入りが多い。
ひとまずダリオはテーブルについて、大学生たちのいつものやり方、ショットグラスをもらうと、話を聞くことにした。
ダグラスは、半泣きで訴える。
「俺のアルバイト先で激ヤバ男がいて、そいつとシフトが重なった時に最悪なんだよ、俺のメンタルボロボロのズタボロなんだよ、俺はイチャラブアニメが好きなのであって、現実で女の子妊娠させたとか、中絶の時に、お前は赤ちゃんを殺すのか⁉ 人殺しだなっ、て責めてやったとか、ガチ武勇伝みたいに言ってくるの。止めてよ! 俺ドン引きだよ!? 女の子かわいそうすぎるし、きついよぉおお!」
ダリオは黙って眉をひそめた。ダグラスもショットを飲み干しては、その激ヤバ男がどれだけ激ヤバなのか説明し、くだを巻く。
「俺、アニメとかでも、かわいそうなのはNGなの! 猟奇やだ! 死にネタ絶対NO! NO! NO! イチャイチャラブラブのライトノベルとアニメが大好き! あいつ嫌いッ、でも時給いいバイト止めたら、来月のラップトップの支払いできねえっ」
「そうか……ダグラスもラビット・ホールで働くか?」
「う、最後の手段にする……あそこ、お客様に女の人多くて、会話も多いんだろ」
「まあな。それか、おじさんにチップ渡されることもある」
「え、それどういう状況? ダリオ大丈夫なの?」
「……大丈夫だ」
「怖いんだけど⁉」
「まあ、会話苦手なら、無理には勧めない」
「うん……」
ダグラスは、現実の初対面女性の前だと「あっ、あっ、あっ」と挙動不審になる男だ。動けるデブを自称している同じく工学部生のチェン・ワンの方が、よほど女生徒とのコミュニケーションスキルがある。
ダリオは友達の愚痴を聞くのは苦でない性分なので、ダグラスの気が済むまでつき合った。
ダグラスは目を擦りながら、「うう、ダリオ、ありがとう……」と礼を言ってくる。
愚痴を聞いて下さいお願いしますと、聞いてくれてありがとうを言える友人なので、美点だなあと思いながら、頷いておいた。
「ヘーイ、グッドガイズ、話は終わったかあ?」
「我々も混ぜて欲しいのだ」
見計らっていたらしい、先ほど顔を思い浮かべていた自称動けるデブのチェン・ワンと、文学部のアリス・メイフィールドが寄って来た。
チェン・ワンは、白い肉まんに黒い毛が生えたような体型で、いつも野球プロチーム・ホーナーズのレッドキャップを被っている。本人の自称通りフットワークが軽い。アリス・メイフィールドは、子どもかと思うほど小柄で、焦げ茶のショートカットに、目に光のない独特な感じの女性だ。昨年手掛けた古語翻訳アプリケーションの翻訳部分においてだいぶ世話になった。
ちなみに、このメンバーが全員、マジック・アイテム・ショップ・トリックスターで闇のゲームに巻き込まれ、特にダグラスが酷い目にあった経緯がある。
四人で話していると、最後に、クラブ・ラビット・ホールの同僚、クリスがやって来て、「おや、みんなバーにいるなんて、珍しいね」と言って、自然に加わる。
五人も個性豊かな面子が集まると、話題はカオスだ。ヘルムートの悪口に始まり(あの人アドレス教えてないのに連絡が来る)、授業や手掛けている研究の話、ヘルムートの悪口(闇のゲームの招待状って何)、気になるアニメ、パソコンのスペック、携帯フォンの最新機種、ヘルムートの悪口(ダグラスは目をつけられてるからもう逃げられないかも→嫌だ!)、多岐に渡る(ヘルムートの悪口が一番多い)。そして、話題は恋愛へと変わった。
しばらくダリオはうんうん、と聞いていたのだが、何故かその矛先が回って来て、「ん?」となる。
「き、聞いちゃっていいのかな⁉」
ダグラスの声が上擦って、アリスが「落ち着け」と言う。
「別に構わないが、特になんもないぞ」
何も面白い話はないぞ、というニュアンスのつもりでダリオは口にしたのだが、ダグラスが両手を左右に開いて、ぶんぶん首を振る。
「いやいやいやいや、俺ずっと聞きたかったし! 特に何もねーことなさ過ぎだし⁉」
「まことに遺憾ながら、ダグラスに同意なのだ」
「まことに遺憾ながら⁉ なんで⁉」
アリス相手には騒がしいダグラスと、無表情にショットを口に運ぶアリスを他所に、チェンが口を開いた。
「俺も気になってたあ」
彼は顎を丸っこい白くもちもちした指で触りながら、ニッと目を細めて笑う。
「俺んち、移民系で、元は大陸の占い師の家系でよぉ。すんげーとんでもねーのダリオが連れて歩いてるじゃん。連れてっつーか、一方的にやべえのに憑かれて? って感じだったしな」
「あー、まあ……」
かなり初期の話かなと思うが、案外最近までかもしれない。人からどう見えているのかまでダリオは関知しなかった。
「大丈夫かよって思ってたら、なんかうまく行った? みたいで、安心してたけどな、ま、よかったら本人の口から聞きてえじゃん」
ほらよ、とチェンはダリオの空いたグラスにどぼどぼ酒を注ぐ。
「ま、友達が幸せですって報告聞きてえなってことよ」
「うむ、同じくなのだ」
アリスがこくりと頷いた。アリスにはアリスで何か見えていた風らしく、ダリオにストレートで質問してくる。
「我々から見ると、テオドール氏は大変恐ろしいのだ。ダリオ氏は、あの人のどういうところが好きなのだ?」
アリスが質問すると、周囲のテーブルからも聞き耳を立てるように会話が中断され、視線が集中したのだが、ダリオはその時あまり気づいていなかった。思うに、もうすでに酔っていたのかもしれない。
「どういうところが好きって……」
ダリオはショットグラスを手に考え、あまり深く考えずに口にした。
「ぜんぶ……」
「うむ……全部なのだ……」
「おお……全部かあ」
「うんうん」
生ぬるい視線がダリオに注がれたが、「まあ、全部と言っても特に好きになったり、心を許したきっかけとかあるのだ? 命乞いの参考に知りたいのだ」と何か変な質問をしてきている。
ダリオは、人にテオドールのどういうところが好きで、どういうきっかけで好きになったのかなど、今まで誰にも話したことがない。
ちょっとふわふわしながら、自分の中を探って、ああで、こうで、と説明する。テオがいないところで本人の話するのもなと思って、自分がどう思ったか中心の話だ。
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