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番外 二十一 友達と彼氏の話してたら彼氏が迎えに来て周りがシーンてなる話
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しおりを挟むつらつらとテオドールにこうされて嬉しかった……やさしい……好き……といったことを、ふわふわと口にしていると、皆の視線がそれこそ「うんうん」と温かいのに気づいた。
「ごめん……俺なんか……喋りすぎた?」
ダグラスが手と首を同時に大きく横へ振る。
「そんなに話してないよ?! 俺が喋るより全然少ないし?!」
「それはそう」
アリスが相槌を打つ。
クリスも、そうだよ、とダリオに笑いかけた。
「僕は話が聞けて嬉しかったな。気になってたけど、ダリオくん、あんまりそういうの言わないから」
「うー……ん……おれの……テオのどこが好きとか……聞かれなかったし、話すことでもないかと思って……」
「そう? ダリオくんがいいと思ったらまた聞かせてよ」
「……いいの?」
ダリオは不思議な気持ちでクリスを見つめた。
「ダリオくんが嬉しそうだと僕も嬉しいからね、たまに近況報告したい時は聞かせてよ」
「うん……わかった」
頷くと、フライドポテトをつまんでいたチェンがクリスに尋ねている。
「クリス、これダリオ酔ってないか?」
「そうかも。珍しいねダリオくん、一人で帰れるかなぁ。テオドールくんに、連絡だけ入れとこうか」
「えっ、クリス、連絡先知ってんのか……」
「はは、まあ色々あったからね」
テオドールの名前が出てきて、ダリオはふと、どうしても言いたくなった。
「あの、クリスくん……」
皆の顔もぐるりと見る。
「俺、ほんとうは、誰かに言いたいことがあって」
「うんうん、聞くよ」
「ありがとう……あのさ、テオが、このくらいで……この間、鏡の前で、ポーズしてて……」
「このくらい……?」
「うん。研究してて……とってもかわいくて、俺、あの、テオ、ぽよぽよしてる……」
がくっ、とダリオは頭が落ちそうになり、なんとか平静を装った。しかし、周囲は笑顔のまま、疑問符を飛ばしている。
「……?」
「……?」
ダリオは、うん、と頷いた。万感の思いで呟く。
「とってもかわいい……」
ほんとうは、すごく、誰かに言いたかった……と目を伏せる。言語化能力が低下しているのに、ダリオはうまく説明したつもりだ。客観視能力も失われている。
クリスが優しい声で言う。
「そっか、とってもかわいくて、ダリオくんは誰かに言いたかったんだね」
「うん……」
「言えて良かったね」
「……うん、聞いてくれて、ありがとう……」
ぼそぼそと声が聞こえてきた。当惑気味なチェンの声だ。
「このくらいって、明らかに手のひらサイズで説明されてなかったか?」
「うーん、まあ、テオドールくんだからね!」
「ねえ、ぽよぽよしてるって何? どっちかって言うと、シュッとしてない? テオドールさんて、キャンパスを失神者で埋めたあの人、人間離れした美人の人だろ? ダリオにめっちゃ執着してるあの美形の人のことだよね?」
「ダグラスは、そのままでいてほしいのだ」
「えっ、何?! なんで、みんなそういう目で見るの?! なに?!」
俺を仲間外れにするなよ、エーン! とダグラスが喚いている。
「仲間はずれではないのだ、ダグラスには健やかでいてほしいのだ」
「意味わかんないですけど?! お前ら健やかじゃないの?!」
「テオドールくんに、ニャインで連絡しといたよ」
ん? とダリオは顔を上げた途端、
「お待たせしました」
ぬ、と後ろ上段から、当のテオドールが190センチ超の長身で、腰をかがめるようにして顔を出してきた。
「秒で来た……」とクリスがあっけにとられるようにして、苦笑いしている。テオドールは「クリスさん、ご連絡ありがとうございます」と涼しい顔だ。
「ダリオさん、大丈夫ですか? アルコールを抜きましょうか?」
人外ムーブを息を吸うようにかましているテオドールをよそに、周囲の卓が、シーン、と水を打ったように静まり返り、音楽まで息を潜めるようだった。
しばらしくして、ヒッ、と引きつけを起こすような声をして、ドガシャ、とテーブルに突っ伏す者などが出る。
幸い失神してはいないようだ。起き上がると、浴びるようにアルコール摂取しだして、周囲の正気の者に止められていた。
最近、イーストシティ大学生たちも、耐性がついてきている。
青ざめていたチェンも、「後方に前進!」とダンスフロアーに向かった。チェンの保身能力には目を見張るものがある。
クリスが心配そうに、「ダリオくん、もう帰る?」と確認してくるので、ダリオはチェンがぎゅるぎゅる回っているのを見て、俺も踊りたいな……と思った。
思っただけでなく、口にしていたらしい。
「アルコール抜いてもらって、テオドールくんと踊っておいでよ」
「しかし……」
「最近、みんな耐性ついてきてるしね。さっき顔面卓キスして、アルコール飲んでる子は、君たちがダンスしてるの見たら喜ぶから、問題ないよ」
後方で、顔面卓キスの人が、ぶんぶん頷いている。
「……?」
テオと踊ったら、迷惑かけないか? と思ったが、顔面卓キスの人が、親指を立ててウィンクしてきた。とてもいい笑顔だが、周りの人は彼女に、「自重しなよ」という感じで嘆息している。
コアタイム来たーとダンスフロアーに移動する知り合いも、ダリオの肩を叩いて、「お、ダリオじゃん。踊らんの? 夜は短いぞー」「楽しめ楽しめ」とへらへら笑いながら言う。おそらく、アルコールで認知能力が下がっているようだ。テオドールに気づいて、変な声を上げていた。それはそれとして、彼らは踊るらしい。イーストシティっ子だなぁ、とクリスは笑っている。
ダリオは少し考え、テオドールに「踊ってもいいくらいにアルコールを分解ってできるか?」と尋ねた。お任せ下さい、とテオドールは容易く請け負う。
すぐに、頭がスッキリして、ただ、いい具合に気持ちもいい。
ダリオは礼を言って、テオドールに踊らないかと誘いをかけた。
「喜んで」
他の大学生知人の言うように、夜は短い。わからないけど、みんな自分の人生で忙しい。他人のことなんて見てない。たぶん。
ダリオはテオドールの手を握った。
ダンスフロアーが光の洪水のように見える。目の錯覚だろうが、ワクワクしてきた。
みんな楽しそうだ。
ダリオも楽しい。
テオドールとどこに辿り着くのか、今のダリオにはまだ分からない。
ただ、踊りながら、笑いながら、いつまでも音楽を聞いていたかった。
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