俺の人生をめちゃくちゃにする人外サイコパス美形の魔性に、執着されています

フルーツ仙人

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番外 三十三 Love me!

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 事務所活動を始めて、呼んでないのに来る退魔関連の人達が出入りするので、回数制限を加えた。
『横暴じゃ!!』
 テオドールへの橋渡しを頼み続けて折れないエイブラハム側(弟子も連れてきていた)から、主に抗議を食らったが、破ったら出禁にする旨、淡々と通告したダリオである(その間、テオドールは一切無関心で窓の外を見ていた)。
 しぶしぶではあったが、テオドールのご機嫌も気にしつつ、エイブラハムもシワシワの手で被り物を脱いで引き下がる。何かあればいつでもお声がけ下さいませ……と平身低頭であった。
 なにか企んでないとよいのだが、まあたぶん大丈夫だろう。テオドールに対する敬意と信仰心はガチ目に本物だ。
 彼らが事務所を喫茶代わりにしなくなったおかげか、現在は館内も静かだ。
 あとは閑古鳥が鳴きつつも、たまの口コミ訪問客で少し忙しくなっていたせいだろうか。 
 ダリオは武道の実技授業で、珍しく手首を痛めてしまった。
 ダリオのやっている武道は、稽古の半分は受け身の練習であり、さほど護身術に適しているわけではない。
 争ったり、比べたり、相手との強弱や優劣を競う内容ではなく、心身の鍛錬を目的としている。
 相手の攻撃に対して、特有の体捌きで死角に入り、投げたり、抑えたりするもので、試合もしない。行うとすれば、学んだ形を披露する演武である。そうした性質が、ダリオの性格には合っていた。
 確か、トウゴくんの出身国の人が開祖のはずだ。
 関節を決められたり、投げ飛ばされるのにも体を傷めないコツがあるのだが、うっかりこう……やらかしてしまった。
(捻じれに対して逆らったせいかな…)
 技をかける時は、手首を取る。そして、手首を動かすのではなく、手首から肘を一本の刃ととらえ、相手の肘を動かすようにするのがセオリーだ。
 特にダリオは体格が良いので、技をかけられる側の時は、攻撃方には、次のように指導する。
 手首だけではなく、指先を押し込むようにして、更に捻じれを加えること。そうして、手首から肘にかけての捻じれを、体幹に届かせる。
 これで、体格差があろうと、ダリオは姿勢を崩して前につんのめるし、腕を拗られて倒れ込んでしまう。
 ただ、捻じれというのは、逆らうと人体を壊す。
 で、ダリオは経験者にも関わらず、ありえないことに、ぼーっとして、もろに体幹エネルギーで逆らい、手首がいってしまった。
 先日、稽古中に投げ飛ばされた有段者女性が鎖骨を折っていたので、心配もしたが、俺も気をつけないとな……と思っていたのにも関わらずだ。
 テオドールから色々補強されているらしいダリオだが、怪我をしないわけではない。
 一定の負荷がかかると、車のエアバッグが事故の衝突によって発動するようなものだ。この基準に達しないレベルの怪我であれば、不可視のエアバッグは作動しない。
 つまり、細かな擦り傷や体を痛めたりは普通の人間と同じように負う。
 あいにく、武道の実技で手首を痛めたのは、このエアバッグ作動基準には達しなかったようだ。
 まあ、一切怪我をしないのも、体のメンテナンス上、安全維持が疎かになりかねないので、この度合いは合理的だし、人目に対して助かってもいる。
 擦り傷も全く負わないようなことになれば、ダリオは自分の体を大事に扱うのが次第に難しくなってくるだろう。
 周囲も、本来怪我をしてしかるべきところを一切傷を負わないとなれば不審に思うだろうし、このくらいの方が変に思わないはずだ。
 多少痛めたが、エアバッグも作動せず、しばらくアイシングしたら調子もよくなったので、ダリオは帰宅する頃にはすっかり忘れていた。
 この忘れていたというのが要点で、テオドールはダリオの心を読まないことを約束しているため、とりわけ強い感情の発露でなければ、勝手に内心が伝わることもない。
 なので、ふたりがちょっと寝室で仲良くしていたら、ふと違和感にダリオが内心眉をひそめた時点でも、これはテオドールに伝わらなかった。つまり、微妙に手首が痛い。
 我慢せずに言った方がいいとは思ったのだ。
 しかし、伝えたら、仲良くするの終わってしまう……とダリオはあちこちに、特に顔にキスされながら黙ってしまった。
 言うつもりはある。
 でも俺達、言うほどそんなにイチャイチャできてねーし、とダリオは少し泣きたくなってしまった。
 イーストシティの肉体関係有りな付き合い始めて1年経過カップルとしては、全然控えめな方だろう。
 特殊プレイが多いだけで、俺達十回もインサート有りなセックスしてねーし……入れてってお願いしてもしてくれねーもん……とダリオは思った。
 体液の過剰摂取で発狂コースというのは初期から聞いているし、それは仕方ないのも分かっている。
 最初の頃はそういうもんだなと受け入れていたことが、だんだん我慢が効かなくなって、もっと、と思う自分にダリオは気づいていた。
 仕方がない、しょうがない、そういうものだから、俺は身体が大きいから、女の子より丈夫だから、両親はああいう人たちだから、お金がないから、施設出身だから、里親に帰されるのはどうしようもないから。いつもそう考えていた。
 大人に甘えて、庇護されてみたかったけれど、それはもう望んでも与えられないのだし、与えられたと思っても突き返されてしまう。
 そういうものだ。仕方ない。しょうがない。
 自分ひとりで、なんとか生きていかれるようにしなくちゃいけない。 
 そうやって言い聞かせて、そこそこなんとか回っていたと思う。
 たまに悲しかったり、しんどかったりすることもあったが、周囲に助けられて生きてきた。
 でもやっぱりそこには、しっかりと境界線があって、ダリオはそれを踏み越えたりしないように気をつけてきた。
 少しなら助けてもらえても、過分に求めたら相手も困る。共倒れしたり、依存になったりしてしまっては、元も子もない。
 その境界線の内側に、テオドールを入れてしまった。
 最初は警戒して、その内恐恐と近づいて、ちょっと寄りかかったり、すぐ離れて様子を見たりしていた。
 テオドールは、ダリオの両親でも、カウンセラーでもない。
 だからやはり、ある程度の節度は必要だと思う。
 でも、
 こんなに優しくされたら、大変な時に駆けつけてくれて、一緒にいてくれて、約束してくれた、この先もずっと。
 俺、かたちが、くずれる。
 ぐずぐずになっちゃうだろ、とダリオは怖い。
 だから、毎日『愛している』と言われたら困る、と本能的に及び腰になった。
 同時に、もっと、と強欲になった。
 我慢して、仕方ないとしていたのに、もっと触ってほしいし、もっと触りたいし、いっぱいキスしてほしいし、お腹の奥の奥まで入ってきて、そこでもいっぱいキスしてほしい。テオドールの精を、俺の中に吐き出してくれないだろうか。駄目だって言われる。
 お、俺、テオのお嫁さんなのに……と思ってしまう。  
 今夜はお願いしたら、間隔的にそろそろインサートしてもらえそうな気がしたから、水を差したくない。
 いっぱいしたい。セックスしたいというのだけではなく、そうではなくて。
 テオドールが言ってくれたように、愛していると普段の生活からそうしたい。
 テオに愛してもらいたい。
 本人も言うと宣言していたし(撤回させてしまったが)、普段から生活の折々に愛してほしいと率直に言えばいいのだが、ダリオは相手の我儘を受け入れるのは得意でも、相手に自分が見返りもなく、ただ愛してもらうのがまだ難しかった。
 難しいのに、そうしてほしいなんて、それこそめちゃくちゃだろ、と思う。
 言わないと伝わらない。言わないのに、相手に思うように動いて欲しいとするのは、なんか違う……それで期待通りにならなくて、失望したり怒ったりするなら、そんなの支配欲と同じだ。
 もちろん、関係性を築いてないのに、過度に要求するのも違うが、少なくともテオドールには伝えない方が不誠実だろう。
 ダリオは口をもごもごとさせた。
「テオ……」 
 美しい目を見開いて、じ、とダリオを見下ろしてくるテオドールに、ひねった方の手首をシーツの上に持ってきて、説明する。
「昼間、ちょっと捻って……アイシングしたら治まってたんだが、今少し痛いかも……」
 テオドールは、たっぷり数秒間は沈黙したと思う。
 気づけば、眉をひそめて、その長い指先がダリオの手首の上をそっと触れるようにしていた。
「気づかずにすみません。治してよろしいですか?」
 うん、と頷いたら、あっという間に痛みが消えた。ダリオの目を覗きこんで、テオドールが慎重に確認する。
「まだ痛みはありますか」
「ない。ありがとう、治った」
 案の定テオドールはもうする気がなくなったようで、ダリオの手首の上の部分を優しく擦りながら、眉をひそめたままにしている。
 ダリオに怒っているというより、本人の申告通り、気づかなかった自分に忸怩たるものを感じているようだ。
「ダリオさんが痛いのに気づかず、自分の好きにしてしまうところでした。ダリオさん、教えてくださるまで、痛くて辛くなかったですか?」
 何を言われてるのかよくわからなかった。
 我慢を責められた方がまだしもだっただろう。
 意味が頭に浸透するにつれ、色々と『仕方ない』で済ませてきたダリオは、目が急に熱くなって、視界がぼやけてしまうのに驚いた。
 テオドールは、ダリオの両親ではないのに。そうしてはいけないのに。
 ダリオはもう子供でもないのに。
 喉が、ぐぅっと痛くなって、涙がぼろぼろと出てきてしまった。
 慌てたのはテオドールの方だっただろう。
「やはりまだ痛みが……? 治したと思うのですが、もう一度」
「ち、ちげーから、そうじゃねー」
 ダリオが子供の時に怪我をして、ソファでぐったりしていたら、両親に「カバーを汚して!」と金切り声を上げて怒られたことがあった。両親のお気に入りのキルトカバーに、ダリオのすっぱり切れた額から血が付着していたのを激怒されたのだ。
 いつも恨みに思っていたわけでも、悲しく思っていたわけでもないが、そういうことがあったのをふと思い出した。
 今は、ダリオが怪我をしたり、痛がったり、辛かったりするのを、自分の都合より優先してくれる人がいる。
 これまでそういう人たちがいなかったわけではないが、皆通り過ぎる風景のようなもので、ずっと一緒にいられるわけではなかった。
 彼らには別に帰る場所があって、そこにダリオは含まれていなかったし、ちゃんとダリオは弁えるようにしていた。
「ダリオさん、少し休みましょう」
 提案されたが、やだ、と背中に腕を回し、抱きついた。
「もっ……と、イチャイチャしたい……」
 ダリオは唇を舌で湿らせて、どうにか絞り出した。
「あ、……愛して……」
 好きだと言うよりも、愛してると伝えるよりも、ずっとずっと難しい、恥ずかしい、小さくなって塩をかけられたスラッグのように消えてしまいそうな懇願だった。
 愛してほしい、と心からの願いを告げることは、ダリオの中の小さなダリオにとって本当に難しい、恐ろしい言葉だったのだ。
 ずっといっしょにいて。
 あいして。
 ダリオは相手が望むならずっと一緒にいるのに。
 ダリオは彼らを愛していたのに。
 返ってこないなら仕方ない。どうしようもない。しょうがない。
 無理強いできることではない。相手にも選ぶ権利がある。ダリオでは駄目だっただけだ。
 そうやって諦めてきたし、線も引いて独りで生きられるようにしてきた。
 愛は、肉体関係を結ばなくとも成立する。必ずしも必要としないことはわかっているけれど、テオがもしいいなら、お腹の奥までいっぱいにして。
 愛して。俺のこと、愛して、テオ。
 お強請りすると、テオドールは食い入るようにダリオを見つめていたが、やがて覆いかぶさってくると、体の節々がメキメキバキバキと恐ろしい音を立てながら膨張し、美しさを損なわないままに、ひとつの怪異となってダリオをその体の下に隠してしまった。

 
 
 
 
 
 
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