俺の人生をめちゃくちゃにする人外サイコパス美形の魔性に、執着されています

フルーツ仙人

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番外 三十三 支配者とテオドールの悪夢編

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 その日、何故だかわからない。
 秋なのに、急に天候が逆戻りして、イーストシティは謎のファイヤー・ウィークに襲われた!
 そしてダリオは異常気象にも関わらず、割とケロッとしていた。
「とは言ってもけっこう暑いよな……」
 大学の講義が終わって、突如の猛暑に熱中症となり、人手不足となったラビットホールの助っ人に向かったダリオである。  
(みんな大丈夫か……?)
 入店してみれば、確かにアクターが少ない。
 聞けば、シフトに入っていた何人かは寝込んで入るものの、命に別状のあるものはいないということで、一安心した。
 というわけで、ダリオも久しぶりにメイド服に袖を通す(というかムチムチの足を通す)。
 ラビットホールでは、男性キャスト(アクターと呼ばれる)がクラシック・メイド服を着用して接客を行うスタイルだ。
 なお、ダリオ用には、白のミニスカメイド服(シルクタイツ付き)が用意されている。何故俺だけ、店のカラーと違うこのパツパツのメイド服なんだろう、とダリオは以前から腑に落ちない。
「人には人のニーズ!」
 と店長はダリオにだけミニスカメイド服をあてがってくるし、ダリオもその辺の思想が弱く、強い思想に負けて「はあ」と受け入れている。
 他のアクターたちは、店長のお眼鏡に叶う十人十色の美少年たちなのだが、一人だけムチムチマッチョ青年で、当初より異色を放っているダリオだ。
 色々疑問符を浮かべつつも、メイド服に袖を通すのに抵抗のないダリオは、突発シフトでも普通に接客をした。 
 しばらくすると、ダリオ目当てで通い詰めていたカーター氏がどこから聞きつけたのか、「だりおきゅん……!! 久しぶりにお店に入ってくれたんだね……!!」とハアハア息を切らして現れた。
 ちょっと気持ち悪いなと思ったダリオだが、カーター氏にもテオドールの件で二度世話になった。なので、一緒にハートを手で作って写真を撮ったダリオだ。カーターは泣いていた。やはり気持ち悪い。
 いろんな人がいるよな……とダリオは思った。 
 まあ、無害だからいいか、と内心塩顔で、胸元を寄せてウィンクもしてやる。エリート証券マンだったか銀行マンだったかダリオは忘れたが、カーター氏は顔中べしょべしょにして号泣していた。
 胸元に紙幣をねじ込んでこようとしてくるのはご遠慮いただく。ここはそういうお店ではない。ごめんね、ごめんね、ダリオキュン、とカーターが紙幣をくしゃくしゃに握りしめて回収するので、「わかってくださってありがとうございます」と左胸の上で、両手のハートマークをサービスした。クリスが客を上手くあしらう時によくやっている。真似だ。カーターはくしゃくしゃの紙幣を再びダリオのハートの中に突っ込もうとしていたので、そういうお店じゃないんで、とまた再演になった。なんか悪化している。なんでだ。ダリオは失敗を悟った。とはいえ、お互い死ぬわけでもなし、セーフだと思った。
 ダリオにはこういうところがある。
 こうしてピンチヒッターの役目を果たし、ダリオは一部の特殊性癖客から惜しまれつつも、バックヤードに引っ込んだ。
 着替える前に、妙な気疲れを自覚する。
 自分も熱気に当てられたのだろうか。
「お疲れ様です、ダリオ君」
 パツパツムチムチの胸元を手で仰いでいたら、バックヤードに神妙な顔の店長がやって来た。
「お疲れ様です」
 店長の口髭は、現在コールマンスタイルである。ダリオの視線は店長の顔ではなく、髭に釘付けだ。失礼過ぎる。さすがにどうかと思い、意識して店長のネクタイと首のあたりを見るようにした。
「ダリオ君、今日は本当に助かりましたよ。美少年アクターたちが突発休みで、店が回らなくなるところでした」
 あ、真面目な方の話か、と髭からダリオは頭を切り替える。
「いえ、僕も学業と両立可能な働き口に困ってた時に、本当にこの店にはお世話になりましたので。……そんなに人手不足なんですか?」
「謎の異常気象、ファイヤー・ウィークで、美少年たちは儚くなり……」
 勝手に殺すな、とダリオは思ったが、マジに困ってんだなと思った。
「俺でよければ、しばらくシフト入りましょうか?」
「っく、……ダリオ君……」 
 店長は目元にハンカチを押し当て、口髭ごと片手で口を覆っている。わざとらしい。まんまと誘導されたダリオだが、まあこういうのは持ちつ持たれつ助け合いだよな、と特に気にしない。
 そんなこんなで、どういうわけか、ダリオは数日代替アクターを勤めた結果、店長から「アルバイト代の他に、激感謝の印です♡」と幼児用ビニールプールを気づくと押し付けられていた。
 どうしろと……? 
 以前も、男性用ブライダルランジェリーをもらったダリオだ。
 まあ、貰えるもんは貰っとくか。
 その精神で、「……ッス」と受け取っておいた。
 微妙に混乱していたのか、施設時代口調で礼を言ってしまったダリオである。
 処分に困ったら売るつもりだった。
 ところが、持ち帰ったビニールプールに、テオドールが興味津々で、ええ……となったダリオだ。
「これはなんですか?」
「幼児用のビニールプール……空気入れて膨らまして、中に水張ったら、プールで使えるんだよ。といっても、俺たちはサイズ違いすぎて使えねーよな」
「僕は使ってみたいです」
「あ?」
 ダリオはしばし考え、ぽんと手を打った。
「そっか。テオなら使えるよな」
「はい。小さな僕でしたらちょうどかと」
 おー、それって可愛いかもしれん。悪くない、とダリオもやる気が出てきた。
 準備すると、妙にいそいそとテオドールは姿を変えて、カラフルなビニールプールに張られた水の中に水饅頭形態で入って行った。
 水中で試行錯誤して、ラッコのような形に一旦落ち着いたようだ。人外が最適解を考えると、既存の水中で生活する動物の形態になるの興味深いな、と妙にダリオは感心する。
「テオー、温度とかどうだ?」
 人差し指を水に突っ込んで聞いてみると、すいーっと仰向けにテオドールは泳いできて、ダリオの指に掴まった。そのまま短い両手で胸元に抱え込んでしまう。
 思わず、すーっと動かすと、そのまますいすいと仰向けで無防備に一本の磁石のようになってついて来る。
「……」
 ダリオは黙って指を動かし、小さなプールでラッコ形態のテオドールを連れ回した。
 ふたりは楽しくなってきて、ダリオが水の中に腕を突っ込み、今度はアザラシの赤ちゃんくらいになったテオドールがダリオの腕に水中でじゃれつく。
 引き上げようとすると、はしっ、とか、たしっ、と前足で掴んでくるのが楽しい。
「やばい、楽しい……」 
 口に出てしまうダリオだ。テオドールの腹を撫で回してしまう。
 片方の前足で自分の口元を触り、もう片方でぺしぺしぺし、とダリオの手の甲を叩き、テオドールは返事した。
 しまいには、ダリオがテオドールを着ぐるみ赤ちゃんのように水中で前後に揺らし、たまに見つめ合って、また揺らす。
 完全に特殊性癖の世界であった。
 後片付けの段階になって、はっ、と正気になったダリオは、俺やばくないか? と思ったが、本体化け物のテオドールとくっついた上に、特殊性癖の塊セックスなどしている時点で既に終了しているのである。
 エヴァあたりが聞けば、今更か?! とつっこみを免れ得ない。
 そんなファイヤー・ウィークと、続く異変の始まりだった。



 
 

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