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番外 三十五 テオドール『可愛いの研究』成果
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二度あることは三度ある。
パンケーキ食べた日から数日後、ダリオが帰宅すると、水饅頭のヒトデ型テオドールがまた、テーブルの上に鏡を置いて、トテトテとウォークをしていた。
そして、くるっと振り返って、モデルポーズを決める。
前回はここまでだったが、今回は続きがあった。
くねっと身を縮め、下半身が人魚の尾のような形になる。なんかもちもちと丸っこいエビフライになったなとダリオは思った。この間プール遊びをしたからか、ラッコやアザラシ形態を取ったらしい。
テオドールは上半身を起こし、短い腕で胸の前に、もう片方は突き出し、また胸の前で合わせ、両腕で、ぴし、ぴし、と再び突き出してはリズムを取る。エビフライの尾っぽは、くねくねした。
頭は上下に振りながら、エビフライが踊っている。
うにうに短い両腕を動かし、拍子を取って振っているのだ。
(ダ、ダンスしてますけどーーーー?!)
ダリオはあごが落ちた。比喩だが、落ちた。今回は肩掛けの鞄を落とさなかった。落ちたのはあごである。
動画撮っていいやつ? 盗撮じゃね? と頭がフリーズしている。
最後に短い腕をうにうにしてダンスが終わると、ふー、とテオドールは汗を拭うような仕草をした。達成感が滲んている。
人間の時より人間ぽいのはなんなのだ。
「テオ、何してんの……?」
テオドールは両腕を広げ、ダリオさん、と振り返った。
「僕は、『可愛い』の研究をしています」
「もしかしてずっと継続してんのか」
「都は一日にしてならずと申します」
水饅頭なのに、深刻な影がその顔に差した。
「……僕は可愛いですが、可愛さに驕るあまり失態を招き、多少の自信喪失をした時期もありました」
あー、俺が記憶喪失した時のやつか、とダリオの方もダメージ10000ポイントである。
以前、ダリオが記憶喪失状態になった時、青年姿の自分を警戒されたテオドールは、水饅頭になればうまくいくと思ったらしい。ダリオが普段可愛い可愛いと言っていたので、忘れられても、この姿ならすぐまた好きになってくれると思いましたと言われた。
そのテオドールを、記憶のないダリオは酷い形で拒否してしまい、大いに水饅頭の彼にショックを与えた事件である。
思い出すだけで、ダリオはもう俺を百回殺してくれ状態になる。いや、テオドールを置いて死ねないのだが。
事件後、テオドールは、水饅頭の自分は駄目と思ったらしく、ダリオが記憶を取り戻しても、後日しばらく遠巻きに見ていた。
本当に無理、辛い、となるダリオに、二頭身ぬいぐるみ形態になったテオドールが、トコトコ、とテーブルの縁まで歩いてきた。
「その教訓として、現在はただ可愛いに甘えるのではなく、日々の努力を怠らぬようにしているのです」
テオドールは、斜め上に真面目だった。前向きだ。大変辛い。お前そんな……そんな……とダリオはもう駄目だった。
「そっか」
かろうじてそう返すと、ダリオはソファに鞄を下ろす。テオドールの方に手を差し出した。
「テオの可愛いをわけてほしいな~」
「僕の可愛いをですか?」
「俺、今ちょっとしんどいから、テオの可愛いを俺にわけてくれたら、元気になれそう」
「それはいけません。僕の可愛いをお使いください」
テオドールは、ぬいぐるみくらいの大きさのままで、ぴょん、とダリオの胸に飛びついた。
ダリオはテオドールを受け止め、やさしく両腕の中に抱きしめると、小さな彼の頬に自分の頬を寄せてみる。テオドールも短い腕を伸ばして、ダリオの頬にちっちゃな手を当てた。大きな目がダリオを覗き込む。
「ダリオさん、僕の可愛いで元気になりましたか?」
「うーん、充電中です。テオはもっと俺にくっついてください」
ふふ、とお互いに笑って、ダリオの申告により、研究は大成功なことがわかったのだった。
パンケーキ食べた日から数日後、ダリオが帰宅すると、水饅頭のヒトデ型テオドールがまた、テーブルの上に鏡を置いて、トテトテとウォークをしていた。
そして、くるっと振り返って、モデルポーズを決める。
前回はここまでだったが、今回は続きがあった。
くねっと身を縮め、下半身が人魚の尾のような形になる。なんかもちもちと丸っこいエビフライになったなとダリオは思った。この間プール遊びをしたからか、ラッコやアザラシ形態を取ったらしい。
テオドールは上半身を起こし、短い腕で胸の前に、もう片方は突き出し、また胸の前で合わせ、両腕で、ぴし、ぴし、と再び突き出してはリズムを取る。エビフライの尾っぽは、くねくねした。
頭は上下に振りながら、エビフライが踊っている。
うにうに短い両腕を動かし、拍子を取って振っているのだ。
(ダ、ダンスしてますけどーーーー?!)
ダリオはあごが落ちた。比喩だが、落ちた。今回は肩掛けの鞄を落とさなかった。落ちたのはあごである。
動画撮っていいやつ? 盗撮じゃね? と頭がフリーズしている。
最後に短い腕をうにうにしてダンスが終わると、ふー、とテオドールは汗を拭うような仕草をした。達成感が滲んている。
人間の時より人間ぽいのはなんなのだ。
「テオ、何してんの……?」
テオドールは両腕を広げ、ダリオさん、と振り返った。
「僕は、『可愛い』の研究をしています」
「もしかしてずっと継続してんのか」
「都は一日にしてならずと申します」
水饅頭なのに、深刻な影がその顔に差した。
「……僕は可愛いですが、可愛さに驕るあまり失態を招き、多少の自信喪失をした時期もありました」
あー、俺が記憶喪失した時のやつか、とダリオの方もダメージ10000ポイントである。
以前、ダリオが記憶喪失状態になった時、青年姿の自分を警戒されたテオドールは、水饅頭になればうまくいくと思ったらしい。ダリオが普段可愛い可愛いと言っていたので、忘れられても、この姿ならすぐまた好きになってくれると思いましたと言われた。
そのテオドールを、記憶のないダリオは酷い形で拒否してしまい、大いに水饅頭の彼にショックを与えた事件である。
思い出すだけで、ダリオはもう俺を百回殺してくれ状態になる。いや、テオドールを置いて死ねないのだが。
事件後、テオドールは、水饅頭の自分は駄目と思ったらしく、ダリオが記憶を取り戻しても、後日しばらく遠巻きに見ていた。
本当に無理、辛い、となるダリオに、二頭身ぬいぐるみ形態になったテオドールが、トコトコ、とテーブルの縁まで歩いてきた。
「その教訓として、現在はただ可愛いに甘えるのではなく、日々の努力を怠らぬようにしているのです」
テオドールは、斜め上に真面目だった。前向きだ。大変辛い。お前そんな……そんな……とダリオはもう駄目だった。
「そっか」
かろうじてそう返すと、ダリオはソファに鞄を下ろす。テオドールの方に手を差し出した。
「テオの可愛いをわけてほしいな~」
「僕の可愛いをですか?」
「俺、今ちょっとしんどいから、テオの可愛いを俺にわけてくれたら、元気になれそう」
「それはいけません。僕の可愛いをお使いください」
テオドールは、ぬいぐるみくらいの大きさのままで、ぴょん、とダリオの胸に飛びついた。
ダリオはテオドールを受け止め、やさしく両腕の中に抱きしめると、小さな彼の頬に自分の頬を寄せてみる。テオドールも短い腕を伸ばして、ダリオの頬にちっちゃな手を当てた。大きな目がダリオを覗き込む。
「ダリオさん、僕の可愛いで元気になりましたか?」
「うーん、充電中です。テオはもっと俺にくっついてください」
ふふ、とお互いに笑って、ダリオの申告により、研究は大成功なことがわかったのだった。
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