灯火

松石 愛弓

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 治癒院で診察していただいた結果、極度の栄養失調と過労と 足の骨にヒビが入っているとのこと。
 静養加療することと言われたけれど、サンダー家に帰れば そんなことは出来るはずもない。
 思わず溜息が出そうになる。

「・・もしよかったら 私の屋敷で静養されませんか?」
 
 空耳?
 あまりにも サンダー家に帰りたくなくて、ついに幻聴まで聞こえるようになってしまうなんて・・。
 
「サンダー家では 静養できなさそうですし・・」

 そうです。静養どころか 戦慄とか 戦々恐々とか そういうものしか待っておりませんわ。

「足の怪我を治してさしあげたいし・・あまり動き回らないほうがいいと思うのです・・」
 
 そうですね。でもきっと いつものように朝から晩までこき使われて 足のヒビが広範囲に広がってしまうかも・・。アマンダは ここぞとばかりに痛いところを攻めてこないかと心配ですわ。

「フィーリアさん。なぜ 返事をしてくださらないのですか?」

 ロナルドさんが私の前に立ち塞がり じっと見つめてこられるので

「・・もしかして、幻聴ではなかったのですか・・?」
と、真顔で真剣に答えたら、ロナルドさんは不思議そうな顔をしてから 吹きだした。

「幻聴って・・そんな返事が返ってくるとは思いませんでした!」
 屈託なく笑うロナルドさんは 真面目な顔をしてる時よりも幼く見えた。
 20歳前後くらいだろうか。サラサラした銀の髪が 風に揺れて綺麗。

「フィーリアさん、幻聴ではありませんよ。私は本当に貴女の怪我を治したいと思っていますし そのためには安全な場所で静養加療することが大事だと思ったから提案したのです。
 ・・実は、私には人の記憶が断片的に見える能力があります。祖父にそういう能力があったから遺伝なのだと思いますが・・倒れたフィーリアさんを見た時、貴方がアマンダさんに暴言を吐かれている記憶が見えてしまいました。貴女の心の傷が深くて、記憶が溢れ出てくるようなイメージでした。
 アマンダさんやサンダー男爵夫妻にお会いした時も、貴方に対して酷いことをしている記憶が見えてしまいました。
 私は 断片的に その人にとって強い記憶が見えてしまうだけで 全てを見れるわけでも見たいわけでもありません。 
 貴方はサンダー家に帰らなければならない理由がありますか?
 どんなに辛くても サンダー家に帰りたいのであれば 引き止めません。
 もしよければ 私の両親にちゃんと説明をして屋敷内に部屋を用意し 侍女も付けて 怪我を治し体力も回復していただきたいのですが・・」

 あんなに出たくてたまらなかったサンダー家から 出れる・・?
 怪我が治るまででも・・あの地獄から出れる・・
 治ったら 何か恩返しをしなくては・・
 でも 本当にいいのかしら・・?

「ありがとうございます。助かります」
 
 恐縮する私に、ロナルドさんは最高の笑顔をくれた。
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