下宿屋 東風荘 2

浅井 ことは

文字の大きさ
47 / 102
退院

.

しおりを挟む
ガラッと戸があいて、ほらっとジュースを渡される。

小さいペットボトルのコーラだったので、投げたら開けられないよ!と言いながら、少しずつ開けて、プシューとなる音で無理!とまた閉める。

「振ろうかとも思ったが、バレるだろ?」

「玲さんイタズラしすぎですって!雪翔気をつけろよ?すっごく古いけど、この前車に乗った時、俺ブーブークッション敷かれてたんだから!」

「あれは効果を確かめたんだよ!まさかあんなでかい音とは思わなかったから、びっくりしたけどな」

「ブーブークッションて、何……?」

「知らないの?あー!年の差だよ!じゃぁお楽しみにしておいてくれ。海都に試そうとするんだけど、あいつ勘が良くてさ」

「どんなのだろう?」

「明日見せてやるよ。でだ!栞が明日食いたいものないか?って」

「揚げ物食べたいかな?病院ではなかなか出なかったし、唐揚げとかポテトサラダ……とか」

「ん?」

「ねえ、ポテトサラダって……着物きた男の人が作ってて、僕が芋潰してて……」

「そう!冬弥さんとよく作ってた!冬弥さんはいつも着流しなんだ。後ろで髪くくってて、背も高い。顔は分かるか?」

まだ……と首を振る。

「食べたら思い出すかもな!俺たち今日はもう帰るけど、車椅子充電しておけよ?」

「あ、バッテリーの予備箱にない?」

「これか?」

「うん、常に持ってた方がいいって書いてあったから、これもしておく」

「よし、じゃあ明日な!」

ありがとうと言って、早速充電器にさしておく。説明書もビニールの袋に入れて後ろのネットに入れ、買い物の時どこに荷物を置こうかとつい車椅子を見てしまう。部屋のトイレくらいの距離なら、何かに捕まればゆっくりだが歩いて行ける。やはり手摺を付けてもらおうかなと思い、今会ったばかりだがラインを送る。

すぐに『OK』と返事が来て、明日帰るのを楽しみに本を読んで残りの時間を過ごしていると、紫狐が帰ってきた。

車椅子を見せていくつか話をしていると、夕食が来たので、果物をみんなに上げる。

「ゆっきーのへやもみてきました!機械がたくさんでしたよ?」

「ネットが付いたからかな?触っちゃダメだよ?みんなが使うから。特に金と銀!なんでも触るから……」

「触らないもん」と金が言うと銀も、ぼくも!と元気に答える。

夜はぐっすりと寝て、朝早くに起きて充電を見ると満タンになっていた。予備のバッテリーを入れる袋が防水になっていたので、後ろのネットではない専用の入れるところに入れて、着替えて顔を洗う。

朝ごはんを持ってきた看護婦さんに、気が早いと言われたが、帰れるのが嬉しいからと言って朝食を食べ、早めの診察を受けて皆まだかな?とそわそわして待つ。

8時半にみんなが来てくれて準備をし、バッテリーがもったいないからと堀内が押してくれる。

「小回りも効くからこれはいいね」

「うん」

ナースセンターで挨拶をして、車に乗って下宿へと帰ると、母屋には棟梁がいて手摺を付けてくれているところだった。

「邪魔にならない程度の細い木で作ったが、頑丈さはお墨付きだ!おかえり雪翔君」

「ただいま」

「さ。荷物の整理しちゃうから、寝間着……じゃなくていいわよね?」

「ジャージでいいんじゃ?もう病院じゃないし」

「捕まれば自分で出来るよ?」

「ほう、大したもんだ!若いっていいな」とガハハといつもの独特の笑いでさらにみんなを笑顔にする棟梁。

その棟梁に、前にした話は覚えてるかと聞かれ?ちょっと考えてから彫り物?と言うと、そうだと喜んでくれた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

処理中です...