高嶺の花屋さんは悪役令嬢になっても逆ハーレムの溺愛をうけてます

花野りら

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第一部 春

58 デューレ先生は神?

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 先生! と言いながらわたしは手を挙げた。
 
「お花摘みに行ってきます」

 眉をひそめた女教師は、なぜ休み時間に行っておかないの? と訝しがる。そこでわたしは、ああん、と身をよじったあと、もじもじと股間に手をあてた。

 もちろん、演技よ、うふふ。
 
 すると、ニコル先生は観念したのか、小さく手を振って、いってらっしゃいと示した。わたしは目を細めながら席を立つと、流し目でニコル先生を見据えながら廊下に出た。そのとたん、私も、私も、と次々に女子生徒たちが手を挙る。やがて、わたしの後について来た。
 
 結局、教室に女子の姿はいなくなった。

 わたしは扉を閉めて、廊下側との間に結界を作る。どちらが天国か地獄かわからないけど……。さて、フェイと作戦会議をする前に、この女子たちを片付けないと埒が明かないわね。すると、いきなり……。

「ごめんね~メリッサ~」

 モブABCがメリッサに抱きついて謝罪した。メリッサも泣きながら謝罪する。
 
「ごめんね、ルナスタシアはすごくいい子だった。それなのに、いじめるなんて最低なことを、私、私、ごめんなさいぃぃぃ」

 ぴええん、なんて泣きわめくメリッサの肩を抱き寄せるモブABC。なんだかんだ言って、この四人は仲が良いのね。敵キャラの結束に、なぜか心が和んだ。いや、もう敵キャラではないか。わたしと一緒。平凡なモブと変わらない存在に、彼女たちはなったわけだ。
 
「一件落着だぞ」ベニーが笑う。
「みんなで仲良くね」唄うようにルナが言うと、女子生徒のみんなは、こくりとうなずいた。
 
 それにしても、ルナスタシア・リュミエール。あなた、とんでもないことをしてくれたわね。これは、ゲームのシナリオから大きく逸脱した行為よ。そして、デューレ先生とニコル先生。
 
 あのイケメン教師と美女教師もヤバイ、危険分子だ。
 
 もしかしたら、この乙女ゲームを崩壊させるトロイの木馬、つまり、コンピューターウィルスの一種なのではないだろうか?

 わたしは何も言わず、女子たちの集団から姿を消した。

 道すがら、トイレに向かったフリをして階段を降り、踊場で立ち止まる。すぐにフェイと話したかったからだ。わたしは胸ポケットからフェイを取り出してつまむ。フェイは手のひらの上で、人形のように固まっていた。
 
「ねえ、フェイ、フェイ」
「……」

 ぴくり、と動いたフェイは、しゃべってもよき? と尋ねた。
 
「よきよき。ねえ、フェイ。あなたどう思う? あの先生たち、なんか変じゃない」
 
 腕を組んで考えこんでいるフェイは、首をコキコキと左右に振ってから答えた。
 
「うん、変だね。あんなキャラは創造した覚えないよ」
「やっぱり……どういうこと、この現象は?」

 ん~たぶん、と曖昧な返事をしたあと羽を広げた。わたしが、飛ばないでね、と両手の手のひらで覆った。
 
「うぐぐ、何者かに干渉さている可能性がある」

 え? わたしは手を解放した。息が詰まっていたフェイが、はあ、はあ、と慌てて呼吸しているけど、かまわず質問する。
 
「干渉ってまさか、のぞき?」
「いや、そういうことではなくて、ハッキングされていると思う」
「ハッキング? だれに?」

 怪しいのは……と言って顎に指先を当てたフェイだったけど、次の瞬間には、みるみるうちに顔から血の気が引いていき、蒼白となった。やがて、おずおすと腕を伸ばして指差した。わたしの背後を示して、「うしろ、うしろ、真理絵」と震えた声を上げる。
 
 うしろ? と思って振り返ってみると、一人の男性が立っていた。
 
「授業中に何をやってる?」

 イケメンボイスが響く。眼鏡をかけたブラックスーツの数学教師だった。
 
「デューレ先生こそ、こんなところで何を?」
「僕は屋上に行って空の観察をするつもりだ」
「空を?」
「ああ」
「なぜですか?」

 フッと鼻で笑った先生は眼鏡を指先で上げると、わたしの手のひらで横たわる物体を示した。
 
「その子に訊いてみな」
「?」

 気づいている? この先生!
 
 デューレ先生は、さっとわたしの横をする抜けると階段を昇っていった。わたしの頭のなかで、コマンドの入力画面が浮かぶ。
 
 たたかう →
 
 逃げる  →
  
 で、揺れ動いていた。
 
「ええい、もうどうにでもなれっ、追いかけるわよ! フェイ」

 わたしは足を踏み出した。すると、手のひらの上で慌てたフェイが、待ったをかける。
 
「あわわ、真理絵、ちょっといい?」
「なに?」

 たぶん……とつぶやいたフェイは、また曖昧な返事をした。
 
「あの男の人、僕のお兄様だ、さっき授業中に、もぞっと動いたのわかったでしょ?」
「あ……先生と答え合わせしていたときね、乳首は感じやすいんだから、動かないでよ」
「ごめん、ごめん、あのときに知らせようと思ったけど、みんないるし、やめておいたんだ……お兄様はああ見えて……実は……」
 
 わたしは、んもう! と激怒した。なよなよした男が基本的に嫌いな性分なので。言いたいことがあるなら、しっかりと言って欲しかった。
 
「なに、はっきり言ってよ、フェイ! あの人は何者なの?」
「神だよ」
「はあ? 神?」 
 
 走り出していた足が止まる。わたしの脳回路は、ピキッと電気が流れて、一瞬だけフリーズした。
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