転生したら本でした~スパダリ御主人様の溺愛っぷりがすごいんです~

トモモト ヨシユキ

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13 婚姻を解消しますか?

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     「でも、本当に、ヨシュア兄ちゃんは、すごいなぁ」
     ティルが俺に無邪気に言った。
    俺たちは、ティルの保護者?であるディアン王子がアークと話している間損害のなかった客間でくつろいでいた。
     「その、ヨシュアってなんだよ。俺は、ユウ、だ」
    「そうなの?」
     ティルが妙に感心した様子で言った。
    「ユウ兄ちゃん、二人も従魔を従えてるなんてすごいよね」
      「なんで、お前が、そんなこと知ってるんだよ?」
     俺がきくとティルがてへっと舌を出して、腰につけていた鞄から大きな魔石の結晶を取り出した。
    「兄ちゃんたちの寝込みを襲おうとしたら、邪魔しに来たから二人ともここに閉じ込めちゃった」
    マジか?
    俺は、ティルに言った。
   「はやく!二人を出してあげて!」
    「ええ・・どうしようかな。僕、術をかけるのは得意だけど、解くの苦手なんだよね」
   ティルが渋るので、俺は、魔石の結晶をティルから取り上げた。ティルがギャアギャア騒ぐがかまわず、俺は、魔石の解析を始めた。
    それは、巨大な魔力が圧縮され、幾重にも封印がかけられたものだった。俺は、その封印を順番に解いていった。同時に、圧縮された魔力を解放していく。
    「すごい!兄ちゃんは、やっぱりすごい!僕は、こんなスピードで術を解けないよ。さすが、『R』シリーズ、最高傑作だけのことはあるね」
     ティルが簡単の声をあげる。
   俺が、最後の封を解くと、その場にディエントスとアルカイドが現れた。
   「このガキが!」
   ディエントスが怒声をあげた。ティルがわざとらしく怯えたふりをして俺の後ろに隠れる。
   「わーん、悪気は なかったんだよぅ」
    「何が、悪気はなかった、だ!悪気がないのに封印なんてできるか!」
     「激しく同意します」
     アルカイドも、ディエントスの言葉に頷いた。
   うわっ!
   この人たち、めっちゃ怒ってるよ!
   「こら!ティル!ちゃんと、あやまりなさい!」
      俺が命じるとティルが嫌そうに俺の後ろからちょこんと顔を出してディエントスとアルカイドに頭を下げた。
   「ごめんなさい」
    「まあ、すんだことだし、許してやってよ、二人とも」
    俺が頼むと、二人は、歯軋りしながら拳を握りしめて言った。
   「主がそう言うなら仕方があるまい。が、二度はないぞ!」
   俺は、二人に席を外してくれるように頼んだ。ティルと二人きりになって、ききたいことが山ほどあったのだ。
    俺は、二人が出ていくのを待って、ティルに問いかけた。
   「『R』シリーズって」
    「その前に」
   ティルが俺を制した。
   「いろいろ話しておくことがあるんだけど」
    「なんだよ?」
    俺が問うとティルが答えた。
   「僕たちを創った人の話だよ」
    「エドランの?」
    「うん。そうか、ユウ兄ちゃんは、エドランに創られたと思ってるんだ。でも、本当は、違うんだよ」
    ティルがソファに座ると隣をポンポンと叩いて言った。
   「まあ、座って。ユウ兄ちゃん」
   俺は、いろいろ言いたいことがあったけど、言葉を飲み込んでティルの隣に腰を下ろした。ティルは、えへっと笑うと話始めた。
   「まず、兄ちゃんは、『R』の話を知ってる?」
   「ああ、原始の書のことだよな?」
    「うん、そう」
    ティルが頷いた。
   「そして、僕たちのお母さんでもある本だよ。フレイラって名前なんだけどね。僕たちのお父さんは、彼女のことを探してるんだけど、もう、数百年も行方不明なんだよ」
    数百年?
   「正確には、321年だよ。ちょうど、兄ちゃんがこの国にあるダンジョンに封じられた頃のことだよ」
   あの時。
  確か、勇者が現れて俺とエドランは、敗れたんだった。
   勇者は、どうやって俺たちを倒したんだっけ?
   ティルが答えてくれた。
   「兄ちゃんを倒したのは、母さんと勇者ラドリーだよ」
   「母さんって・・『R』か?」
   俺の質問に、ティルは、頷いた。
   「そうだよ。『Rー15』の兄ちゃんを倒せるのはリミッターのない母さんだけだからね。仕方なくガラム父さんが勇者に貸し出したんだけど、その後、母さんは、行方不明になっちゃったんだ。だから、ガラム父さんが今、探してるんだけど見つからないんだ」
      「そうなんだ」
   俺は、適当な相づちを打った。
  俺に、家族がいたなんて、信じられない。
   「ガラム父さんは、ずっと兄ちゃんのことも探してたんだけど、兄ちゃんも見つからなかったんだ」
   ティルが言った。
    「だけど、最近、この辺で兄ちゃんの、『R』の気配がしたから、ガラム父さんに頼まれて僕が来たんだよ」
     「ガラム父さんって・・?」
     俺は、きいた。すると、ティルは溜め息をついた。
   「やっぱり兄ちゃん、ガラム父さんのことも忘れてるんだ」
    「忘れる?」
    「無理もないんだけどさ。だって、兄ちゃんは、生まれてすぐにガラム父さんのところから拐われたんだからね」
    拐われた?
   俺が訝しげにしているとティルは言った。
   「兄ちゃんが生まれた、その日のうちに、ガラム父さんの弟子だった男、つまりエドランに連れ去られたんだよ。それからは、あの惨事だし。ガラム父さんは、心を痛めてるよ。エドランの奴が兄ちゃんに酷いことをさせてるって。それで、エドランから兄ちゃんを取り戻すためにガラム父さんは、『R』を、つまり、母さんを勇者に貸し出したんだ」
    なんだよ、それ?
   俺は、頭がぐるぐるなっていた。
  俺を創ったのは、エドランじゃない?
   なら、なんで、俺は、エドランに支配されてるんだ?
   「でも、俺の持ち主は、エドランだけ」
   「そんなわけないじゃん」
    ティルが事も無げに言った。
    「持ち主の名前の書き換えをすれば、持ち主は変えられるよ」
   「マジで?」
   俺がきくと、ティルがどや顔で答えた。
   「僕たち『R』は、自分で持ち主を選べるんだからね。自分で好きなように持ち主を変更できるんだよ」
       「どうやって?」
    俺は、ティルに詰め寄った。
   「どうやれば変更できるんだ?」
    「ええっ?」
    ティルが困ったような顔をした。
   「どうって、頭の中で持ち主の名を浮かべて、それを新しい持ち主の名に書き換えればいいだけだよ」
    俺は、すぐに自分の中に目を走らせた。
   どこにあるんだ?
  俺の中。
   中心へと探っていくと、それは、あった。
   俺は、意識を集中してエドランの名を消去し、その上にアークラント・ダンクールの名を記した。
   ぎゅるん、と世界が回転する。
   そして、意識がクリアになっていくのを、俺は、感じていた。
   それは、新しい世界だった。
   「できたの?兄ちゃん」
    「ああ」
    俺は、頷いた。
   廊下を走ってくる足音がして、ドアが勢いよく開き、息を切らしているアークが駆け寄ってくる。
   「ユウ!どうしたんだ?何が、あった?」
    「うん」
   俺は、アークににっこりと微笑んだ。
   「俺の持ち主がエドランからアークに変更されただけだよ」
    「マジか?」
    「兄ちゃん、持ち主にしてないのに、その人、兄ちゃんの力を使ってたよね?なんで?」
   ティルにきかれてアークが俺をぐぃっと抱き寄せて、すっと左手を掲げた。その薬指に輝く金のリングを見て、ティルは、目を丸くした。
   「まさか、精霊との契約で?マジか。そんなややこしいことしてるんだ。でも、もう、これでその契約は取り消しても大丈夫だよ。だって、正式な持ち主になったんだから」
    「えっ?」
    俺とアークは、顔を見合わせた。
   婚姻の魔法を解約する?
   「できないよ、それは」
   「そうだ。俺たちは、女神に誓ったんだからな」
    アークの言葉にティルが言い返す。
   「でも、もう、必要ない契約だし、女神クリュセナより上位の神から働きかければ簡単に解消できるよ」
      マジか?
   俺は、アークを窺うようにちらっと見た。
  アークは、俺を見ることなく言った。
  「ユウが、その方がいいなら、俺は、それでいい」
   ほんとに?
   俺は、婚姻の魔法を展開し、それを打ち消した。
   俺とアークを繋いでいた指輪が消えていく。
   俺は、胸に穴があいたような寂しさを感じていた。
   「うん、その方がいいよ、兄ちゃん」
   ティルが微笑んだ。
   「人間なんて、すぐ死んじゃうし、婚姻の契約じゃなくって、ただの持ち主ならすぐに書き換えることもできるし楽だよ」
    「そうなんだ」
    俺は、俯いて、じっと指輪のあったところを見つめていた。
   なぜかな。
   視界が滲んでくる。
   ぽつん、と涙が指へと落ちた。
   「ユウ?」
   「・・なんでも、ない」
    俺は、涙を隠そうとした。だけど、隠すこともできずに、アークに腕を掴まれて顔を覗き込まれた。
   「泣いてるのか、ユウ」
    「うるさ・・」
    俺は、涙でぐしゃぐしゃになった顔を隠そうとしたけど、アークは、そうさせなかった。アークは、指で俺の涙を拭いながら、言った。
   「泣くほど嫌なら、解消なんてしなければいい」
    「だって、アークが・・」
    俺は、前世でのことを思い出していた。
   『俺が男で、お前も男だから』
    「嫌なのかと思って・・」
    「バカだな」
     アークが俺を抱き締めた。
   「俺はお前を愛しているって言っただろう?」
   「アーク・・」
    俺は、アークの胸にしがみついて泣きじゃくった。
   アークは、俺が落ち着くまで黙って、抱いていてくれた。
   俺が泣き止む頃には、俺たちの指には、金色のリングが戻っていた。
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