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第一章
『ゴーレムバトルというよりは、ある種の随伴訓練』
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報告もされず、半ば放置されて来た魔物問題。
それは『ひとまず害が無いから大丈夫』など言えるものでは無かった。それこそ街道を商人が行き来している時だったら大騒ぎになっていたところだ。報・連・相をちゃんとされてない事態を重く見たから領主自ら出撃する……と言う訳でもないが、今後の為にも少々頑張っておくことにした。部隊を率いての戦闘や個人での武勇も、無いよりはあった方が良いという事、そして部下たちを鍛えるというよりは、『我が領での戦い方』を確立しておく為である。
判り易く言えば、今後の問題にまとめて対処するためだ。
部隊運用が確立して居れば次以降の戦いは任せられるし、個人的武勇があれば舐められることはないし、
「コレを覚えたら後は楽勝って戦い方を教えてやる。次からは俺無しでも勝てるようになるから、よく覚えといてくれ!」
専門用語で『ドクトリン』というものがある。
それは得意な戦術を決め打ちし磨く事で、優位に戦おうとする戦い方である。まずはその運用を考慮し、無理であるならば別の戦いを考えるというやり方ならば戦い方にしても訓練にしても、やり易くなるからな。
「簡単に説明するぞ。ゴーレムを盾にしてまずは石や弓で攻撃しろ」
「ストーンゴーレムはオーガと同じくらいの強さだ。援護があれば勝てる」
「逆にゴブリンの注目はゴーレムが請け負ってくれるからお前たちは無事だ」
「ビビってるのはお互い様になる! だったらビビリもせず、倒されても壊れるだけのゴーレムがいるこっちの方が有利だ。いいか、ゴブリンなんかより訓練した兵士の方が強いんだ。落ち着いて行けば絶対に勝てる!」
俺が冗談で言っている様に思えるかもしれないがマジだぞ。
ゴーレム創造魔法があるから、『俺の作ったゴーレムは最強なんだ!』とか言う気はない。というかそんな魔法があるんだったら誰もが習得しただろうし、人間は魔王に負けかけて居なかっただろう。要するに人間で言えば五人力、強い個体で十人力くらいだと思えば良い。英雄レベルまで行かなくとも、ちょっと強い加護を持ったその辺の傭兵に負けてしまうのだ。強化した弓で狙撃されたり、攻撃呪文を連発されたら簡単に砕けるからな。
そう言う訳で、量産型のストーンゴーレムは人間の盾である。
神の加護のお陰もあって人間は訓練すればちゃんと強くなる者が多い。もちろん鑑定料だって無料ではないので一生自分の加護を知らない者も多いが、大抵はちょっと便利で使い易い加護を持っているもんだ。力持ちとか走っても疲れないとか、そういう連中は判り易いしな。
「ほ、本当にそれで良いんですか?」
「ああ。構わないとも。まずは生き残れ。そして経験を積んだら仲間に教えてやれ。それで十分に強い部隊になる」
難民の中で比較的に素直な連中が巡検隊になっている。
そいつらを分隊として、幾つかの分隊をゴーレムの後ろに付けた。後は石を投げたり弓を放ち、槍で牽制しながら戦えば少しずつ戦況が落ち着いて行く。そうすれば参加している兵士たちも相手の攻撃を防げるようになるし、勝てると判ればちょっとしたことでは逃げなくなるのだ。というか雑兵は一回殴られたら逃げ出すのが新米で、兵士は一回だけならば耐え、精鋭は殴られても無事ならまだ戦えると判断できる連中の事だ。最初から強さを期待してはいけない。
これは魔物たちが生命であり、即座に補充されない事を重視している。
ゴブリンとかは兎並みに繁殖力が高いが、それだって生まれた子供が獣の様に即座に動けるわけでもない。最低でも数年掛かるし、加護を山盛りにした魔将なんか数十年は掛かるだろう。三大ゴーレムも言わば剣聖や賢者の盾であり、彼らをアタッカーにしてフル活用するための手段だった。ゴーレムは壊されても再生産できるし、損傷くらいなら俺が直せるからな。
「領主さまと最初に会った時を思い出しますなあ」
「あの時はみんな信じなかったけどな。それでも逃げ出さないだけありがたかったさ。もっとも、あの時の騎士連中は今でも許してないがな」
勇者軍に居た古株は懐かしそうに新人たちを眺めていた。
このドクトリンは俺が無い知恵絞って確実に当てる方法を編み出した物で、相手が圧倒的大多数ではない限り問題なく勝てる。それで小さな勝利を連発して自信を付けたら、他の部隊と一緒にみんなで戦うという試みだったんだ。まあ、騎士たちは俺達を消耗品扱いして援護どころか勝手に進撃するし、有用性を認めて徴用した時も、壊れるまで最前線で戦わせて消耗するのを待つだけだったけどな。それが連中の性格が悪いから……だけではなく、凝り固まった常識だという事に気が付いたのはもっと後だ。
鎧や馬の様な貴重な消耗品で、上手く扱えば便利なツールだと説明すべきだったと、随分後になってから気が付いたんだよな。ちなみに義勇兵はそれ以下の矢玉の様な扱いだった。俺が世間知らずだったと言えばそれまでだが、だからこそ今の俺の活躍があると言えなくもない。
「連携さえできるようになれば、今後も問題なく運用できる。暫くは様子を見といてくれ。巻き込みはともかく、隠れてる連中が一番やばい」
「気が付かないと危険ですからな。承知しましただ」
複数の分隊にしてるのは交代要員と四方の警戒だ。
この辺りは何も無い荒野だから良いとしても、ちょっとした窪みや丘陵が無いわけではない。隠れたゴブリンが一般人同然の雑兵を襲ったら、あっという間に士気崩壊してしまう。それを考えたら、功績よりも生き残る事の方が重要だろう。
まあ、そんな感じで戦術に組み込むところまではこぎつけた。
「よーし、ひとまず問題はなさそうだ。亜人たちが居ると判ってる辺りに行ってみるぞ。最悪、俺とゴーレムが全部まとめてふっ飛ばすから気にするな。まず慣れるために見ていろ!」
「は、はい!」
人間、慣れるのに一番良いのは人がやっているのを見ることだ。
安全地帯でのほほんとされても困るが、直ぐ近くで危険な戦闘が起きている状況を体験させれば結構変わって来る。そしてちゃんと戦えた奴を褒めてやり、暴走しない程度のご褒美を渡せば次からは普通に戦ってくれるだろう。後はそれを繰り返すことで、自身が付けば『ちょっと行ってきます。ゴーレムを貸してください』というサイクルが出来上がるはずであった。
ただ……この訓練道中記で唯一の失敗は、移動が面倒くさい事だな。荒野の中をズンズンあるいて、それでも居ない可能性があるのだからやって居られない。
(しまったな。ゴーレム列車を作るのはやり過ぎにしても、ゴーレムの荷車くらいは再起動させとくんだった。呪文が切れたからってただの荷車として使うんじゃあなかったな)
おおよそ10km以上は歩いた辺りで面倒くさく成って来る。
大した鎧を着ていないからマシだが、人間は3時間も歩けば疲弊して来るものだ。剣技や魔法の存在する世界だから鍛え上げた人間は強く成れるが、飽きだけはどうしようもないと言える。見渡す限りの荒野で何も無いから実に飽き飽きして来た。
グルリと見渡してついてきている連中が緊張しているのを利用して、俺は休憩を取って話でもすることにした。
「敵も見つからないし、暫く休憩するぞ。本番は戦う事で歩くだけで疲れる事じゃないからな。昼にはその倍くらいは時間を取る。見張りを交替しながら休め」
「はい! 休憩だぞ!」
「ああ……助かった」
旅慣れた勇者軍出身者はともかく、難民はその場にへたり込んだ。
体を鍛えてないから仕方がないし、それでも巡検隊として村を見回る仕事を与えたからまだ着いて来ている。自分が強くなるとこういう斧たちの事をつい忘れがちになるわけだが……勇者や剣聖たちは強い傭兵出身者とかでも平気でフリ落としていったからな。オーガやトロルとガチれる奴らを切り捨てるとか羨ましい強さだが、今はとりあえず反面教師として置いた。
こんな面倒くさく飽き飽きする旅程が数日は続くのか?
そんな懸念が頭をよぎるが今更止めることはできない。今後の予定を考えながら、暇を潰しつつこの日は探索を続けて行った。
(塩田で金を稼いで食料を買い、畑がマシになるだけの時間を手に入れた)
(弟子もそろそろ志望する魔術系統を決めたろうし、何の呪文であれ便利にはなる)
(今回の事で防衛だけなら、何とかなるだろう。内側については目途が付いた)
(ようやく『次』を考える余裕が出来たってところだな。時間経過すれば全てが少しずつ良くなっていくはずだが、その流れは良くしておきたいし、保険もかけておきたい。食料と産業は海の向こうとして、うちの領地ならではの凄い物が欲しいな。輿入れしてつまらないモノしか無ければ姫が可哀そうだろ。10歳以上年上のアラサーを旦那にする以上は、来て良かったと思えるようにしときてえ)
食料と畑に関しては、網を手に入れて干し魚でも用意すれば良い。
それで十分に今の人口の食料は補えるだろうし、余れば売っても良いが畑に肥料として使うのもアリだ。またこの辺りは暑いので、南洋の植物が期待できるだろう。荒野では絶対に無理だが、海の向こうならば何か……出来ればサトウキビかカカオでも欲しい所である。普通ならば活かしきれないが、ゴーレムなら砂糖液をプレスすることも、カカオの身を砕くことも簡単に出来るからな。そうすれば美味しくて素敵なデザートくらいは出来るかもしれない。料理でチートできるほど食文化が廃れてるわけではないが、地球由来のスイーツなら何かしら少女が好むナニカを作れるのではないかと思った。
それはそれとして、俺自身も退屈な生活には飽き飽きしてきたところだ。
せっかくゴーレムが作れるのだから、戦うかは別にしてロボット的な発明もしたい。ゴーレム荷車にゴーレム列車、あるいは……流れるプールなんか良いんじゃないだろうか? 海の水を引き込んで回転させるだけなら出来るし、水系統の呪文が増えれば普通の水だって用意できるだろう。
(決めた。暑くてやれねえ。噴水でも何でも良いが、涼しくなる仕掛けを目指そう。正倉院とか確か壁に成ってる竹に水掛けて冷やせただろ。空中庭園由来の知識とかで……ああ、それも良いな。華やかで良い。無理筋と思えるが、夢としちゃあ最高だ)
ここで俺は新たな目標を見つけることが出来た。
お屋敷として空中庭園を造り、空なんか飛ばさないが浮いて見える庭くらいは作れるだろう。丘そのものを庭園にして、上に竹の水道で水を送れば良い。ポンプがなくとも、水車をゴーレムにして塩田で楽にするアイデアがあるのである。同じような仕掛けを空中庭園を作るのに使っても良いだろう。
そんな他愛もない未来の青写真を描き始めた時、今度は呼んでもないのに問題の方からやって来やがった。せっかくのナイスアイデアが失われちまうじゃねえーか!
「領主さま! ゴブが沢山と、でっかいのが一匹いますだ!」
「よし。俺とゴーレムが前に出る! お前たちは打ち合わせ通り、俺が通らない方向から援護を頼む!」
「「はい!」」
荒野なので歩いて接近する奴らが居れば遠目に発見できる。
俺達は倒しに行くし、向こうも食料や水を奪おうと必死で走って来た。最初の休憩から結構歩いたので領境側であり、ゴブリンたちもまだ体力が残っているのだろう。
俺は担いでいた蛇腹剣を解放し、ゴーレムの右後ろから敵の方に接近していく。
「食らいつけ蛇彦。お前は電光よりも速い」
『ギャッ!?』
キーワードを唱えると、大剣がバラバラになって蛇腹剣となる。
そして大振りで薙ぎ払う様なスイングを掛けると、バラバラになった八枚の刃が紐に繋がれた状態となって、唸る様にゴブリンの喉元を切裂いた。普通は重量バランスの問題で刃が回転することもあるのだが、そんな事は無く綺麗にゴブリンの顎のあたりを切ったのだ。
ちなみに、この蛇腹剣はゴーレムだから出来る事である。
要するにゴーレムがパンチしているのと変わらず、重量問題でこちらの方が火力が低い。だが命令次第で思わぬ軌道で攻撃させられるのと、もう一つ目玉があった。
『ギャッギャ! ギャギャ!』
「そうか。仲間が殺されて腹を立てたって? じゃあゴーレムが攻撃してくるのをかいくぐってくれ。こっちも防御するけどな。回れ、円の様に、丸の様に」
ゴブリンたちがゴーレムを避けながら俺の元へ来る。
ゴーレムはオーガを抑えて居るし、部下たちは左側から援護射撃しているので右ガラ空きだと言える。だが、俺が新たなキーワードを唱えると、蛇腹剣はそれぞれの刃が回転したり、全体で円や丸を描くように動き始めた。これでオ―ト防御してくれるって感じだな。もちろんこれも、ゴーレムがシールドを振り回した方が確実に攻撃を止められるだろう。
要するにこの蛇腹剣はゴーレムだから、勝手に攻撃するし勝手に防御する感じだな。どこかの青いタヌキみたいな猫が劇場版でよく使う、秘剣みたいなものだと思って欲しい。
「ええと戦況は……ああ、オーガが苦しみ始めたな。じゃあ、そろそろか」
この蛇腹剣を持って来た理由はもう一つある。戦況を観察できる余裕が生じる。
ゴーレムは最初から防御しながら、周囲に居る者たちを攻撃している。それはオーガであったり、ゴブリンであったりする。淡々と行動するゴーレムにオーガは苛立つだけだが、仲間であるゴブリンが減ればそんな余裕は無くなる。また、部下たちが矢を放ったり石を投げている為、ずっとこちらに有利になって行くのだ。この状態で俺はゴーレムを修理することも瞬間強化することも可能なので、まず負けることはない。
ただ、せっかくだから全滅はさせておきたい。
またやってきたところを戦うのは面倒だし、部下たちの自信になる。それに連中の死体から血抜きさえすれば、荒野の栄養分になってくれるはずだからな(血液には塩がいっぱいあるので血抜きは必要)。
「よし! ここから追い込みに入るぞ! 最悪、俺が呪文を唱えるから気にするな。接近せずにドンドン物を投げていけ!」
「へい! やれる、おら達でもやれるだべ!」
「お、おおおお!!」
こうして俺たちは亜人たちの集団を何の苦労も倒した。
実際に戦ったのはゴーレムと俺だが、部下たちの自信になったから次回は頑張ってくれるだろう。死体には一時的にゴーレム化の魔法をかけてフレッシュゴーレムにして、血を抜いた後で荒野に埋めたのである。
報告もされず、半ば放置されて来た魔物問題。
それは『ひとまず害が無いから大丈夫』など言えるものでは無かった。それこそ街道を商人が行き来している時だったら大騒ぎになっていたところだ。報・連・相をちゃんとされてない事態を重く見たから領主自ら出撃する……と言う訳でもないが、今後の為にも少々頑張っておくことにした。部隊を率いての戦闘や個人での武勇も、無いよりはあった方が良いという事、そして部下たちを鍛えるというよりは、『我が領での戦い方』を確立しておく為である。
判り易く言えば、今後の問題にまとめて対処するためだ。
部隊運用が確立して居れば次以降の戦いは任せられるし、個人的武勇があれば舐められることはないし、
「コレを覚えたら後は楽勝って戦い方を教えてやる。次からは俺無しでも勝てるようになるから、よく覚えといてくれ!」
専門用語で『ドクトリン』というものがある。
それは得意な戦術を決め打ちし磨く事で、優位に戦おうとする戦い方である。まずはその運用を考慮し、無理であるならば別の戦いを考えるというやり方ならば戦い方にしても訓練にしても、やり易くなるからな。
「簡単に説明するぞ。ゴーレムを盾にしてまずは石や弓で攻撃しろ」
「ストーンゴーレムはオーガと同じくらいの強さだ。援護があれば勝てる」
「逆にゴブリンの注目はゴーレムが請け負ってくれるからお前たちは無事だ」
「ビビってるのはお互い様になる! だったらビビリもせず、倒されても壊れるだけのゴーレムがいるこっちの方が有利だ。いいか、ゴブリンなんかより訓練した兵士の方が強いんだ。落ち着いて行けば絶対に勝てる!」
俺が冗談で言っている様に思えるかもしれないがマジだぞ。
ゴーレム創造魔法があるから、『俺の作ったゴーレムは最強なんだ!』とか言う気はない。というかそんな魔法があるんだったら誰もが習得しただろうし、人間は魔王に負けかけて居なかっただろう。要するに人間で言えば五人力、強い個体で十人力くらいだと思えば良い。英雄レベルまで行かなくとも、ちょっと強い加護を持ったその辺の傭兵に負けてしまうのだ。強化した弓で狙撃されたり、攻撃呪文を連発されたら簡単に砕けるからな。
そう言う訳で、量産型のストーンゴーレムは人間の盾である。
神の加護のお陰もあって人間は訓練すればちゃんと強くなる者が多い。もちろん鑑定料だって無料ではないので一生自分の加護を知らない者も多いが、大抵はちょっと便利で使い易い加護を持っているもんだ。力持ちとか走っても疲れないとか、そういう連中は判り易いしな。
「ほ、本当にそれで良いんですか?」
「ああ。構わないとも。まずは生き残れ。そして経験を積んだら仲間に教えてやれ。それで十分に強い部隊になる」
難民の中で比較的に素直な連中が巡検隊になっている。
そいつらを分隊として、幾つかの分隊をゴーレムの後ろに付けた。後は石を投げたり弓を放ち、槍で牽制しながら戦えば少しずつ戦況が落ち着いて行く。そうすれば参加している兵士たちも相手の攻撃を防げるようになるし、勝てると判ればちょっとしたことでは逃げなくなるのだ。というか雑兵は一回殴られたら逃げ出すのが新米で、兵士は一回だけならば耐え、精鋭は殴られても無事ならまだ戦えると判断できる連中の事だ。最初から強さを期待してはいけない。
これは魔物たちが生命であり、即座に補充されない事を重視している。
ゴブリンとかは兎並みに繁殖力が高いが、それだって生まれた子供が獣の様に即座に動けるわけでもない。最低でも数年掛かるし、加護を山盛りにした魔将なんか数十年は掛かるだろう。三大ゴーレムも言わば剣聖や賢者の盾であり、彼らをアタッカーにしてフル活用するための手段だった。ゴーレムは壊されても再生産できるし、損傷くらいなら俺が直せるからな。
「領主さまと最初に会った時を思い出しますなあ」
「あの時はみんな信じなかったけどな。それでも逃げ出さないだけありがたかったさ。もっとも、あの時の騎士連中は今でも許してないがな」
勇者軍に居た古株は懐かしそうに新人たちを眺めていた。
このドクトリンは俺が無い知恵絞って確実に当てる方法を編み出した物で、相手が圧倒的大多数ではない限り問題なく勝てる。それで小さな勝利を連発して自信を付けたら、他の部隊と一緒にみんなで戦うという試みだったんだ。まあ、騎士たちは俺達を消耗品扱いして援護どころか勝手に進撃するし、有用性を認めて徴用した時も、壊れるまで最前線で戦わせて消耗するのを待つだけだったけどな。それが連中の性格が悪いから……だけではなく、凝り固まった常識だという事に気が付いたのはもっと後だ。
鎧や馬の様な貴重な消耗品で、上手く扱えば便利なツールだと説明すべきだったと、随分後になってから気が付いたんだよな。ちなみに義勇兵はそれ以下の矢玉の様な扱いだった。俺が世間知らずだったと言えばそれまでだが、だからこそ今の俺の活躍があると言えなくもない。
「連携さえできるようになれば、今後も問題なく運用できる。暫くは様子を見といてくれ。巻き込みはともかく、隠れてる連中が一番やばい」
「気が付かないと危険ですからな。承知しましただ」
複数の分隊にしてるのは交代要員と四方の警戒だ。
この辺りは何も無い荒野だから良いとしても、ちょっとした窪みや丘陵が無いわけではない。隠れたゴブリンが一般人同然の雑兵を襲ったら、あっという間に士気崩壊してしまう。それを考えたら、功績よりも生き残る事の方が重要だろう。
まあ、そんな感じで戦術に組み込むところまではこぎつけた。
「よーし、ひとまず問題はなさそうだ。亜人たちが居ると判ってる辺りに行ってみるぞ。最悪、俺とゴーレムが全部まとめてふっ飛ばすから気にするな。まず慣れるために見ていろ!」
「は、はい!」
人間、慣れるのに一番良いのは人がやっているのを見ることだ。
安全地帯でのほほんとされても困るが、直ぐ近くで危険な戦闘が起きている状況を体験させれば結構変わって来る。そしてちゃんと戦えた奴を褒めてやり、暴走しない程度のご褒美を渡せば次からは普通に戦ってくれるだろう。後はそれを繰り返すことで、自身が付けば『ちょっと行ってきます。ゴーレムを貸してください』というサイクルが出来上がるはずであった。
ただ……この訓練道中記で唯一の失敗は、移動が面倒くさい事だな。荒野の中をズンズンあるいて、それでも居ない可能性があるのだからやって居られない。
(しまったな。ゴーレム列車を作るのはやり過ぎにしても、ゴーレムの荷車くらいは再起動させとくんだった。呪文が切れたからってただの荷車として使うんじゃあなかったな)
おおよそ10km以上は歩いた辺りで面倒くさく成って来る。
大した鎧を着ていないからマシだが、人間は3時間も歩けば疲弊して来るものだ。剣技や魔法の存在する世界だから鍛え上げた人間は強く成れるが、飽きだけはどうしようもないと言える。見渡す限りの荒野で何も無いから実に飽き飽きして来た。
グルリと見渡してついてきている連中が緊張しているのを利用して、俺は休憩を取って話でもすることにした。
「敵も見つからないし、暫く休憩するぞ。本番は戦う事で歩くだけで疲れる事じゃないからな。昼にはその倍くらいは時間を取る。見張りを交替しながら休め」
「はい! 休憩だぞ!」
「ああ……助かった」
旅慣れた勇者軍出身者はともかく、難民はその場にへたり込んだ。
体を鍛えてないから仕方がないし、それでも巡検隊として村を見回る仕事を与えたからまだ着いて来ている。自分が強くなるとこういう斧たちの事をつい忘れがちになるわけだが……勇者や剣聖たちは強い傭兵出身者とかでも平気でフリ落としていったからな。オーガやトロルとガチれる奴らを切り捨てるとか羨ましい強さだが、今はとりあえず反面教師として置いた。
こんな面倒くさく飽き飽きする旅程が数日は続くのか?
そんな懸念が頭をよぎるが今更止めることはできない。今後の予定を考えながら、暇を潰しつつこの日は探索を続けて行った。
(塩田で金を稼いで食料を買い、畑がマシになるだけの時間を手に入れた)
(弟子もそろそろ志望する魔術系統を決めたろうし、何の呪文であれ便利にはなる)
(今回の事で防衛だけなら、何とかなるだろう。内側については目途が付いた)
(ようやく『次』を考える余裕が出来たってところだな。時間経過すれば全てが少しずつ良くなっていくはずだが、その流れは良くしておきたいし、保険もかけておきたい。食料と産業は海の向こうとして、うちの領地ならではの凄い物が欲しいな。輿入れしてつまらないモノしか無ければ姫が可哀そうだろ。10歳以上年上のアラサーを旦那にする以上は、来て良かったと思えるようにしときてえ)
食料と畑に関しては、網を手に入れて干し魚でも用意すれば良い。
それで十分に今の人口の食料は補えるだろうし、余れば売っても良いが畑に肥料として使うのもアリだ。またこの辺りは暑いので、南洋の植物が期待できるだろう。荒野では絶対に無理だが、海の向こうならば何か……出来ればサトウキビかカカオでも欲しい所である。普通ならば活かしきれないが、ゴーレムなら砂糖液をプレスすることも、カカオの身を砕くことも簡単に出来るからな。そうすれば美味しくて素敵なデザートくらいは出来るかもしれない。料理でチートできるほど食文化が廃れてるわけではないが、地球由来のスイーツなら何かしら少女が好むナニカを作れるのではないかと思った。
それはそれとして、俺自身も退屈な生活には飽き飽きしてきたところだ。
せっかくゴーレムが作れるのだから、戦うかは別にしてロボット的な発明もしたい。ゴーレム荷車にゴーレム列車、あるいは……流れるプールなんか良いんじゃないだろうか? 海の水を引き込んで回転させるだけなら出来るし、水系統の呪文が増えれば普通の水だって用意できるだろう。
(決めた。暑くてやれねえ。噴水でも何でも良いが、涼しくなる仕掛けを目指そう。正倉院とか確か壁に成ってる竹に水掛けて冷やせただろ。空中庭園由来の知識とかで……ああ、それも良いな。華やかで良い。無理筋と思えるが、夢としちゃあ最高だ)
ここで俺は新たな目標を見つけることが出来た。
お屋敷として空中庭園を造り、空なんか飛ばさないが浮いて見える庭くらいは作れるだろう。丘そのものを庭園にして、上に竹の水道で水を送れば良い。ポンプがなくとも、水車をゴーレムにして塩田で楽にするアイデアがあるのである。同じような仕掛けを空中庭園を作るのに使っても良いだろう。
そんな他愛もない未来の青写真を描き始めた時、今度は呼んでもないのに問題の方からやって来やがった。せっかくのナイスアイデアが失われちまうじゃねえーか!
「領主さま! ゴブが沢山と、でっかいのが一匹いますだ!」
「よし。俺とゴーレムが前に出る! お前たちは打ち合わせ通り、俺が通らない方向から援護を頼む!」
「「はい!」」
荒野なので歩いて接近する奴らが居れば遠目に発見できる。
俺達は倒しに行くし、向こうも食料や水を奪おうと必死で走って来た。最初の休憩から結構歩いたので領境側であり、ゴブリンたちもまだ体力が残っているのだろう。
俺は担いでいた蛇腹剣を解放し、ゴーレムの右後ろから敵の方に接近していく。
「食らいつけ蛇彦。お前は電光よりも速い」
『ギャッ!?』
キーワードを唱えると、大剣がバラバラになって蛇腹剣となる。
そして大振りで薙ぎ払う様なスイングを掛けると、バラバラになった八枚の刃が紐に繋がれた状態となって、唸る様にゴブリンの喉元を切裂いた。普通は重量バランスの問題で刃が回転することもあるのだが、そんな事は無く綺麗にゴブリンの顎のあたりを切ったのだ。
ちなみに、この蛇腹剣はゴーレムだから出来る事である。
要するにゴーレムがパンチしているのと変わらず、重量問題でこちらの方が火力が低い。だが命令次第で思わぬ軌道で攻撃させられるのと、もう一つ目玉があった。
『ギャッギャ! ギャギャ!』
「そうか。仲間が殺されて腹を立てたって? じゃあゴーレムが攻撃してくるのをかいくぐってくれ。こっちも防御するけどな。回れ、円の様に、丸の様に」
ゴブリンたちがゴーレムを避けながら俺の元へ来る。
ゴーレムはオーガを抑えて居るし、部下たちは左側から援護射撃しているので右ガラ空きだと言える。だが、俺が新たなキーワードを唱えると、蛇腹剣はそれぞれの刃が回転したり、全体で円や丸を描くように動き始めた。これでオ―ト防御してくれるって感じだな。もちろんこれも、ゴーレムがシールドを振り回した方が確実に攻撃を止められるだろう。
要するにこの蛇腹剣はゴーレムだから、勝手に攻撃するし勝手に防御する感じだな。どこかの青いタヌキみたいな猫が劇場版でよく使う、秘剣みたいなものだと思って欲しい。
「ええと戦況は……ああ、オーガが苦しみ始めたな。じゃあ、そろそろか」
この蛇腹剣を持って来た理由はもう一つある。戦況を観察できる余裕が生じる。
ゴーレムは最初から防御しながら、周囲に居る者たちを攻撃している。それはオーガであったり、ゴブリンであったりする。淡々と行動するゴーレムにオーガは苛立つだけだが、仲間であるゴブリンが減ればそんな余裕は無くなる。また、部下たちが矢を放ったり石を投げている為、ずっとこちらに有利になって行くのだ。この状態で俺はゴーレムを修理することも瞬間強化することも可能なので、まず負けることはない。
ただ、せっかくだから全滅はさせておきたい。
またやってきたところを戦うのは面倒だし、部下たちの自信になる。それに連中の死体から血抜きさえすれば、荒野の栄養分になってくれるはずだからな(血液には塩がいっぱいあるので血抜きは必要)。
「よし! ここから追い込みに入るぞ! 最悪、俺が呪文を唱えるから気にするな。接近せずにドンドン物を投げていけ!」
「へい! やれる、おら達でもやれるだべ!」
「お、おおおお!!」
こうして俺たちは亜人たちの集団を何の苦労も倒した。
実際に戦ったのはゴーレムと俺だが、部下たちの自信になったから次回は頑張ってくれるだろう。死体には一時的にゴーレム化の魔法をかけてフレッシュゴーレムにして、血を抜いた後で荒野に埋めたのである。
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竜頭蛇
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ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
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