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第二章

『そうだ、空中庭園を造ろう!』

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 荒野を歩いて敵を探して居た時、疲労感からハイになった。
その時に思ったのだが、ランドマークとして『空中庭園』を造ろうと思い立ったのだ。思いついた直後に敵を見つけて戦闘になった為、妙にその事だけが印象に残っている。まあ、砂糖とかカカオを見つけたら産業にしようなんて、遠洋航海船も作ってないのに遠すぎる話というのもある。

ただ、思い付きとはいえ転生後の事業としては悪くない気がする。
砂漠を緑化するのは壮大過ぎて遠い出来事だし、建物ならば形だけ作ってハッタリ利かせれば悪くない物が出来上がるだろう。第二の人生に置ける手頃な目標として、適当な所に館を立てることにした。

「そうか、開通したか」
「はい。街道整備と予備の用水路に充てていたゴーレムが作業を終えました。後は話がまとまり次第に、治水を開始します」
 沢山ストーンゴーレムがあると戦力過剰なので疑われてしまう。
だから二機のみを使い回し(塩田のは木製)、しかも一機はこないだの戦闘に使うなど別の要件に投入した為に作業が滞っていた。それでも問題なかったのは、単純に治水を要求する領主たちの都合が合わなかったからだ。もちろん時間が採れないという理由で、交渉を難航させる為である。

後は理屈をつけてこの辺りの大物が仕切るか、俺がレオニード伯爵に泣きつくかと言った所だろう。

「なら前に言ってた通り、俺の領地に遊水池を作る。向こうは損をしないし、その区画自体は俺たちの物であり、川を境にされると困るという路線で行くか」
「はい。耕作できない場所が増えるとしても、広さは妥協してはなりません」
 向こうの領主たちは負担費用の他、領地問題を挙げている。
その辺りは両者に帰属している小豪族が、王家に仕える土地持ちの上級騎士となった領地の辺りで、計上される土地自体は両者の物である。だが王領となった後、魔王軍討伐への協力に対する褒美として土地が給付された時に、お互いが主張していたのだ。そこに俺が絡んで川を分岐させ、彼らが耕作地に使える土地を増やす代わりに、水で耕作地に出来なくなる場所を俺の領地が受け持つことになっていた(しかも万が一にも周辺が渇水した場合、彼らにもタメ池の水を供給する約束になっている)。

概ねその辺りで話がまとまったのに、それでもゴネている当たり問題の根深さを感じる。それだけ両者の対立は深刻だったのであろう。

「即座に動けないのは惜しいが……せっかくだ、遊水池にする場所で先に隠し水道を掘ってしまおう。予備の用水路は街道添いにしかないし、水が供給されるなら早ければ早い方が良い。無いとは思うが用水路の水を汚す奴もいるかもしれんしな」
「あまり焦ると足元を見透かされると思いますが、納得は出来ます」
 どのみちゴーレムにやらせることが無いというのもある。
遊水池に当たる部分を掘り下げ、タメ池として使うという行為自体は際限が無いので早い方が良い。掘り起こした土自体は堤を築くために使用できるので、早期に工事を行うこと自体は決して無駄にはならないのだ。もちろん他に優先する工事があるならそちらに回すことを考えたが、村々を繋ぐ街道と側溝ならぬ予備用水路自体は既に掘っているのでやる事が無かった。

その上で、人間がやるべき作業だけならば他に色々とある。

「竹の加工の方はどうなってる?」
「縦に割って節を抜くだけならば簡単ですので遊水池から取水場までならば既に揃っております。せき止められる可能性を考慮して、遊水池を向こうからこちらまでと言うのでしたらいささか足りませんが、他に回し竹を用いれば可能な範囲です」
 領主間の調整で要約できるので、抗争に成ったら止められてしまう。
分岐させた放水路そのものを埋められてしまうと、流石に水が来なくなる。協議の結果作った水路であろうとも、『地割れで埋まったのであろう。我領の事ゆえ心配無用』などと言われたら疑う訳にはいかないし、ゴーレムを派遣して掘り起こす事は出来ないのだ。その際は改めて水の取引の為に交渉をする必要が出て来るだろう。だからこそ、遊水池を貫いて分岐路の根元まで竹の管を通し、うちの領地に作った取水場というタメ池を通す感じだな。

それはそれとして、懸念材料は速めに取り除いておきたい。今は関心が無いから良いが、いちいち見張りを立てて居られると竹の管を埋める作業を見られかねないからな。

「この話を出した時点で優先度が一番だ。竹炭は残すとして桟橋とか筏は一時中断する。出来れば木材を買う方向で話を付けて代用するとして、そうだな……水の問題で直接交渉は出来んのだったな? 建築資材や薪として木材を買う時、暫く割り増しで買うと話を持ってくのはどうだ?」
「良いですね。薪はともかく建築用なら先が見えてますから打ち切れます」
 塩田の村で竹炭の他、桟橋を作って筏で漁業をする気でいた。
しかし現状では存在しない沖での漁業は急ぐほどではないので、将来に備える程度として、今後ずっと使用する竹炭の方だけ研究を残しておく。そうすることで伐採した竹を全て水道に使い、作業可能に成ったら一気に向こう側まで水道を通すのだ。分岐路を掘る時にその下へもっと深く掘るだけの事なので、それほど作業が変わるわけではない。竹の網を埋めて大地を固定する手法は将来の話なので、現時点では進めてないほどだ。

ともあれこれで目途はついた。
以前として領主間の話はつかないものの、それを越えたら次第に一気に進められる。後はこちらが弱みを見せないようにして、介入することで名声なり利益を得ようとする連中が動くのを待てば良い。平和な時代になったとはいえ、魔王軍との戦いで疲弊しているからな。金を補いたい奴は多いのでその内に話はカタがつくはずだ。

「用水路は村の位置に合わせているから、水道は直接つなぐことを前提にする。何も迂回して行く必要はないし、今のところは丘に建物を作ろうとする奴は居ないしな。その上で第二塩田用の村を作るのとは別に、ゴルベリアスの後ろに水の管理をする館を作る。防衛用も兼ねてるから村は必要ない」
「なるほど、今の位置はあくまで小川や湧き水に由来してますからね」
 領都であるゴルベリアスは半円状の中央にある。
これは水の流れの問題で、そこに最も水が集まるからだった。大昔の洪水が多かった時代には、丘や山側は水量が多く、土地が低い場所は水没していた可能性があるからな。その小川を辿って行ったところに大規模な竹藪があって、そこは荒野であっても大地が比較的に水を保って居ることを考えれば、やはり先人が治水の一環として竹をそちら側へ植えた……というか延ばすように植物系の魔法で誘導したのではないかと思う。

それはそれとして、今となっては木の代わりに使う状態なので、減り過ぎない程度に植樹して行こうとは思う。

「水を導くと同時なら不満も出ないでしょう。どのような構造に?」
「遊牧民対策だから高さが必要だろう。上にアーバレストなり投石機を置けるようにしたいところだがそんな建物を用意するのは割に合わん、ここはゴーレムに丘を削らせて土の一部を他の事に使う方が妥当だろうな。もちろん水の一部は、直接館に引き入れる様にする」
 領主が自分の為に壮大な建築を用意する……良くある話だ。
しかしそんな余裕は無いし、今回は水を守るという公明正大な理由もある。俺が来てからこのゴルビー地方は良くなっているし、今度は大量の水が供給されることになっているのだ。この地に住まう人々がそれほど文句を言う事は無いだろう。もちろんそんな金があるならもっと俺たちの生活を良くしてくれという者も居るだろうが、そんなのは一部の水にも食料にも困っていない連中だけである。

もちろん、そんなのは言い訳で、実のところ空中庭園を造る言い訳にしか過ぎないのだが。

「丘を削る……ですか。ゴーレムがあればそれも可能なのですね」
「そういう事だな。ゴーレム魔法の一部に素材の保存性を増すというものが在るから、変形した腕を用意してやれば俺が居る限りは保てるだろう。思えばゴーレムの形状を、律儀に人間の形にする必要はないんだ。L字型の腕やT字型の腕で成形してしまえば、地面はそこそこに形を作れる。そうだな、防衛用に掘り下げて空堀の他にタメ池を作るというのもアリか」
 巨大なオーガの死体を動かすのにフレッシュゴーレム化した。
あの時に筋肉が意外と保っていたので思い出したのだが、ゴーレム魔法の一部には保存性を良くする効果がある。でなきゃフレッシュゴーレムは腐ってボーンゴーレムになるわけだが、この使い方は研究していずれ別の使い位置を考えるようすることにする。現時点では雪でスノーゴーレムを作っても、この暑いゴルビーではアッサリ溶けちまうからな。ユーリ姫が来た時にアトラクションを用意するくらいである。

なお、雪は無理だが氷は結構簡単に作れる。
昼と夜の寒暖差が大きいので、ずっと影になる部分は恐ろしい寒さになるからだ。だからこそ荒野と砂漠しかないのに木材の伐採が進んでしまって現在に至るわけだが、大きな建物を用意してそこの影を地下道にするとちょっとした冷蔵庫が出来るのだ。興味ないので殆ど忘れていたのだが、確かトルコあたりでもそういう半天然の冷蔵庫があったらしい。それをさらに工夫すると冷凍庫にもなるとか、伊達にアイスが有名じゃないよな。

「山に面した部分もあるから屋上というのも変だが、そこにカタパルトや投石器を運び入れる広さを前提にする。作業自体はゴーレムにやらせれば良いし、クレーンは構造の簡単な物なら用意できるだろう。そこを三階でも四階でも良いが、中に水道を通してタメ池部分に水を落す。竹で作った壁に垂らしてやれば、館の中は意外と涼しくなるはずだ。館の周囲には庭園も作れるかもしれない」
「構想だけなら随分と壮麗に感じますね。まあ実現可能でしょう」
 荒野に四階建ての建物を作るのは無理だ。
だが、丘に建物を建てて一部を削るならば別に難しくはない。山と連なっている部分を削れば、遊牧民がそちらから回って来るのも難しいだろう。丘を削る段階でもし岩が多ければ、館の中に水道ではなく水路を通すことも出来る。あとは風さえ起こせれば体感温度でだいぶ涼しい筈だ。こんな建物を無意味に作ったら問題だが、ゴルビー地方が裕福に成れば遊牧民が襲ってくる可能性は必ず増える。そのために防衛用を兼ねた城にすることを考えれば、いくら大きくても問題はないのだ。

これで空中庭園を造りたいという俺の気持ちは隠したうえで、壮大な計画を進められるような気がする。後は使える魔法の種類が増えれば増える程、この地での生活は楽になるだろう。

「そろそろ弟子候補たちにも魔法を選ばせるか。修業は速ければ早い方が良いしな」
「妾じゃなかったのですか? 便利になるなら構いませんけれどね」
 アレクセイも俺のやり方が判ってきたようで偶に皮肉を入れて来る。
何というか力とか金があると女性に関しては困らないようになるし、どっちかといえば身辺の警戒の方が問題なんだよな。今回の弟子二人は商人の娘だからお互いに利益関係だから良いとしても、言い寄って来た美女が刺客なんてことは勇者軍の頃にはよくあった事だ。魔族側だけじゃなくて、その後に起きるであろう国家間の争いを踏まえて、勇者はともかく管理者側には抗争があったらしい。

何はともあれ、落ち着いたところで弟子たちに次の指導をするとしようか。
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