魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第三章

『対処の成功が失敗であることもある』

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 ビックリするほど色々問題が出たので、分析して対処することにする。
陥没した地面という共通点は在れど、どれもがモンスターとは限らない。そこで砂やら土で埋め戻し、そこで様子を見ることにした。最優先事項は遊牧民対策で、迂闊に右往左往している姿を見せたくなかったからだ。

とはいえ遊牧民も攻めて来ると限っているわけでは無し、まずは継続観察の処理を行っていこう。

「ご指示通り埋め戻しましたが、魔物が見られた場所、変化が薄い場所、まったく変化が無い場所があります」
「幾つかは地下水流だから流砂に注意。まずは対処し易い魔物からだな」
 一概に言えないが、虫の生態の延長なら対処がやり易い。
地下水路が活性化して詰まっている砂や土を洗い出している場所は、この後も延々と続いて行く。砂が続けて零れて行けば流砂に成るし、そのままでも穴のままだ。泉になってくれればマシな方で、場合によっては陥没したまま井戸としても使い難い状態になる。そうなったら穴を掘って、泉を露出させるか……網目にした竹に粘土と土を盛る事になるだろう。こういう時にセメントがあれば助かるのだが、ローマンコンクリートって詳しく知らないんだよなあ。

確か火山灰と砂と水と、あとナニカ。
そのナニカが判らないから放置しているし、判った所で火山を探すことになるだけでしかない。ただ近隣でそんな話を聞いた事は無いので、交易で探すとしたら元が取れるか怪しく、海の向こうだとすれば船すらないので後回しと言う他はあるまい。

「それでウラジミール、出てきた魔物はミミズと虫のどっちだ? サイズ的には元と比べてとてもデカイんだろうが」
「虫の方です。ただミミズが居ないとも限りません」
 短いやり取りで情報を確認する。
封建社会での地図は軍事機密だが、俺は気にせずに部下たちと共有して置いた。ウラジミールという部下は、先日の報告で良いと評価した分隊の男だ。当然ながら簡単な地図を持たせて、何処に怪しい場所があるのかを報告させることにしておいたのだ。

彼が提出した絵を見て簡単にだが判る事がある。

「思った通りの分布だが、こいつらは斑猫や蟻地獄かもな」
「……? 見ただけで判るのですか?」
「場所と視線の問題だよ。後は餌というべきか」
 標高差と動線の問題と言い換えても良い。
今まで見つからなかったのだから、人が出入りする場所では無い所に棲み、水が流れて来てビックリして棲み家を変えたのだ。と言う事はゴルビー地方への水の供給源である、『手首』の部分より低い場所でなければならない。その上で手首分の付近に目撃例があり、同時に街道からは離れた場所に存在している。

常に同じ場所に位置して他者に気が付かれない、罠タイプの虫型モンスター。
斑猫や蟻地獄なら概ねその条件に該当する。こいつらは幼虫で基本的に巣である穴から動かず、成虫になると飛んで出て行くからな。目撃例が無い事と矛盾しない。

「今まで見つかっていないから、穴に棲む。穴に住んでいる虫というだけなら蟻も当てはまるが、蟻の場合は食い物が沢山要るだろう? 蟻地獄とかはそれほど喰わないから、ゴブリンとかが紛れ込むなら十分だからな」
「なるほど。人間は街道しか通りませんしね」
 手首側に空いた穴全てから見つかっているわけではない。
だが、魔物が見かけられたという報告は、幾つかの穴は斑猫なり蟻地獄に似たタイプの虫型モンスターである可能性を疑わせた。そもそも群生する蟻なら以前の段階から目撃例があるはずだし、水で流されたら水没を避けて下流域の何処かにある穴から脱出するだろう。別にアリの巣は出入り口が一つじゃないからな。

もちろん他の可能性もゼロではない。
例えばワーム類も下流域に流されている可能性は高かった。その場合、怪しいのは荒れ地と砂地の境目より向こうだ。それほど移動しない斑猫や蟻地獄と違って、移動し続けるなら柔らかい方が良いからな。超巨大なワームならそうでもないだろうが、その場合はやはり見つかっていないとおかしいのだ。

「他の虫である可能性も踏まえるが、情報を集めながら戦う」
「接近までは風下から、接近してからは風上から攻める」
「これは虫が臭いで感知するのを避けるのと、毒を避けるためだ」
「連中は移動して地面に穴を掘るだけの力はあるが、それほどパワーやスピードがある訳じゃない。目撃例や足跡を確認しながら、手早く仕留めていく。それと、下流域である砂地以降にも分隊を派遣しろ。そちら側では別の……ミミズ型が暴れ始める可能性があるからな」
 そう言う訳で俺たちは虫型モンスターをまず倒しに向かった。
切り札として用意したのは連弩に蛇腹剣、そして植物の煮汁で染色した水である。三つ目を使わないに越した事は無いが、危険になったら使うべきだろう。切り札を使う時は、もう一枚・二枚ほど手札を持つべきだ……という忠告に従って行動してるだけだからな。

ただ、これだけ用意している割に相手が蟻地獄くらいなら倒し難いわけではない。ゴーレムを先行させて歩いているし、穴に落ちない限りは人間が食われるような事は無いだろう。というか、馬鹿みたいに大きなサイズではないのは判ってるしな。

「やはり大きさは強さだよな。それと得意じゃない場所を歩く虫は弱い」
「領主さまがおっしゃるように情報は重要ですね。まさかこんなに簡単だとは」
 目撃例が出たところで注意して巣穴を発見。
物を落して追い出し、場合によっては埋めてしまう。するとその途中で大きな蟻地獄が出てくるわけだが……巣の中でなら亜人を食い殺す魔物も、こうなってはお終いである。正面にストーンゴーレム三号機を立たせて、後ろから射撃すればそれで終わりである。

ただ、この戦いではっきりしたのは連弩は非力だな。
連射用兵器だから仕方ないとはいえ、人間相手ならともかく甲殻のある大型の虫にはあまり有力な打撃にはならない。まだ投石器かアーバレストの強烈なやつを作って、ゴーレムに引かせる方が強かっただろう。まあ現物の方も材料の方も無いわけだが。

「排除したら、次は横並びに成って徹底的に探すぞ。角度……視野を広くして、全員で場所を見ながら進むんだ。『あの辺は大丈夫に成った』とか言うのが一番危険で、穴を見落としたら大変だからな」
「了解しました。無駄な気もしますが、残って居たら大変ですしね」
 絨毯爆撃をしても生き残りそうだが、虱潰しにして探す。
一定距離を開けて出来るだけ紐で体を繋ぎ、落ちても大丈夫なようにして、その上で穴を探しながら進んでいく。方眼用紙にMAPを記載して行くようなやり方で、とても退屈だが重要な事がある。この方法なら『誰がやっても取り零さない』という事だ。次に成虫がやって来て卵を産むまでは、一応大丈夫だろう。

それらのデータに対し、いちいち注釈をつけて俺はウラジミールに後は任せた。

「だいたいこういう感じで良い。まずは初期情報を疎かにするな」
「殆どの魔物は生息地や姿で行動パターンが決まっているから対処できる」
「ゾンビやスケルトンなら障害物や落とし穴でビックリするくらいに勝てただろ」
「夏王朝みたいに古戦場でアンデッドの災禍が起きない限り、幽霊以外のアンデッドは怖くない。そしたら幽霊に向けて魔術師を叩きつけるだけだ。同じように虫や獣型は棲息地区と姿で殆どの対処が判るんだ。後は場所を区切って、確実に追い詰めるだけだな。その時に焦るのが最も問題になる。『調べるより先に殴れ。臆病者め!』なんていうやつが一番危うい事を覚えとけ」
 良く映画でスーパーマケットに篭城するゾンビ映画がある。
あれは高速で動き回る死体さえ居なければ、不意打ち対策をするだけで生き残れるというパターンを踏襲しているわけだな。たいがいは閉じめて助かった奴が報告もせず、奥の方で延々と保存されているゾンビが次のパニックを起こしてしまうから問題なんだが(あと高速型)。

ともあれ大急ぎで判って居る蟻地獄対策を固めると、俺はゴルベリアスへとんぼ返りすることにした。

「済まないが後は任せる。出来るだけパターンに嵌めて対処しつつ、対処できない奴が居たら情報を集めといてくれ。俺は遊牧民対策に戻らにゃならん。下流域の穴も心配だが、そっちが急務だろう」
「承知しました。領主さまも御武運を!」
 と言う訳でゴーレムと連弩を残して俺は帰還することにした。
無理はしなくて良いと告げて急いで戻る。なんというか遊牧民相手にある程度の武勇を示しておく必要があったから自分で対処に行くと言いはしたが……よく考えたらそれって、『領都には責任者が誰も居ない』という事をわざわざ教えてやったことになる訳だ。大丈夫だとは思うが、留守宅で暴れないとは限らない。

重要なのは連中がヴァイキングみたいな『売り物を適正に買わない連中を襲う』ような性質を持っている事だ。『食えないから襲う』というタイプではないが、盗賊足り得る部分を持っている。自警団も居ない村を襲って(物資を回収して)何が悪いんだ? という奴もいるくらいだからな。

(オルバとか言ったか……。流石に居直り強盗なんかしないとは思いたいが、『そう言う奴を飼って居る』可能性はあるからな。油断は禁物だ。連中は強者の前に従っているが、決して一枚岩じゃねえ)
 前回訪れた使者は理知的だったが部下もかは判らない。
普通ならば統制してそういう奴を黙らせているわけだが、そういう奴が暴走しないとも限らないし、暴走した後で『処罰する。すまんな』って感じでワザと泳がせる可能性はゼロではない。沢山の駒を抱えておいて、一番有効な状況に成る様に仕向けるのが長や交渉役の仕事だと聞いたことがある。あくまでそいつが所属する部族の雰囲気なのかもしれないが、問題なのが俺が『オルバのやり方』を知らない事なんだよな。

理知的だからと言って100%信じて良いわけではない。
隙があれば喰いつくが、隙無ければ笑顔で友好を続けるようなタイプも居るからだ。その意味では俺はちょっとした失敗をしたかもしれない。迂闊だったと言っても良い。大型昆虫の死体はゴーレムに持って帰らせるようにだけ伝えて、速攻で帰還して行った。

「りょ、領主さま! よくぞおかえりで! お客様がまた来られたのですが、わたくし共では何ともできませんで」
「問題無い。ひとまず塩のサンプルと水の桶を頼む」
 貴重な馬を走らせて急いで戻ると町には遊牧民が向かって来るという。
それも相当な数で、戦争ではなさそうだから急いでいないが、尋常では無い数なので居残りの文官たちでは対処できなかったらしい。

俺はある程度の覚悟を決めて交渉に臨むことにした。戦場状態ではないだけマシだと腹を括り、再びオルバとの会談に向かったのである。
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