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第五章
『無双と言うよりは、ある種の蹂躙』
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ゴーレムというものは相手を想定して進化や進歩をして来た。
原初のゴーレムは町の入り口を守る存在で、強い上に無限に再生するが殆ど動けなかった。だから町が肥大化して都市となった時、後方から襲われて共に滅びてしまったのだ。そこから移動力を備え作り易くなった魔法のゴーレムは、弱い代わりに様々な場所で戦闘し、あるいは作業用として便利遣いされるようになる。量産型ゴーレムは四肢を作って関節でまとめることで、移動力と作り易さの面に特化したのだ。関節のおかげで消耗も少なく、戦闘力もやや向上している。
そして近年のゴーレムには想定した強さがある。
ストーンゴーレムは3mほどでオーガやトロールと戦っても負けず連戦すらできる。主に作業として使われるウッドゴーレムも2mほどだが、耐久面や重さ以外で変わらないことから、ホブゴブリンやオークならば何の問題も無く勝てるのだ。ゴーレムが苦手としているのは大軍であり、そして強力な加護を持つ精鋭であったとされる。
「今までのゴーレムを過去にするぞ。ソブレメンヌイ」
正式な名前ではなく形式番号と異名がSB-8ソブレメンヌイ。
このゴーレムは下半身が馬に成っており、殆どウッドゴーレムなのに全高が4mで全長も5m近い。馬の足と多重関節にこだわってしまった結果だが、代わりに移動力は劇的に向上した。具体的に言うと、騎兵の全力疾走に付き合えるほどである。もし四肢しかない普通の量産ゴーレムでこんな動きをやったら、たちまちのうちに内包した魔力を使い尽くしてしまうだろう。
そして足だけではなく手や腕にも関節がある事で戦闘力も向上している。武器が持てないので括っているか一体化しているこれまでのゴーレムと違い、そのスイング速度は比較にならない。重さのあるゴーレム用武器を高速で振るうと、それだけで凄まじい威力を発揮した。
『がっ!?』
「まずは一つ」
棍棒を構えたオーガを重量感のあるハルバードで一蹴。
あまりの早さゆえに防御せざるを得なかったそいつの頭を叩き割った。どうせ力自慢のオーガの事だ、まさか自分が膂力で押し負けるとは思っても見なかっただろう。
そのまま次の敵に向かうように指示を出し、今度は周りにゴブリンを連れた個体に向かっていく。
『おおおお!!!』
「二つ。みっつ……ああ、ゴブリンは数えなくていいか」
今度の奴は大剣持ちで、良い武器を与えられている。
それだけに少しばかり強いのだろうが、元がオーガやトロールを相手にすることを前提にしたゴーレムである。多少打ち合っても押されることは一切なく、二合・三合と互いに得物を振り回すだけで周囲のゴブリンを粉砕してしまった。
この間、背中に便乗している俺は指示以外何もしてない。
高速で動くと流石に関節も消耗するが、旧型のゴーレムのように体を砕きながら移動していない。四肢を持ちのんびり動けば消耗しない量産型ほどではないが、その戦闘力には大きな差があるのだから十分にペイしているだろう。
「おっ……今度はまとめて居るな。俺の事は良い、一気に蹴散らせ」
周囲を観察していると、その陣容は荒い。
特にこの辺りに陣地を敷いているとか、都市を攻めようと密集している感じは受けなかった。国境添いの町を攻めている連中は違うのかもしれないが……もしかしたらオロシャ国としては偶発的に、隣国からは意図的に魔物が増えただけなのかもしれない。
そんな事を考える余裕があるほどで、たちまちのうちに追加で二体ほどのオーガを討ち取ることに成功した。
「惜しいな。もう一体居たらエース認定していても……ありゃ。流れ矢を喰らってたか、パーフェクトゲームならずだな。こっちのほうが惜しいというべきか」
探画に移動中の集落なら五体も大物は居ない。
これが魔物の陣地であるとか棲息地域に行けば別だが、こんな場所に何匹も居たら大変だろう。町を攻略している奴ら込みでもっと居る訳で、国境の紛争としては大事なのだろうが、俺としては中途半端な結果に終わったと言っても良かった。溜息をつきながら俺に突き刺さっているかのように見える矢を、弾き飛ばし服を元の姿に擬態させ直した。
ソレは以前に見せた三つの目の切り札である液体型ゴーレムの応用だ。ミミックの亜種で特定の状態では置物に化けているイミテーターというのが居るが、あんな感じで服の形状に化けさせている。今みたいなときにオートでガードする様に命令してるわけだな。
「敵陣は切り開かれた。行くぞ諸君!」
「「はっ!」
(始まったな……)
大物を蹴散らしている間に、アンドリオ副団長たちが突っ込んで来た。
騎兵の役目はその機動力を生かした突撃で、ゴブリンたちの混乱を煽る様に移動している。彼らは邪魔する敵のみを相手にして、そのまま駆け抜けて戦場を横断することに成っているのだ。
これに対して、俺達のすることもまた決まっていた。
「当たるを幸いに突っ込め! 右回りで戦場を一周して町へと向かうぞ!」
俺たちは別方面で戦いつつ、最終的に町で合流するコースを担った。
途中で騎士たちとすれ違うが、そこで何もしないとか、やっても挨拶くらいしか行わない。共に戦い様な事はせず、それでいて最後は町で別方面から戦う事に成るだろう。
既に敵の増援と言うべき相手は蹴散らした。
ゆえにこの場ですることは、遠距離で見ている敵味方に何が起きているのかを判り易くすることなのだ。
「ここに来ても良い事は何もないと、町はもうすぐ安全になるんだと教えてやれ。ソブレメンヌイ!」
重量級のゴーレムが走ればそれだけで威圧感がある。
巻き込まれたゴブリンはあっけなく弾き飛ばされ絶命し、ホブゴブリン程度では振り回すハルバードを支えることなど出来ない。防御したと思った瞬間に何処かに転げて行ってしまった。中には勇猛果敢にも突っ込んで来る奴もいたが、それはダンプカーに正面から挑むに等しかった。転生するようなことも無くただ蹂躙されるのみである。
やがて当初の予定通りに騎士たちと交差する時、多少予定の無い事が起きる。
「新しい戦友を歓迎しよう。歓呼の声を上げよ!」
「「ウッラール!」」
(何をやらせても絵に成る人だ。こっちも答えておくか)
騎士たちは交錯するのではなく剣を掲げ交錯した。
いかにもサーガのワンシーンの様で、人前で自分に酔えるようではないと騎士には成れないのかもしれない。俺もソブレメンヌイに指示を出し、ハルバードを片手で掲げて暫く疾走し続ける。
そして町と包囲陣が見えた所で、元の役割に戻って敵を蹴散らすことにしたのだ。
「行くぞ騎士たちよ! 街の人々を救え!」
「「はっ!」」
「こっちも行くぞ。蹴散らせ、ソブレメンヌイ」
騎士たちは門の方向へ、こちらは町を一周する。
旧知の顔もある彼らに町の人々との繋ぎを任せ、こちらは町を囲む連中を蹴散らして回る。中には敵の本陣らしき場所もあり、そこにはゴブリンキングかチャンピオンか何かが居り、その周囲にゴブリンシャーマンが何か居るように見えた。
やがて敵将らしき奴が立ち塞がり、後ろからシャーマンが呪文を唱え始める。
「お、いっちょ前に連携して来たな。だが……それ、効かないんだよな」
本来、ゴーレムの欠点の一つは、抵抗力の問題で水の魔力が最も高い事だ。
最後に他の作成物に使った呪文レベルを超えるために、一番強い魔力で上書きする。それが多彩な能力を持たせるのは邪魔なのだが、今回みたいに呪文を使う敵がいると利点に変わるのだ。生半可な呪文は抵抗してしまうし、背中に載っている俺にはそもそも届かない。
ではゴブリンキングはどうかと言うと……。
剣技が使えるとしても、耐久力の問題でオーガに及ばないのだ。ソブレメンイの前足が蹴り飛ばしたら彼の人生は終わった。哀れ巻きこまれただけで死んでしまったとも言えるだろう。
「ゲームの中では割りと苦労する存在なんだけどな」
「まあゴブリンキングは亜人を束ねるカリスマ性の方が厄介ってことか」
「勇者軍でも剣聖やら賢者が鎧袖一触に蹴散らしてたもんだ」
「ていうか……あの小僧。最初の頃は何度言っても攻撃呪文しか使わかなったんだよな。一軍に匹敵する攻撃力ってのはあながち間違いじゃねえが、あいつが他の連中にバフを配る方が明らかに速かったんだよな」
ゴブリンキングがあっさり死ぬのを見て懐かしくなった。
俺が蛇腹剣を持って兵士たちと挑んでも勝てるか怪しい敵だが、一定ランク以上の相手にはただの的でしかない。剣聖が適当に技を放てば死ぬし、なんなら技を何も使わなくても時間を掛けたら死ぬ。賢者が攻撃力の高い呪文を使うか、補助呪文で威力を底上げしたらやはり死んでしまう相手に過ぎなかった。世界最高峰から見れば、田舎の王様なんてそんなものだろう。
だが、呪文には閾値というものがあるのだ。
だからこそ補助呪文で威力や範囲を底上げしている。この事は賢者ほどの相手がワザワザ倒しに行くほどの相手ではない事も意味する。なのに賢者は中二病を発症している年齢だったためか、やたらと攻撃呪文にこだわる、ゲームで言う『砲台メイジ』に徹して仲間の援護を怠る事が多かったんだよな。その辺りの苦労も今では懐かしい過去であった。
「アンドリオ副団長。ご無事でしたか」
「ミハイル君。流石の戦いだったじゃないか」
暫く戦場を回っていると一周したのか副団長と再会した。
既に大勢は決しており、先ほどまでの高揚した大きな声とは裏腹に以前の柔らかい物腰に戻っていた。その辺りも含めてテンションの切り変えをやっているのだろう。オロシャの国では隣領との交流も疎遠だし、二つの騎士団で鍛えられたのか、それとも交流が盛んな国が領地の近くにあるのかもしれないな。
ともあれ、そういう背景事情は詮索しないでおこう。俺みたいに他国から来て取り立てられたものかもしれないし、場合によってデリケートな可能性もあるからだ(流石に亡命王族とかは無いと思うが)。
「今の所は私が近くに居ないと全力を発揮できませんけどね。余計な機能を付け過ぎて、量産どころかフルパワーを出せないんです」
「状況を変え得る力には違いないさ。我々でもあのペースでオーガを討伐するのは無理だよ」
「その場で判断を下すなんてゴーレムには絶対出来ませんけれどね」
俺が謙遜すると事実で殴られた。なので無理な事を伝えておく。
ゴーレムはオーガを基準にした以上、戦えば勝てるのは当然だ。その上で抜群の移動力を誇るケンタウルス型は次々に討伐することが可能なのである。普段ならばまとわりつかれて時間を浪費してしまうゴブリンたちも、その移動力で迂回すれば置いて行くことが出来る。魔力さえ十分なら息切れなんかないのがゴーレムだった。
それを考えれば案外、今後に大きな影響を与えるかもしれない。
「街道の結節点にオミットした物を何機か配備するか、こいつをこのまま扱う操り手を育てることになりますかね?」
「何処まで戦闘力を残せるかだと思うよ」
「移動力を第一にした上で、ですね」
「ああ。そこのバランスは重要だろうね」
これからどれだけ安全になるか判らない。
騎士たちの強さには幅があるが、ゴーレムの戦闘力には変動が無い。ゴーレム創造魔法を魔術にまで特化させれば、整備して運用するのは難しくないだろう。理想を言えば瞬間強化の項目を紐解き、魔力バランスを解明して操縦技能として普及させられれば幸いだ。騎士二十人から三十人による騎士大隊のローテーションをかなりマシにしてくれるだろう。
そして戦闘力が固定であるからこそ、騎士は嫉妬しない。
騎士隊長かエースを名乗れる上位騎士程度の力でしかなく、ただしく自分を鍛え上げるか強化呪文でも覚えればゴーレムより強く成れると知っているからだ。仮に部下代わりにして良いならば、運用さえ間違わなければ死地に飛び込んでいけるという点で、消耗品のゴーレムは最高の相棒なのである。
「ともあれ、その辺りの話込みで少し相談しようじゃないか。おっつけ団長閣下も参られるが、関心を抱いていただけると思うよ」
「それはありがたいですね。ひとまず東部域が安定する様に、『開拓計画』を建てたいところです」
こうしてソブレメンヌイの活躍もあって国境の町を解放した。
そして俺たちは腹を割って話し合い、東の国境も含めて再開発するペレストレイカ計画を話し合うのであった。
ゴーレムというものは相手を想定して進化や進歩をして来た。
原初のゴーレムは町の入り口を守る存在で、強い上に無限に再生するが殆ど動けなかった。だから町が肥大化して都市となった時、後方から襲われて共に滅びてしまったのだ。そこから移動力を備え作り易くなった魔法のゴーレムは、弱い代わりに様々な場所で戦闘し、あるいは作業用として便利遣いされるようになる。量産型ゴーレムは四肢を作って関節でまとめることで、移動力と作り易さの面に特化したのだ。関節のおかげで消耗も少なく、戦闘力もやや向上している。
そして近年のゴーレムには想定した強さがある。
ストーンゴーレムは3mほどでオーガやトロールと戦っても負けず連戦すらできる。主に作業として使われるウッドゴーレムも2mほどだが、耐久面や重さ以外で変わらないことから、ホブゴブリンやオークならば何の問題も無く勝てるのだ。ゴーレムが苦手としているのは大軍であり、そして強力な加護を持つ精鋭であったとされる。
「今までのゴーレムを過去にするぞ。ソブレメンヌイ」
正式な名前ではなく形式番号と異名がSB-8ソブレメンヌイ。
このゴーレムは下半身が馬に成っており、殆どウッドゴーレムなのに全高が4mで全長も5m近い。馬の足と多重関節にこだわってしまった結果だが、代わりに移動力は劇的に向上した。具体的に言うと、騎兵の全力疾走に付き合えるほどである。もし四肢しかない普通の量産ゴーレムでこんな動きをやったら、たちまちのうちに内包した魔力を使い尽くしてしまうだろう。
そして足だけではなく手や腕にも関節がある事で戦闘力も向上している。武器が持てないので括っているか一体化しているこれまでのゴーレムと違い、そのスイング速度は比較にならない。重さのあるゴーレム用武器を高速で振るうと、それだけで凄まじい威力を発揮した。
『がっ!?』
「まずは一つ」
棍棒を構えたオーガを重量感のあるハルバードで一蹴。
あまりの早さゆえに防御せざるを得なかったそいつの頭を叩き割った。どうせ力自慢のオーガの事だ、まさか自分が膂力で押し負けるとは思っても見なかっただろう。
そのまま次の敵に向かうように指示を出し、今度は周りにゴブリンを連れた個体に向かっていく。
『おおおお!!!』
「二つ。みっつ……ああ、ゴブリンは数えなくていいか」
今度の奴は大剣持ちで、良い武器を与えられている。
それだけに少しばかり強いのだろうが、元がオーガやトロールを相手にすることを前提にしたゴーレムである。多少打ち合っても押されることは一切なく、二合・三合と互いに得物を振り回すだけで周囲のゴブリンを粉砕してしまった。
この間、背中に便乗している俺は指示以外何もしてない。
高速で動くと流石に関節も消耗するが、旧型のゴーレムのように体を砕きながら移動していない。四肢を持ちのんびり動けば消耗しない量産型ほどではないが、その戦闘力には大きな差があるのだから十分にペイしているだろう。
「おっ……今度はまとめて居るな。俺の事は良い、一気に蹴散らせ」
周囲を観察していると、その陣容は荒い。
特にこの辺りに陣地を敷いているとか、都市を攻めようと密集している感じは受けなかった。国境添いの町を攻めている連中は違うのかもしれないが……もしかしたらオロシャ国としては偶発的に、隣国からは意図的に魔物が増えただけなのかもしれない。
そんな事を考える余裕があるほどで、たちまちのうちに追加で二体ほどのオーガを討ち取ることに成功した。
「惜しいな。もう一体居たらエース認定していても……ありゃ。流れ矢を喰らってたか、パーフェクトゲームならずだな。こっちのほうが惜しいというべきか」
探画に移動中の集落なら五体も大物は居ない。
これが魔物の陣地であるとか棲息地域に行けば別だが、こんな場所に何匹も居たら大変だろう。町を攻略している奴ら込みでもっと居る訳で、国境の紛争としては大事なのだろうが、俺としては中途半端な結果に終わったと言っても良かった。溜息をつきながら俺に突き刺さっているかのように見える矢を、弾き飛ばし服を元の姿に擬態させ直した。
ソレは以前に見せた三つの目の切り札である液体型ゴーレムの応用だ。ミミックの亜種で特定の状態では置物に化けているイミテーターというのが居るが、あんな感じで服の形状に化けさせている。今みたいなときにオートでガードする様に命令してるわけだな。
「敵陣は切り開かれた。行くぞ諸君!」
「「はっ!」
(始まったな……)
大物を蹴散らしている間に、アンドリオ副団長たちが突っ込んで来た。
騎兵の役目はその機動力を生かした突撃で、ゴブリンたちの混乱を煽る様に移動している。彼らは邪魔する敵のみを相手にして、そのまま駆け抜けて戦場を横断することに成っているのだ。
これに対して、俺達のすることもまた決まっていた。
「当たるを幸いに突っ込め! 右回りで戦場を一周して町へと向かうぞ!」
俺たちは別方面で戦いつつ、最終的に町で合流するコースを担った。
途中で騎士たちとすれ違うが、そこで何もしないとか、やっても挨拶くらいしか行わない。共に戦い様な事はせず、それでいて最後は町で別方面から戦う事に成るだろう。
既に敵の増援と言うべき相手は蹴散らした。
ゆえにこの場ですることは、遠距離で見ている敵味方に何が起きているのかを判り易くすることなのだ。
「ここに来ても良い事は何もないと、町はもうすぐ安全になるんだと教えてやれ。ソブレメンヌイ!」
重量級のゴーレムが走ればそれだけで威圧感がある。
巻き込まれたゴブリンはあっけなく弾き飛ばされ絶命し、ホブゴブリン程度では振り回すハルバードを支えることなど出来ない。防御したと思った瞬間に何処かに転げて行ってしまった。中には勇猛果敢にも突っ込んで来る奴もいたが、それはダンプカーに正面から挑むに等しかった。転生するようなことも無くただ蹂躙されるのみである。
やがて当初の予定通りに騎士たちと交差する時、多少予定の無い事が起きる。
「新しい戦友を歓迎しよう。歓呼の声を上げよ!」
「「ウッラール!」」
(何をやらせても絵に成る人だ。こっちも答えておくか)
騎士たちは交錯するのではなく剣を掲げ交錯した。
いかにもサーガのワンシーンの様で、人前で自分に酔えるようではないと騎士には成れないのかもしれない。俺もソブレメンヌイに指示を出し、ハルバードを片手で掲げて暫く疾走し続ける。
そして町と包囲陣が見えた所で、元の役割に戻って敵を蹴散らすことにしたのだ。
「行くぞ騎士たちよ! 街の人々を救え!」
「「はっ!」」
「こっちも行くぞ。蹴散らせ、ソブレメンヌイ」
騎士たちは門の方向へ、こちらは町を一周する。
旧知の顔もある彼らに町の人々との繋ぎを任せ、こちらは町を囲む連中を蹴散らして回る。中には敵の本陣らしき場所もあり、そこにはゴブリンキングかチャンピオンか何かが居り、その周囲にゴブリンシャーマンが何か居るように見えた。
やがて敵将らしき奴が立ち塞がり、後ろからシャーマンが呪文を唱え始める。
「お、いっちょ前に連携して来たな。だが……それ、効かないんだよな」
本来、ゴーレムの欠点の一つは、抵抗力の問題で水の魔力が最も高い事だ。
最後に他の作成物に使った呪文レベルを超えるために、一番強い魔力で上書きする。それが多彩な能力を持たせるのは邪魔なのだが、今回みたいに呪文を使う敵がいると利点に変わるのだ。生半可な呪文は抵抗してしまうし、背中に載っている俺にはそもそも届かない。
ではゴブリンキングはどうかと言うと……。
剣技が使えるとしても、耐久力の問題でオーガに及ばないのだ。ソブレメンイの前足が蹴り飛ばしたら彼の人生は終わった。哀れ巻きこまれただけで死んでしまったとも言えるだろう。
「ゲームの中では割りと苦労する存在なんだけどな」
「まあゴブリンキングは亜人を束ねるカリスマ性の方が厄介ってことか」
「勇者軍でも剣聖やら賢者が鎧袖一触に蹴散らしてたもんだ」
「ていうか……あの小僧。最初の頃は何度言っても攻撃呪文しか使わかなったんだよな。一軍に匹敵する攻撃力ってのはあながち間違いじゃねえが、あいつが他の連中にバフを配る方が明らかに速かったんだよな」
ゴブリンキングがあっさり死ぬのを見て懐かしくなった。
俺が蛇腹剣を持って兵士たちと挑んでも勝てるか怪しい敵だが、一定ランク以上の相手にはただの的でしかない。剣聖が適当に技を放てば死ぬし、なんなら技を何も使わなくても時間を掛けたら死ぬ。賢者が攻撃力の高い呪文を使うか、補助呪文で威力を底上げしたらやはり死んでしまう相手に過ぎなかった。世界最高峰から見れば、田舎の王様なんてそんなものだろう。
だが、呪文には閾値というものがあるのだ。
だからこそ補助呪文で威力や範囲を底上げしている。この事は賢者ほどの相手がワザワザ倒しに行くほどの相手ではない事も意味する。なのに賢者は中二病を発症している年齢だったためか、やたらと攻撃呪文にこだわる、ゲームで言う『砲台メイジ』に徹して仲間の援護を怠る事が多かったんだよな。その辺りの苦労も今では懐かしい過去であった。
「アンドリオ副団長。ご無事でしたか」
「ミハイル君。流石の戦いだったじゃないか」
暫く戦場を回っていると一周したのか副団長と再会した。
既に大勢は決しており、先ほどまでの高揚した大きな声とは裏腹に以前の柔らかい物腰に戻っていた。その辺りも含めてテンションの切り変えをやっているのだろう。オロシャの国では隣領との交流も疎遠だし、二つの騎士団で鍛えられたのか、それとも交流が盛んな国が領地の近くにあるのかもしれないな。
ともあれ、そういう背景事情は詮索しないでおこう。俺みたいに他国から来て取り立てられたものかもしれないし、場合によってデリケートな可能性もあるからだ(流石に亡命王族とかは無いと思うが)。
「今の所は私が近くに居ないと全力を発揮できませんけどね。余計な機能を付け過ぎて、量産どころかフルパワーを出せないんです」
「状況を変え得る力には違いないさ。我々でもあのペースでオーガを討伐するのは無理だよ」
「その場で判断を下すなんてゴーレムには絶対出来ませんけれどね」
俺が謙遜すると事実で殴られた。なので無理な事を伝えておく。
ゴーレムはオーガを基準にした以上、戦えば勝てるのは当然だ。その上で抜群の移動力を誇るケンタウルス型は次々に討伐することが可能なのである。普段ならばまとわりつかれて時間を浪費してしまうゴブリンたちも、その移動力で迂回すれば置いて行くことが出来る。魔力さえ十分なら息切れなんかないのがゴーレムだった。
それを考えれば案外、今後に大きな影響を与えるかもしれない。
「街道の結節点にオミットした物を何機か配備するか、こいつをこのまま扱う操り手を育てることになりますかね?」
「何処まで戦闘力を残せるかだと思うよ」
「移動力を第一にした上で、ですね」
「ああ。そこのバランスは重要だろうね」
これからどれだけ安全になるか判らない。
騎士たちの強さには幅があるが、ゴーレムの戦闘力には変動が無い。ゴーレム創造魔法を魔術にまで特化させれば、整備して運用するのは難しくないだろう。理想を言えば瞬間強化の項目を紐解き、魔力バランスを解明して操縦技能として普及させられれば幸いだ。騎士二十人から三十人による騎士大隊のローテーションをかなりマシにしてくれるだろう。
そして戦闘力が固定であるからこそ、騎士は嫉妬しない。
騎士隊長かエースを名乗れる上位騎士程度の力でしかなく、ただしく自分を鍛え上げるか強化呪文でも覚えればゴーレムより強く成れると知っているからだ。仮に部下代わりにして良いならば、運用さえ間違わなければ死地に飛び込んでいけるという点で、消耗品のゴーレムは最高の相棒なのである。
「ともあれ、その辺りの話込みで少し相談しようじゃないか。おっつけ団長閣下も参られるが、関心を抱いていただけると思うよ」
「それはありがたいですね。ひとまず東部域が安定する様に、『開拓計画』を建てたいところです」
こうしてソブレメンヌイの活躍もあって国境の町を解放した。
そして俺たちは腹を割って話し合い、東の国境も含めて再開発するペレストレイカ計画を話し合うのであった。
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