魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第五章

『辺境に集う人々』

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 東部国境添いの町を魔物の攻囲から救った。
死体から討伐証明を切り取り、バルガス同胞団と同じ待遇で自警団のまとめ役たちに渡しておく。彼らとは契約を結んでいないが、今後に冒険者ギルドを増やすのであれば、扱いは変えない方が良いだろう。どうせ帯同しないのだし、町が大変な時の一時金だと思えば良い。

そして面倒なのは此処からだ。
同胞団のメンバーには魔物の死体を埋めてもらう前に、血抜きをしてもらった。その間にゴーレムで穴を掘ってそこにまとめて死体を放り込む。もちろん住民の死者は別で、共同墓地や個人の墓に埋めることに成った。

「いやあー。あのゴーレム……でしたか? 素晴らしいですな。単刀直入に聞きますが、この町に配備は無理なのでしょうか?」
「残念ながら『この町にだけは』無理でしょう。隣国に警戒されます」
 この町の代官を務める男は思いっ切り腰が低かった。
目の前でソブレメンヌイが大型の亜人たちを瞬く間に蹴散らしたのを見れば仕方あるまい。『あれがあれば騎士団を待つまでもない!』と町の有力者たちからも声をかけられているのだろう。だが、国内でのパワーバランスはともかく、国同士の警戒心と言うのは甘く見ることはできない。

何しろ、騎馬と同じ速度で走れるゴーレムである。
その大きさとハルバードの威力を考えれば、あっという間に侵略が可能なのだ。電撃的に向こうの町に侵攻して、門を破壊しても良し、荷車に食料や藁を満載して国境を往復すれば騎士団を引き連れることもできるのだから。

「そうでしょうねえ。隣の商人からは微妙な顔をされましたよ」
「頼りになりそうだが恐ろしい。借りるとしても貸し借りが大きく成り過ぎるってとこですかね」
「でしょうなあ」
 当たり前だがこの町にも隣の国から人が来る。
向こうで獲れるがこちらで獲れない海産物などを干物や塩漬けにして持って来るのだろう。もちろん他に産物があれば売りに来るだろうし、こちらの産物を購入してもらってお互いさまの商売をしている筈だからだ。となれば隣国の人間として、警戒心を抱くしお国の偉い人にご注進くらいはするだろう。

とはいえ、それは遠い未来の話である。
その前に俺達がすべきことをしようじゃないか。そもそもそのためにこちらに来たというか、本来はもっと手前の南北縦断する街道候補地までだったんだけどな。意味があるから問題があるわけではないが。

「ウッラール騎士団長であるクレメンスだ。この度は別命での行動中に協力してもらって感謝の念に耐えない。
「いえ。東部国境にも関係ある任務中でしたので問題ありません」
 援軍を率いて騎士団長がやって来た。
クレメンス・クリメント・ヴォロス・ウッラール伯(騎士団長)……実に長い名前である。モノクルを付けた燻し銀の壮年で、現場はともかく指揮官としてならもう数年は頑張れそうだ。既に騎士団経営に専念しており、実務はアンドリオ副団長に任せているという。やはりこのまま数年彼が経験を積めば、無風の団長交代が起きるだろう。東部の誰もがそれを望んでいるに違いない。

ともあれ、役者が揃ったのでこれで話を始められるという物だ。

「さて、これからの事を相談する前に確認したいのです。今回のようなことはよくある事ですか?」
「流石に無通告ではないが偶にあるな。国境がガラ空きに成る事がある」
「建前としては警戒網を魔物が突破したという理由で開放しておるようです」
「それは実に立派な理由ですね」
 確認すると隣国が全ての魔物退治を止めることがあるという。
飽和状態になってどうしようもなくなると、自国の安全のために国境警備と魔物の討伐を止めて町の守備に集中させるらしい。要するに戦力分散を嫌って、各個撃破を避けたという訳だ。本来ならば国の威信の為に国境警備は厳重にやる筈だが、国が滅びては意味が無いとの苦渋の判断の様だ。それでも魔物に対抗できないとは言えないので、『たまたま警戒網を潜り抜けて、こちらの国に向かっているのを見た』と警告するのだという。

ちなみに、無理をして滅びたのがイラ・カナン国。
その様子を見て学習したのが兄弟国のイル・カナン国。双方は良く争ってイル・イラ戦争を起こしていたほどだが、魔王の出現と魔王軍の行動で国を圧迫する程の国軍を抱えても守り切れなかったらしい。

「通告が無い事の確認はアンドリオが手配しておる筈だ」
「では通告を出す余裕が無かっただけか、それとも滅びかけかは暫くすれば判断できますね。迂闊に越境できませんし、前者だとありがたいのですが……まあ、どちらでも良い様に対処計画を練って居ます」
 隣国が滅びるかもしれないが、勝手に越境できない。
既に滅びて王族も居ない状態なら別だが、勝手に移動して援軍に行くというのは友邦国だとしても通じない話だ。もちろん属国と盟主では力関係の問題もあれば、兵力を借りることもしょっちゅうなので、そういった不文律は守られないことが多い。だが残念なことに、オロシャに属する国はもう少し北なんだよな。

ただ、座して見ているわけにはいかない。
そこでこの場に居ない副団長が使者を出し、ご機嫌伺いに行って様子を見て来るという。隣国の国境を守る者同士の間柄なので、そういった『挨拶』はよくある事だそうだ。

「最悪の場合ですが、広くて深い空堀をこの町の周囲と国境の二か所に掘ろうかと思います。まずは安全重視を前提として、問題無ければ経済交流を念頭に入れて抑え気味にしたいとこですね」
「致し方ないな。滅びて困るのは国だけではない」
「代官としては受け入れ難いと言うべきですが、理解できます」
 幸いなことにこの場に現実を見れない者はいない。
町の有力者は絶対の『No!』と言うはずだが、町が滅びるような状態では困るのだ。壁で町を覆っているのだから、それに準じて空堀くらいは許容してもらわないと困る。美観とか近い位置にある畑の問題くらいは許容すべきだろう。流石に吊り橋が必要になるほど、門の前にも深い堀など作る気はないのだが……だが経済性を捨ててでも、この町を守る必要が出たらその場合は仕方が無いと言える。

俺はアンドリオ副団長たちに地面へ描いて見せた防御ラインを、羊皮紙の上にもう少し綺麗に描いた。

「畑に関しては作業用ゴーレムで用水路ごと何とか出来ます。猟師や炭焼き商人に関しては、そちらにお任せして良いでしょうか?」
「そうするのが筋ですな。集めて意見を聞いておきましょう」
「遠慮なく言わせてもらうならば、押し付けてやった方が親切だぞ」
 軍人だからか、クレメンス団長は強引な所がある。
見た目は苦労してきた感じなのだが、こういう所はワイルドだ。騎士団で身に着けた経験が影響しているのかもしれない。アンドリオ副団長が傲慢さを削ぎ落し、クレメンス団長が強引さを身に着けた……そう考えれば、何となく察する事は出来た。

騎士団内部での人間関係とか、王国内部での人間関係とかその辺だろう。

「忌憚のないご意見ありがとうございます。しかし代官としては町の者を考えねばならんのですよ。有力者は猶の事ですな」
「日和見では決まらんことがあるぞ。既に決まった事にすれば良い」
「その辺りはもう少し時間があるかと。必要に合わせましょう」
 代官と団長の意見はどちらも正論だ。
領主ではない代官としては国王に借りた権威だけでは町を運営出来ない。恐怖政治の手下ならば別として、現在の王国は典型的な封建社会だからだ。ヨセフ伯辺りが行動しようとしているのも、そういう部分にもどかしさを覚えているからだろう。

そういう意味でクレメンス団長の意見がヨセフ伯寄りに成る前にあえて良かったと言える。

「ひとまず、東部国境で今後に同じことが起きないとも限りません。その時に慌てなくとも、『この程度は予定通りだ』と言える程度に防衛網を整えてから次の場所へ行きたいと思います」
「なら全てを守るのは諦めるべきだ。メリハリをつけた方が良い」
「そんな! この町の重要な場所を捨てろと!?」
「そうは言っておらんよ。堀や柵の密度を変えろと言っておるのだ」
 話話は防衛網の構成に移った。
封建社会では町の人々の意見を聞く必要はない。その上で有力者の意見を反映した方が、町の運営に楽だから話を聞いているだけの事だ。だからこの周辺での防衛をキッチリやろうという団長の意見には同意できる。とはいえ俺の領地ではないので、矯正できないという意味では代官と大して変わらないのだ。おそらくあっちも団長の意見の正しさは認めているだろう。

その上で、団長はペンを握って集中的に線を書き入れて行った。

「騎士たちも国境の全てを回れるわけではないからな。重点的に確認する場所へ誘導するのだ。逆に言えばそこへは深く広い穴は要らん。町の周囲の内、壁などを厚く出来ぬ場所へ穴を深くする。そうすれば見張りを付けるだけで良くなる筈だ」
「なら塔と建物を暑い板で繋ぐと良いかもしれません弓矢で抑えられます」
「そのくらいなら……まあ」
 話し合ってはいるが、おそらく町に関しては中途半端になる。
あくまでこの町も含めた東部国境を守り易くすることが重要だ。流石に国境を封鎖できないので、何処を守り他を巡回や住民の報告で済ませることになる。そしてクレメンス団長もアンドリオ副団長の様にある程度を切り捨てている筈だ。国境を始めとして幾つかの隘路で魔物を確認し、その周囲の視界を良くしておく。そして巡回や見張り塔で魔物を先に発見、一部を穴で守り柵で塞ぐことで今までより良くする事が狙いの筈だった。

そんな風に話をまとめていると、合流予定の男がこちらに顔を見せたのである。

「王宮から魔術師の方が派遣されてこられました」
「ガブリールの奴が? 構わないから入ってもらってくれ。……勇者軍を結成する前は学院に一時居たのですけれどね、その時の同期で付与魔術の使い手です。マジックアイテムの作成込みで良い意見をくれると思いますよ」
 ゴーレムは付与魔術の分派なので良く顔を合わせた。
当時はそれほど仲が良いわけではないが、長く魔術師をやっていると近場の人間とはそれなりに交流するものだ。特に彼とは魔物の一部を素材にするレポートで関わりがあったので、ゴーレム研究で気が付いたことなどをレポートで送っていたのである。もちろん冒険者ギルドにも関わっていた。彼の合流で俺たちの計画はまた一歩進むことになるのであった。
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