魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第六章

『ゴーレムのデュエル』

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 王都への召喚状により俺たちはやって来た。
地方貴族は守りという意味もあり、また謀反への対策から何時でも王都入りして良いわけではないからだ。戦国時代で言う上洛が、実は許可制だったようなものだな。今回の題目はもちろんアダマンティンとジュガス2との戦いの為である。

場所は王家所有の狩猟場で森の手前に広がる草原。
禁猟の森から追い出して仕留めていく形式で、演習なんかにも利用される広い場所である。そこに一つしかない建物に一部の貴族や上級騎士が集まっていた。

「聖俗の諸卿よ。今日は良く集まってくれた」
「此度の誼は国を守る要に、新しいモノが加わる日だ」
「古きモノは去って新たらしい形に貌を変えるであろう」
「それはこのオロシャの国が栄え、常に育っているからでる」
 狩猟場でレオニス国王陛下が軽い演説を始めた。
形式に則る形ではなく、あくまで狩猟のために集まってくれた者に、ちょっとお声をかける程度のものだ。だが、誰もがそんなものに収まらないことを理解していた。何故ならば俺はソブレメンヌイと共にリングインするし、ヨセフ伯もジュガス2を伴っている。

二機もの新型ゴーレムを見れば、どんなにボンクラ貴族であろうとも状況を理解するに違いあるまい。

「ヨセフよ。そなたの望み、しかと叶えたぞ。どうせ新しくするついでだ、思い切りやっても構わぬ。遠慮は不要である」
「国を守る柱である、アダマンティンを叩き壊しても構わぬと? 剛毅ですな」
「「おおっ……」」
 レオニス陛下はこの後の決闘の勝敗を予言した。
試合で勝つ事を臨んだヨセフ伯は面白くなさそうに鼻を鳴らす。それも無理はあるまい。新型であるジュガス2のお披露目であり、偉業を諸侯に刻みつけるつもりだったのだ。勝てて当然なのだから好きにしろと言われて喜べるほど、ヨセフ伯は暴力の化身ではない。あくまで自らが作る流れの中で、陶酔してこその剛腕貴族なのだ。自分の為のシナリオならばピエロに成れても、誰かの描いた筋書きを楽しめる程のピエロではあるまい。

そんな彼の様相には気が付かないのか、陛下はこちらへ視線を向けた。

「良いと言った。国の柱にはそなたが子とも称するモノも居る。それにアダマンティンには新しい『貌』も用意されて居るからな。そうであろう、ミハイル」
「はっ。ソブレメンヌイ新しき風。いえ、アダマンティン二号と銘を受けるでしょう」
 俺が手を動かすと、一足先に四足歩行でソブレメンヌイがやって来る。
重量感あるナニカと馬車を牽引しているのに、ゴーレムで言えば歩行程度の軽やかさであった。その力強さと機動性は、隣で走って入場するアダマンティンより早いくらいである。

なんというか、かつての傑作が既に旧型とは……引き合いに出して悪いなアダマンティン。

「もはや荷物は余計だ。切り離して『奔れ』ソブレメンヌイ」
「「おおっ!!」」
 俺が指示を出すと、牽引していた二つを切り離してソブレメンヌイが疾走し始める。その速度は先ほどまでの比ではなく、そしてその優美さと大仰さは旧型のゴーレムには無いシルエットを有している。

そして……その途中で新しく付けた顔の『眼』がギョロリと反対側に居る別のゴーレムに流れて行ったのを、目撃した者も居るかもしれない。まあ、今はコケ脅しとゴーレムとしての『質』を少しばかり上げる程度の仕掛けなんだけどな。

「なるほど。その形で作り直すから、もはや不要と言う事か」
「そういう訳ではありませんが、受け継ぐ鉄の骨子には成ります。ヨセフ閣下の意思が、ジュガス2となってこの国に鳴り響くように」
 俺に対して何とも言えない目を向けて来た。
怒りであり、期待であり、そして今は敵だと断じている者の目だ。きっと俺も同じような目を向こうに居る大型のゴーレムへしているのに違いあるまい。

そんな会話を繰り広げている間に、切り離したナニカをアダマンティンに拾い上げさせる。それは秘密兵器二号、今回の勝負に用いる回天の兵器だ。

「大鉄槌? そんなんでうちのジュガス2に勝てる気かいな?」
「久しぶりだなエリー。ただの武器じゃなくて、大仰過ぎた失敗作を作り直した物さ。そいつが偶然に駄作にならなかったら、恥ずかしくて此処にはやって来れなかったね」
 その様子を見てヨセフ伯の隣にいた女が声を上げる。
ボサボサだった髪は梳かれて整えられ、ちゃんと金髪に見える様な色合いに見えた。愛嬌のある顔立ちは化粧のせいか、どちらかといえばクールビューティに見えなくもない。ただ、狐目というか細目はあまり変わってないので、クール系でまとめるのには合わない気がするのだ。

ただ、それは旧知である俺だけの見方かもしれない。初見である殆どの人間にとっては、怜悧な女魔術師が俺を睨んでいるように見えるだろう。

「控えろティーン。このような男でも一応はゴルビー男爵だ」
「いえ閣下。私は新参、秩序で言えば末席に値します」
「持って回った言い方は止せ。今日は決闘の日であろう」
「左様ですね。ジュガス2がいかにアダマンティンを越えたのかを愉しみにしております」
 面白くなさそうなヨセフ伯は獰猛な笑みを浮かべている。
これから始まる戦いの予感に高揚しているのだろう。いわば巨大ロボット同士の戦いであり、しかもそれが自国の兵器なのだ。男の子としては大いに楽しみだよな。それは他の貴族も同じであり、直接の利益には関係ない事から、興奮した様子で見守っているようだ。

そしてその時間を使ってジュガス2もこちらに向かっている。やはり大柄な重量級で、高速機動などは有していない様だった。

(4mサイズで頭が上なのに、比重のバランスが良いな)
(あの具合からして腹のあたりに追加の腕があるようだな)
(ゴーレム創造魔法を磨き合ったんだから同じ見地に至るのは当然)
(しかし、人型にこだわる辺りがスポンサー付きの限界か。あとはエリーが動物や魔物をあまり見てないのもあるだろうな。色んな意味で惜しい事だ)
 ジュガス2はおおよそ想像通りの形状だった。
四本腕で人間からの攻撃を、胴中央に用意した盾で受け止める。同時に高い位置からの攻撃で、自分よりも強い加護持ちを倒すという構成なのだろう。騎士隊長やエース級ならアダマンティンを倒せるとして、そいつらが思い描いた対策を嘲笑って叩き潰すための『対軍仕様』のゴーレムだと言えるだろう。おそらく剣聖級の相手でなければ、ジュガス2に余裕をもって戦えまい。

ただ、対軍仕様で『作らされた』ということがジュガス2の能力を固定化させてしまっていた。

「スポンサーが居なければ作れないが、スポンサーが居るからこその枷か。エリー、君ならここから逆転するナニカを用意したんだろう?」
「アホンダラ! そんなん当たり前やろが!」
 ゴーレム対ゴーレムでは下位の盾は意味が薄い。
横薙ぎの攻撃は防げるが、最も威力のある縦の攻撃を防げないのだ。それならいっそ、ゴリラみたいなスタイルで四つん這いになって、高速移動形態を備えた方が余程強いだろう。その場合は追加の腕を肩に備えて、上からの攻撃に専念できるのだから問題はない。

ついでに言うと、アイアンゴーレムで最強を混ざすならば紅茶の極みとされる、パンジャンドラムが最強だな。何でもゴーレムに出来るのだから、鉄の車輪を高速突撃させた方が強い。やったら相手も真似して来るのでやらないけどな。

「みなの期待も集まっている事だろう。問題が無ければ始めるが良い」
「はっ。やれ、ティーヌ。敗北は許さぬ」
「承知しました。動け、ジュガス2!」
 陛下の声が近くに居たヨセフ伯に掛かる。
その意思を受けて一気に状況は動き出した。四本の腕を展開し、盾と剣を交互に構えている。予想と違うのは上の腕にも固定式のバックラーが装備してあり、一応は防御できるという事だ。下の腕の方も盾に刃があってシールドソードという攻防一体型に成っている。

簡単な改良だが悪くない性能を発揮するだろう。だが、足りない。おそらく他に何かあるはずだ。

「アダマンティン。セットアップ!」
『ヴォン!』
 俺が声をかけると秘密兵器が音を立てた。
キーワードにする言葉でモードを変えているが、通常状態では範囲モードで間合いが広くなっているだけの存在だ。どちらかといえば後半の為に秘密兵器を守る為であり、相手の回避力を潰すためである。

そしてまずは、相手が得意とする横薙ぎの防御を試すことにした。

「まずは手習いだ。薙ぎ払え!」
「なめとんか! 弾け、ジュガス2!」
 大戦槌の一撃がジュガス2に見舞われる。
3mのアダマンティンより大きな4mのジュガス2は、あっさりとその攻撃をブロックした。判っているのだから約束組手同然であり、この程度の攻防ではどちらにも損害はない。あえていうならば秘密兵器の魔力を使い始めたこちらの消耗が始まったくらいだろうか?

ただ、まるで神話の光景に見え理らしく、一部の貴族は興奮した目で手に汗を握って見守って居るようだ。

「今や、叩き潰せ!」
「そいつは無理な相談だな! やれ!」
 今度はジュガス2が上の腕で剣を振るって来た。
大剣二刀流の大仰な攻撃で、アダマンティンを一気に叩き潰そうとしている。だが、その攻撃はどこか遅く、必殺の攻撃とはいかなかった。

むしろ、アダマンティンの周囲で減速したようにも見える。

バリアー障壁かいな!」
「圧搾空気だよ。元は水中に空気を送る為の仕掛けだ。実用するには風圧も消費魔力も強過ぎて使い物にならなかったがな。アダマンティンは守りの機神。まずは防御力を高めるのは当然だろう?」
 秘密兵器はガブリールが水中用ゴーレムに用意した失敗作だ。
俺はポンプの要領で空気を送ったが、送風の呪文が使えるガブリールはそれをマジックアイテムにした。だが、ゴーレムに混ぜると威力が高い状態で固定されてしまうという大きな欠点があったのだ。ビュービュー吹き続けるので水中からブクブクどころではない泡が沸き上がる上、魔力を馬鹿食いするので大失敗した駄作である。

だが、今回は武器として使えるので大鉄槌として流用した感じだな。

「どうする? 消耗戦でダラダラ戦うか? それともこのままこっちの真の切り札を使わせないで怯えて過ごすか?」
「んな訳ないやろ。見晒せ、これが魔石の力や! 解放しい!」
 エリーが指示を出すと、ジュガス2の力が目に見えてパワーアップした。
よく見れば、黒い鉄甲にの一部が変形し、宝玉みたいのが見えた。輝き始めなければ意味が判らず、エリーの言葉を聞かなければそれでも判らなかった程度だ。だが、その力は折り紙付きでいきなりジュガス2が一回り強くなったように見える。

なにしろ、こちらの圧搾空気の壁を越えて何度も剣を叩きつけているからだ。

「これで終いや。過去と共に砕け散りや!」
「そいつは困るな。戦いはこれからだぜ! モード2! 大打撃形態!」
 おそらくは、相手も消耗型の能力なのだろう。
もしかしたら逃げ切れるかもしれないが、怪しい上に、逃げるのは挑んで来たエリーに悪いのでこちらも迎え撃つ。もちろんこれがソブレメンヌイなら機動戦こみなので気にしないが、秘密兵器の防御増強を攻撃に変換することも見せ場の一つだからな。

そして俺の言葉で、周囲にまかれていた圧搾空気が解除。前より鋭く当たる剣を無視して、アダマンティンは大鉄槌を振り上げて構え直す。

「墜ちろ怒槌!」
「させるか! 弾け! 防御に全開や!」
 それは研究方向の差であったかもしれない。
よりグローバルな視点で色々と建造し、他で補う俺の研究。あくまで個体性能にこだわり、呪文自体の改良を怠らなかったエリー。だから、この戦いがジュガス2の勝利で終わるのは当然なのだ。

だがしかし、上から振り下ろした大鉄槌が一方向への圧搾空気噴射で急加速し、圧搾空気を使って一撃のみの強烈な一撃を見舞うとは思っても見ないに違いない。秘密兵器が木っ端みじんに砕け散るのと同時に、鉄の塊が砕ける音が聞こえた。

「すげえなあ。関節どころか本体を潰すつもりで使い切ったんだぞ」
「当然やろ。うちの傑作やぞ!」
 大鉄槌はジュガス2の上の腕を粉砕した。
だが、奴にはまだ下の腕があり、盾には刃はついているので攻撃できる。もちろんゴーレムは拳でも戦えるが、武具があるだけでも大きな差なのだ。そして強化中であることもあり、アダマンティンは敗北したのである。

まあ負けるべくして負けたが、相手の能力を引き出したし、流用出来そうなモノもあったので、悪くない試合であったと言えるだろう。
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