魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第六章

『準備完了!』

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 一度ゴルビーに戻って調整を行う事にした。
装備を付けるにも呪文の賭け直しが必要なので、自分用の魔法陣が一式揃ってないと無理だからだ。ソブレメンヌイから尻尾を外すほか、仮面をつけて再構築するとか、天幕を利用したマントなどもそれっぽく染色して儀仗兵の様な雰囲気を出しておく。アニメのロボットに比べたら厳かでも何でもないが、比べるのが野暮ったいゴーレムなので問題はないだろう。

それとガブリールと共に秘密兵器を二つ(?)ばかり用意して紐で括ると牽引して運ぶことにした。

「結構、慕われてるんだな。意外だったぜ」
「用水路のお陰さ。この辺りじゃ水もロクに無かったからな」
 王都に向けて道を行くと、人々が頭を下げて来る。
その姿を見て気分が良いのは、民百姓が自分を尊敬しているからではない。用水路を敷いて水を行き渡らせ、荒野でも育ち易い豆類を齎した。努力して行ったことが形に成り、人々の敬意を返して自分の情けない自尊心を満足させてくれるからだろう。

この地に来て緑化に励もうと思って良かったと思う瞬間である。

「豆畑は二毛作を試すのか? 上手く行くと良いが」
「何とかなるだろ。あの豆は美味くも無いが育ちは良いからな」
 暫く行くと比較的にマシな区画に到達し、農作業を見かけた。
道中は作付けが遅かった場所なので収穫すると特に何もしていなかったが、この辺りは最初から水を引けて作付けが早かった場所だ。耕し直して豆の葉っぱや茎などを混ぜ込み、肥料として転用しているのが見える。畑に馴染んだところで、適当に豆を植え直す気だろう。

更に行くと今度は水を引き込んだ溜め池と、集団農業に使ってる大規模農園が見えて来た。もちろん収穫した後なので特に何も無く、先ほどの農家と違って命じられていないので何もしていない。もし、先ほどの農家が成果を出したら、アレクセイ辺りがここでもやる事を考えるだろう。

「あの溜め池は青々としてんな。キーエル伯の水塞じゃ緑だったが」
「水は深さと下に何があるかで変わるからな。そこは砂以外に何も無いから、空を写してるだけだな。砂を入れてるのも泥抜きでしかないから、白い海砂ならもっと綺麗な青に見える筈だぞ。そんなことに何か出来るような余裕は無いと思うけどな」
 実際には泥抜きでも何でもなく、この辺りまで砂が飛んだ名残だ。
それを集めて溜め池の入り口である層に入れておけば、多少は上層の泥が落ちるだろうという程度の物。特にそんな事をする必要も無いのだが、一度、濁流の影響か何かで濁った水が多かった時期があったので試した価値にに成る……んだったかな? 俺が不在の時にやったそうで、報告書を確認して印を押した時に読んだ覚えがあった。

ともあれ、そういった景色もこの辺りまでだ。
手の形をしたゴルビー地方を抜けて、次の地方に突入していく。ソブレメンヌイが牽引する馬車は速いので、そこも今日明日には通り過ぎて行くだろう。

「しっかし、この馬車を覚えると途中がおっくうになるな。増やさねえのか?」
「ソブレメンヌイを量産しないと意味が無い。それに、この馬車自体がゴーレムってのも秘密にしておいた方が良いからな。少なくとも、他国に先駆けてゴーレム魔術師を増やすまではお預けだな」
 牽引している秘密兵器の内、一つは馬車だ。
通常サイズの馬車で上下の振動をゴーレム化によって補っている。前々からソブレメンヌイに乗って長距離移動する時に、あったら良いなと思う程振動が大きかった対策に成る。与えている命令はそれだけなので、意外と簡単に作れた代物である。

まあ、一番重要なのは四脚走行のゴーレムに牽引させて、貴人があっという間に移動できることだけどな。司令官とかの中でも、馬に乗れない連中は結構いるもんだし、酔わない体質なら資料を読み込めるのも良い。

「ただ……その時は、もっと早くか、もっと多くを狙いそうな気もするけどな。一週間とは言わんが、十日で南北を横断するとか、船と同じくらいの量とか」
「そいつはキエール伯が泣くぜ。船を増やそうかって話してたろ」
「そう言えばでかい運河を作れば要塞じゃなくて港にもなるか」
 俺がイメージするのは鉄道での輸送である。
ゴーレムはシンプルな動きしかできないが、それだけに巨大なガワを延々と移動させるだけなら得意なのだ。構造材にした木材が何処まで保つか次第だが、速度か量のどちらかは可能だろう。そうなれば国は豊かになるし、万が一にでも戦争に成れば、兵士や物資を輸送することで、一気に戦局を替えられるかもしれない。北部の兵士が僅かな間に南に集結できるのだから。

とはいえ、俺達が掘り下げた水塞を見て、キーエル伯が運輸を考えたように、船でやった方が効率が良いのも確かだ。バルガス側流域での開拓を手伝う事で、俺も大工や色んな産業とも伝手が出来たので、塩田以外にも手を広げても良い頃だろう。

「ま、何をするにせよ、次の戦いを何とかしてからだな」
「勝てよ。せっかく秘密兵器を作ってやったんだからよ」
「無理だと言ったろ? もしかしたら逆転できそう……って演出が精々だよ。というかアレ、水中用に作ってたマジックアイテムの流用じゃねえか。ゴーレム化したら出力落とせないから武器にしただけだしな」
 秘密兵器という意味では馬車はオマケでしかない。
板バネとかサスペンションに関して素人だから俺が機構を知らないだけで居ればゴーレムである必要すらなかった。コイツを引っ張って狩猟場にインする俺達を見れば、戦術的な強さだけではなく、戦略的な強さを持っていると気が付く程度の物にしか過ぎないのだ。当然ながら本命は他にある。

出来ればアダマンティンを触って改良したいところだが、王都の守護神扱いなんで他の場所に移せないんだよな。

「そういうなって。役に立つんだからよ」
「役に立ってくれるならいいさ。それより、こっから下りだ。重石を引っ張ってても跳ねる可能性があるからあんまり喋るな。おしゃべりは平原に移ってからでも良いんだからな」
 そうこうするうちに手の平から手首へと移った。
ここからは他の領主の土地であり、敷設した街道を進むとは言え気を付ける必要もある。途中までは新街道を通るから良いのだが、王都までは直接つながっているわけではない。旧来依然とした道に切り替えるので、デコボコしている上に、狭いから人を撥ねてしまう事があるのだ。もちろん下り坂だから危険なのもあるだろう。

とりあえず勢いは必要ないので、やや速度を落とすように命令しつつ下って行った。

(あれだけの坂だったのに昇るのも降りるのも早いな)
(魔王を倒すのに夢中だった時も気が付けば時間が過ぎてた)
(修業を兼ねてゆったりと過ごしてた学院の方が長く感じたくらいだ)
(だから今感じてる苦労も、後から思えば一瞬何だろう。良くネタで見たが『わたし達の戦いはこれからなのよ!』みたいな表現も、終わってみれば一瞬なんだろうな)
 舌を噛まない様に黙っているとつい妄想が進む。
作業を見守ったり呪文を詠唱し、儀式魔法を行う時は時間がまるで経っていない様な気がするのだが、こういう身構えている時は一瞬なのだ。もちろん人が飛び出してくるような現代だったら、こんな妄想だけでも危険なのだろう。ただ、苦労など体感一つだと思えば不思議な気がして来たという話だな。

やがて平坦な道のりに成り、ここからはむしろ飛び出してくる人や馬対策に速度を緩めておく。俺たち以外にも王都へ向かう者たちは当然存在するし、こちらが領主だからと優先権があるわけでもない。

「しかし、あの女狐、さっそく新しい男を加え込みやがって」
「ガブリール。その例えは止めてくれ、俺に効く。あのヨセフ伯に寝取られたんだと思うとむしろ気が滅入る。俺と戦いたいから向こうに行ったっているなら、むしろ滾って来るんだがな」
 問題のゴーレムを作って挑戦を叩きつけて来たエリー・ティーン。
彼女は俺のライバルであり、犯罪奴隷に成ってからは助手であり男女の仲にもなった。そんな人物がヨセフ伯の方に男気を感じて雇用されたとかは思いたくない。同時に、今でも俺をライバルと思ってくれていて、挑むためにスポンサーを見つけたというならば許せる気がした。

いや、むしろそれは願望に近いだろう。

「そいつは悪かった。あいつのゴーレムってどんなんだと思うよ?」
「レオニード伯にも言ったけど非常にゴツイ、おそらくはアイアンゴーレムだろうな。もしかしたら……俺と同じような考えに至ったっていうなら、おそらくは四本腕だ。俺なら腹か肩に盾を持つための腕を二本付ける」
 アダマンティンはエリーと共同で建造したので欠点はバレている。
それを突く為の構造にしている筈なので、何らかのギミックが存在する可能性は高い。そして『ゴーレムは別に人間の形をする必要はない』と考えているならば、他者を理解させ易く、そして加工し易い様に予備の腕を付けるだろう。

その上で四本腕で大剣を二本持つか、それとも盾を持つかはセンス次第。

「なるほど。それであの失敗作を武器に転用したのか」
「そう言う事。盾で防御するなら、その上から思いっ切り叩きつける! それが俺の答えさ。後はその事も含めて、エリーが想像しているか。あるいは他に何かの研究をして付け加えるかだな」
 ゴーレムは早々に進歩しない。だから、変化はちょっとした物だ。
俺が足を四本にしたように、エリーは腕を四本にしたのではないだろうか? ゴツイ外見だったと聞いているし、自重を重くしてしまえば四本腕でもバランスを崩さない。関節から弄る必要のあった俺よりも、むしろシンプルな分だけ簡単だろう。そして、その公正ならば……仮に剣豪伯が敵に回っても勝てる可能性が高いのだ。西側の意見統一を兼ねて呼び出し、承諾すれば良し、しなければ殺すという計画を立てていてもおかしくはない。

その上で、俺がいろいろと研究する時間があり、改良も少しずつしたように、エリーの方でも何かしているかもしれない。そんな予感が存在した。

いずれにせよ、懐かしきライバルと戦いはもう直ぐだった。
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