魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第八章

『新たな時節の予感』

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 あれから半年ほどは特に何も無く時間が過ぎて行った。
前にも言ったが国土開発は一朝一夕に出来るものではないし、協力を呼び掛けた領主たちも早々には返事をくれないからだ。だから変化と言えばむしろ外務関係とゴーレムの作成に成る。

まずは外交の話と行きたいが、俺に直接関わるのは北の遊牧民たちだけだ。

「順調な様だな、友よ。君の噂は北でもよく聞くようになった」
「久しぶりだなオルバ。やはり婚礼の件かい?」
「もちろんさ。息子の晴れ姿だからね」
 次の来客は遊牧民のオルバだった。
セシリアの妹であるアンナが彼の息子の一人と結婚することに成ったのだ。正式には以前から婚約をする方向で進めていたが、数名いた候補の内で相性の良かった子と決まったわけだ。

ただ、今回のアポは短かったので話が急だと判る。

「ところで西との交流はどうだい? 必要なら何か贈るが」
「そうだな。マーゴットが貰った石弓が何張りかあればありがたい。しかし、無理を言う程ではないよ。元をただせば我々は同じラーンの子だからな、必須と言う訳でもではない」
 かねてからあった北西のウェス・ラーン方面と悪化したらしい。
オロシャ国の外交関係はまるで進んで居らず、東西南北全てそのままだ。外交に関して関心の低い遊牧民との間柄は仕方が無いにしても、南も東も進展が無いのが少し気になる。ウッラール騎士団のアンドリオ子爵からの手紙には、あれから同じような魔物放流があり、探知システムが役に立ったと令状があったくらいだ(ついでに追加の要望も)。

こうした背景を考えると、順当な経過をたどり安全な西国は更に安全に、そうではない場所はやはり悪化しているのだろう。

「ああ、そうだ。交易を増やしても良いかな? もちろん戦士は帯同しないとも。君の所が安全なのはマーゴットからも聞いているからね」
「それはこちらもありがたい。織物と塩の交換が主になるかな」
 やはりオルバはこちらとの繋がりを深めたいようだ。
交易を増やすが疑われないように護衛は着けないという。周囲に俺との関連性を疑わせ、援軍の可能性を示唆しつつ実際には力を借りることはない。仲間には俺も警戒していると伝え、いずれ豊かに成ったら領土を削り取るとでも言って言ることだろう。そのための偵察をするが、あちらの戦力は見せないとでも言い訳するものと思われた。

だが、オルバはそこから更に踏み込んで来たのだ。

「そんな所だろう。ああ、そうそう。交易が増えるのだから誰か置いて置いて良いかね? 商売に長けて顔が効く者の方が、お互いの顔や西の者の見分けがついて良いと思うのだが」
「構わないぞ。そちらの部族だと融通したら、他の者ってのは困る」
 西の部族が出身を装って俺らとの間を割こうとするのを警戒したらしい。
俺も似たようなことを考えたから判らなくはないが、実際にそうなるかどうかは少し怪しい所だ。どちらかといえばテロ工作よりは、『オルバの一族よりも俺の所を優先してくれ』と交渉を持ち掛ける方がありえるのではないだろうか? 何しろ仲良くなったつもりでも、人々はまだ遊牧民を警戒しているのだ。そこに複数部族の対立情報が出回れば、警戒するのは西だと思うのだが。

とはいえ警戒して当然だし、こちらも窓口が出来るのは助かる。遊牧民全体が団結してオロシャを攻めてこない限りは受けておくべきだろう。

「こちらばかり頼むのは申し訳ないな。何かともが欲しい物はあるかな?」
(さて、此処は何を頼んだもんかな。一番価値が高いのは彼らの領域で海に面した場所があるならその案内だが……。それは間違いなく警戒される。案内してもらうなら火山の方だが、妥当な所で果実なり香辛料か何かの情報かな)
 オルバの要請に応えるなら報酬を受け取るのは当然の事だ。
互いに利のある要請だとしても、その要請を受ける必要はないし、こちらからも何か頼んで向こうが受けるかどうかを判断するという所まで言ってお互い様と言うべきだろう。利があるから受けるというのは当然出逢って、同じことをこちらがして、オルバも利があるから受ける成り断るなりする判断を出来るのだから。

その上で、ゴルビーより東側にある海の情報が最も価値があるが、行動できる領域を増やすのは相手も当然ながら警戒するだろう。産物の情報を受け取る過程で聞けたら聞くというのが妥当だろう。

「そうだな。近くで火山灰が採れるなら取りに行かせてくれ」
「それが無理なら香辛料なり果実の交易を増やしてくれたら助かる」
「火山灰は壁を立てるのに使うから資材が大量に要るだけので、買いたいほどじゃない。色々な許可と通行税や護衛料だけで良いなら欲しいくらいだな。無理なら買い取れる産物が広がるだけでもありがたいよ」
 と言う訳で火山灰を手に入れてポラゾンセメントを作る事にした。
ただし砂漠に立てる壁とか、空中庭園の一角に使うだけなので無理に欲しいわけではない。あれば建設が早まるだけだし、なくても時間を掛ければ煉瓦で済ませられるからだ。

なのでどうしてもこんな言い方に成る。
建材と言う物は安価で済ませられるなら欲しいが、高額な買取コストが生じるならば特に欲しい物ではないのだ。

「変な物を欲しがる奴だな」
「ゴルビーに木材や石材が山ほどあるわけないだろ」
「それもそうだ。離れた所に一つあるのを知ってるが、元が取れるかは判らんぞ。それでも良ければ案内を付けよう」
 お互いに微妙な顔をして肩をすくめ合った。
離れた位置にあるなら百足列車でも使わないと元は取れそうにないし、そんなものを浸かったら警戒されること請け合いである。そこまでして採取したい物ではないし、やはり火山は諦めるか、海上で島ごと手に入れる事が可能だったら……くらいで考えておくべきだろう。

結局、オルバとは交易品を増やすことで合意した。


「これが試験運用のデータですが、今の所は問題は出て居ません」
「ありがとうございます。これで本格的な生産に弾みがつくでしょう」
 能力をオミットした先行量産型のケンタウルス型ゴーレムを製作した。
三機ほど作って新街道と環状農業圏、そしてキーエル家の私営路線に配備することに成った。最初の一機は農業圏に呼びかけた領主たちに貸出し、どの程度の便利さなのかを図ってもらっている。この人物はキーエル領から来た使者で、貸し出しているゴーレムの情報を届けに来た人だ。

しかし、交流というか様々な開発をしていくと、思わぬペースで両家の親密さが上がって行くな。バルガス家とキーエル家が昔から仲が良いというのは当然な気もするし、逆に決定的な仲互いを起こしていないのは幸運であると言えるだろう。

「あの作業用ゴーレムは素晴らしいですね。船も順調に建造しております」
「それは良かった。一番艦をキエフ、二番艦をバクーとしましょう。それでそちらは落ち着くんじゃないでしょうかね」
 先行量産型が三機も作れたのはキーエル家の全面的な協力だった。
後に国営路線とする確証がないため、何らか保険を提供して欲しいと言われたので、水車ゴーレムの発展形である旋盤ゴーレムを提供したのだ。木材から製材して行く仮定が短縮され、板の大きさや丸太を同じ規格のサイズに統合することで、圧倒的な作業効率を図っていた。もちろん、その気道を他には漏らすなと伝え、専用の製材工場を立てたほどだ。

なお、この大型船を建造する際の経験と材料を使い、同形艦という概念が出来上がった。それがキエフとバクーである。この時代は大き目の樹木を伐り出して職人が体感で合わせていくので、同形艦というのは結構難しい。

「そうですね。我が家の名前をもじった船が出来上がれば、家の者も落ち着くでしょう。しかし、お礼はあんな小舟で良かったのですか? 三艘分の材料をお持ちしましたが、男爵の所にも大型船で良いかと思います」
「残念ですがそもそも港が小さいのですよ。水深も浅いですしね」
 俺との交渉は利となると考えたキーエル家がすり寄って来たと言える。
しかし、大型船なんて浮かべることは無理だし、そもそも三胴船の試験運用の方が先である。あまりにも早く船を用意してしまうと船乗りも居ないし、そもそも王家に目を付けられるようなペースで拡充するのは考え物だった。

王家と言えば、環状農業圏(予定地)でのスパイ運用とか既にし始めているしな。うちは外れの方だがゴーレムの整備を担当している事もあって、結構人が出入りしているので安心はできないからだ。

「なるほど。まずは慣れるところから始めて少しずつ探索と言う所で?」
「そんな塩梅ですね。実際に捜索するのは冒険者や傭兵としても、船の運用は専門ではありませんから。数を頼んだのも壊れることや置き去りにする事を想定して計算にしています」
 親しくなっても血盟ほどではないので適当に誤魔化して置く。
本格的に設立された冒険者ギルドとはいえ、彼らを全面的に信用するのは無理だ。それでも契約を取り交わし、守秘義務を貸せば『友人以上の存在』として恩人にでも内密に伝えるくらいに絞れるだろう。それならばこちらが大々的に海外領土を得ない限りは問題ないだろう。

その前提に置いて、キーエル家の者に迂闊に話す気にはなれなかった。
もちろん、使者からは船乗りを貸し出そうかと言われたが丁重に断っておく。頼むとしたら信用の置ける部下を鍛えてもらうくらいだが、そこまでの必死さではないのだから。

こうして環状農業圏構想やゴーレム技術の更新は少しずつ進み始めた。
まずは三艘分の舟を一つに連結し、三胴船を作って間に水車を入れた内輪船を走らせることにしよう。
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