魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第八章

『空中庭園の設計』

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 幾つかの研究と建設がカウントダウンを始めた。
南部に作り始めている新港の基礎工事が終わり、寸法を先に決めた木材を持ち込んで臨時の拠点とプレハブ倉庫を建設、余裕があれば灯台も敷設。それが終われば水中用ゴーレムであるルサールカの開発と、ストーンゴーレムの水中試験用であるボジャノーイの改修を進める。

ガブリールと共に空気を発生させるマジックアイテムを作ったので、こちらの充実は時間待ちだろう。

「地下だと氷が結構保ちましたね。誰かが定期的に訪れて呪文をかけ続ければ、それだけで氷室が用意できるような気がします」
「水使いを育てないならマジックアイテムだな。セシリアは立派になった」
 冷却の呪文で氷を作り、別荘の地下に放っておくと意外に保った。
ゴルビーほど暑い地域でも、地下深くまで行けば熱は伝わらない。地熱も地下水で何とでもなるので、あえて暑い場所でも無ければ、氷の大きさ自体で冷え続けるだろう。セシリアが言うように冷却の呪文を定期的に掛けに来るか……いっそ、アイスゴーレムにして魔力を保存性に回して、凍っているだけの氷室ゴーレムを用意するという手もある。

もっとも箱型の冷蔵庫を作って近い場所に置く方が便利だけどな。

「褒め過ぎですよ。まだまだ師匠たちには及びません」
「いいや、既に一介の術者にしておくには惜しいよ。寄り道で『継続』の補助呪文を覚えなかったら、そろそろ導師級だろう? まあ、お前さんは保有魔力が多いからここまで来るのは早いが、ちゃんと氷室を用意するためのアイデアを思いつけたからな。研究者にしておくべきだろう」
 セシリアはMPが多いので、繰り返してレベルアップに励める。
必要経験値(?)が少ない導師級あたりまで成長は順調に上がるだろう。ここからが長いのだが、そこから先は『どう研究するか?』が重要になって来る。彼女は導師級になる為の難易度の高い呪文よりも、『継続』の補助呪文を覚えることで、冷却の呪文をマジックアイテム化出来た場合の試算を行ったのだ。

それは『もしかしたらこっちの方が早いかも?』と言う程度の気づきだが、そこに検証を入れて疑似的な氷室の為に『拡大』と組み合わせて大量の氷を作った。こういった検証と、『次に何を用意するか?』という思考は重要なのだ。

「お前さんのアイデアを元に、予定を変えて『氷室を作る為のマジックアイテム』も作るとしようか。オロシャは暑いし、予定していた『冷却する箱』とセットでお披露目しよう。おそらく飛びつく貴族は多いし、商会やレストランを介して人々の生活も変わるはずだ」
「そ……そうでしょうか? そこまででも無い様な……」
「こないだ言った菓子を基準にしてるな? 魚を基準にしてみろ」
「あ……」
 セシリアは最大魔力が多いので、拡大と継続を併用できる。
それを繰り返すことで判ったのだが、大規模な氷を作って周囲を一気に冷やすと、魚を冷凍保存し易いのだ。もちろん魚自体を凍らせないとそこまで保存できないが、長保ちさせたり、あるいは本当に凍らせることで冷凍保存して王都に魚を送れるだろう。

ようするに冷凍トラックと魚の市場みたいなことが出来るようになったのだ。それも、殆ど海の無いこのオロシャで。

「そうだな。ゴーレムじゃない馬車にも組み込んでみるか。どれだけ衛生的に安全かは何処かの料理屋にでも試させるとして、今の段階で真似できる連中はいない。王都でうちの独占商品として冷凍した海魚が出回ることになるだろうよ。順調に売れたら、お前さんに専用の研究費を出しても良いし、協力してくれるガブリールへも包まないとな」
「わ、私……そこまでとは思っても居なくて。でも、嬉しいです」
 あくまで冷凍した魚が大々的に売れるならだが、儲けは還元すべきだ。
塩漬けや干物とは違って冷却の呪文が使えるマジックアイテムが使えることが前提になってしまうが、そのマジックアイテム自体も売る事が出来る。二人に定期的に研究費を渡して、自分が好きなように使ってもらうのも良いだろう。実に夢が広がり、もう一人・二人ほど付与志望の魔術師を育てたくなるところだ。

とはいえ冷却シシテムばかりに注目していても仕方が無い。

「建設中の本館に氷室を組み込むという案で、この話は終わっとこう」
「今よりも掘り下げる事にするから、ついでに噴水も組み込めるな」
「せっかくだから水道橋から雫を垂らして、領民が休める公園を離れた位置に作るか。俺達だけが涼んだんじゃ申し訳ないし、涼める場所が一か所だとみんなが無用に集まって色々問題が出て来るしな」
 空中庭園は基礎工事がようやく終盤に差し掛かった。
山を削って館を建てるのだからしょうがないが、昔の領主館があるから急がないのとゴルビーの労力がそれほど多くなかったのも大きい。どちらかといえば公共事業みたいな感じで、労役に参加したら飯を食わせるようなことをやってたからな。ソレを集団農業とで並行すれば、そりゃ人が集まらないのも当然ではある。だが難民の流入で人手が増えたし、彼らに職を与える意味でも空中庭園の建設に集中するのも良いだろう。

これからは館を立てるだけだし、木材はキーエル伯爵家に頼めば製材した物を送ってくれる。煉瓦も日除けの壁に優先して使っているから余裕がなかったが、近隣の主要な場所には立ててしまったので壁を高くするかどうかを検討中だった位だ。

「館自体はどんな造りにするんですか?」
「館は五層……いや、サイズを変える変則型で三層。地下階をさっき言ったように広く取って、こちらも二層。最下層は主に地下水を流すとして、氷室をそこに用意しよう。エレベーターは氷室から屋上だと熱気が入り込むから止めておき、地下水のある場所に着くようにするか。それなら地下の涼しい風を取り込めるし、万が一の時もしたが水の方が良い」
 今までの案を放棄し、少し大雑把に作り直す。
妄想段階では細かくしていたが、労力と大工の腕前の問題でそうキッチリしたものは無理だろう。一階はゴーレムも入れるようくらいには高くしておけば、二階の庭園が山を利用した物なのに空中に浮かんでいる様に見えるだろう。実質的な住居は二階の中央と、さんが居に二階建てになるだろうか? 屋上には投石器の他に連絡用のゴーレム伝信機を置く予定である。

なんというか、こう考えてみると山の起伏を利用した集落と対して変わりないな。

「あとは上水道を引き込んで上層の二階に流し、最後は外の溜め池に送る。そこにはさっきも言った噴水を用意するから、見栄えもあるが結構涼しく成る筈だ。せっかくなのでゴーレムでエスカレーターを作るか」
「エスカレーター? ああ、床の形をしたゴーレムですか。面白いですね」
 屋上から噴水まで直通のエスカレーターだ、きっと見応えがあるだろう。
床を移動させる以外に機能はなく、サイズも大きくて表層に作るからエネルギー吸収能力も阻害しない。どっちかというと大部分が中にあるエレベーターの方が心配なくらいである。まあ、どのくらい離せばエネルギー吸収を阻害しないかは三胴船の時に検証したので、一応は大丈夫なはずだ。

残る問題は第二層への植林だが、こちらも環状農業圏で実験を始めている。もし無理でも花畑がメインの予定だから問題ないだろう。むしろ栄養の方が問題そうである(ここ重要)。

「中にゴーレムが数機待機して屋上には投石器。更に壁と溜め池で即時の進軍は不可能……防衛施設としては十分だな。居住性と景観にも配慮しているが……他に何か必要な物はあるか?」
「氷室に食料を貯めておくんですよね? 特にないと思います」
 今のところ空中庭園はこんな感じの施設になる予定だった。
そのうちに足りない物に気が付いて新しく用意することになるかもしれないが、どのみち資材と人手の問題で時間が掛かる。それこそ城に付き物の隠し通路とかは大勢で作業している時に作るものではないしな。その内に思いついた時に用意しても良いだろう。壁と壁の間に通路を用意するとかは割と簡単に出来るし、その空間自体が暑さ対策になるからな。

こうして設計のバージョンUPを終えると、館の建設に向けて労力と資金を投入することにした。
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