魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

文字の大きさ
83 / 167
第九章

『昇爵の告知』

しおりを挟む

 レオニード伯に予定表と説明書を持たせて当日に至る。
俺がすることは献上品の設置場所を微調整して、どんな飲食物を用意したら塩梅が良いかと言う事をシェフに伝えるだけだ。自然の風と送風のマジックアイテムで風向きは常に変化するので、陛下とユーリ姫の周辺がベストポジションに固定。挨拶で驚いた後はいつもの暑いオロシャとして我慢してもらおう。

という訳で今回の目玉は冷却システムであり、探知システムに続いて『より良きオロシャの時代』を齎した俺が伯爵として昇爵するという二度目のお披露目である。

「良く集まってくれた。今日という良き日を共に祝える事を嬉しく思う」
「我が娘ユーリが、ゴルビー『伯爵』に嫁ぐことは聞いた者も居るだろう」
「ゴルビー男爵の差配により、オロシャの国も平和になった記憶も新しい」
「新たに我が宮廷に華を齎したこともあり、近いうちに男爵より伯爵へと正式に昇爵させる。その英知を我が娘と共に末永く、オロシャの未来へ捧げることを願うぞ」
 魔物の群れが移動しオロシャ国を騒然とさせた事件にケリがついた。
その理由は新街道であり、王都入りするのに便利になっただけではないのだ。行き来する人々が増えたことで、魔物や盗賊が居難い環境を齎したことが大きい。各地の領主たちも旅人が自分の領地を安全だと思って通過し、宿屋や商店などに金を落としていくことを願って、自分の領地を見泡ったこともあって全体的に平和になったのだ。出遅れた西側もヨセフ伯の剛腕で強引に解決し、血なまぐさい粛清もあったそうだが、概ね片付いたとか。

農業環状帯構想で様々な産物が王都に集まり易く成り易く成ったり、トドメとばかりに冷却システムが野外であるにも関わらずに心地良さを見せていた。話題性としては十分と言う事なのだろう。

「伯爵。なかなかのモノですな、我が家にも添え付けられませぬかな?」
「御子息に鎧と軍馬を都合する程の金が出せるならばあるいは。ただ、十年ほどすればグンと安価になるかと思いますよ。それと、まだ男爵ですので、言葉遣いは構わずどうぞ」
 目敏い奴は特に話題がなくとも早い段階ですり寄って来る。
特に言うべき事が無くても、クーラーが凄いという事ならば簡単だからだ。とおはいえそれだけでは関心を抱けないので、まだ男爵にも関わらず『そのうちに伯爵さまになりますよね?』と下手に出ている辺りがワザとらしい。たとえ新参者であろうとも、すり寄る意味があるという事だろう。

俺も真面目に取り合う意味など無いのだが、早めに頭を下げた奴にはそれなりの対応をする必要がある。技術革新と言うかゴルビー付きの魔術師が育つペースにも寄るが、十年もすれば安く買えるという情報を渡して置いた。

「ほう。それではいずれこのような文物がオロシャを埋め尽くすことになるのでしょうな。一部には待って居られない方もおられるでしょうが、男爵はいかような未来を目指されるおつもりか?」
「いずれ東や西だけが文化一等の地と呼ばれることは無くなるしょうね」
 彼はその情報を別の者に売りに行くのだろう。
だから俺は迂闊に同じ情報を喋らないし、最初に媚びに来た彼だけの得点にしてやる。もちろん王党派の連中はレオニード伯を介してその情報を知って居るだろう。やろうと思えば他の連中からも情報が抜ける筈だ。それでもそっちからよりも、俺に頭を下げた方が手早くそして安価に情報が得られる。そしてその情報を自分の所属する派閥の『上』に報告する訳だ。下級貴族の立ち回りと言う物はそういう物なのかもしれない。

ただ、下級貴族がみんな同じことをするわけではない。
軍人貴族はゴーレムを自分の所属の部署にくれというか、どれほどの力があるのか尋ねたりする。もちろん俺の事を気に入らないという奴も相変わらず存在した。

「ふん。オロシャに生まれたならこの程度の暑さに負けなどせぬ。魔法の品が作れるからと言って、あまり良い気にならぬ事だな」
「それはどうもありがたい忠告を戴いた。さすが余裕のある貴族は違う」
 以前から俺に絡んで来た男爵が憎々し気な口を利く。
それもあと少しの辛抱で、迂闊に無礼な言葉を使ったら咎められるから見納めだろう。もちろん態度が変わる筈はないので、前に聞いたような慇懃無礼な言葉で、ほめ殺しにしつつ実は馬鹿にしてくるような流れで来るのだろう。

当然ながら『冷たい事は大前提で、その次として、産業に利用することが重要だ』などと丁寧に教えてやりはしない。友好的でもない相手に情報をやる必要は無いからな。

「なんやきさん。水中用のゴーレム作ってたんちゃうんか」
「そいつは魔将候補にぶっこわされたよ。今は材料と一緒に次のアイデアを盛り込んでる最中だな」
 今度はそいつと同じ立場であるエリーが話しかけて来た。
憎まれ口を叩くのはいつもの事だが、ことさらに面白くなさそうな気がする。やはりエリーを放っておいて、特に何もゴーレムを持ってこなかったからだろうか? 今もこの園遊会の会場で探知シシテムのデモンストレーションをしている筈だが、そんなのは以前から判っていた事だしな。量産型の四つ足ゴーレムは列車で見ただろうし、その時点で何も俺の技術が進歩していない事は判る筈だ。

もっとも、同じことがエリーにも言えなくもない。何しろ、お供のジュガス2が増えただけで、特に何も変わってないからだ。

「ソレ、研鑽を忘れたしっぺ返しちゃうん?」
「そうかもしれんがお前さんだって量産型……つか、作業用ゴーレムでも作らされてたんだろ? 鉄鉱石を掘る為の穴掘り専用のやつ」
「っ……」
 苦虫をかみつぶしたような顔をするが、まあ当然だろう。
エリーは純粋な魔術師であり、研鑽して凄い物を作る事こそが何よりの目的だったはずだ。それが代わり映えのしない、全く同じ個体を増やしているなんて可能性は一つしかありえない。スポンサーであるヨセフ伯が最終的にジュガス2の量産ではなく、単純に可能な限りの数を要求した事。それを達成するのに必要な鉄鉱石を、どうにかして手に入れたのかは不明だ。

だが、それら二つを合わせれば何となく見えて来る。俺が作業用ゴーレムで開拓したり穴を掘ったように、エリーも同様のゴーレムを作ったのだろう。彼女なりの創意工夫を凝らして。

「うちかて何もしてなかったわけやないで! 効率的に穴掘る為の……」
「当ててやろうか? 横穴じゃなくて上から穴掘る為の改造だろ? 『ゴーレムが人間と同じことをする必要は無い』それは昔からの俺らの研究テーマだもんな」
 おそらく露天掘りを行えるようにしたのだろう。
力は強いが不器用なゴーレムが繊細に穴を掘れるわけがないし、『人間と同じことをする必要がない』からこそ、形状や関節にこだわる必要がない。腕だって工具そのものでも構わないし、なんだったら良く使う工具は四本腕の一対に組み入れたって良い話だ。

この手の研究はゴーレムに『関節』を組み込む議論をした時に散々した物だ。『関節を増やせば動きが滑らかになる』反面、『元の強靭さが失われる』という議題で喧々諤々の論争をしたものである。

「そこまでやるなら多分、いっそ八足歩行蜘蛛型とか、無足の蛇型の下半身の方が良いと思うぜ」
「嫌味なやっちゃなあ! わーっとるわい!」
「おいおい。流石に大声は駄目だろ」
「うう……」
 エリーが吼えるように口を開くが私生活の付き合いもあり途中で留めた。
間に合ったというか、そのせいで余計に注目されたというか、さっきの奴は睨んでいるしユーリ姫に至っては……面白くなさそうな顔をしている。彼女を放っているのが悪いのか、それとも……。

そこでふと思い立ったことがあった。

「そういえばエリー。もしかしてユーリ姫に昔の事を話した?」
「グイグイ来られたらしゃーないやろ。あんま泣かすやないで」
「判ってるよ。しかし、小さい子に甘いのは相変わらずだな」
「なんやて? いてまうぞ」
 俺はゴーレム操作専門で瞬間防御と素体回復の呪文を開発した。
だがエリーは俺に先んじて瞬間火力向上と運動性向上の呪文を開発している。俺が地、エリーが火。四大魔力の半分を大雑把に把握したという事であり、基礎研究を共有することにしたので、残り半分もそのうちに完成するだろう。そうすればオロシャ国でゴーレムを操作する騎士なり兵士が生まれることになるだろう。そうなれば大国とも互角に付き合って行ける筈だ。

そして、そういった知識やら呪文を共有するためにエリーは何度か王都を訪れていたはずである。ユーリ姫にはソブレメンヌイを個人的に贈っているし、屈託のない彼女の事だエリーと話し込んであれこれと聞き出したのだろう。

「海の魔物は結局、地元の水棲種族って連中に倒されたらしい。協力する代わりに素材を貰うから、次はそいつが魔石持ってればそれを使うし、無ければその素材でゴーレムを作るぜ」
「なんや怪物じみてキショいわぁ。悪趣味やない?」
「まずはボーンゴーレムだよ。堅牢さは人間の比じゃねえぞ」
 黙っていても良いのだが、研究を進めには競う方が良い。
俺は次に作る予定の、魔物の素材を使ったゴーレムについて簡単に説明した。魔物の素材と言えば気色悪がるのに、ボーンゴーレムと言えば平然とする辺りが、この女が研究者であることを思い出させる。魔法学院でもボーンゴーレムは素早いゴーレムとして独特だったからな。

それが人間や馬の骨ではなく魔物の骨を使うのだ。決して侮れない相手だとは否が応でも把握しただろう。

「……そか、冒険者ギルド。そう言う事やったんやな」
「そう言う事だ。俺が魔物討伐の為だけに、あんな組織を作る訳ねえだろ」
「なら競争やな。魔石、うちが先に完成させたる。次もうちの方が得したるからな」
 ここにきて初めてエリーが笑顔になったような気がする。
女心は複雑で判らないが、おそらくは俺がゴーレム研究者として立ち塞がったことが嬉しいのではないだろうか? やはり自分と互角の相手と競争できるのは楽しいよな。

と言う訳で退屈な園遊会は過ぎて行き、やがて夜会へと移り変わることになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結済】悪役令嬢の妹様

ファンタジー
 星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。  そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。  ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。  やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。  ―――アイシアお姉様は私が守る!  最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する! ※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>  既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

処理中です...