魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第九章

『夜会では必ずしも踊るわけではない』

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 その日の夜は夜会だが、ことさらに変わったことをするわけではない。
屋内で立食パーティを行い、歓談ではなくダンスと音楽を中心とした催しに代わるだけだ。ただ、食材が少しばかり集中しているのが特徴か。

環状農業構想で採れるようになった生産物が中心で、増えた穀物を使って育てた豚や牛乳に卵などの副産物もそれなりにあった。一応は輸入品の海産物や羊の肉もあるが、言うほどに多いわけではない。

「ほのふれーふって、ほいひぃね」
「クレープな。お姫様モードなんだから食べながら喋るな」
 ニコニコと笑顔でクレープを頬張るユーリ姫。
貴族たちは遠慮して近寄って来ない……というか、政略結婚のためにお義理で姫になった者にワザワザ近寄っては来ない。どちらかといえばワインクーラーとして水に氷を入れたワゴンが一番人気だった。

ちなみに二番人気はヨセフ伯が提供した大量の鉄を使っての鉄板焼きだ。世界が変れど条件が同じならば、思いつく事は同じと言う事だろう。

「チョコレートだけでも美味しいけど、こうやって食べるとこんなに美味しくなるなんて思いもしなかったなあ」
「それが料理ってもんさ。店のオヤジもだからこそ煮込んでるわけだしな」
 以前にチョコレートを献上し、それを加工する方法も伝えていた。
だからこそ、今回は鉄板でクレープを焼いて上にクリームとチョコレートを載せるなんて料理が出て来る。もっとも支持する前はガレットで生地が厚く、当然のように生クリームではなくカスタードクリームだし、さらに蜂蜜を足した甘過ぎるチョコレートソースは良いとしても、やや甘い程度の野菜がフルーツ代わりに載っているのはいただけないが。

ともあれ、このクレープは転生前の知識を使ったとはいえ、立派な料理だった。こんな風に努力を重ねれば、段々と色んなものが改良されていくだろう。

「そうだな。このクレープにはまだ二段階の変身が残ってるんだ。結婚式には嫁さん達だけでも食わせてやるよ。流石に材料が高過ぎて、出席者全員って訳にはいかないが」
「それってエリー先生も? エリー先生も来る?」
「どうだろ。あいつは俺の事嫌ってるからなあ」
「そうかなあ? 素直じゃないだけだと思うよ」
 クレープに生クリームと、美味しいフルーツを入れようと思う。
他にもアイスを入れるのを忘れてはいけない。冷却システムが複数用意できるならば、問題なく冷凍庫と冷蔵庫を使い分けられるのだから。卵と牛乳は増えて来たので、少しばかりの贅沢として嫁さんズにくらいは食わせてやれるだろう。

しかし、小さい子に甘いエリーはどうやら慕われて居るようだ。引っ付かれて質問されまくって、泡喰ってるあいつが目に浮かぶ様だった。

「あ、そうだ。へーかがね、ミハイルがくれたアレをお前が嫁に行ったら貰うぞって言ってたよ。あの箱の方」
「冷蔵庫を? プライベート用に? 何やってんすかね、あの王様は」
 ユーリ姫に箱型の冷却システムを個人的に送っている。
氷室用のもそうだったが、今はこの会場の何処かで使っているだろう。要するに三つ用意したシステムの内、公私で一つずつ画する訳だ。……最後の一つは何処に行ったんだ?

そう思っていると、物凄い顔をしたオッサンがこちらを睨んでいた。

「お前はアレで何をやるつもりだ? いや、何をやれば効率が良い?」
「……単純な意味で言えば、食料を保存する方法が増えるという事です。遠方で採れた食材が保存し易く成る事で、料理の幅も増えますが、軍隊の活動距離も作戦時間の限界も大幅に増えるでしょうね」
 どうやら最後の一つ、冷凍車はヨセフ伯の元に送りつけられたようだ。
そういえばエリーが技術開発で先行し、基礎研究だけは国家に預けることで、スポンサーである彼の方へ利益配分が移動することになっていたらしい。様々な技術や概念の中で、ワザワザ冷凍車を渡したという事は、軍事目的に使えるという事を陛下は吹き込みたかったのだろう。ヨセフ伯はオロシャの国力を高くし、強い国家にすることを目標にしているようだからな。王家の力が強い間は雌伏するし、自分の為になるなら協力を惜しまないに違いない。

なのでどういう風に使えるかを教えたわけだが……。

(いいように利用されていると判断すれば暴発する可能性はある)
(陛下はコントロールできると思っているようだが……大丈夫なのか?)
(あくまで地球の歴史だが、『やれそうだから』で後先考えずにやる奴は居る)
(それでなくとも、こういう我儘な奴が他人を振り回すことはともかく、振り回されるのは好きじゃないと思うんだが。注意しておいた方が良いってか?)
 実はヨセフ伯が陛下の腹心で、対立が偽物というセンも無くはない。
だが、あからさまな内部対立を用意することで、国内の派閥に競わせる策であり、警戒心を持って周囲に監視させる方があり得る気がする。陛下の処世術と言うか、国内を成業すr為の術と言うか……。こういうのも、やはり専制政治と言う程に国王の権力が強くないからだろう。

臣下としてはその思惑に乗り、対立しつつも、ヨセフ伯の野心を押さえつける様な発明でも用意するしかないのかな……と思わなくもなかった。

「材料を保たせる期間が増え、製品が保つ期間が増えれば長持ちするのは判る。だが、どうして軍の行軍限界が増える? 言う程には増えんだろう」
「食料をただ積み上げても邪魔になるからです。物資を貯蔵する為の砦と、効率的な備蓄方法、適切な輸送の三つが揃えば必要な場所に必要なだけの物資が届けられます」
 数日と数日を足しても一週間に満たないというのは確かだ。
ただし、それは物資を今の様にゴロゴロと管理させればの話である。冷凍車の大きさも運べる量も決まっているので、同じサイズの箱に詰めるようにして、途中にある備蓄基地に積み上げてから輸送することになるだろう。今の様に防衛の為の砦と、行軍の為の軍隊ではなく、新しい形の行軍形態ができれば様変わりするのだ。

最初の頃はヨセフ伯も訳が分からないと言いたいようだったが、途中で取り巻きの一部が耳打ちして翻訳することで段々と理解して行ったようだ。

「なるほどな。兵舎の代わりに蔵を並べた砦を駅の様に作るのか」
「はい。等間隔に備蓄砦を設置し、同じ分量に設定した箱詰めにしておけば、書類一つで必要な物が揃います。そう言う場所があれば冷却システムを用意するのに効率が良いですしね。行軍の為に後方に荷車を並べそれを守るよりも、定期的に必要なだけ運んでくる方が、用意し易く守り易いというのもあります」
 いわゆる軍隊用語であるデポである。
いま説明用に思い出したくらいなので、チグハグな所もあるだろう。だが、冷却システムというものが、輸送サイズと言う物に影響を与えるのは間違いがない(呪文は杓子定規なので、効果範囲が決まっている)。旋盤と定型サイズの木材という概念も用意したし、箱専用の会社作って国軍に卸すだけでも管理はかなりし易くなると思うんだよな。

とりあえず半信半疑だろうから、実物の箱と定型サイズの木材でも送りつけるとするかね。箱の中には塩漬けや干物の魚でも用意しておけば良いだろう。

こうして夜会では誰かと踊るような事も無く過ぎて行ったのである。(ユーリ姫は不得意)。
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