魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

文字の大きさ
85 / 167
第九章

『長期備蓄計画』

しおりを挟む

 お披露目を兼ねた園遊会と夜会を追え、翌日は企画書の提出。
内容は定型コンテナの作成と、物資管理用の砦を建設する事だ。メリットを示すために、行軍限界が飛躍的に増えることを記載しておく。

この話を通し易いのが、俺が勇者軍を経営していた事である。
補給もままならない状況で、各国からの支援物資をやりくりし、あるいは崩壊した現地行政府と共に畑を立て直しながら屯田状態だったこともある。

「そこまで補給など必要かね? 軍と言う物は勝つことが重要だろう」
「相手より余裕をもってあたれば勝つことは難しくありません。しかし、現地で食料が確保できない事は当然のようにあります。飢饉の為に窮地に立った国家は多いですが、そこへ援軍に行った場合は提供されることはまずありません。仮に……攻め込む場合ですが、圧倒的勝利を重ねて相手から食料を奪えないと成立しない侵攻作戦など論外です。どちらであれ、自力で戦い抜く余裕を持ち、提供されたり挑発する物資は最低限で考えるべきでしょう」
 この時代は現地調達が当たり前である。だから基本的には理解されない。
ただし、それは軍司令官の話であり、経営者である陛下や各派閥の領袖たちはちゃんと理解している。そして大軍を組織し精鋭を集めても、食料が無いと敗北する事もだ。ゲームと違って半年~三年掛けて徐々に戦線を押し上げていくみたいな地味な戦いもあるのに、現地で補給を前提に作家月分の食料だけを所持して進行するとか馬鹿のやる事である。

よって、国を富まして戦力と物資を山のように用意し、数と長期戦で圧倒するというのが俺の富国強兵案になる。

「ほう。数さえ揃えれば勝てると? 戦場を知らぬ若造の言いそうな事だ」
「魔王軍が軍隊では無いのならば私は無知なのでしょうね。ちなみに私ならば一部で守り別の戦場で攻め、多少の差ではなく絶対的な差を作り出して戦います。その上で、人工的な堀と高台をゴーレムで作り出し、守る部分は出し抜かれても即座に負けることなく、勝てる部分ではできるだけ勝ち易く致しました。そこまでやって魔将には容易く逆転されましたけれど」
 俺自身は弱いが、戦歴の勝負で負ける気があまりない。
なのでかつての戦いを引き合いに出し、魔王軍にもそうやって勝ったのだと説明すると大概は黙る。たまに老齢の将軍も居たりはするが、そういう人物は大概の場合は様子見をするので問題はない。ちなみにヨセフ伯の取り巻きになった勇者軍出身者も、この話には頷くことはあっても否定する事は無かった。

流石に魔将には負けたという話を入れなければ突っ込みをかけて来たとは思うが。

「付き合いが長いゆえ理解する。だが今、備蓄を増やす必要があるのか?」
「また隣国が何かをしでかすかもしれません。売ってこれまでに使った金を回収するのも良いでしょう。しかし先に相応の備蓄をしてから大々的に売り出す方が安全です。また、農業圏構想で生産物が全体的に増えています。全てを市場に流せば返って損が出ますよ」
 同じ勇者軍に居たレオニード伯は、俺の負け堅い戦いを知っている。
そういう戦いをしつつ、兵力と備蓄を相応に増やしていけばオロシャ国が滅びる事は無い。それどころか攻めてきた国を返り討ちにし、こちらから攻めれば領土を奪えるとは理解しているだろう。しかし、それでも経済的に詳しいわけではない。まあ、この時代の貴族がそれほど詳しいとも思えないのだが。

ただ、俺は転生前の世界で何が起きたかは知っている。正確な記憶なんかなくても、豊作貧乏くらいは想像がつくからな。

「待て待て意味が判らんぞ。詳しくない私が見るだけでも相当にあるが?」
「だからこそ、商人たちは足元を見るのです。『他の領主がたくさん売ってくれると言っている。金貨百枚で買っていた商品だが、九十枚が限界だ。更に増えれば八十枚で十分だ』とね。逆に言えば、いつものように百枚の利益を得ようとすれば、たくさんの野菜を売るしかありません。町で買う庶民はともかく、売る側の大地主や貴族はそのままでは大損ですよ。全て上手くいって何時もの数倍収穫できた者は別でしょうが」
 普通は自分たちが食う物と種籾を残し、残りを売ることになる。
それが収穫の半分だったとして、農地開拓で七割以上が売れることになり、新規開拓と合わせれば倍以上になるとしたらどうだろう? 今までと同じ価格で商人が買う事は無いだろう。同じ分量であればその分だけ儲けが無くなるし、同じ儲けを確保するならば市場に野菜が溢れる事になるだろう。

これが豊作貧乏と言う事であり、江戸幕府で米経済が破綻した理由でもあるそうな。

「……それは最悪だな。お前が主導した事だろう? 何かないのか?」
「結局は、商人が買える量がいきなり増えることが問題なのです。最初は備蓄するという理由で抑える方が利益を確保できるでしょう。来年も飢饉が無くて余るなら、祭りでもして民に振舞えば値が下がりません。難民を始めとして庶民へ過剰に優しくする必要はありません。しかし、彼らに優しい領主と言う評判を利用しつつ、儲けを確保するのは無駄ではないと思いますよ。そうすれば少しくらいいつもより多く売っても、市場での値は下がらないかと」
 正直な話、今のオロシャ国は穀物の価格が高い。
魔族と戦争をしていた直後だし、難民も増えて食料が幾らあっても足りなかったからだ。だが、数年を掛けて農地開拓が進めば食料が余って来る。最初の数年は高過ぎる市場価格が落ち着き、難民にも食料がいき渡る事でバランスが採れるようになるだろう。そうする内に数年を稼げれば、別の方策が視野に入って来る。

そう、今すぐは無理でも、余裕が出来た頃ならば可能な事だ。

「しかし、それでは数年だろう。数年後にはまた窮地が来るぞ?」
「その時までには別の努力が出来ます。余った穀物を家畜の飼料にしたり、酒にするなど別の使い道を見つける事です。もちろん商会の中には隣国へ売る者も出て来るでしょう。全ての試みが成功する訳でもありませんが、それで時間が二回分ほど稼げれば……十年もあれば他の作物へと転換が出来るのではないでしょうか? 今は少ない果実であったり花々や香辛料などです」
 要するに必要なのは、十年ほど時間を掛けて徐々に市場価格を落す事だ。
そうすれば様々な努力により、市場に出回る農作物が安定して行く。仮にオロシャ国全土で生産力が二倍になったとしても、その二割を酒にして三割を外国に得るという努力が可能だろう。そう上手く行かなかった場合でも、牧畜のために家畜の飼料へと変えたり果物を増やせば良いだけである。

まあ、実際にはそんな都合の良い事にはならないだろう。だから国策として誘導が必要なのだが。

「最悪の場合、国を守るための兵士を何千か増やし、彼らを養うための食料にすれば問題ありません。そうすれば他所の国から攻められることは、少なくとも無くなるでしょうからね。そして……」
「戦争が起きてしまえば、備蓄など直ぐに使う果たす。そう言う事だな?」
「ええ、そうです。ヨセフ伯」
 最後に強面のオッサンが全てを持って行った。
コンテナ化した食料と備蓄用の砦があれば、兵力の意地がやり易い。仮に輸送途中の食料が燃やされても、後方から護衛付きで送ってしまえば良いのだ。一万以上の常備軍が存在し、それを支える領主の軍隊が合わせて数万。それだけ維持し続ければ、少々の備蓄など吹き飛んでしまうのである。

野心的なヨセフ伯からすれば、富国強兵で数万の兵を年中戦わせられるようになるなら満足できるだろう。

もっとも恐ろしいのは……、隣国が数年も保てない可能性なのだが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る

夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...