魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第九章

『昇爵の告知』

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 レオニード伯に予定表と説明書を持たせて当日に至る。
俺がすることは献上品の設置場所を微調整して、どんな飲食物を用意したら塩梅が良いかと言う事をシェフに伝えるだけだ。自然の風と送風のマジックアイテムで風向きは常に変化するので、陛下とユーリ姫の周辺がベストポジションに固定。挨拶で驚いた後はいつもの暑いオロシャとして我慢してもらおう。

という訳で今回の目玉は冷却システムであり、探知システムに続いて『より良きオロシャの時代』を齎した俺が伯爵として昇爵するという二度目のお披露目である。

「良く集まってくれた。今日という良き日を共に祝える事を嬉しく思う」
「我が娘ユーリが、ゴルビー『伯爵』に嫁ぐことは聞いた者も居るだろう」
「ゴルビー男爵の差配により、オロシャの国も平和になった記憶も新しい」
「新たに我が宮廷に華を齎したこともあり、近いうちに男爵より伯爵へと正式に昇爵させる。その英知を我が娘と共に末永く、オロシャの未来へ捧げることを願うぞ」
 魔物の群れが移動しオロシャ国を騒然とさせた事件にケリがついた。
その理由は新街道であり、王都入りするのに便利になっただけではないのだ。行き来する人々が増えたことで、魔物や盗賊が居難い環境を齎したことが大きい。各地の領主たちも旅人が自分の領地を安全だと思って通過し、宿屋や商店などに金を落としていくことを願って、自分の領地を見泡ったこともあって全体的に平和になったのだ。出遅れた西側もヨセフ伯の剛腕で強引に解決し、血なまぐさい粛清もあったそうだが、概ね片付いたとか。

農業環状帯構想で様々な産物が王都に集まり易く成り易く成ったり、トドメとばかりに冷却システムが野外であるにも関わらずに心地良さを見せていた。話題性としては十分と言う事なのだろう。

「伯爵。なかなかのモノですな、我が家にも添え付けられませぬかな?」
「御子息に鎧と軍馬を都合する程の金が出せるならばあるいは。ただ、十年ほどすればグンと安価になるかと思いますよ。それと、まだ男爵ですので、言葉遣いは構わずどうぞ」
 目敏い奴は特に話題がなくとも早い段階ですり寄って来る。
特に言うべき事が無くても、クーラーが凄いという事ならば簡単だからだ。とおはいえそれだけでは関心を抱けないので、まだ男爵にも関わらず『そのうちに伯爵さまになりますよね?』と下手に出ている辺りがワザとらしい。たとえ新参者であろうとも、すり寄る意味があるという事だろう。

俺も真面目に取り合う意味など無いのだが、早めに頭を下げた奴にはそれなりの対応をする必要がある。技術革新と言うかゴルビー付きの魔術師が育つペースにも寄るが、十年もすれば安く買えるという情報を渡して置いた。

「ほう。それではいずれこのような文物がオロシャを埋め尽くすことになるのでしょうな。一部には待って居られない方もおられるでしょうが、男爵はいかような未来を目指されるおつもりか?」
「いずれ東や西だけが文化一等の地と呼ばれることは無くなるしょうね」
 彼はその情報を別の者に売りに行くのだろう。
だから俺は迂闊に同じ情報を喋らないし、最初に媚びに来た彼だけの得点にしてやる。もちろん王党派の連中はレオニード伯を介してその情報を知って居るだろう。やろうと思えば他の連中からも情報が抜ける筈だ。それでもそっちからよりも、俺に頭を下げた方が手早くそして安価に情報が得られる。そしてその情報を自分の所属する派閥の『上』に報告する訳だ。下級貴族の立ち回りと言う物はそういう物なのかもしれない。

ただ、下級貴族がみんな同じことをするわけではない。
軍人貴族はゴーレムを自分の所属の部署にくれというか、どれほどの力があるのか尋ねたりする。もちろん俺の事を気に入らないという奴も相変わらず存在した。

「ふん。オロシャに生まれたならこの程度の暑さに負けなどせぬ。魔法の品が作れるからと言って、あまり良い気にならぬ事だな」
「それはどうもありがたい忠告を戴いた。さすが余裕のある貴族は違う」
 以前から俺に絡んで来た男爵が憎々し気な口を利く。
それもあと少しの辛抱で、迂闊に無礼な言葉を使ったら咎められるから見納めだろう。もちろん態度が変わる筈はないので、前に聞いたような慇懃無礼な言葉で、ほめ殺しにしつつ実は馬鹿にしてくるような流れで来るのだろう。

当然ながら『冷たい事は大前提で、その次として、産業に利用することが重要だ』などと丁寧に教えてやりはしない。友好的でもない相手に情報をやる必要は無いからな。

「なんやきさん。水中用のゴーレム作ってたんちゃうんか」
「そいつは魔将候補にぶっこわされたよ。今は材料と一緒に次のアイデアを盛り込んでる最中だな」
 今度はそいつと同じ立場であるエリーが話しかけて来た。
憎まれ口を叩くのはいつもの事だが、ことさらに面白くなさそうな気がする。やはりエリーを放っておいて、特に何もゴーレムを持ってこなかったからだろうか? 今もこの園遊会の会場で探知シシテムのデモンストレーションをしている筈だが、そんなのは以前から判っていた事だしな。量産型の四つ足ゴーレムは列車で見ただろうし、その時点で何も俺の技術が進歩していない事は判る筈だ。

もっとも、同じことがエリーにも言えなくもない。何しろ、お供のジュガス2が増えただけで、特に何も変わってないからだ。

「ソレ、研鑽を忘れたしっぺ返しちゃうん?」
「そうかもしれんがお前さんだって量産型……つか、作業用ゴーレムでも作らされてたんだろ? 鉄鉱石を掘る為の穴掘り専用のやつ」
「っ……」
 苦虫をかみつぶしたような顔をするが、まあ当然だろう。
エリーは純粋な魔術師であり、研鑽して凄い物を作る事こそが何よりの目的だったはずだ。それが代わり映えのしない、全く同じ個体を増やしているなんて可能性は一つしかありえない。スポンサーであるヨセフ伯が最終的にジュガス2の量産ではなく、単純に可能な限りの数を要求した事。それを達成するのに必要な鉄鉱石を、どうにかして手に入れたのかは不明だ。

だが、それら二つを合わせれば何となく見えて来る。俺が作業用ゴーレムで開拓したり穴を掘ったように、エリーも同様のゴーレムを作ったのだろう。彼女なりの創意工夫を凝らして。

「うちかて何もしてなかったわけやないで! 効率的に穴掘る為の……」
「当ててやろうか? 横穴じゃなくて上から穴掘る為の改造だろ? 『ゴーレムが人間と同じことをする必要は無い』それは昔からの俺らの研究テーマだもんな」
 おそらく露天掘りを行えるようにしたのだろう。
力は強いが不器用なゴーレムが繊細に穴を掘れるわけがないし、『人間と同じことをする必要がない』からこそ、形状や関節にこだわる必要がない。腕だって工具そのものでも構わないし、なんだったら良く使う工具は四本腕の一対に組み入れたって良い話だ。

この手の研究はゴーレムに『関節』を組み込む議論をした時に散々した物だ。『関節を増やせば動きが滑らかになる』反面、『元の強靭さが失われる』という議題で喧々諤々の論争をしたものである。

「そこまでやるなら多分、いっそ八足歩行蜘蛛型とか、無足の蛇型の下半身の方が良いと思うぜ」
「嫌味なやっちゃなあ! わーっとるわい!」
「おいおい。流石に大声は駄目だろ」
「うう……」
 エリーが吼えるように口を開くが私生活の付き合いもあり途中で留めた。
間に合ったというか、そのせいで余計に注目されたというか、さっきの奴は睨んでいるしユーリ姫に至っては……面白くなさそうな顔をしている。彼女を放っているのが悪いのか、それとも……。

そこでふと思い立ったことがあった。

「そういえばエリー。もしかしてユーリ姫に昔の事を話した?」
「グイグイ来られたらしゃーないやろ。あんま泣かすやないで」
「判ってるよ。しかし、小さい子に甘いのは相変わらずだな」
「なんやて? いてまうぞ」
 俺はゴーレム操作専門で瞬間防御と素体回復の呪文を開発した。
だがエリーは俺に先んじて瞬間火力向上と運動性向上の呪文を開発している。俺が地、エリーが火。四大魔力の半分を大雑把に把握したという事であり、基礎研究を共有することにしたので、残り半分もそのうちに完成するだろう。そうすればオロシャ国でゴーレムを操作する騎士なり兵士が生まれることになるだろう。そうなれば大国とも互角に付き合って行ける筈だ。

そして、そういった知識やら呪文を共有するためにエリーは何度か王都を訪れていたはずである。ユーリ姫にはソブレメンヌイを個人的に贈っているし、屈託のない彼女の事だエリーと話し込んであれこれと聞き出したのだろう。

「海の魔物は結局、地元の水棲種族って連中に倒されたらしい。協力する代わりに素材を貰うから、次はそいつが魔石持ってればそれを使うし、無ければその素材でゴーレムを作るぜ」
「なんや怪物じみてキショいわぁ。悪趣味やない?」
「まずはボーンゴーレムだよ。堅牢さは人間の比じゃねえぞ」
 黙っていても良いのだが、研究を進めには競う方が良い。
俺は次に作る予定の、魔物の素材を使ったゴーレムについて簡単に説明した。魔物の素材と言えば気色悪がるのに、ボーンゴーレムと言えば平然とする辺りが、この女が研究者であることを思い出させる。魔法学院でもボーンゴーレムは素早いゴーレムとして独特だったからな。

それが人間や馬の骨ではなく魔物の骨を使うのだ。決して侮れない相手だとは否が応でも把握しただろう。

「……そか、冒険者ギルド。そう言う事やったんやな」
「そう言う事だ。俺が魔物討伐の為だけに、あんな組織を作る訳ねえだろ」
「なら競争やな。魔石、うちが先に完成させたる。次もうちの方が得したるからな」
 ここにきて初めてエリーが笑顔になったような気がする。
女心は複雑で判らないが、おそらくは俺がゴーレム研究者として立ち塞がったことが嬉しいのではないだろうか? やはり自分と互角の相手と競争できるのは楽しいよな。

と言う訳で退屈な園遊会は過ぎて行き、やがて夜会へと移り変わることになった。
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