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第九章
『長期備蓄計画』
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お披露目を兼ねた園遊会と夜会を追え、翌日は企画書の提出。
内容は定型コンテナの作成と、物資管理用の砦を建設する事だ。メリットを示すために、行軍限界が飛躍的に増えることを記載しておく。
この話を通し易いのが、俺が勇者軍を経営していた事である。
補給もままならない状況で、各国からの支援物資をやりくりし、あるいは崩壊した現地行政府と共に畑を立て直しながら屯田状態だったこともある。
「そこまで補給など必要かね? 軍と言う物は勝つことが重要だろう」
「相手より余裕をもってあたれば勝つことは難しくありません。しかし、現地で食料が確保できない事は当然のようにあります。飢饉の為に窮地に立った国家は多いですが、そこへ援軍に行った場合は提供されることはまずありません。仮に……攻め込む場合ですが、圧倒的勝利を重ねて相手から食料を奪えないと成立しない侵攻作戦など論外です。どちらであれ、自力で戦い抜く余裕を持ち、提供されたり挑発する物資は最低限で考えるべきでしょう」
この時代は現地調達が当たり前である。だから基本的には理解されない。
ただし、それは軍司令官の話であり、経営者である陛下や各派閥の領袖たちはちゃんと理解している。そして大軍を組織し精鋭を集めても、食料が無いと敗北する事もだ。ゲームと違って半年~三年掛けて徐々に戦線を押し上げていくみたいな地味な戦いもあるのに、現地で補給を前提に作家月分の食料だけを所持して進行するとか馬鹿のやる事である。
よって、国を富まして戦力と物資を山のように用意し、数と長期戦で圧倒するというのが俺の富国強兵案になる。
「ほう。数さえ揃えれば勝てると? 戦場を知らぬ若造の言いそうな事だ」
「魔王軍が軍隊では無いのならば私は無知なのでしょうね。ちなみに私ならば一部で守り別の戦場で攻め、多少の差ではなく絶対的な差を作り出して戦います。その上で、人工的な堀と高台をゴーレムで作り出し、守る部分は出し抜かれても即座に負けることなく、勝てる部分ではできるだけ勝ち易く致しました。そこまでやって魔将には容易く逆転されましたけれど」
俺自身は弱いが、戦歴の勝負で負ける気があまりない。
なのでかつての戦いを引き合いに出し、魔王軍にもそうやって勝ったのだと説明すると大概は黙る。たまに老齢の将軍も居たりはするが、そういう人物は大概の場合は様子見をするので問題はない。ちなみにヨセフ伯の取り巻きになった勇者軍出身者も、この話には頷くことはあっても否定する事は無かった。
流石に魔将には負けたという話を入れなければ突っ込みをかけて来たとは思うが。
「付き合いが長いゆえ理解する。だが今、備蓄を増やす必要があるのか?」
「また隣国が何かをしでかすかもしれません。売ってこれまでに使った金を回収するのも良いでしょう。しかし先に相応の備蓄をしてから大々的に売り出す方が安全です。また、農業圏構想で生産物が全体的に増えています。全てを市場に流せば返って損が出ますよ」
同じ勇者軍に居たレオニード伯は、俺の負け堅い戦いを知っている。
そういう戦いをしつつ、兵力と備蓄を相応に増やしていけばオロシャ国が滅びる事は無い。それどころか攻めてきた国を返り討ちにし、こちらから攻めれば領土を奪えるとは理解しているだろう。しかし、それでも経済的に詳しいわけではない。まあ、この時代の貴族がそれほど詳しいとも思えないのだが。
ただ、俺は転生前の世界で何が起きたかは知っている。正確な記憶なんかなくても、豊作貧乏くらいは想像がつくからな。
「待て待て意味が判らんぞ。詳しくない私が見るだけでも相当にあるが?」
「だからこそ、商人たちは足元を見るのです。『他の領主がたくさん売ってくれると言っている。金貨百枚で買っていた商品だが、九十枚が限界だ。更に増えれば八十枚で十分だ』とね。逆に言えば、いつものように百枚の利益を得ようとすれば、たくさんの野菜を売るしかありません。町で買う庶民はともかく、売る側の大地主や貴族はそのままでは大損ですよ。全て上手くいって何時もの数倍収穫できた者は別でしょうが」
普通は自分たちが食う物と種籾を残し、残りを売ることになる。
それが収穫の半分だったとして、農地開拓で七割以上が売れることになり、新規開拓と合わせれば倍以上になるとしたらどうだろう? 今までと同じ価格で商人が買う事は無いだろう。同じ分量であればその分だけ儲けが無くなるし、同じ儲けを確保するならば市場に野菜が溢れる事になるだろう。
これが豊作貧乏と言う事であり、江戸幕府で米経済が破綻した理由でもあるそうな。
「……それは最悪だな。お前が主導した事だろう? 何かないのか?」
「結局は、商人が買える量がいきなり増えることが問題なのです。最初は備蓄するという理由で抑える方が利益を確保できるでしょう。来年も飢饉が無くて余るなら、祭りでもして民に振舞えば値が下がりません。難民を始めとして庶民へ過剰に優しくする必要はありません。しかし、彼らに優しい領主と言う評判を利用しつつ、儲けを確保するのは無駄ではないと思いますよ。そうすれば少しくらいいつもより多く売っても、市場での値は下がらないかと」
正直な話、今のオロシャ国は穀物の価格が高い。
魔族と戦争をしていた直後だし、難民も増えて食料が幾らあっても足りなかったからだ。だが、数年を掛けて農地開拓が進めば食料が余って来る。最初の数年は高過ぎる市場価格が落ち着き、難民にも食料がいき渡る事でバランスが採れるようになるだろう。そうする内に数年を稼げれば、別の方策が視野に入って来る。
そう、今すぐは無理でも、余裕が出来た頃ならば可能な事だ。
「しかし、それでは数年だろう。数年後にはまた窮地が来るぞ?」
「その時までには別の努力が出来ます。余った穀物を家畜の飼料にしたり、酒にするなど別の使い道を見つける事です。もちろん商会の中には隣国へ売る者も出て来るでしょう。全ての試みが成功する訳でもありませんが、それで時間が二回分ほど稼げれば……十年もあれば他の作物へと転換が出来るのではないでしょうか? 今は少ない果実であったり花々や香辛料などです」
要するに必要なのは、十年ほど時間を掛けて徐々に市場価格を落す事だ。
そうすれば様々な努力により、市場に出回る農作物が安定して行く。仮にオロシャ国全土で生産力が二倍になったとしても、その二割を酒にして三割を外国に得るという努力が可能だろう。そう上手く行かなかった場合でも、牧畜のために家畜の飼料へと変えたり果物を増やせば良いだけである。
まあ、実際にはそんな都合の良い事にはならないだろう。だから国策として誘導が必要なのだが。
「最悪の場合、国を守るための兵士を何千か増やし、彼らを養うための食料にすれば問題ありません。そうすれば他所の国から攻められることは、少なくとも無くなるでしょうからね。そして……」
「戦争が起きてしまえば、備蓄など直ぐに使う果たす。そう言う事だな?」
「ええ、そうです。ヨセフ伯」
最後に強面のオッサンが全てを持って行った。
コンテナ化した食料と備蓄用の砦があれば、兵力の意地がやり易い。仮に輸送途中の食料が燃やされても、後方から護衛付きで送ってしまえば良いのだ。一万以上の常備軍が存在し、それを支える領主の軍隊が合わせて数万。それだけ維持し続ければ、少々の備蓄など吹き飛んでしまうのである。
野心的なヨセフ伯からすれば、富国強兵で数万の兵を年中戦わせられるようになるなら満足できるだろう。
もっとも恐ろしいのは……、隣国が数年も保てない可能性なのだが。
お披露目を兼ねた園遊会と夜会を追え、翌日は企画書の提出。
内容は定型コンテナの作成と、物資管理用の砦を建設する事だ。メリットを示すために、行軍限界が飛躍的に増えることを記載しておく。
この話を通し易いのが、俺が勇者軍を経営していた事である。
補給もままならない状況で、各国からの支援物資をやりくりし、あるいは崩壊した現地行政府と共に畑を立て直しながら屯田状態だったこともある。
「そこまで補給など必要かね? 軍と言う物は勝つことが重要だろう」
「相手より余裕をもってあたれば勝つことは難しくありません。しかし、現地で食料が確保できない事は当然のようにあります。飢饉の為に窮地に立った国家は多いですが、そこへ援軍に行った場合は提供されることはまずありません。仮に……攻め込む場合ですが、圧倒的勝利を重ねて相手から食料を奪えないと成立しない侵攻作戦など論外です。どちらであれ、自力で戦い抜く余裕を持ち、提供されたり挑発する物資は最低限で考えるべきでしょう」
この時代は現地調達が当たり前である。だから基本的には理解されない。
ただし、それは軍司令官の話であり、経営者である陛下や各派閥の領袖たちはちゃんと理解している。そして大軍を組織し精鋭を集めても、食料が無いと敗北する事もだ。ゲームと違って半年~三年掛けて徐々に戦線を押し上げていくみたいな地味な戦いもあるのに、現地で補給を前提に作家月分の食料だけを所持して進行するとか馬鹿のやる事である。
よって、国を富まして戦力と物資を山のように用意し、数と長期戦で圧倒するというのが俺の富国強兵案になる。
「ほう。数さえ揃えれば勝てると? 戦場を知らぬ若造の言いそうな事だ」
「魔王軍が軍隊では無いのならば私は無知なのでしょうね。ちなみに私ならば一部で守り別の戦場で攻め、多少の差ではなく絶対的な差を作り出して戦います。その上で、人工的な堀と高台をゴーレムで作り出し、守る部分は出し抜かれても即座に負けることなく、勝てる部分ではできるだけ勝ち易く致しました。そこまでやって魔将には容易く逆転されましたけれど」
俺自身は弱いが、戦歴の勝負で負ける気があまりない。
なのでかつての戦いを引き合いに出し、魔王軍にもそうやって勝ったのだと説明すると大概は黙る。たまに老齢の将軍も居たりはするが、そういう人物は大概の場合は様子見をするので問題はない。ちなみにヨセフ伯の取り巻きになった勇者軍出身者も、この話には頷くことはあっても否定する事は無かった。
流石に魔将には負けたという話を入れなければ突っ込みをかけて来たとは思うが。
「付き合いが長いゆえ理解する。だが今、備蓄を増やす必要があるのか?」
「また隣国が何かをしでかすかもしれません。売ってこれまでに使った金を回収するのも良いでしょう。しかし先に相応の備蓄をしてから大々的に売り出す方が安全です。また、農業圏構想で生産物が全体的に増えています。全てを市場に流せば返って損が出ますよ」
同じ勇者軍に居たレオニード伯は、俺の負け堅い戦いを知っている。
そういう戦いをしつつ、兵力と備蓄を相応に増やしていけばオロシャ国が滅びる事は無い。それどころか攻めてきた国を返り討ちにし、こちらから攻めれば領土を奪えるとは理解しているだろう。しかし、それでも経済的に詳しいわけではない。まあ、この時代の貴族がそれほど詳しいとも思えないのだが。
ただ、俺は転生前の世界で何が起きたかは知っている。正確な記憶なんかなくても、豊作貧乏くらいは想像がつくからな。
「待て待て意味が判らんぞ。詳しくない私が見るだけでも相当にあるが?」
「だからこそ、商人たちは足元を見るのです。『他の領主がたくさん売ってくれると言っている。金貨百枚で買っていた商品だが、九十枚が限界だ。更に増えれば八十枚で十分だ』とね。逆に言えば、いつものように百枚の利益を得ようとすれば、たくさんの野菜を売るしかありません。町で買う庶民はともかく、売る側の大地主や貴族はそのままでは大損ですよ。全て上手くいって何時もの数倍収穫できた者は別でしょうが」
普通は自分たちが食う物と種籾を残し、残りを売ることになる。
それが収穫の半分だったとして、農地開拓で七割以上が売れることになり、新規開拓と合わせれば倍以上になるとしたらどうだろう? 今までと同じ価格で商人が買う事は無いだろう。同じ分量であればその分だけ儲けが無くなるし、同じ儲けを確保するならば市場に野菜が溢れる事になるだろう。
これが豊作貧乏と言う事であり、江戸幕府で米経済が破綻した理由でもあるそうな。
「……それは最悪だな。お前が主導した事だろう? 何かないのか?」
「結局は、商人が買える量がいきなり増えることが問題なのです。最初は備蓄するという理由で抑える方が利益を確保できるでしょう。来年も飢饉が無くて余るなら、祭りでもして民に振舞えば値が下がりません。難民を始めとして庶民へ過剰に優しくする必要はありません。しかし、彼らに優しい領主と言う評判を利用しつつ、儲けを確保するのは無駄ではないと思いますよ。そうすれば少しくらいいつもより多く売っても、市場での値は下がらないかと」
正直な話、今のオロシャ国は穀物の価格が高い。
魔族と戦争をしていた直後だし、難民も増えて食料が幾らあっても足りなかったからだ。だが、数年を掛けて農地開拓が進めば食料が余って来る。最初の数年は高過ぎる市場価格が落ち着き、難民にも食料がいき渡る事でバランスが採れるようになるだろう。そうする内に数年を稼げれば、別の方策が視野に入って来る。
そう、今すぐは無理でも、余裕が出来た頃ならば可能な事だ。
「しかし、それでは数年だろう。数年後にはまた窮地が来るぞ?」
「その時までには別の努力が出来ます。余った穀物を家畜の飼料にしたり、酒にするなど別の使い道を見つける事です。もちろん商会の中には隣国へ売る者も出て来るでしょう。全ての試みが成功する訳でもありませんが、それで時間が二回分ほど稼げれば……十年もあれば他の作物へと転換が出来るのではないでしょうか? 今は少ない果実であったり花々や香辛料などです」
要するに必要なのは、十年ほど時間を掛けて徐々に市場価格を落す事だ。
そうすれば様々な努力により、市場に出回る農作物が安定して行く。仮にオロシャ国全土で生産力が二倍になったとしても、その二割を酒にして三割を外国に得るという努力が可能だろう。そう上手く行かなかった場合でも、牧畜のために家畜の飼料へと変えたり果物を増やせば良いだけである。
まあ、実際にはそんな都合の良い事にはならないだろう。だから国策として誘導が必要なのだが。
「最悪の場合、国を守るための兵士を何千か増やし、彼らを養うための食料にすれば問題ありません。そうすれば他所の国から攻められることは、少なくとも無くなるでしょうからね。そして……」
「戦争が起きてしまえば、備蓄など直ぐに使う果たす。そう言う事だな?」
「ええ、そうです。ヨセフ伯」
最後に強面のオッサンが全てを持って行った。
コンテナ化した食料と備蓄用の砦があれば、兵力の意地がやり易い。仮に輸送途中の食料が燃やされても、後方から護衛付きで送ってしまえば良いのだ。一万以上の常備軍が存在し、それを支える領主の軍隊が合わせて数万。それだけ維持し続ければ、少々の備蓄など吹き飛んでしまうのである。
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